第二章:彼らの戦い、彼女の葛藤
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家事、定期連絡、それに加えてトレーニング、ボディケア。己の肉体も武器の一つであるなまえは、美しさと強さを保つための努力は惜しまなかった。
彼女の生活はしばらくそのリズムを刻んでいたが、そろそろ積極的にエネルギーの正体を掴みにいかなければと手をこまねいていた頃。調査のチャンスはいきなりやって来た。
「暗黒武術会?」
「そうだ。金持ちの道楽の、くだらない催し物さ。その大会のゲストに幽助たちが選ばれて、昨日から特訓に来てるんだよ。」
ずず、と茶をすすりながら幻海が言う。聞けばその大会には、様々な妖怪たちが出場するらしい。なるほどそれで……と、目の前に座り、一緒に朝食を摂る幽助を見る。
「そういやあんた、体はもう大丈夫か?」
目が合うと、白米をかきこみながら幽助が言った。そうだった、となまえは笑みを向ける。
「ええ、あの時は運んでくれてありがとう。……今までお礼もできずにごめんなさいね。」
「いーって、いーって、そういう固いのはナシでさ!しっかしぼたんから聞いてたけどよ、まさか本当にスパイたぁね。」
お互いに顔を見たことはあったが、いずれも気を失っているとき。面と向かって会うのは、実はこれが初めてだったりする。
「あら、信じられない?」
「いや、そうじゃねーけど……。」
幽助は改めてなまえを見た。垂金の屋敷で飛影から押し付けられた彼女は黒のボディスーツで、映画などでよく見る“女スパイ”そのものだった。身を挺して雪菜を銃弾から守ったと聞いて、肝の据わった奴だと面食らったものだ。しかし今はTシャツにズボンというラフな格好で、ともに幻海邸で食卓を囲んでいる。テレビの中の人物と生活しているような、なんとも不思議な感覚だった。
そのまましばらくなまえを眺めていた幽助だったが、何を思ったのかおずおずと口を開いた。
「……やっぱさ、アレか?…敵に色仕掛けとか、すんの?」
「ぷっ、……ふふ。」
「なっ、おい、笑うなよ!」
スパイという職業はメジャーではないため、これが想像の限界だったらしい。緊張気味に言う幽助が可愛らしく見え、なまえは思わず吹き出してしまった。
「お望みなら試してみる?」
「……!!」
「コラ、朝っぱらからガキをからかうんじゃないよ、まったく!」
「いたっ!」
見かねた幻海はなまえに拳骨を落とし、真っ赤になった幽助を訓練場へと引きずっていった。
彼らが去ったあと、食器を洗いながら先ほどのやり取りを思い出す。顔を赤くしていた幽助。自惚れではないが、なまえに微笑みかけられた男はほぼ間違いなく彼女に見惚れるのだ。いや、そうなるように彼女は最大限努力をしている。そのほうが動きやすいからだ。ただ、それが全くと言っていいほど効かない男がいる。
「あれが男として正しい反応のはずよね……。」
「あれって?」
唐突な声にびくりとし、危うく皿を落としそうになる。じとりと振り返れば蔵馬がいた。
「だから、気配消して近づかないでよ。」
「すみません。」
口ではそう言うが、思ってはいなさそうである。今まさに彼女を悩ませていた男の登場に、いささか冷たい態度になってしまう。そう、彼女の色香が効かない男とは、蔵馬のことなのだ。
彼は「手伝います。」とひとこと言い、隣に並んでなまえの洗った食器を拭き始めた。ぼたんから母親と二人暮らしと聞いていたが、なるほど手際が良い。
「学校は?…って、今日は日曜か。」
「はい。」
きっと今日も監視に来たのだろうとなまえは想像した。だが黙っているのも変なので、適当に話題を見つけてしゃべる。
「幽助君と、今朝初めて会ったわ。やっと垂金の件のお礼が言えたの。」
「良かったですね。…まぁ幽助は、そのあたりは気にしていないでしょうが。」
「あとはもう一人……。飛影君、だったかしら?彼にもお礼を言いたいんだけど、蔵馬君どこにいるか知らない?」
「うーん、難しいですね。」
蔵馬は苦笑いで渦中の人物を思い浮かべる。暗黒武術会の件もあるため近くにはいるだろうが、例え居場所が分かっていたとしても会いたいと言って素直に会いに来るような男ではない。会えるかどうかは、もはや運なのだ。
「そう、残念ね。」
蔵馬の答えを彼女なりに解釈し、納得してくれたらしい。
「ありがとう、早く片付いたわ。」
最後の皿を食器棚にしまい、布巾を片付ける。
