第二章:彼らの戦い、彼女の葛藤
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「あたし、なまえちゃんが戦ってるところ見るの初めてだわ」
「あたしたちは一度見たね。ね、螢子ちゃん」
「ええ、あの時は毒は使ってなかったけど……」
リング上で妖怪に囲まれているなまえを見ながら静流が呟くと、魔回虫の事件を思い出したぼたんと螢子が目を合わせてうなずく。エキシビジョンへの参加は温子と雪菜も含む全員が反対だったが、こうして見ると彼女が“大丈夫”と言っていた理由も分かる。なまえは、その辺の妖怪たちよりも確実に強い。さすがは護衛を申し出ただけはある。
“残り4分42秒”
『なまえ選手、次は背中の武器を手に取りました!ここで初めて体術が披露されるのでしょうか!?』
ぐっと持ち手を握り、体の前でクロスにして構える。双錘を手にしたときの、いつもの彼女の構え方だった。
「…一気にやっちゃいましょ」
ほとんど口の中で呟くと、テンポ良く片付けようと一番端の妖怪に目を付け走る。斧を手にあちらからも向かってくるが、彼に到達する直前に軌道を変え、死角から腹部に双錘を叩きつけた。
――バチィッ!
その瞬間、放たれる青白い光。妖怪が白目を剥いて気を失う。双錘で電撃を浴びせたのだ。もともと備わっていなかった機能だが、暗黒武術会前に幻海邸で彼女自ら改良を施したものである。女性陣の護衛に際して念のために付けた機能だが、役に立ってよかったとなまえはほくそ笑む。この威力なら、割とはやく彼らを片付けられるだろう。
「くそ、それなら…!」
別の妖怪が掌を彼女に向けた。すると、そこから針のような鋭いものが飛んでくる。なまえは横に飛んで逃げたが、その先でまた別の妖怪が彼女を待ち構えていた。いつしか彼女は周りを囲まれていたが、それならそれでいいと双錘を振るう。移動距離が短くなる分、一気に倒しやすい。
“残り4分17秒”
なまえが妖怪たちの間を縫うように駆け抜け、飛び上がる。すると青白い電撃が尾を引くように光った。まるでリボンのようだ。彼女独特の柔らかな動きが伸びやかで、妖怪たちの断末魔とは対照的で美しい。
――シュン!
先ほどの妖怪が再び彼女めがけて針を放った。しかしそのほぼ全てを、両の双錘で叩き落とす。数本は彼女に達したが、国の科学力の結晶の前ではまるで歯が立たない。
「バカな、オレの針が……!」
体に突き刺さることなく地に落ちた針を見て、彼がうろたえる。おそらく初めてのことだったのだろう。その証拠に、素早く近づいてきたなまえに反応するのが少し遅れた。彼女の整った顔が視界一杯に広がったと思ったら、大きな衝撃が彼の全身を襲う。そこでぷつりと意識は途絶えた。
“残り3分40秒”
これまで順調に倒してきて、最後に残ったのは体躯の大きな妖怪。なまえの毒を一息で吹き飛ばした男だ。彼女は双錘を握り直し、一気に突っ込んでいく。相手も力強く地を蹴り、その体格からは想像しがたいスピードで迫って来た。
「!!」
振り下ろされる拳を避け、男の斜め後ろに回る。そのまま電撃を浴びせようと双錘を突き出すが、あと少しのところで届かない。反応速度も今までの妖怪とは違うようだ。眉をひそめるなまえだが、彼女の頭には蔵馬と飛影、そして幻海との手合わせが思い出されていた。彼らとの戦いに比べたら、お遊びのようなものじゃないか。
――大丈夫、私は負けない。
時間制限のある勝負ということで焦り始めていたが、落ち着きを取り戻した。彼女は攻撃をかわしながら、素早く相手の懐に入る。そして、ここでなぜか双錘を二本とも背中にしまった。
『おぉっと、なまえ選手!なんと自ら武器を手放しましたぁー!』
予想外の動きに、小兎の実況にも熱が入る。
――ガタンッ
「顔色が優れませんね」
