第二章:彼らの戦い、彼女の葛藤
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迎えた準決勝の日。闘技場に着いたなまえたちは、閑散としたその様子に面食らっていた。
「どーゆーこと?いくら待っても始まらないじゃない。」
「もしかして日時間違えたのかしら。」
「んにゃ、それだけはしっかり覚えてるよ。今日の5時きっかり。」
やいのやいのと言いあう傍らで、螢子が一昨日のポーカーでの出来事を思い出す。
「そういえば蔵馬君が、場所変わるって言ってたような…。」
それだ!と女性陣は活気づく。しかし誰も場所が分からない以上、どうすることもできない。仕方なくいったんホテルに戻って会場の場所を聞いて来ようとなまえが動きかけたとき。
――ドサッ
空中からいきなり人が落ちてきた。
「あーー!!」
ぼたんが叫ぶのでよくよく見てみれば、なんと桑原だ。どうやら試合相手にここまで飛ばされたらしい。あっという間に負けたらしい弟に、涼しい顔で静流が鉄槌を食らわす。しばらくその様子を遠巻きに見ていた一行だったが、むくりと起き上がった桑原がそのたんこぶだらけの顔で、新しい闘場まで案内してくれることとなった。
森の中を進む道すがら、雪菜が飛影のことを話題にする。意中の人が他の男の話をするので、先頭を歩く桑原は面白くないようだ。なかでも彼らは相性が悪いように見えるので、よりにもよって…と彼は敏感に反応した。
「いいっすか、あれに近づいちゃダメです。噛みつきますから。」
なまえはそんな飛影を想像する。まるで近づく者すべてに威嚇して唸る猫のようだ。彼女はたまらずぷっと吹き出した。
「コラ桑原!失礼だろそんな言い方!!なまえさんも笑ってる場合じゃない!」
なぜか鬼の形相で怒りだしたぼたんに、二人は首を傾げる。彼女は、言っていいことと悪いことがある、と息巻いた。
「あれでも飛影は雪菜ちゃんの……。」
ぼたんはそのまま人差し指を立てながら二人を叱り始めたが、気になるところでぴたりと口を閉ざす。不自然な沈黙に桑原がツッコみ、ぼたんの挙動不審な様子を心配する。しかしなまえの洞察力の前では、その沈黙は意味がなかった。
――飛影が雪菜ちゃんの……。なるほどね。でもどうしてそれを秘密にしてるのかしら。
笑ってごまかした“つもり”の彼女を見つめ、なまえがにっこりと笑う。こちらの意図が分かるようになるべくわざとらしく。ぼたんは彼女を見てさっと青ざめたかと思ったら、諦めたようにがっくりと肩を落としていた。
そんな彼女を差し置き、静流が森の中で何かを見つける。
「あれ…まさか。」
「浦飯!」
木の根元で眠っている幽助だ。一同の注目が一気にそちらへと移った隙に、これ幸いにとこっそり耳打ちした。
「雪菜ちゃんのお兄さんって、飛影でしょ。」
はっきりとした指摘に、ぼたんの逃げ道はなかった。
「はー、やっぱり…。気づいちゃったのね。」
「悪いけど、私にはすごく分かりやすかったわよ?」
苦笑いで彼女の肩を叩くと、なまえの顔をなんとも情けない顔で見つめてきた。
「飛影に口止めされてたんだよう。なまえさん、ここはひとまず……。」
「分かってるわ、知らないふりをしておけばいいのね。」
「ほほほ、さすが話が早い。」
なぜ秘密にしているのかは、ぼたんにも明かされていないらしい。無粋なことはすまいと、なまえはいつか本人が話す気になるまでそっとしておこうと思った。
闘技場がもう目の前といったところ。どうにも中の様子がおかしい。