「いえ。それじゃ、オレは幽助の様子を見て帰ります。……オレも自分の特訓をしないと。」
「ええ、……。」
そのまま『またね』と言いそうになり、なまえは慌てて口をつぐむ。微笑む彼に、彼女もまた曖昧に微笑んで見送った。
「……またね、なんて。いつまでここにいるか分からないのにね。」
なんとなく寂しさを感じているのをごまかすように、蔵馬が去ったあとなまえはぽつりとつぶやいた。
その日の午後。幻海と幽助の目を盗み、定期連絡をする。といっても、彼らは修行の真っ最中なので、さほど警戒しなくても良いのだが。
今回は、“暗黒武術会”なるものの報告だ。十中八九、調査指示が出るだろうと思っていたが、彼女の予想は当たった。妖怪という未知の生き物が出場するということで、“お父様”は興味津々だ。問題は、どうやってその大会に潜り込むかだった。主催者側にはあの戸愚呂兄弟と、そのオーナーに左京という男がいるらしい。垂金との賭けに勝った男だ。彼らには顔を見られているため、スタッフとして潜入するには無理がある。そもそも彼女は人間だ。賭ける側でもないのに妖怪だらけの大会に行くとなると、どうしても目立つだろう。
どうしたものかと考えているうちに、あっという間に月日は流れる。いっそのこと誰にも告げずに忍び込んでしまおうと思っていたところで、ついに転機が訪れた。ぼたんがうっかり螢子に大会のことをしゃべり、観戦に行くと言い出して聞かないらしいのだ。
「ぼたんちゃん、その大会って危ないんでしょ?私があなたたちの護衛をするわ。」
どうしよう、と泣きついてきたぼたんに、きらきらと光り輝く笑顔でそう告げたなまえは内心したり顔だが、彼女には天使に見えたに違いない。両手をがっしりと掴んでぶんぶんと振り回し、コエンマに報告する、とぼたんはいい笑顔で空へ去っていった。
かくしてコエンマの許しも――渋々だが――出て大会へ行けることとなったなまえは、自身の装備を今一度確認した。持ってきた荷物の中から、強めの毒もスーツに追加で仕込む。
「あとは双錘ね……。」
彼女は、自身の最も得意な武器を取り出す。よく手に馴染んでいるが、妖怪だらけの中での護衛となるといささか心配だ。
「そうだ。あれ、念のために付けておこうかしら。」
彼女は双錘を分解し、荷物の中をごそごそと探す。目当ての物を見つけた彼女は、さっそく自身の武器の改造に勤しむのであった。
彼女の生活はしばらくそのリズムを刻んでいたが、そろそろ積極的にエネルギーの正体を掴みにいかなければと手をこまねいていた頃。調査のチャンスはいきなりやって来た。
「暗黒武術会?」
「そうだ。金持ちの道楽の、くだらない催し物さ。その大会のゲストに幽助たちが選ばれて、昨日から特訓に来てるんだよ。」
ずず、と茶をすすりながら幻海が言う。聞けばその大会には、様々な妖怪たちが出場するらしい。なるほどそれで……と、目の前に座り、一緒に朝食を摂る幽助を見る。
「そういやあんた、体はもう大丈夫か?」
目が合うと、白米をかきこみながら幽助が言った。そうだった、となまえは笑みを向ける。
「ええ、あの時は運んでくれてありがとう。……今までお礼もできずにごめんなさいね。」
「いーって、いーって、そういう固いのはナシでさ!しっかしぼたんから聞いてたけどよ、まさか本当にスパイたぁね。」
お互いに顔を見たことはあったが、いずれも気を失っているとき。面と向かって会うのは、実はこれが初めてだったりする。
「あら、信じられない?」
「いや、そうじゃねーけど……。」
幽助は改めてなまえを見た。垂金の屋敷で飛影から押し付けられた彼女は黒のボディスーツで、映画などでよく見る“女スパイ”そのものだった。身を挺して雪菜を銃弾から守ったと聞いて、肝の据わった奴だと面食らったものだ。しかし今はTシャツにズボンというラフな格好で、ともに幻海邸で食卓を囲んでいる。テレビの中の人物と生活しているような、なんとも不思議な感覚だった。
そのまましばらくなまえを眺めていた幽助だったが、何を思ったのかおずおずと口を開いた。
「……やっぱさ、アレか?…敵に色仕掛けとか、すんの?」
「ぷっ、……ふふ。」
「なっ、おい、笑うなよ!」
スパイという職業はメジャーではないため、これが想像の限界だったらしい。緊張気味に言う幽助が可愛らしく見え、なまえは思わず吹き出してしまった。
「お望みなら試してみる?」
「……!!」
「コラ、朝っぱらからガキをからかうんじゃないよ、まったく!」