「むぅ……」
思わず椅子から立ち上がったコエンマを、左京が流し目で見やった。
「しかし彼女はまだあきらめてませんよ?…ほら、あの目」
煙草を持った手でふい、とリングを指す。コエンマが素直に見下ろすと、なまえは好戦的に光る目で相手を見据えていた。その表情は獰猛にさえ映り、獲物を捕らえた蛇のように生き生きとしている。
“残り2分56秒”
「ちょこまかと逃げるだけか!?いい加減殴らせろ!」
自身のまわりを逃げ回り、あろうことか振り下ろした腕を脚掛けにして頭上をも飛び越えるなまえに、男は苛立ちを抑えきれない。攻撃も段々と大振りになってきた。当たらない拳がますます彼を追い詰める。心なしか腕が重く、精度の高い拳を繰り出せない。たった3分も全力で動いていないはずなのに、疲れているような気がした。
「…はぁ、ったくよぉ!この!」
――パシッ
次こそは、と渾身の力で腕を振り下ろすが、その腕を軽々と目の前の女に止められてしまった。
おかしい。自分の半分ほどしかない人間が、こうも簡単に己の拳を止められるだろうか?男は言いようのない焦燥感を募らせ、困惑した。しかし眼下の女がにやりと笑ったのを見てしまい、その不気味さに彼の背中は一瞬で悪寒に包まれる。
「効いたみたいね」
ぽい、と男の腕を投げ下ろし、最近ではあまり見られなくなったあの仮面のような笑顔で微笑んだ。
「あなたの体にね、少しずつ毒をつけてたの」
「な、に……。」
その反応に、気づかなかったでしょ、とにこやかになまえが続ける。
「じわじわと皮膚を広がって、全身の筋肉を硬化させるものよ。体の外側から効き始めて、最後は内臓まで到達する……。おかげさまで、これも妖怪に有効って分かったわ。貴重なデータをありがとう。」
『なまえ選手、またもや毒です!武器を背中にしまったのはより正確に塗るためでしょうか?!なんという賭け!試合はすっかり彼女のペースです!!』
「、っ!――っ!!」
彼は叫ぼうとしたが、口が動かない。喉も震えない。ゆっくりと氷漬けにされたように、男は自分の気づかない内に体の自由をまんまと奪われていた。
「人間と同じ効き方なら、そのうち呼吸もできなくなるけど…。大丈夫、そうなるまでにあと5分はかかるはずだから。試合が終わったら、血清を打ってあげてもいいわ」
なまえは反対の胸ポケットから小型の注射器を取り出して見せ、またすぐにしまった。
“残り2分4秒”
この時点で彼女に攻撃できる者はいなくなった。よって、彼女の勝利が確定する。
「ふぅ、冷や冷やさせおって……」
体の力を一気に抜いたように、コエンマがどかりと椅子へ戻った。だがこうしてはいられないと、なまえの元へ行くために慌てて立ち上がる。しかしVIP席を出ようとしたところで左京に引き留められた。
「おや、もういいんですか?」
「いいもなにも、もう勝負はついたじゃろう」
「なるほど。あなたは映画のエンドロールは見ない方なんですね」
「映画?……なんの話だ」
怪訝そうなコエンマに、左京は椅子ごとくるりと振り返り暗い瞳を向ける。
「いえ、様々な作品がある中で、エンドロールの後に素晴らしい映像が収録されているものもありましてね。私はそれを見逃したくなくて、必ず最後まで見るようにしているんですよ」
左京の後ろ――リングから、小兎の実況の声が響いてきた。
『これはついに決着がついたようです!残り2分を残し、なまえ選手をダウンさせられる者はいません!このまま逃げ切りか!?それとも倒れた者の中から再び……おや?そこにいるのは……』
しかし途中で歯切れが悪くなった。何事かとガラス窓からリングを見下ろすと、その理由が分かった。観客席からもどよめきが聞こえる。コエンマの眉根が寄せられた。
「左京よ……エキシビジョンは観客の中から参加者を募ったんじゃなかったのか?」
