第二章:彼らの戦い、彼女の葛藤
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暗黒武術会開催前日。船に揺られて着いたそこは、首縊島という何とも物騒な名前の島だ。どんな島なのかと思いきや、意外にも泊まるホテルは立派なものである。
「ほんとにここのどっかに来てるのね。」
「おてやわらにね螢子ちゃん。」
螢子は以前の魔回虫の件で危ない目に遭ったことを根に持っており、この大会に妖怪が絡んでいるという事実より、幽助がまた危ないことをしているということが気になるらしい。
「……ずいぶんご立腹ね。」
「さすが幽助の幼馴染というか、なんというか……。」
なまえがぼたんにこっそり耳打ちすると、彼女は困り顔で笑う。そんな彼女たちの後ろで、豪華なシャンデリアにはしゃぐ女性とそれを見守る女性が一人。幽助の母と桑原の姉だ。
「それにしても、螢子ちゃん以外にも二人……。あの人たちに私のことはなんて説明したの?」
「だーいじょうぶ!幽助と桑ちゃんの家族だから!」
「つまり、全部知ってるわけね。」
にょほほー、と笑う彼女は明後日の方を向いている。ぼたんに隠し事をさせるのは不可能に等しいらしい。
「さ、みんな!部屋にレッツゴー!」
幽助の母・温子を筆頭に、女性陣はロビーを進む。なまえはいろんな意味で周りの目を気にしながら、一行の後ろからついていった。
翌日、大会の会場前に着いた女性陣一行は、会場の前でコエンマと合流した。美人に囲まれる彼を、モテますねと妖怪が冷やかしている。
「初めまして、あなたがコエンマさんね。」
「おお、なまえか。雪菜救出の際も世話になったが、今回は彼女らの護衛を志願してくれたようじゃな。」
「何もしないと体が鈍るから、せめてこれぐらいはね。」
「そう言ってもらえると、こちらも気が楽じゃわい。」
閻魔大王の息子だというのでもっと怖そうなイメージを持っていたなまえだが、実際に会うと以外にも爽やかな好青年だ。サラサラの髪に切れ長の瞳。一つだけ解せない点を挙げるなら、おしゃぶりを咥えているところだろうか。
「コエンマ様―!」
二人が握手を交わしていると、幽助らがすでに試合に出ているとぼたんが呼ぶ。彼女の様子から見るに、このおしゃぶりが彼の普段のスタイルなのだろう。きっと触れるべきではないだろうと、護衛と大会の偵察に集中することにした。
会場の中へ入ると、ものすごい熱気が彼らを包む。見渡す限り、近くに他の人間はいないようだ。本当に妖怪だらけの大会なのだと、なまえは気を引き締めた。
「あ!あれ!」
ぼたんが指さす方を見ると、桑原が凧のように飛ばされている。落ちたらひとたまりもない高さが、この大会の異常さを物語っていた。
「幽助!友達が危ないって時に、なにのんきに寝てんのよ薄情者!!」
桑原の身を案じていたら螢子が幽助たちを見つけたらしく、噛みつきそうな勢いで怒号を浴びせる。さすがというべきか、この状況にいっさい物怖じしていない。だがそれにより、彼女たちが浦飯チームの関係者だとバレてしまった。まわりの妖怪たちは薄ら笑いで彼女たちに詰め寄るが、温子は啖呵を切るし静流は煙草の火を押し付ける始末。あっさりと退散する妖怪の様子に、もしかして護衛なんかいらなかったんじゃないかとなまえは肩をすくめた。
桑原は相手の少年にカウント負けしたので、勝負は次の試合へと進む。次の選手は蔵馬だった。
「あの長髪の子、普通の人間じゃないわね。」
彼がリングに上がると、静流がぽつりとつぶやいた。桑原家はみな霊感が強いらしい。
初めのうちは蔵馬が相手の動きを見切っていて、勝敗はすぐに決まると思っていた。だがある瞬間から、彼はぴたりと戦うのをやめた。
――卑怯な手を……。
なまえには、読唇術で相手の選手が何を言ったのかが分かっていた。
