色づけば恋<番外編>
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【僕たちから君へ】
飛影がそれに気づいたのは、いつものように藤の木に来た時である。
「……」
NAMEが自分の長い髪を片側に流し、見えた首筋をぱたぱたと手で仰いでいるのだ。日の光にきらりと汗が流れる。
「最近の夏はものすごく暑いのね。溶けてしまいそうですわ」
長生きである彼女の言う“最近”は、ここ三十年ほどの話である。そのうえ、着物のせいで不快感は増す。以前試着した洋服を手元に置いておくんだったと、NAMEは空を仰ぎ見る。
魔界へ行くか?と飛影は言いそうになったが、ちょっと待てよと口をつぐんだ。NAMEを魔界へ連れて行くと、必ず躯に捕まる。ここよりは涼しいから名案だと思ったが即座に却下した。せっかくのパトロールのない日――しかも彼女と二人きりで過ごせる日を、あの女王に邪魔されたくはない。悶々と考えた挙句、その日は藤の木を後にした。
数日後、魔界にて。
「お、飛影」
「幽助」
「どうした、なんか考え事か?オメーにしちゃめずらしいな」
「……」
「…そういや、NAMEは元気か?」
ぴくりと動く飛影の肩。「ああ。」と言ったきり黙ってしまった。その後も彼らしからず、視線をあちこちに泳がせている。何かを気にしているのは明白だった。
「あいつとケンカでもしたのかよ」
「フン、そんなわけあるか」
「じゃあなんだよ。さては夜の悩みか?そういうのは蔵馬の方が…「殺すぞ」…へいへい」
これ以上は刺激できないと黙る幽助だが、それはそれで飛影は落ち着かないらしい。やっとぼそりと呟いた。
「…女の長い髪は、暑いらしい」
「あ?」
「こう、髪を握って、首を仰いでた。暑いらしい」
「はぁ……」
無い髪を手で縛る仕草をし、飛影は幽助を見る。彼の要領を得ない発言に、幽助は頭をフル回転させた。暑いから、どうしたのか。
「なんとかならんのか」
なるほど、そういうことか。幽助は納得する。しかし分からないこともあった。
「なんでオレに聞くんだよ」
「貴様には雪村螢子がいるだろう」
「な、なんでそこで螢子が出てくんだ」
「まさか、あの女にプレゼントの一つもしていないのか」
「ばっ……オメーにゃかんけーねーだろっ」
「で、どうすればいい」
こちらの話を聞く気はあまりないらしく、飛影は自分の聞きたいことを話す。がしがしと頭を掻きながら、ぶっきらぼうに答えた。
「そりゃオメー、切っちまうとか……。いや、そりゃいきなり乱暴すぎるか。髪留めとか使うんじゃね?ヘアゴムとか」
「ほう。それはどこにあるんだ」
「オレはよく分かんねぇな……。そのへんは蔵馬の方が分かるんじゃね?」
「そうか」
少し考えるようなそぶりをしたかと思えばいきなり、じゃあな、と幽助の前から消えた。
「あ、オイ!……ったく忙しいヤツだな」
しかしもし万が一、蔵馬も知らなかったらどうしようか。幽助は腕を組む。その場合責められるのは誰なのか……。
「オレか?」
はぁ、と大きなため息をつき、彼は蔵馬に望みを託した。
――ガラ
いつもの窓を開けると、部屋の主が読んでいた本から顔を上げた。
「やあ。今日は人間界 なのか」
「いや、さっき魔界から来たところだ」
さっそく本題に入ろうとそのまま部屋に上がるところだったが、蔵馬の視線がそれを拒む。そうだったと思い出し、しぶしぶ靴を脱いだ。
「それで今日はどうしたんです?」
飛影が窓の外に靴を置いたのを見届け、蔵馬が尋ねる。
「髪をまとめる道具を探してる。さっき幽助に聞きに行ったんだが、蔵馬の方が分かると言っていたぞ」
「オレもそんなに詳しいわけじゃ……。でも飛影、そんなものどうするんだ」
「……」
「飛影?」
「…NAMEにやる」
「へぇー、なるほどね」
蔵馬はぎこちなく座る飛影を見る。目を合わせたがらないところを見ると、照れているらしい。
「それなら店に行かないと。飛影、こっちのお金ある?」
「……な「ないよね」…」
分かっているなら聞くなと言う目で見てくる。しかし、蔵馬が多少の意地悪を言いたくなるのも無理はない。つい最近まで、彼らはいわば恋のライバルだったのだ。少し気の済んだ蔵馬は、いつもの微笑みで彼の肩にポンと手を置いた。
「やっぱり女性のことは女性に聞くのが一番だ。…ちょっと待ってて」
そういうと彼は部屋を出て行った。
待つこと数十分。蔵馬が読書しているので、飛影は壁にもたれてうたた寝をしている。しかし見知った気配を感じ、目を覚ました。と同時に、南野家のインターホンが鳴る。母親が出る前に、蔵馬が玄関を開けた。
「やあ、こんにちは。さっそくだけど彼のこと頼むよ」
「はい、お任せください」
にこりと了承する雪菜の隣には桑原もいる。ちょうど飛影が窓から出てきて、家の外で彼らは合流した。