「…これは彼のたっての希望なんです。もちろん、異次元のお嬢さんの命は保障します。私もですが、彼も霊界に目を付けられるのは避けたいでしょうし」
「……今の言葉、忘れるでないぞ」
「ええ」
左京の薄く開かれた唇から、ふぅ、と白煙が吐き出された。
オーナー同士の緊迫したやり取りがなされていた一方、リング上。
このまま終わればいいと願っていたなまえだったが、振り返った先の人物にごくりと喉を上下させる。彼は意外にも律儀な性格のようだ。一気に体温が上がったらしく、こめかみから首筋にかけて汗が一筋流れたのを感じた。
――やっぱり、見逃してはくれないのね。
“決めたぞ。明日は私も参加しよう”
「あれは……!」
「……!」
蔵馬と飛影も目を見張る。特に、つい先ほど彼の試合を見たばかりの蔵馬は動揺が隠せない。観客たちを押し退けリングへ降りようとして、ハッと我に返った。今ここで降りて行けば、助太刀に入ったとみなされる。試合前の左京の口ぶりから、ぼたんや雪菜たちに危険が及ぶことが彼には容易に推測できた。彼自身もそれは避けたいが、何より、彼女たちを守るために身体を張った○○の意志が無駄になる。じっと彼女を見つめ、拳を震えるほど握りしめて耐えた。
そんな蔵馬の様子を珍しいと思いつつ、飛影もなまえを見つめる。彼も彼女の元へ行きたいのは山々だ。しかし蔵馬が耐えている以上、自分も耐えなければならない。なぜか彼を差し置き、なまえの元へ行くのが憚られた。飛影は黙ったままリングへと視線を投げ、新たな参加者を睨んだ。
男はコツ…コツ…と靴音を響かせ、ゆっくりとリングの中心へ――なまえの元へと歩んでくる。
“お前と殺し合いがしたくなった”
彼女と男の視線がぶつかり、交わる。
長い黒髪をなびかせて立っているのは、鴉その人だった。
“残り1分54秒”
「あたしたちは一度見たね。ね、螢子ちゃん」
「ええ、あの時は毒は使ってなかったけど……」
リング上で妖怪に囲まれているなまえを見ながら静流が呟くと、魔回虫の事件を思い出したぼたんと螢子が目を合わせてうなずく。エキシビジョンへの参加は温子と雪菜も含む全員が反対だったが、こうして見ると彼女が“大丈夫”と言っていた理由も分かる。なまえは、その辺の妖怪たちよりも確実に強い。さすがは護衛を申し出ただけはある。
“残り4分42秒”
『なまえ選手、次は背中の武器を手に取りました!ここで初めて体術が披露されるのでしょうか!?』
ぐっと持ち手を握り、体の前でクロスにして構える。双錘を手にしたときの、いつもの彼女の構え方だった。
「…一気にやっちゃいましょ」
ほとんど口の中で呟くと、テンポ良く片付けようと一番端の妖怪に目を付け走る。斧を手にあちらからも向かってくるが、彼に到達する直前に軌道を変え、死角から腹部に双錘を叩きつけた。
――バチィッ!
その瞬間、放たれる青白い光。妖怪が白目を剥いて気を失う。双錘で電撃を浴びせたのだ。もともと備わっていなかった機能だが、暗黒武術会前に幻海邸で彼女自ら改良を施したものである。女性陣の護衛に際して念のために付けた機能だが、役に立ってよかったとなまえはほくそ笑む。この威力なら、割とはやく彼らを片付けられるだろう。
「くそ、それなら…!」
別の妖怪が掌を彼女に向けた。すると、そこから針のような鋭いものが飛んでくる。なまえは横に飛んで逃げたが、その先でまた別の妖怪が彼女を待ち構えていた。いつしか彼女は周りを囲まれていたが、それならそれでいいと双錘を振るう。移動距離が短くなる分、一気に倒しやすい。
“残り4分17秒”
なまえが妖怪たちの間を縫うように駆け抜け、飛び上がる。すると青白い電撃が尾を引くように光った。まるでリボンのようだ。彼女独特の柔らかな動きが伸びやかで、妖怪たちの断末魔とは対照的で美しい。
――シュン!