“あんたの母親の命は預かってるぜ。南野秀一くん。”
南野秀一とは、彼の人間としての名だろう。一切の抵抗もなく、下品に笑う妖怪にいたぶられる蔵馬。彼と手合わせをした彼女は、そんな戦いを見ているのがもどかしかった。だが頭のいい彼のことだ。何か手はあるに違いない。
見守っていると、今度は相手の動きが止まった。というより、動けないでいた。不自然なポーズのままで固まっている。彼が何かしたんだと、直感でなまえは思った。みるみるうちに青ざめていく相手に構うことなく、躊躇なく蔵馬から発せられた言葉。
「死ね。」
その言葉を皮切りに、大きな花が相手選手の体を突き破って出てくる。勝負は決まった。
涼しい顔でリングを降りる彼を見ながら、なまえは以前言っていたことを思い出す。
“大切な人を傷つけられるようなことがあれば――。”
彼の物腰の柔らかさと上品な雰囲気から、こういう血なまぐさいこととは無縁だと思っていたが違ったようだ。その内に秘める冷酷さと激情に、もし敵同士になったら恐ろしい相手だと彼女は無意識に手を握りしめていた。
「始め!」
実況のアナウンスでハッと我に返る。リングでは相手選手が炎を纏い、あたり一帯にその熱気が容赦なく押し寄せていた。なまえに霊感はないので妖気などは分からないが、なにか嫌な感じは分かる。熱いはずなのに寒気のような、ぞわりとしたものを感じた。
対する浦飯チーム側には、黒髪を逆毛にした小柄な少年。この猛烈な炎の中、一歩も引かずに相手と対峙している。モニターをみると、“飛影”とあった。
――彼が……。
この大会中にお礼が言えるだろうか。そんなことを考えていたら、相手の攻撃が彼を襲った。もろに食らい、炎に包まれた――ように見えた。彼が相手の背後を取るまでは。
「喜べ!貴様が人間界での邪王炎殺拳の犠牲者一号だ!」
飛影はその身に黒い炎を纏う。魔界の炎を召喚したのか、と相手選手は動揺を隠せない。
黒い炎。初めて見るその美しさと禍々しさに、恐怖を感じながらもなまえは視線を外せないでいた。逃げなければ確実に命を取られるだろうが、哀れなことに彼はもう動くことすらできなかった。
「炎殺黒龍波!!」
一瞬だった。彼の右腕から放たれた黒い炎が相手を包んだと思えば、その姿はもうどこにも見当たらない。目線をずらせば、飛影の延長線上の壁に人型の影。なまえはまさかと思ったが、そのまさかだった。
「すべて焼き尽くしてやった…。この世に残ったのはあの影だけだ。」
桑原、蔵馬、そして飛影。なんという勝負なのだろう。なまえは背筋を恐怖と、少しだけ興奮が駆け上がるのを感じた。今までの任務で何度も死線を潜り抜けてきた彼女だが、こんなにも生き生きとした戦いを見るのは初めてだ。この世界で、図らずも彼らのような実力者に出会えたことに喜びを感じていた。
そして、ついに幽助が目を覚ます。相手チームの大柄な男――酎の奇妙な妖気に気づいたからだ。彼の登場に会場の妖怪たちが一斉に活気づき、幽助を「殺せ!」とコールしている。だが二人には届いていないようだ。もうすでにお互いのことしか見えていない。
試合開始早々、すさまじいスピードでお互いに打撃を叩きこむ。だが酔拳の使い手である酎が、不規則な動きで幽助を翻弄していた。強烈な蹴りが入り、場外へと飛ばされる。螢子が叫びを飲み込むように口を押さえるが、当の本人は楽しそうに笑いながらリングへ舞い戻った。
「なんでだろうな、すげー楽しいんだよ。……オメーもそうか?」
「……ああそうだ、バトルマニアよ。」
にやりと笑ったかと思えば、幽助が霊丸を撃った。――目の前の相手ではなく、闘技場の屋根に向けて。
自身の得意技をわざわざ見せるという彼の心意気を、酎はすっかり気に入ったようだ。自身もさらに酒を煽り、真の姿・錬金妖術師としての技を披露する。幽助と似たようなエネルギー球を作り出したのだ。
