序・邪眼師と花の精
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ある日パトロールから戻ると、幽助が百足から去るところだった。
「おう、飛影!しばらくだな、トーナメント以来か?」
俺の肩に腕を回し、あいかわらずの調子で話しかけてくる。
浦飯幽助。こいつはもとは人間だが魔族の血が流れていたらしく、覚醒した今は霊力と魔力の両方を有している。さっぱりとした気持ちのいい奴で、頭で考えるより自身の拳で物事を解決するようなタイプだ。
NAMEと出会ってもうだいぶ経つ。その間に仙水と戦い、幽助は魔族になり、こいつが言い出しっぺのトーナメントが開催され……。躯はまだしも、黄泉までもただのバトルマニアにしてしまうとは。やはりこの男は面白い。
「どうした、躯に用か。」
この鬱陶しい腕を振り払わないのは、久しぶりに会った挨拶代わりだ。
「まぁな!人間界に手を出そうとしてる奴らがこの辺にいるってんで、躯と協力して犯人捜しだ。」
「ほぅ……、躯がお前と協力?食われなきゃいいな、幽助。」
にやりと笑ってやると案の定、表情ががらりと変わる。面白い奴だ。
「なっ?!おい、勘弁してくれよ!」
返事をしないまま、黙ってやつを見る。頬を引きつらせる幽助に、頭の隅で笑いを堪えていた。
「ま、まぁでも、そのときは飛影クンが助けてくれるもんな!なっ!」
しかし、ますますべったりしてきてさらに鬱陶しくなった。なるほど、躯の管轄下に住んでいる妖怪が何かを……。
「その犯人とやらは、いったい何を企んでいるんだ。」
俺にも仕事が回ってくるかもしれん。重たいこいつを剝がしながら聞く。ああ、そうそう!と、幽助は近くの木にもたれて続けた。
「なんかよ、すげー力の強い人型の木の精霊?がいて、どうやらそいつを狙ってるらしい。食えば自分の力にすることができる……って、飛影!?どうした、おーい!」
“木の精”。聞いた途端、あいつだという確証はないのにじっとしていられなかった。驚く幽助を尻目に、人間界へと向かう。自分に邪眼があることさえ忘れ、はやく、もっとはやくと、自分の脚を叱咤しながら。
人間界に着いて頭が幾分か落ち着いた俺は、額のそれでNAMEを確認した。大丈夫だ、いつものように枝に腰かけている。様子がおかしいところはなく、まだ何も起こってはいないようだ。よかった……。
とここで、無意識に選んだ言葉に脳が引っかかる。
「……よかった……?」
俺は心が暴れだしたことに疑問を感じた。あいつのことを考えると、決まって心臓が騒がしくなる。自分の異変に、思わず胸に手を当てた。戸惑っている、……この俺が?いったいこの締め付けられるような痛みはなんなんだ。正体不明の黒い靄がかかっているようで、まったくいい気はしない。
初めて名を聞いたとき、あいつは自分の名を口にしながら微笑んでいた。俺は、こんなにも美しく笑う女がいるのかと驚いた。見目もそうだが、心だ。俺とは違う、真っ白な心。それは俺にすっと入り込み、他愛のない話を重ねるにつれ、溶け込んでいった。NAMEのそばにいると、まるで氷泪石を見つめていた時のように心が凪ぐ。
声が聞きたい、笑った顔が見たい、そばにいたい。
今まで何かに対してこんな感情になることはなかった。
「なんだ……?」
まあいい、ひとまずはNAMEの安全を確保するのが先決だ。俺はもたげてきた疑問を無理やり箱にしまった。
俺と今の幽助は魔界にいることが多い、となると。
「蔵馬とあのアホにも手伝わせるか。」
何度目になるか分からない部屋の前に降り立つ。
「せめて昼間は玄関から……。」
蔵馬が窓を開けると同時に、俺は口を開いた。
「NAMEが妖怪に食われる可能性がある。俺には魔界で用事がある。お前と桑原でさりげなく護衛しろ。」
じゃあな、と話して去るつもりがその前に呼び止められた。
「待て、飛影。……きちんとした説明がなければ協力しませんよ。」
「ちっ……。」
協力『できない』ではなく、『しない』ときた。俺は部屋に上がり込んだ。
「なるほど。強い精霊を食って自分の力に、ねぇ。いかにも下級妖怪の集まりが考えそうなことだ。」
いすに腰掛け、きい、と背もたれに体を預ける蔵馬。
「例の藤の木の精霊がターゲットだという確証は?」
「ない。だが、」
俺の言わんとしていることを蔵馬が続ける。
「だが、人型で力が強いとなると、おのずと決まってくる。」
ふむ、と腕を組む。
「ちなみに飛影、“さりげなく”護衛、というのは?」
「……いいだろう、なんでも。」
「フッ……あなたもずいぶんと過保護になりましたね。」
四六時中くっついて必要以上にNAMEを怖がらせたくない、という俺の思考は読まれていたようだった。つくづくやりにくい男だ。俺は蔵馬から目を逸らした。
「それと飛影、前にも聞いたが、彼女は自分の力を本当に自覚していないのか?」
「ああ。」
以前こいつに会った際、人型の精霊は力が強いことと、本体の木を離れても自由に動けるはずだということを聞いた。
「木から離れない理由も、あまり答えたくないらしい。」
「そうか……。」しばらく何かを考えていたようだが、よし、と立ち上がった。
「ご挨拶もかねて、近々桑原君と一緒に彼女を訪ねてみましょう。いいですね?」