結・邪眼師と花の精と願い
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季節が廻り、街角や山の木々たちが思い思いにその葉を粧うころ。空き家であるはずの藤の木の下で、賑やかな声が響いていた。
「いやぁ~ちと涼しいが、秋の花見ってのもまた粋だよな。……ほらよ!幽ちゃん特製・豪華花見弁当だ!」
NAMEの力の影響で、藤の花は相変わらず満開だ。レジャーシートの上にどんと風呂敷を広げ、大きな重箱を手際よく並べていく幽助。ラーメン屋を営んでいるだけあり、彼の料理の腕前は見事なものである。
「はい。ビールや酎ハイ……いろいろ買ってきたよ。幽助と静流さんはほどほどにしてくださいね。なくなったら、自分たちで買いに行ってくださいよ?」
「はいはい、蔵馬くんてばお母さんみたいね。」
「雪菜さんは、オレとお茶とかジュースとか飲みましょう!何がいいですか?何でもありますよ!」
「わぁ!ありがとうございます、和真さん。」
蔵馬と桑原が大きな袋を抱えてやってきた。大の男二人で運べるだけの飲み物を買ってきたつもりだが、酒類はおよそ二名が綺麗に飲み干してしまうのだろう。静流にいたっては、お気に入りの銘柄のビールを既に確保している。
「フン、相変わらず騒がしいやつらだ。」
「あら、それがみなさんの良いところですわ。」
憎まれ口を叩きながらも飛影がこの場に残るのは、彼らのことを気に入っているから。NAMEはくすりと口元に手をやる。
いつの間にか始まった宴会の中、ふと幽助が疑問に思ったことを口にした。
「それにしても蔵馬、お前よくここの持ち主を見つけたな。」
今日この場で、部外者である彼らが敷地内に堂々と入れたのはわけがある。今までも入っていたが、そろそろまわりに怪しまれる頃だった。
「それはまぁ、オレの元来の才能というか。探すのは得意だから。あとは交渉術かな?あ、これも得意だった。」
蔵馬はこの家の持ち主、つまり昔ここに住んでいた男の遠縁の人物を探し出し、彼らがこの敷地を自由に使えるように手を回していた。といっても、その人物はこの屋敷がこれ以上傷まないように――築200年以上ともあればさぞ大変だろう――できるだけの手入れに来ていたらしい。見ず知らずの男が話を持ち掛けてきてさぞ怪しんだだろうが、はたしてどう説得したのか。それを聞こうとした幽助だったが、有無を言わせぬ微笑みの前に引き下がる。
「オレ、たまにあいつが怖ぇーよ。」
「お前も魔族だろ。オレからしちゃ似たようなモンだよ。」
ひそひそとする幽助と桑原に、なにか?とでも言いたげな蔵馬がとびきりの笑顔を送り、飛影へと声をかける。
「これからは好きに出入りしても、ご近所からは何も言われないよ。……まったく、危なかったんですからね。不法侵入で警察沙汰になるところだった。」
「くだらん。そんなもの、どうとでもするさ。」
指摘された本人は、幽助お手製のピーマンの肉詰めを頬張り、全く気にしていない様子だ。人間界のややこしさをやはりよく分かっていない飛影に、蔵馬がやれやれと肩をすくめる。
「ありがとうございます、いろいろとお気遣いいただいて。」
そんな彼らの様子を見かねてNAMEが礼を言ったところ、
「いいんですよ、オレが勝手にやったことだから。」
と、飛影へ苦言を呈していたのが嘘のように、彼女に対しては態度ががらりと変わる。案外分かりやすい性格らしい。
ところで、と蔵馬が続ける。
「願いを叶える力を手放したって、本当ですか?」
「ええ、実際に試してはいませんが……。」
NAMEは曖昧に微笑んだ。
「けれど以前感じていた、力が内側で暴れてしまいそうな感覚はありませんわ。あの感覚が恐ろしくて、今回最後の願い事をしたんです。」
「大きすぎる力は、その持ち主を破滅へ導くこともあると聞いたことがあります。……いい選択をしたと思うよ。」
