第一章

代表合宿3日目。

朝食会場には早い時間から選手たちが集まり始めていた。
真琴もいつものように入口付近で選手たちの様子を確認している。

「おはようございます。」

「おはようございまーす。」

「体調が少しでも悪い方、いたらすぐに教えてください。」

挨拶をしながら一人ひとりの表情をチェックしていく。

睡眠不足はいないか。
疲労は溜まっていないか。
管理栄養士としての朝は忙しい。

「おはようございます。」

目を向けると深澤だった。

「おはようございます。」

真琴も笑顔になる。

「あのあとすぐ帰りました?」

深澤が聞く。

「帰りましたよ。」

「何時ですか?」

「えっと……。」

一瞬言葉に詰まる。

深澤の目が細くなる。

「遅かったんですね。」

「いや、そんなことないです。」

「あります。」

即答だった。

真琴は苦笑する。

そのやり取りを見ていた人物がいる。
朝比奈健太(あさひな けんた)だった。

「何それ、完全に保護者じゃん。」

真琴は年齢も上の深澤をイジる朝比奈に笑った。

「おはようございます!!」

会話を切るような元気な声が聞こえ、視線を移すと中谷だった。
朝比奈は『朝からうるさいな。』と言いたげな顔を浮かべ、次のレーンへ向かって行った。

「中谷選手おはようございます。」

「あ、野上さんごめん、俺白米にしちゃった。」

「あ〜、白米でその量はちょっと……。」

「だよね?玄米に変えられる?」

「いいですよ。」

「ごめんね!」

「じゃぁ、すぐに席に持って行きますね。」

「ありがとう!!」

中谷は真琴に玄米をお願いすると、席へ向かって行った。

真琴は白米と玄米を交換して中谷の元へ向かった。

「ありがとう!野上さん!」

中谷は真琴から玄米を受け取る。

「自分でやればいいのに。」

近くに座る朝比奈が中谷に言う。

「大丈夫です。皆さんの食事のバランスとかも見て回ってますから。」

中谷、朝比奈、そして深澤の配膳を確認しながら、真琴はメモを取る。

「おはようございます。」

気だるそうに後ろから朝食のトレーを持った湊がやってきた。

「おう、湊!」

中谷が箸を持ちながら手を挙げる。

「織田選手、おはようございます。」

「おはようございます。」

まだ寝ぼけているのか、湊は微笑む真琴から目を離せずにいた。

「湊?座れよ。」

「あ、ああ。」

中谷に促され席に座る。

真琴は別のテーブルへ向かい、選手たちの朝食内容を確認している。
その後ろ姿を目で追っている湊に、朝比奈がニヤッと笑った。

「あれ?」

「ん?何だよ?」

朝比奈の方へ顔を向ける中谷。

「湊くん、見過ぎじゃない?」

朝比奈の言葉に湊は目を向ける。

「は?」

朝比奈は片方の口角をキュッとあげて顔を見つめてくる。

「見過ぎって何をだよ。」

「はいはい、中谷さんはいいから。」

「いいことねぇだろ。」

キラキラした目で見つめてくる朝比奈に湊は目を伏せた。

「柴原選手、おはようございます。」

湊の耳に真琴の声が届く。

「おはようございます。」

直樹の声。

「よく眠れました?」

その会話に、なぜか意識が向いた。

湊は、はっとして視線を戻した。
すると、朝比奈が、ニタニタと笑いながら自分を見ていた。

「……何だよ。」

「別に?」

朝比奈は意味ありげに笑ったまま、味噌汁を口に運ぶ。
それでもまだ湊の方を見て口元を緩ませている。

「その顔やめろよ……。」

「まだ3日目だよ?」

朝比奈は楽しそうに笑う。

「まだ3日目って何が?」

「中谷さんはいいって。」

「健太、ふざけんなよ!!あとでしごいてやるからな。」

朝比奈はハハハッと笑った。

湊は呆れたように息を吐く。

「……ほんと、二人、朝からうるさい。」

そう言いながら、何気なく顔を上げる。
少し離れたところで、真琴が別の選手と話していた。

また、目が向いた。

「……。」

湊はすぐに視線を戻す。

けれど、その口元にはほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
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