第一章:落ちた世界は
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霊界。巨大な門のそのまた奥。
「む?なんじゃ、この気配は……。」
広い部屋に大きな机。何やら書類の山から顔を出したのは、おしゃぶりを加えた幼子。しかしその部屋には似つかわしくない。
「まさか……!」
高い椅子から転げるように飛び降り、あるモニターを食い入るように見つめる。彼の動作で次々に画面が変わるが、とある街の一角が映ったところで止まった。
そこはビルのわきの細い道だが、唐突に黒い空間が現れる。彼がそのまま食い入るようにモニターを見ていると、奥から一人の女が出てきた。栗色の髪をビル風になびかせ、あたりを警戒するように様子を窺っている。
「あぁ、こんなことが本当に起こったというのか……!」
幼子は頭を抱え、大声を張り上げた。
「あやめ!あやめはおるか!!」
「はい、コエンマ様。」
文字通り壁をすり抜け、黒い着物の女が出てきた。コエンマと呼ばれた幼子は、てきぱきと彼女に指示を出す。どうやら彼はここの重役らしい。
「――以上だ。いいな、人間界にいるすべての霊界案内人に通達せい!」
「承知いたしました。」
あやめが再び壁の向こうへ消えていく。コエンマは、眉根を寄せて呟いた。
「ぼたんが一番ここには近いが、今まさに魔回虫の件を片付けているところ……。だぁあぁぁあ!もう!どうして問題がこう立て続けに起こるのだ!!」
だん!と拳を机に叩きつけると、積まれていた書類の山がぐらりと揺れた。
所変わり人間界。渦中の女は、今まさに次元の狭間を通ってきたところだ。荷物と自身の装備に、異常がないかを一通り確認する。
「はー、何回やっても慣れないわね。」
ぐっと伸びをし、あたりを見渡す。ひとまずあちらに連絡だ。イヤホン型の小型通信機を2回タップし、起動する。
「こちらなまえ、到着しました。」
『了解。では任務開始。』
「了解。」
通信を切ったところで、女性の悲鳴が聞こえた。ここからそう遠くはないらしい。女――なまえは、声の方へ急いだ。
着いてみると、どうやら学校のようだ。
「皿屋敷中学……?」
幸いにもこの世界の文字が読めることを確認し、変わった名前の校門を通り抜ける。割れている窓から校舎内へ侵入すると、いきなり男に襲い掛かられた。鉄パイプのような物を手に持っているのを確認したが、不法侵入者への対応としてはオーバーすぎる。それに、目の焦点が合っていない。明らかに様子がおかしかった。
「ちょっと、何!?」
軽々と攻撃をかわし廊下を走っていると、正面から少女二人が走ってくるのが見えた。彼女たちも例の者たちに追い回されている。
「あ!あんたもしかして……!」
水色の髪をポニーテールに結んだ少女がなまえを見るなり目を丸くするが、気にしている場合じゃない。走る勢いをそのままに、彼女らの後に続く奴らを次々に倒した。
その様子はさながら軽やかに舞っているようで、全く隙が無い。顎や首、鳩尾など、確実に人体の急所を狙っていた。
しかし、数が多かったのだろう。顔をしかめて腰からナイフを取り出すが、またもポニーテールの少女が叫ぶ。
「待っとくれ!この人たちは操られてるだけなんだよ!」
「!?」
すんでのところで攻撃をかわすも、タイミングが少しずれた。腹に鉄パイプがめり込む。プロテクターが仕込まれているとはいえ、なまえの足がふらついた。
「こっちへ!」
もう一人の少女が彼女の手を引き、一つの部屋へ逃げ込む。だがそれは同時に、こちらにも逃げ場がなくなったということだ。
「ああ、ごめんよ。あたしが声をかけたばっかりに……。」
「っ、平気よ。ちゃんと強化されてるから。それより、この状況をなんとかしないと。」
ポニーテールの少女がおろおろとなまえを気遣う中、もう一人の少女が決意のこもった表情で振り返る。何か策があるようだった。
奴らの気配が、息遣いが、すぐそばで聞こえる。だがまだだ。まだ、その時じゃない。
――ドゴッ!
彼らがついにロッカーを串刺しにした、その時。カーテンの後ろから三人は飛び出し、奇襲をかけた。少女の制服のスカーフをわざと見えるようにし、あたかもロッカーの中に隠れているように演出したのだ。
部屋からの脱出には成功したが、やはり多勢に無勢。どんどんと不利になっていく。
「ぼたんさん!」
ポニーテールの少女が頭に傷を負い、意識を失ってしまった。まわりをあっという間に囲まれてしまう。
「いやぁぁ!幽助ぇーー!!」
少女が叫ぶ。もうだめかと思った、その時。
――ドサッ
囲んでいた奴らがどんどんと倒れていく。気を失っているようだ。
「……どうやら、終わったようね。」
「良かった……。……は!ぼたんさん!」
少女は呆然と座り込んでいたが、気を取り直してぼたんと呼んだ少女を手当てする。それを見届けて去ろうかとも思ったが、彼女らと初めて会った時を思い出した。
“あ!あんたもしかして……!”
まるでこちらを知っているかのような口ぶりに、なまえはぼたんを振り返る。
――彼女、私が何者か分かるのかしら……。
もう少し様子を見るために側にいることにしよう。それにさっきの奴らを、操られていると言っていた。うまく情報を入手できれば、本国の研究者たちが喜びそうだ。
ここまで考えたところで、なまえは口元を歪めて自嘲気味に笑った。