顔を見合わせて微笑み合う二人は、両者のその美しさから映画のワンシーンのようである。だが、女の方がスクリーンの外へぐいと引っ張り出された。
「……貴様に言われるまでもない。」
飛影だ。顔にしっかりと“不満だ”と書いてある。その腕はしっかりとNAMEの肩を抱いていた。
「お前らなぁー、NAMEが困るだろ?ったく……。そうだこれ、野菜出汁のスープ。あったまるぜ。」
「まあ、ありがとうございます!」
見かねた幽助がNAMEへコップを差し出す。木の精である彼女は何も食べることはできないが、飲み物なら飲める。肌寒い季節ということもあり、幽助はスープを用意してきたのだった。
「へぇ、幽助ってそういう気遣いとかできるんだね。」
「おいおい南野クン?それ、どーゆーイミですかコラ。」
がやがやと騒がしい中、飛影は腕の中の彼女をちらりと盗み見た。おそらく彼女にとって、友人たちとこのように賑やかに過ごすのは初めてだろう。そもそも今まで、まともに友と呼べる存在はいなかったのかもしれない。彼女は輝かしい笑顔を振りまき、心の底から楽しんでいるように見えた。
ふいにまた独占欲と嫉妬心が顔を出すが、こんなにも生き生きとしたNAMEを見られるのも彼らのおかげだ。飛影はその矛盾に悶々とする。だが、明るい彼女の笑い声に、とりあえず今はいいかと穏やかに口の端を上げた。そんな彼に気づいた周りの面々が、温かな視線を送っていたことを当の本人は知らない。可憐な花の精に、まさに心を奪われているからだろう。
飛影がNAMEの幸福を望むように、ここにいる誰もが飛影の、ひいては二人の幸福を願っていた。
己へ向けられる彼の視線に気づき、幽助や蔵馬と話していたNAMEはそちらに顔を向ける。目が見えるようになってからしばらく経つが、彼女はいまだに彼と目が合うのが嬉しいらしく、満面の笑みになった。
「なぁに?飛影。」
至近距離から繰り出される彼女の魅力に、不覚にも顔に熱が集まる。気を抜いていたのでなおさらだ。こんな顔を彼らに見られたら、からかわれるのも時間の問題だと分かっていた。彼は慌てて顔を逸らし、逃げるように藤の木の高い枝に飛び乗る。その間1秒にも満たないところはさすがといったところか。そのまま太い幹へと体を預けた。
「あら?飛影ったら……。」
「あいつ逃げやがったな。」
「思いっきり顔赤くしてましたね。」
「くぅー!あの野郎ばっかり……。オレもいつか、ゆ、雪菜さんと……。」
「はい?何でしょう。」
「いーのよ、気にしなくて。無視、無視。」
下から聞こえてくるざわめきが、今の彼にはちょうどいい。そう思うこと自体、昔では考えられなかった。
NAMEと出会ったあの日から、安らぎというものを知った。誰かを愛することの喜びを知った。幸せとは何かを知った。
『飛影。』
目を瞑ればすぐに、彼女の微笑みが浮かび上がる。己とずっと一緒にいたいと願ってくれたNAME。彼はその想いに応えていこうと、そして、一番近くで守り抜こうと心に誓った。
そのまま眠りに落ちる寸前。飛影は、藤の花にさらりと優しく撫でられた気がした。
*****
この町のはずれには古い屋敷があり、その庭先には自然のままに枝を伸ばす大きな藤の木がある。その荘厳な姿は実に見事で、見る者を圧倒する。
だが、その木には不思議な点がある。一年中花を咲かせ、葉は青々と茂っているのだ。見ようによっては気味の悪いその姿に、呪いの木だと言う者もいるが、神の木だと言う者もいる。
その木には夜になると、全身黒装束の男が現れるらしい。だが実際に見た者はいない。いつの間にか現れ、そしていつの間にか去っているというその男は、それは美しい女との逢瀬に来ているという話だ。
誰も見た者はいないというのに、確かにそうだと皆が口を揃えて言う。まったくおかしな話だ。
ただ、そのような話が囁かれるのも無理はない。この藤の木の美しさに、人々は惑わされずにはいられないのだ。
……まぁ、きっとただの噂話にすぎないだろうが。
完