「なぜこいつらがここにいるんだ」
「オレが呼んだから」
飛影が何か言おうとしたが、その前に蔵馬が口を挟んだ。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「?」
「飛影、ちゃんとついてこいよ。迷子になっても知らねーからな」
「なんだ、どこへ行くんだ」
「近くのショッピングセンターですよ。私も和真さんとよく行くんです。NAMEさんへの髪飾り、ぴったりなのを選びましょうね!」
妹に楽しそうに微笑まれ、飛影は何も言えなくなる。買いに行こうと誘っても素直についてくるとは思えないため、蔵馬はこれを狙っていた。
「蔵馬、貴様……」
――パタン
文句の一つでも言おうと振り返るも、彼は既に玄関の向こうに消えていた。
初めて訪れるそこは、たくさんの人間たちでごった返している。そんな中、目当ての店にすたすたと歩いていく雪菜は、本当によく来ているようだ。
「このお店、種類がたくさんあるんですよ。さっそく見てみましょう」
「ああ」
返事をしたはいいものの、視線を落とすときらきら光るものだらけだ。これはすべて宝石なのではないかと思うほどで、いったいどう使うのかも分からない。
「雪菜、これはどうやって使うんだ」
「ああ、それはですね…」
「これは」
「それはここを開いて…」
形も質感も色もすべて違うのに、聞けばすんなりと答えてくれる。一緒に来てよかったと飛影は感心する。だが番犬のような男の視線がうるさい。早々にいいものを見つけてNAMEに届けたいと、飛影は眼下のきらきらたちを睨んだ。
店の照明も相まって、だんだんと目が疲れてくる。少し目を休めようと別の場所を見ると、ふと気になるものを見つけた。淡い水色に、所々にアクセントで薄紫色の飾りがついている。手に取って見ていると、NAMEの美しい瞳を思い出した。
飛影が顔を上げると、微笑む雪菜と目が合った。その後ろで桑原も財布を取り出し、いつもと違う目を向けてくる。彼にそんな目を向けられたことのない飛影は驚いたが、“恋人への贈り物を選んでいる”という事実が彼を素直にさせた。てくてくと近寄り桑原にそれを託すと、にっと笑った彼はレジの方へと歩いていった。
数日後、飛影はまたNAMEの元へと来ていた。手には小さな紙袋を携えて。初めてのプレゼントに、彼女はどんな表情をするのだろうか。仲間たちの協力を経て手にしたそれは、いっそう特別なものに思える。
飛影は、木の上から手を振る彼女に微笑みで応じた。
飛影がそれに気づいたのは、いつものように藤の木に来た時である。
「……」
NAMEが自分の長い髪を片側に流し、見えた首筋をぱたぱたと手で仰いでいるのだ。日の光にきらりと汗が流れる。
「最近の夏はものすごく暑いのね。溶けてしまいそうですわ」
長生きである彼女の言う“最近”は、ここ三十年ほどの話である。そのうえ、着物のせいで不快感は増す。以前試着した洋服を手元に置いておくんだったと、NAMEは空を仰ぎ見る。
魔界へ行くか?と飛影は言いそうになったが、ちょっと待てよと口をつぐんだ。NAMEを魔界へ連れて行くと、必ず躯に捕まる。ここよりは涼しいから名案だと思ったが即座に却下した。せっかくのパトロールのない日――しかも彼女と二人きりで過ごせる日を、あの女王に邪魔されたくはない。悶々と考えた挙句、その日は藤の木を後にした。
数日後、魔界にて。
「お、飛影」
「幽助」
「どうした、なんか考え事か?オメーにしちゃめずらしいな」
「……」
「…そういや、NAMEは元気か?」
ぴくりと動く飛影の肩。「ああ。」と言ったきり黙ってしまった。その後も彼らしからず、視線をあちこちに泳がせている。何かを気にしているのは明白だった。
「あいつとケンカでもしたのかよ」
「フン、そんなわけあるか」
「じゃあなんだよ。さては夜の悩みか?そういうのは蔵馬の方が…「殺すぞ」…へいへい」
これ以上は刺激できないと黙る幽助だが、それはそれで飛影は落ち着かないらしい。やっとぼそりと呟いた。
「…女の長い髪は、暑いらしい」
「あ?」
「こう、髪を握って、首を仰いでた。暑いらしい」
「はぁ……」
無い髪を手で縛る仕草をし、飛影は幽助を見る。彼の要領を得ない発言に、幽助は頭をフル回転させた。暑いから、どうしたのか。
「なんとかならんのか」
なるほど、そういうことか。幽助は納得する。しかし分からないこともあった。
「なんでオレに聞くんだよ」
「貴様には雪村螢子がいるだろう」
「な、なんでそこで螢子が出てくんだ」
「まさか、あの女にプレゼントの一つもしていないのか」
「ばっ……オメーにゃかんけーねーだろっ」
「で、どうすればいい」
こちらの話を聞く気はあまりないらしく、飛影は自分の聞きたいことを話す。がしがしと頭を掻きながら、ぶっきらぼうに答えた。