霊丸が霊気の塊なら、酎が練り出すのは妖気と酒気の塊。二人は互いのエネルギーをぶつけ合うが、それでも決着はつかない。血まみれになりながらも笑って立っている彼らに、実況の小兎も理解が追い付いていないようだ。
「決着は……ナイフエッジ・デスマッチだ!」
白黒はっきりさせるため、酎が二本のナイフをリングに突き刺した。お互いにナイフの前に足を置き、相手が倒れるまで殴り続けるというシンプルなルールだ。
「おらぁぁあ!」
防御もせず、ただひたすらに互いを殴り続ける二人。だが幽助の体が大きくぶれた瞬間、酎は勝負に出た。
「くらえィーー!!」
だが幽助も同じことを考えていたらしい。二人の額が勢いよくぶつかる。
「っ、」
螢子の体がぴくりと揺れた。これで決まる。なまえはリングの二人を見つめたまま、彼女の手を握った。すると、ぐっと握り返してくる小さな掌。
――ぐらり。
倒れたのは、酎だった。
「勝者浦飯!よって、浦飯チームの勝利です!」
最後まで相手に敬意を払う、素晴らしい戦いだった。いい気分でホテルに戻れると思っていたら、会場から酎たちへのブーイングが始まる。
弱い犬ほど良く吠えるとはよく言ったもので、誰一人として観客席という安全圏から出て行かない。文句を言うなら、同じ土俵に立ってからするものだ。なまえはそんな彼らに頭に血が上り、思わず騒いでいた近くの妖怪を睨んだ。と同時に、
「うるせェェェーーー!!!ぐだぐだ言ってねェで降りてこいやコラァ!!」
幽助の怒号が聞こえた。びりびりと空気を震わす気迫に、一瞬で会場中が静かになる。さすが勝者は説得力がある、となまえが感心して見ていたら、こちらを振り返った蔵馬と目が合った気がした。だがさすがにこの満員の客席だ。見えてはいないだろう。
「さ、レディのみなさん。まずは一回戦突破を祝って、ホテルに戻って乾杯しましょ。」
「いいねぇ、なまえちゃん!さてはあんたイケる口ね?」
「よし、飲もう!」
なまえの提案に温子と静流が乗る。女3人の軽い足取りを、ぼたんと螢子、コエンマは呆れ顔で眺めているのであった。
「ほんとにここのどっかに来てるのね。」
「おてやわらにね螢子ちゃん。」
螢子は以前の魔回虫の件で危ない目に遭ったことを根に持っており、この大会に妖怪が絡んでいるという事実より、幽助がまた危ないことをしているということが気になるらしい。
「……ずいぶんご立腹ね。」
「さすが幽助の幼馴染というか、なんというか……。」
なまえがぼたんにこっそり耳打ちすると、彼女は困り顔で笑う。そんな彼女たちの後ろで、豪華なシャンデリアにはしゃぐ女性とそれを見守る女性が一人。幽助の母と桑原の姉だ。
「それにしても、螢子ちゃん以外にも二人……。あの人たちに私のことはなんて説明したの?」
「だーいじょうぶ!幽助と桑ちゃんの家族だから!」
「つまり、全部知ってるわけね。」
にょほほー、と笑う彼女は明後日の方を向いている。ぼたんに隠し事をさせるのは不可能に等しいらしい。
「さ、みんな!部屋にレッツゴー!」
幽助の母・温子を筆頭に、女性陣はロビーを進む。なまえはいろんな意味で周りの目を気にしながら、一行の後ろからついていった。
翌日、大会の会場前に着いた女性陣一行は、会場の前でコエンマと合流した。美人に囲まれる彼を、モテますねと妖怪が冷やかしている。
「初めまして、あなたがコエンマさんね。」
「おお、なまえか。雪菜救出の際も世話になったが、今回は彼女らの護衛を志願してくれたようじゃな。」
「何もしないと体が鈍るから、せめてこれぐらいはね。」
「そう言ってもらえると、こちらも気が楽じゃわい。」
閻魔大王の息子だというのでもっと怖そうなイメージを持っていたなまえだが、実際に会うと以外にも爽やかな好青年だ。サラサラの髪に切れ長の瞳。一つだけ解せない点を挙げるなら、おしゃぶりを咥えているところだろうか。