「いたっ!」
見かねた幻海はなまえに拳骨を落とし、真っ赤になった幽助を訓練場へと引きずっていった。
彼らが去ったあと、食器を洗いながら先ほどのやり取りを思い出す。顔を赤くしていた幽助。自惚れではないが、なまえに微笑みかけられた男はほぼ間違いなく彼女に見惚れるのだ。いや、そうなるように彼女は最大限努力をしている。そのほうが動きやすいからだ。ただ、それが全くと言っていいほど効かない男がいる。
「あれが男として正しい反応のはずよね……。」
「あれって?」
唐突な声にびくりとし、危うく皿を落としそうになる。じとりと振り返れば蔵馬がいた。
「だから、気配消して近づかないでよ。」
「すみません。」
口ではそう言うが、思ってはいなさそうである。今まさに彼女を悩ませていた男の登場に、いささか冷たい態度になってしまう。そう、彼女の色香が効かない男とは、蔵馬のことなのだ。
彼は「手伝います。」とひとこと言い、隣に並んでなまえの洗った食器を拭き始めた。ぼたんから母親と二人暮らしと聞いていたが、なるほど手際が良い。
「学校は?…って、今日は日曜か。」
「はい。」
きっと今日も監視に来たのだろうとなまえは想像した。だが黙っているのも変なので、適当に話題を見つけてしゃべる。
「幽助君と、今朝初めて会ったわ。やっと垂金の件のお礼が言えたの。」
「良かったですね。…まぁ幽助は、そのあたりは気にしていないでしょうが。」
「あとはもう一人……。飛影君、だったかしら?彼にもお礼を言いたいんだけど、蔵馬君どこにいるか知らない?」
「うーん、難しいですね。」
蔵馬は苦笑いで渦中の人物を思い浮かべる。暗黒武術会の件もあるため近くにはいるだろうが、例え居場所が分かっていたとしても会いたいと言って素直に会いに来るような男ではない。会えるかどうかは、もはや運なのだ。
「そう、残念ね。」
蔵馬の答えを彼女なりに解釈し、納得してくれたらしい。
「ありがとう、早く片付いたわ。」
最後の皿を食器棚にしまい、布巾を片付ける。
「いえ。それじゃ、オレは幽助の様子を見て帰ります。……オレも自分の特訓をしないと。」
「ええ、……。」
そのまま『またね』と言いそうになり、なまえは慌てて口をつぐむ。微笑む彼に、彼女もまた曖昧に微笑んで見送った。
「……またね、なんて。いつまでここにいるか分からないのにね。」
なんとなく寂しさを感じているのをごまかすように、蔵馬が去ったあとなまえはぽつりとつぶやいた。
その日の午後。幻海と幽助の目を盗み、定期連絡をする。といっても、彼らは修行の真っ最中なので、さほど警戒しなくても良いのだが。
今回は、“暗黒武術会”なるものの報告だ。十中八九、調査指示が出るだろうと思っていたが、彼女の予想は当たった。妖怪という未知の生き物が出場するということで、“お父様”は興味津々だ。問題は、どうやってその大会に潜り込むかだった。主催者側にはあの戸愚呂兄弟と、そのオーナーに左京という男がいるらしい。垂金との賭けに勝った男だ。彼らには顔を見られているため、スタッフとして潜入するには無理がある。そもそも彼女は人間だ。賭ける側でもないのに妖怪だらけの大会に行くとなると、どうしても目立つだろう。
どうしたものかと考えているうちに、あっという間に月日は流れる。いっそのこと誰にも告げずに忍び込んでしまおうと思っていたところで、ついに転機が訪れた。ぼたんがうっかり螢子に大会のことをしゃべり、観戦に行くと言い出して聞かないらしいのだ。
「ぼたんちゃん、その大会って危ないんでしょ?私があなたたちの護衛をするわ。」
どうしよう、と泣きついてきたぼたんに、きらきらと光り輝く笑顔でそう告げたなまえは内心したり顔だが、彼女には天使に見えたに違いない。両手をがっしりと掴んでぶんぶんと振り回し、コエンマに報告する、とぼたんはいい笑顔で空へ去っていった。
かくしてコエンマの許しも――渋々だが――出て大会へ行けることとなったなまえは、自身の装備を今一度確認した。持ってきた荷物の中から、強めの毒もスーツに追加で仕込む。
「あとは双錘ね……。」
彼女は、自身の最も得意な武器を取り出す。よく手に馴染んでいるが、妖怪だらけの中での護衛となるといささか心配だ。
「そうだ。あれ、念のために付けておこうかしら。」
彼女は双錘を分解し、荷物の中をごそごそと探す。目当ての物を見つけた彼女は、さっそく自身の武器の改造に勤しむのであった。