「そりゃオメー、切っちまうとか……。いや、そりゃいきなり乱暴すぎるか。髪留めとか使うんじゃね?ヘアゴムとか」
「ほう。それはどこにあるんだ」
「オレはよく分かんねぇな……。そのへんは蔵馬の方が分かるんじゃね?」
「そうか」
少し考えるようなそぶりをしたかと思えばいきなり、じゃあな、と幽助の前から消えた。
「あ、オイ!……ったく忙しいヤツだな」
しかしもし万が一、蔵馬も知らなかったらどうしようか。幽助は腕を組む。その場合責められるのは誰なのか……。
「オレか?」
はぁ、と大きなため息をつき、彼は蔵馬に望みを託した。
――ガラ
いつもの窓を開けると、部屋の主が読んでいた本から顔を上げた。
「やあ。今日は
「いや、さっき魔界から来たところだ」
さっそく本題に入ろうとそのまま部屋に上がるところだったが、蔵馬の視線がそれを拒む。そうだったと思い出し、しぶしぶ靴を脱いだ。
「それで今日はどうしたんです?」
飛影が窓の外に靴を置いたのを見届け、蔵馬が尋ねる。
「髪をまとめる道具を探してる。さっき幽助に聞きに行ったんだが、蔵馬の方が分かると言っていたぞ」
「オレもそんなに詳しいわけじゃ……。でも飛影、そんなものどうするんだ」
「……」
「飛影?」
「…NAMEにやる」
「へぇー、なるほどね」
蔵馬はぎこちなく座る飛影を見る。目を合わせたがらないところを見ると、照れているらしい。
「それなら店に行かないと。飛影、こっちのお金ある?」
「……な「ないよね」…」
分かっているなら聞くなと言う目で見てくる。しかし、蔵馬が多少の意地悪を言いたくなるのも無理はない。つい最近まで、彼らはいわば恋のライバルだったのだ。少し気の済んだ蔵馬は、いつもの微笑みで彼の肩にポンと手を置いた。
「やっぱり女性のことは女性に聞くのが一番だ。…ちょっと待ってて」
そういうと彼は部屋を出て行った。
待つこと数十分。蔵馬が読書しているので、飛影は壁にもたれてうたた寝をしている。しかし見知った気配を感じ、目を覚ました。と同時に、南野家のインターホンが鳴る。母親が出る前に、蔵馬が玄関を開けた。
「やあ、こんにちは。さっそくだけど彼のこと頼むよ」
「はい、お任せください」
にこりと了承する雪菜の隣には桑原もいる。ちょうど飛影が窓から出てきて、家の外で彼らは合流した。
「なぜこいつらがここにいるんだ」
「オレが呼んだから」
飛影が何か言おうとしたが、その前に蔵馬が口を挟んだ。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「?」
「飛影、ちゃんとついてこいよ。迷子になっても知らねーからな」
「なんだ、どこへ行くんだ」
「近くのショッピングセンターですよ。私も和真さんとよく行くんです。NAMEさんへの髪飾り、ぴったりなのを選びましょうね!」
妹に楽しそうに微笑まれ、飛影は何も言えなくなる。買いに行こうと誘っても素直についてくるとは思えないため、蔵馬はこれを狙っていた。
「蔵馬、貴様……」
――パタン
文句の一つでも言おうと振り返るも、彼は既に玄関の向こうに消えていた。
初めて訪れるそこは、たくさんの人間たちでごった返している。そんな中、目当ての店にすたすたと歩いていく雪菜は、本当によく来ているようだ。
「このお店、種類がたくさんあるんですよ。さっそく見てみましょう」
「ああ」
返事をしたはいいものの、視線を落とすときらきら光るものだらけだ。これはすべて宝石なのではないかと思うほどで、いったいどう使うのかも分からない。
「雪菜、これはどうやって使うんだ」
「ああ、それはですね…」
「これは」
「それはここを開いて…」
形も質感も色もすべて違うのに、聞けばすんなりと答えてくれる。一緒に来てよかったと飛影は感心する。だが番犬のような男の視線がうるさい。早々にいいものを見つけてNAMEに届けたいと、飛影は眼下のきらきらたちを睨んだ。
店の照明も相まって、だんだんと目が疲れてくる。少し目を休めようと別の場所を見ると、ふと気になるものを見つけた。淡い水色に、所々にアクセントで薄紫色の飾りがついている。手に取って見ていると、NAMEの美しい瞳を思い出した。
飛影が顔を上げると、微笑む雪菜と目が合った。その後ろで桑原も財布を取り出し、いつもと違う目を向けてくる。彼にそんな目を向けられたことのない飛影は驚いたが、“恋人への贈り物を選んでいる”という事実が彼を素直にさせた。てくてくと近寄り桑原にそれを託すと、にっと笑った彼はレジの方へと歩いていった。
数日後、飛影はまたNAMEの元へと来ていた。手には小さな紙袋を携えて。初めてのプレゼントに、彼女はどんな表情をするのだろうか。仲間たちの協力を経て手にしたそれは、いっそう特別なものに思える。
飛影は、木の上から手を振る彼女に微笑みで応じた。