「なんだァ?妖怪どもが血相変えて走ってくんぞ。」
桑原がその様子に驚き、女性陣を木の陰に誘導した。妖怪たちが口々に話すのを聞くに、どうやら死々若丸という選手が観客にまで被害が及ぶ技を出したらしい。しかもその相手は幻海というじゃないか。
――覆面選手が幻海さんだってバレたのね……。
なまえは、つい昨日会った彼女のことを思い出す。以前とは違い、どこか弱々しい印象を受けたのは確かだ。しかしあの幻海のこと。まさか負けるとは思えないが……。なまえは胸のあたりがざわつき、無意識に拳を握りしめていた。
そんな彼女を横目でちらりと確認し、桑原がすっと立ち上がる。
「よっしゃ、オレがちょっくら中の様子見てくるぜ!」
「え、でも桑原君……。」
「なまえちゃんよ、バーサンのこと心配なんだろ?」
引き留めようとしたが、にかっと笑った彼はずんずんと歩いていく。そうして出てくる妖怪の波に逆らいながら、やがて見えなくなった。
「大丈夫かしら?」
「平気よ、無駄に頑丈だから。」
静流がぷかりと煙草をふかし、心配している様子のなまえを落ち着かせる。しばらくすると、彼の声がマイクを通して聞こえてきた。
「あ、バカの声。…ほらね?」
様子見などと言いながらしっかり戦線復帰している弟に、静流もまた妖怪たちを蹴散らしながら中へと入っていく。温子とぼたんもそれに続こうとしたところで、くるりと螢子を振り返った。彼女はひとり、眠る幽助を支えている。
「さ、雪菜ちゃんもおいで!」
とっさに何かを思ったぼたんが、雪菜を引きずっていく。そういうことかとなまえも合点がいき、にっこりと螢子に微笑みかけて闘場へと向かった。
「応援はまかせて。螢子ちゃんは幽助君をよろしくね。」
「ちょ、ちょっと!コレどーすんのよ!?もー!」
眠る幽助と二人で残された彼女は困ったように不平を漏らすが、まんざらでもないようだ。木の根元に腰かけて彼の寝顔を眺める螢子の顔が、それを物語っていた。
中へ入ると、桑原が相手へと突進していくところだった。迎え撃つのは老人で、いったいどんな技を繰り出してくるのかと思えば。
――ズズ……。
老人は黒い球体作り出し、桑原をすっぽりと包み込んでしまった。そのまま圧縮されるように小さくなっていくが、彼自体は無事らしい。どうやらいきなり前の闘場に落ちてきたときも、この技のせいだったようだ。あっという間にその場からいなくなってしまった。
「さて、次は誰かな。」
老人がサイコロを手に取る。この試合の対戦方法は、出た目の選手と戦うというものらしい。
振ったサイコロには“覆面”とある。幻海だ。
「ホッホッ、大丈夫かね?見たところだいぶお疲れのようじゃが。」
老人の言葉に、なまえは幻海を見た。悔しいが、老人の言うとおりである。あんなに疲弊した彼女を見るのは初めてだ。昨日の様子といい、どこかおかしい。なまえは幻海を見るたび、言い知れない不安を感じるようになっていた。
対する幻海は真っ直ぐに背筋を伸ばし、挑発ともとれる言葉に毅然と返す。
「いい加減その耳障りなジジイ言葉と変装をやめたらどうだい?どこの誰だか知らないが、年寄りのカッコで油断させようってんなら相手が悪いよ。」
変装?会場の誰もが疑問に思っただろう。しかし老人の眉がピクリと動き、自身の顔に手をかけたことでその言葉に信憑性が生まれる。
べりべりと仮面を破り捨て、現れた姿はまさにピエロ。自身を“美しい魔闘家鈴木”と名乗る、派手な出で立ちの男だ。どうやらこの男は自身の妖気の波長を自在に変えられるらしく、それを強みとしていた。