先ほどの妖怪が再び彼女めがけて針を放った。しかしそのほぼ全てを、両の双錘で叩き落とす。数本は彼女に達したが、国の科学力の結晶の前ではまるで歯が立たない。
「バカな、オレの針が……!」
体に突き刺さることなく地に落ちた針を見て、彼がうろたえる。おそらく初めてのことだったのだろう。その証拠に、素早く近づいてきたなまえに反応するのが少し遅れた。彼女の整った顔が視界一杯に広がったと思ったら、大きな衝撃が彼の全身を襲う。そこでぷつりと意識は途絶えた。
“残り3分40秒”
これまで順調に倒してきて、最後に残ったのは体躯の大きな妖怪。なまえの毒を一息で吹き飛ばした男だ。彼女は双錘を握り直し、一気に突っ込んでいく。相手も力強く地を蹴り、その体格からは想像しがたいスピードで迫って来た。
「!!」
振り下ろされる拳を避け、男の斜め後ろに回る。そのまま電撃を浴びせようと双錘を突き出すが、あと少しのところで届かない。反応速度も今までの妖怪とは違うようだ。眉をひそめるなまえだが、彼女の頭には蔵馬と飛影、そして幻海との手合わせが思い出されていた。彼らとの戦いに比べたら、お遊びのようなものじゃないか。
――大丈夫、私は負けない。
時間制限のある勝負ということで焦り始めていたが、落ち着きを取り戻した。彼女は攻撃をかわしながら、素早く相手の懐に入る。そして、ここでなぜか双錘を二本とも背中にしまった。
『おぉっと、なまえ選手!なんと自ら武器を手放しましたぁー!』
予想外の動きに、小兎の実況にも熱が入る。
――ガタンッ
「顔色が優れませんね」
「むぅ……」
思わず椅子から立ち上がったコエンマを、左京が流し目で見やった。
「しかし彼女はまだあきらめてませんよ?…ほら、あの目」
煙草を持った手でふい、とリングを指す。コエンマが素直に見下ろすと、なまえは好戦的に光る目で相手を見据えていた。その表情は獰猛にさえ映り、獲物を捕らえた蛇のように生き生きとしている。
“残り2分56秒”
「ちょこまかと逃げるだけか!?いい加減殴らせろ!」
自身のまわりを逃げ回り、あろうことか振り下ろした腕を脚掛けにして頭上をも飛び越えるなまえに、男は苛立ちを抑えきれない。攻撃も段々と大振りになってきた。当たらない拳がますます彼を追い詰める。心なしか腕が重く、精度の高い拳を繰り出せない。たった3分も全力で動いていないはずなのに、疲れているような気がした。
「…はぁ、ったくよぉ!この!」
――パシッ
次こそは、と渾身の力で腕を振り下ろすが、その腕を軽々と目の前の女に止められてしまった。
おかしい。自分の半分ほどしかない人間が、こうも簡単に己の拳を止められるだろうか?男は言いようのない焦燥感を募らせ、困惑した。しかし眼下の女がにやりと笑ったのを見てしまい、その不気味さに彼の背中は一瞬で悪寒に包まれる。
「効いたみたいね」
ぽい、と男の腕を投げ下ろし、最近ではあまり見られなくなったあの仮面のような笑顔で微笑んだ。
「あなたの体にね、少しずつ毒をつけてたの」
「な、に……。」
その反応に、気づかなかったでしょ、とにこやかになまえが続ける。
「じわじわと皮膚を広がって、全身の筋肉を硬化させるものよ。体の外側から効き始めて、最後は内臓まで到達する……。おかげさまで、これも妖怪に有効って分かったわ。貴重なデータをありがとう。」
『なまえ選手、またもや毒です!武器を背中にしまったのはより正確に塗るためでしょうか?!なんという賭け!試合はすっかり彼女のペースです!!』
「、っ!――っ!!」