「コエンマ様―!」
二人が握手を交わしていると、幽助らがすでに試合に出ているとぼたんが呼ぶ。彼女の様子から見るに、このおしゃぶりが彼の普段のスタイルなのだろう。きっと触れるべきではないだろうと、護衛と大会の偵察に集中することにした。
会場の中へ入ると、ものすごい熱気が彼らを包む。見渡す限り、近くに他の人間はいないようだ。本当に妖怪だらけの大会なのだと、なまえは気を引き締めた。
「あ!あれ!」
ぼたんが指さす方を見ると、桑原が凧のように飛ばされている。落ちたらひとたまりもない高さが、この大会の異常さを物語っていた。
「幽助!友達が危ないって時に、なにのんきに寝てんのよ薄情者!!」
桑原の身を案じていたら螢子が幽助たちを見つけたらしく、噛みつきそうな勢いで怒号を浴びせる。さすがというべきか、この状況にいっさい物怖じしていない。だがそれにより、彼女たちが浦飯チームの関係者だとバレてしまった。まわりの妖怪たちは薄ら笑いで彼女たちに詰め寄るが、温子は啖呵を切るし静流は煙草の火を押し付ける始末。あっさりと退散する妖怪の様子に、もしかして護衛なんかいらなかったんじゃないかとなまえは肩をすくめた。
桑原は相手の少年にカウント負けしたので、勝負は次の試合へと進む。次の選手は蔵馬だった。
「あの長髪の子、普通の人間じゃないわね。」
彼がリングに上がると、静流がぽつりとつぶやいた。桑原家はみな霊感が強いらしい。
初めのうちは蔵馬が相手の動きを見切っていて、勝敗はすぐに決まると思っていた。だがある瞬間から、彼はぴたりと戦うのをやめた。
――卑怯な手を……。
なまえには、読唇術で相手の選手が何を言ったのかが分かっていた。
“あんたの母親の命は預かってるぜ。南野秀一くん。”
南野秀一とは、彼の人間としての名だろう。一切の抵抗もなく、下品に笑う妖怪にいたぶられる蔵馬。彼と手合わせをした彼女は、そんな戦いを見ているのがもどかしかった。だが頭のいい彼のことだ。何か手はあるに違いない。
見守っていると、今度は相手の動きが止まった。というより、動けないでいた。不自然なポーズのままで固まっている。彼が何かしたんだと、直感でなまえは思った。みるみるうちに青ざめていく相手に構うことなく、躊躇なく蔵馬から発せられた言葉。
「死ね。」
その言葉を皮切りに、大きな花が相手選手の体を突き破って出てくる。勝負は決まった。
涼しい顔でリングを降りる彼を見ながら、なまえは以前言っていたことを思い出す。
“大切な人を傷つけられるようなことがあれば――。”
彼の物腰の柔らかさと上品な雰囲気から、こういう血なまぐさいこととは無縁だと思っていたが違ったようだ。その内に秘める冷酷さと激情に、もし敵同士になったら恐ろしい相手だと彼女は無意識に手を握りしめていた。
「始め!」
実況のアナウンスでハッと我に返る。リングでは相手選手が炎を纏い、あたり一帯にその熱気が容赦なく押し寄せていた。なまえに霊感はないので妖気などは分からないが、なにか嫌な感じは分かる。熱いはずなのに寒気のような、ぞわりとしたものを感じた。
対する浦飯チーム側には、黒髪を逆毛にした小柄な少年。この猛烈な炎の中、一歩も引かずに相手と対峙している。モニターをみると、“飛影”とあった。
――彼が……。
この大会中にお礼が言えるだろうか。そんなことを考えていたら、相手の攻撃が彼を襲った。もろに食らい、炎に包まれた――ように見えた。彼が相手の背後を取るまでは。
「喜べ!貴様が人間界での邪王炎殺拳の犠牲者一号だ!」
飛影はその身に黒い炎を纏う。魔界の炎を召喚したのか、と相手選手は動揺を隠せない。
黒い炎。初めて見るその美しさと禍々しさに、恐怖を感じながらもなまえは視線を外せないでいた。逃げなければ確実に命を取られるだろうが、哀れなことに彼はもう動くことすらできなかった。