しかし、相手が悪すぎた。幻海が霊気すら使わず、拳だけで圧倒したのだ。
「お前の敗因を教えてやる。確かにお前は武器を作ることにかけては天才的だ。だがそれを自分の強さと勘違いした。」
淡々と言いながら、彼女は容赦なく拳を叩きこんでいく。一方的ともいえる攻撃が終わったころには、鈴木の顔面は跡形もなく腫れていた。美しい、と自身で豪語していた彼の素顔を見るのを忘れたことに、幻海はしまった、とこぼす。そのいつもと変わらぬ様子に、なまえは少しホッとした。やはり幻海は幻海なのだと。
こうして、浦飯チームの勝利が確定したのだった。
次の試合は、戸愚呂チームと五連邪チームの戦いである。会場に残るようにと左京に言われていたが、先に戻った幻海が気になるためなまえもホテルへと急いだ。あとでまた来れば文句はないだろう。
ドアを開けると、ベッドで眠る幽助を囲んで妖怪数名と桑原、幻海がいた。
「あら?あなたたち確か……。」
帽子をかぶった少年とモヒカン頭の大男。鈴駒と酎だ。
「いよぉ!美人のネーチャンだな、オレとお茶でもしねぇか?ん?」
「まったく、酎はすぐこれだよ!ごめんよ、おねーさん。」
なぜ試合相手の彼らがここにいるのかと桑原に問えば、幽助のことが気がかりで見に来てくれたらしい。あとの二人も、同じ理由だった。
「よっ!オラは陣ってんだ、よろしくな。」
「凍矢だ、よろしく。キミがエキシビジョンに出る人間だろう?大丈夫か?」
手を差し出されたので、なまえは名乗りながら握手をする。部屋の面々の心配そうな顔に苦笑した。
「何をやらされるか分からないけど、私もいちおう体を動かすのには慣れてるの。……でもいざとなれば、コエンマさんに泣きついてやるわ。」
「…コエンマの奴、自分だけ逃げそうだけどな。」
「もう、桑原君たら。そんなまさか……。」
ふふ、と笑うが、その様子が安易に想像できて嫌な予感もする。自分の笑顔が少し引きつっているのが分かった。
「ほらなまえ、こんなとこで油売ってたら始まっちまうよ。さっさと会場に戻りな。」
彼女にはっぱをかけ、自分は部屋を出ようとする幻海を慌てて呼び止める。
「ねぇ幻海さん、だいぶ疲れてるでしょ?休んだ方がいいわ。」
「そうだぜバーサン。2戦したばっかだぜ、寝とけよ。」
桑原も驚き、声をかける。
「……大事な用があってな。」
そう答える彼女の目は、鋭く前を見据えていた。その瞳を前にしてさらに何かを言うこともできず、扉へと向かう彼女を見送る。
「なまえ。」
その背中をじっと見ていたら幻海が振り返ったので、ばちりと目が合った。しばらくそのままだと思ったら、彼女が口を開く。
「昨日言ったこと、忘れんじゃないよ。」
“もう小さなガキじゃないんだ。自分の頭でしっかり考えて、その上で物事を判断しな。誰かの言いなりになるもんじゃない。”
それは、なまえの頭にかかった靄を晴らした言葉だ。忘れるはずもない。彼女は「ええ。」と深くうなずき、満面の笑みを送った。
「それから桑原。」
「あ?」
なまえの反応に満足そうに微笑んだ後、幻海は桑原に向き直った。
「負けるんじゃないよ。」
そのままバタンと部屋を出て行く彼女に、なまえと桑原の二人は顔を見合わせて首を傾げる。しかしなんて優しい笑顔で去って行ったのだろうと、彼女は穏やかな気持ちになった。それに、大事な用とはいったい何なのか。いくら考えても分かるはずもなく、部屋の面々にひとまず別れを告げて自分もドアをくぐった。