彼は叫ぼうとしたが、口が動かない。喉も震えない。ゆっくりと氷漬けにされたように、男は自分の気づかない内に体の自由をまんまと奪われていた。
「人間と同じ効き方なら、そのうち呼吸もできなくなるけど…。大丈夫、そうなるまでにあと5分はかかるはずだから。試合が終わったら、血清を打ってあげてもいいわ」
なまえは反対の胸ポケットから小型の注射器を取り出して見せ、またすぐにしまった。
“残り2分4秒”
この時点で彼女に攻撃できる者はいなくなった。よって、彼女の勝利が確定する。
「ふぅ、冷や冷やさせおって……」
体の力を一気に抜いたように、コエンマがどかりと椅子へ戻った。だがこうしてはいられないと、なまえの元へ行くために慌てて立ち上がる。しかしVIP席を出ようとしたところで左京に引き留められた。
「おや、もういいんですか?」
「いいもなにも、もう勝負はついたじゃろう」
「なるほど。あなたは映画のエンドロールは見ない方なんですね」
「映画?……なんの話だ」
怪訝そうなコエンマに、左京は椅子ごとくるりと振り返り暗い瞳を向ける。
「いえ、様々な作品がある中で、エンドロールの後に素晴らしい映像が収録されているものもありましてね。私はそれを見逃したくなくて、必ず最後まで見るようにしているんですよ」
左京の後ろ――リングから、小兎の実況の声が響いてきた。
『これはついに決着がついたようです!残り2分を残し、なまえ選手をダウンさせられる者はいません!このまま逃げ切りか!?それとも倒れた者の中から再び……おや?そこにいるのは……』
しかし途中で歯切れが悪くなった。何事かとガラス窓からリングを見下ろすと、その理由が分かった。観客席からもどよめきが聞こえる。コエンマの眉根が寄せられた。
「左京よ……エキシビジョンは観客の中から参加者を募ったんじゃなかったのか?」
「…これは彼のたっての希望なんです。もちろん、異次元のお嬢さんの命は保障します。私もですが、彼も霊界に目を付けられるのは避けたいでしょうし」
「……今の言葉、忘れるでないぞ」
「ええ」
左京の薄く開かれた唇から、ふぅ、と白煙が吐き出された。
オーナー同士の緊迫したやり取りがなされていた一方、リング上。
このまま終わればいいと願っていたなまえだったが、振り返った先の人物にごくりと喉を上下させる。彼は意外にも律儀な性格のようだ。一気に体温が上がったらしく、こめかみから首筋にかけて汗が一筋流れたのを感じた。
――やっぱり、見逃してはくれないのね。
“決めたぞ。明日は私も参加しよう”
「あれは……!」
「……!」
蔵馬と飛影も目を見張る。特に、つい先ほど彼の試合を見たばかりの蔵馬は動揺が隠せない。観客たちを押し退けリングへ降りようとして、ハッと我に返った。今ここで降りて行けば、助太刀に入ったとみなされる。試合前の左京の口ぶりから、ぼたんや雪菜たちに危険が及ぶことが彼には容易に推測できた。彼自身もそれは避けたいが、何より、彼女たちを守るために身体を張った○○の意志が無駄になる。じっと彼女を見つめ、拳を震えるほど握りしめて耐えた。
そんな蔵馬の様子を珍しいと思いつつ、飛影もなまえを見つめる。彼も彼女の元へ行きたいのは山々だ。しかし蔵馬が耐えている以上、自分も耐えなければならない。なぜか彼を差し置き、なまえの元へ行くのが憚られた。飛影は黙ったままリングへと視線を投げ、新たな参加者を睨んだ。
男はコツ…コツ…と靴音を響かせ、ゆっくりとリングの中心へ――なまえの元へと歩んでくる。
“お前と殺し合いがしたくなった”
彼女と男の視線がぶつかり、交わる。
長い黒髪をなびかせて立っているのは、鴉その人だった。
“残り1分54秒”