「炎殺黒龍波!!」
一瞬だった。彼の右腕から放たれた黒い炎が相手を包んだと思えば、その姿はもうどこにも見当たらない。目線をずらせば、飛影の延長線上の壁に人型の影。なまえはまさかと思ったが、そのまさかだった。
「すべて焼き尽くしてやった…。この世に残ったのはあの影だけだ。」
桑原、蔵馬、そして飛影。なんという勝負なのだろう。なまえは背筋を恐怖と、少しだけ興奮が駆け上がるのを感じた。今までの任務で何度も死線を潜り抜けてきた彼女だが、こんなにも生き生きとした戦いを見るのは初めてだ。この世界で、図らずも彼らのような実力者に出会えたことに喜びを感じていた。
そして、ついに幽助が目を覚ます。相手チームの大柄な男――酎の奇妙な妖気に気づいたからだ。彼の登場に会場の妖怪たちが一斉に活気づき、幽助を「殺せ!」とコールしている。だが二人には届いていないようだ。もうすでにお互いのことしか見えていない。
試合開始早々、すさまじいスピードでお互いに打撃を叩きこむ。だが酔拳の使い手である酎が、不規則な動きで幽助を翻弄していた。強烈な蹴りが入り、場外へと飛ばされる。螢子が叫びを飲み込むように口を押さえるが、当の本人は楽しそうに笑いながらリングへ舞い戻った。
「なんでだろうな、すげー楽しいんだよ。……オメーもそうか?」
「……ああそうだ、バトルマニアよ。」
にやりと笑ったかと思えば、幽助が霊丸を撃った。――目の前の相手ではなく、闘技場の屋根に向けて。
自身の得意技をわざわざ見せるという彼の心意気を、酎はすっかり気に入ったようだ。自身もさらに酒を煽り、真の姿・錬金妖術師としての技を披露する。幽助と似たようなエネルギー球を作り出したのだ。
霊丸が霊気の塊なら、酎が練り出すのは妖気と酒気の塊。二人は互いのエネルギーをぶつけ合うが、それでも決着はつかない。血まみれになりながらも笑って立っている彼らに、実況の小兎も理解が追い付いていないようだ。
「決着は……ナイフエッジ・デスマッチだ!」
白黒はっきりさせるため、酎が二本のナイフをリングに突き刺した。お互いにナイフの前に足を置き、相手が倒れるまで殴り続けるというシンプルなルールだ。
「おらぁぁあ!」
防御もせず、ただひたすらに互いを殴り続ける二人。だが幽助の体が大きくぶれた瞬間、酎は勝負に出た。
「くらえィーー!!」
だが幽助も同じことを考えていたらしい。二人の額が勢いよくぶつかる。
「っ、」
螢子の体がぴくりと揺れた。これで決まる。なまえはリングの二人を見つめたまま、彼女の手を握った。すると、ぐっと握り返してくる小さな掌。
――ぐらり。
倒れたのは、酎だった。
「勝者浦飯!よって、浦飯チームの勝利です!」
最後まで相手に敬意を払う、素晴らしい戦いだった。いい気分でホテルに戻れると思っていたら、会場から酎たちへのブーイングが始まる。
弱い犬ほど良く吠えるとはよく言ったもので、誰一人として観客席という安全圏から出て行かない。文句を言うなら、同じ土俵に立ってからするものだ。なまえはそんな彼らに頭に血が上り、思わず騒いでいた近くの妖怪を睨んだ。と同時に、
「うるせェェェーーー!!!ぐだぐだ言ってねェで降りてこいやコラァ!!」
幽助の怒号が聞こえた。びりびりと空気を震わす気迫に、一瞬で会場中が静かになる。さすが勝者は説得力がある、となまえが感心して見ていたら、こちらを振り返った蔵馬と目が合った気がした。だがさすがにこの満員の客席だ。見えてはいないだろう。
「さ、レディのみなさん。まずは一回戦突破を祝って、ホテルに戻って乾杯しましょ。」
「いいねぇ、なまえちゃん!さてはあんたイケる口ね?」
「よし、飲もう!」
なまえの提案に温子と静流が乗る。女3人の軽い足取りを、ぼたんと螢子、コエンマは呆れ顔で眺めているのであった。