出てすぐに辺りを見渡したら、廊下の奥の方に幻海を見つけた。彼女のシルエットは思いのほか小さく、じっと眺めていたら消えてしまいそうだった。
「どーゆーこと?いくら待っても始まらないじゃない。」
「もしかして日時間違えたのかしら。」
「んにゃ、それだけはしっかり覚えてるよ。今日の5時きっかり。」
やいのやいのと言いあう傍らで、螢子が一昨日のポーカーでの出来事を思い出す。
「そういえば蔵馬君が、場所変わるって言ってたような…。」
それだ!と女性陣は活気づく。しかし誰も場所が分からない以上、どうすることもできない。仕方なくいったんホテルに戻って会場の場所を聞いて来ようとなまえが動きかけたとき。
――ドサッ
空中からいきなり人が落ちてきた。
「あーー!!」
ぼたんが叫ぶのでよくよく見てみれば、なんと桑原だ。どうやら試合相手にここまで飛ばされたらしい。あっという間に負けたらしい弟に、涼しい顔で静流が鉄槌を食らわす。しばらくその様子を遠巻きに見ていた一行だったが、むくりと起き上がった桑原がそのたんこぶだらけの顔で、新しい闘場まで案内してくれることとなった。
森の中を進む道すがら、雪菜が飛影のことを話題にする。意中の人が他の男の話をするので、先頭を歩く桑原は面白くないようだ。なかでも彼らは相性が悪いように見えるので、よりにもよって…と彼は敏感に反応した。
「いいっすか、あれに近づいちゃダメです。噛みつきますから。」
なまえはそんな飛影を想像する。まるで近づく者すべてに威嚇して唸る猫のようだ。彼女はたまらずぷっと吹き出した。
「コラ桑原!失礼だろそんな言い方!!なまえさんも笑ってる場合じゃない!」
なぜか鬼の形相で怒りだしたぼたんに、二人は首を傾げる。彼女は、言っていいことと悪いことがある、と息巻いた。
「あれでも飛影は雪菜ちゃんの……。」
ぼたんはそのまま人差し指を立てながら二人を叱り始めたが、気になるところでぴたりと口を閉ざす。不自然な沈黙に桑原がツッコみ、ぼたんの挙動不審な様子を心配する。しかしなまえの洞察力の前では、その沈黙は意味がなかった。
――飛影が雪菜ちゃんの……。なるほどね。でもどうしてそれを秘密にしてるのかしら。
笑ってごまかした“つもり”の彼女を見つめ、なまえがにっこりと笑う。こちらの意図が分かるようになるべくわざとらしく。ぼたんは彼女を見てさっと青ざめたかと思ったら、諦めたようにがっくりと肩を落としていた。
そんな彼女を差し置き、静流が森の中で何かを見つける。
「あれ…まさか。」
「浦飯!」
木の根元で眠っている幽助だ。一同の注目が一気にそちらへと移った隙に、これ幸いにとこっそり耳打ちした。
「雪菜ちゃんのお兄さんって、飛影でしょ。」
はっきりとした指摘に、ぼたんの逃げ道はなかった。
「はー、やっぱり…。気づいちゃったのね。」
「悪いけど、私にはすごく分かりやすかったわよ?」
苦笑いで彼女の肩を叩くと、なまえの顔をなんとも情けない顔で見つめてきた。
「飛影に口止めされてたんだよう。なまえさん、ここはひとまず……。」
「分かってるわ、知らないふりをしておけばいいのね。」
「ほほほ、さすが話が早い。」
なぜ秘密にしているのかは、ぼたんにも明かされていないらしい。無粋なことはすまいと、なまえはいつか本人が話す気になるまでそっとしておこうと思った。
闘技場がもう目の前といったところ。どうにも中の様子がおかしい。
「なんだァ?妖怪どもが血相変えて走ってくんぞ。」
桑原がその様子に驚き、女性陣を木の陰に誘導した。妖怪たちが口々に話すのを聞くに、どうやら死々若丸という選手が観客にまで被害が及ぶ技を出したらしい。しかもその相手は幻海というじゃないか。
――覆面選手が幻海さんだってバレたのね……。
なまえは、つい昨日会った彼女のことを思い出す。以前とは違い、どこか弱々しい印象を受けたのは確かだ。しかしあの幻海のこと。まさか負けるとは思えないが……。なまえは胸のあたりがざわつき、無意識に拳を握りしめていた。
そんな彼女を横目でちらりと確認し、桑原がすっと立ち上がる。
「よっしゃ、オレがちょっくら中の様子見てくるぜ!」
「え、でも桑原君……。」
「なまえちゃんよ、バーサンのこと心配なんだろ?」
引き留めようとしたが、にかっと笑った彼はずんずんと歩いていく。そうして出てくる妖怪の波に逆らいながら、やがて見えなくなった。
「大丈夫かしら?」
「平気よ、無駄に頑丈だから。」
静流がぷかりと煙草をふかし、心配している様子のなまえを落ち着かせる。しばらくすると、彼の声がマイクを通して聞こえてきた。
「あ、バカの声。…ほらね?」
様子見などと言いながらしっかり戦線復帰している弟に、静流もまた妖怪たちを蹴散らしながら中へと入っていく。温子とぼたんもそれに続こうとしたところで、くるりと螢子を振り返った。彼女はひとり、眠る幽助を支えている。
「さ、雪菜ちゃんもおいで!」
とっさに何かを思ったぼたんが、雪菜を引きずっていく。そういうことかとなまえも合点がいき、にっこりと螢子に微笑みかけて闘場へと向かった。
「応援はまかせて。螢子ちゃんは幽助君をよろしくね。」
「ちょ、ちょっと!コレどーすんのよ!?もー!」
眠る幽助と二人で残された彼女は困ったように不平を漏らすが、まんざらでもないようだ。木の根元に腰かけて彼の寝顔を眺める螢子の顔が、それを物語っていた。
中へ入ると、桑原が相手へと突進していくところだった。迎え撃つのは老人で、いったいどんな技を繰り出してくるのかと思えば。
――ズズ……。
老人は黒い球体作り出し、桑原をすっぽりと包み込んでしまった。そのまま圧縮されるように小さくなっていくが、彼自体は無事らしい。どうやらいきなり前の闘場に落ちてきたときも、この技のせいだったようだ。あっという間にその場からいなくなってしまった。
「さて、次は誰かな。」
老人がサイコロを手に取る。この試合の対戦方法は、出た目の選手と戦うというものらしい。
振ったサイコロには“覆面”とある。幻海だ。
「ホッホッ、大丈夫かね?見たところだいぶお疲れのようじゃが。」
老人の言葉に、なまえは幻海を見た。悔しいが、老人の言うとおりである。あんなに疲弊した彼女を見るのは初めてだ。昨日の様子といい、どこかおかしい。なまえは幻海を見るたび、言い知れない不安を感じるようになっていた。
対する幻海は真っ直ぐに背筋を伸ばし、挑発ともとれる言葉に毅然と返す。
「いい加減その耳障りなジジイ言葉と変装をやめたらどうだい?どこの誰だか知らないが、年寄りのカッコで油断させようってんなら相手が悪いよ。」
変装?会場の誰もが疑問に思っただろう。しかし老人の眉がピクリと動き、自身の顔に手をかけたことでその言葉に信憑性が生まれる。
べりべりと仮面を破り捨て、現れた姿はまさにピエロ。自身を“美しい魔闘家鈴木”と名乗る、派手な出で立ちの男だ。どうやらこの男は自身の妖気の波長を自在に変えられるらしく、それを強みとしていた。
しかし、相手が悪すぎた。幻海が霊気すら使わず、拳だけで圧倒したのだ。
「お前の敗因を教えてやる。確かにお前は武器を作ることにかけては天才的だ。だがそれを自分の強さと勘違いした。」
淡々と言いながら、彼女は容赦なく拳を叩きこんでいく。一方的ともいえる攻撃が終わったころには、鈴木の顔面は跡形もなく腫れていた。美しい、と自身で豪語していた彼の素顔を見るのを忘れたことに、幻海はしまった、とこぼす。そのいつもと変わらぬ様子に、なまえは少しホッとした。やはり幻海は幻海なのだと。
こうして、浦飯チームの勝利が確定したのだった。
次の試合は、戸愚呂チームと五連邪チームの戦いである。会場に残るようにと左京に言われていたが、先に戻った幻海が気になるためなまえもホテルへと急いだ。あとでまた来れば文句はないだろう。
ドアを開けると、ベッドで眠る幽助を囲んで妖怪数名と桑原、幻海がいた。
「あら?あなたたち確か……。」
帽子をかぶった少年とモヒカン頭の大男。鈴駒と酎だ。
「いよぉ!美人のネーチャンだな、オレとお茶でもしねぇか?ん?」
「まったく、酎はすぐこれだよ!ごめんよ、おねーさん。」
なぜ試合相手の彼らがここにいるのかと桑原に問えば、幽助のことが気がかりで見に来てくれたらしい。あとの二人も、同じ理由だった。
「よっ!オラは陣ってんだ、よろしくな。」
「凍矢だ、よろしく。キミがエキシビジョンに出る人間だろう?大丈夫か?」
手を差し出されたので、なまえは名乗りながら握手をする。部屋の面々の心配そうな顔に苦笑した。
「何をやらされるか分からないけど、私もいちおう体を動かすのには慣れてるの。……でもいざとなれば、コエンマさんに泣きついてやるわ。」
「…コエンマの奴、自分だけ逃げそうだけどな。」
「もう、桑原君たら。そんなまさか……。」
ふふ、と笑うが、その様子が安易に想像できて嫌な予感もする。自分の笑顔が少し引きつっているのが分かった。
「ほらなまえ、こんなとこで油売ってたら始まっちまうよ。さっさと会場に戻りな。」
彼女にはっぱをかけ、自分は部屋を出ようとする幻海を慌てて呼び止める。
「ねぇ幻海さん、だいぶ疲れてるでしょ?休んだ方がいいわ。」
「そうだぜバーサン。2戦したばっかだぜ、寝とけよ。」
桑原も驚き、声をかける。
「……大事な用があってな。」
そう答える彼女の目は、鋭く前を見据えていた。その瞳を前にしてさらに何かを言うこともできず、扉へと向かう彼女を見送る。
「なまえ。」
その背中をじっと見ていたら幻海が振り返ったので、ばちりと目が合った。しばらくそのままだと思ったら、彼女が口を開く。
「昨日言ったこと、忘れんじゃないよ。」
“もう小さなガキじゃないんだ。自分の頭でしっかり考えて、その上で物事を判断しな。誰かの言いなりになるもんじゃない。”
それは、なまえの頭にかかった靄を晴らした言葉だ。忘れるはずもない。彼女は「ええ。」と深くうなずき、満面の笑みを送った。
「それから桑原。」
「あ?」
なまえの反応に満足そうに微笑んだ後、幻海は桑原に向き直った。
「負けるんじゃないよ。」
そのままバタンと部屋を出て行く彼女に、なまえと桑原の二人は顔を見合わせて首を傾げる。しかしなんて優しい笑顔で去って行ったのだろうと、彼女は穏やかな気持ちになった。それに、大事な用とはいったい何なのか。いくら考えても分かるはずもなく、部屋の面々にひとまず別れを告げて自分もドアをくぐった。
出てすぐに辺りを見渡したら、廊下の奥の方に幻海を見つけた。彼女のシルエットは思いのほか小さく、じっと眺めていたら消えてしまいそうだった。