第弐章
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「あの火災……真実は、お前の知るものとは違うーー……」
バーンズ大隊長の声は、静かに、しかし重く中庭に響いた。
「お前が戦った伝導者の一味は十二年前、既に動いていたーー」
その瞬間、シンラの顔に浮かんだ表情が、私の胸を締め付ける。彼の表情から、あの火災に関する真実がどれほどの重みを持っているのかがひしひしと伝わってきた。バーンズ大隊長の視線は遠く、まるで過去の記憶を辿っているかのように、うつろに空を見つめている。
その言葉が、長い間抑え込まれていた闇を、ゆっくりと解き放つかのように響いた。
「伝導者は事前にあの火事が起きることを知っていた」
シンラの肩が、微かに震える。彼は拳を握り、何かを耐え忍ぶように。私の息が、思わず止まる。
「知っていた……?じゃあ、あの火事を起こしたのは、やっぱり伝導者の連中が……」
シンラの声が震えていた。怒りと悲しみが入り混じったその声が、私の胸を締めつける。彼はずっと、自分を責めてきた。今、ようやくその苦しみが、少しずつ解き放たれようとしているのだと感じた。
「あの火事の出火原因ははっきりしていた……。お前じゃない」
「そうです!鬼がいたんです‼︎」
シンラが突然、大声で叫んだ。
「鬼がいた……⁉︎」
シンラの口から思いもよらない言葉が出た瞬間、驚きで私は思わずその言葉を繰り返していた。鬼──焰ビトが? もしそれが本当なら、報告書に記されていた内容とは全く違う。伝導者の一味が関与していたことさえ、私は知らなかったのだ。
バーンズ大隊長は続けて言った。
「十二年前のーー……あの火事の出火元は、お前の弟のショウーー……。ショウの”アドラバースト”の影響で、お前は第三世代に目覚めーー……。お前が見たという角の”焔ビト”はーー……」
「そんな……。あの角が生えた”焔ビト”は……母さん……?俺は、あの”焔ビト”を探すため……殺すために……これまでやってきたのに」
シンラは俯く。混乱の渦中だろう。
「それなら俺の母は……どうなったんですか……?」
シンラの目は、再びバーンズ大隊長を強く見つめていた。その視線は焦燥感と切迫感を帯びており、私もその緊迫した空気に飲まれそうになった。
「私が火事現場に着いたのは、出火から十五分後ーー……」
バーンズ大隊長は、冷静に語り続ける。「角の”焔ビト”となった母親は、赤ん坊のショウを抱かえたまま何処かに姿を消してしまった」と。
その言葉に、シンラはただ黙って聞いていた。私もまた、その事実を信じることができず、ただ立ち尽くすしかなかった。シンラは一度、深呼吸をして、頭の中で整理しようとするように目を閉じた。それから、ゆっくりとバーンズ大隊長に言った。
「確かに、あの時俺は嘘を知らされた。だからって、今言ったことが真実だとは!俺は、あの鬼を追ってここまで来たんです……。それが母さんだったなんて……それに、なんで嘘をついていたんですか」
「踏み込ませないためだ……」
バーンズ大隊長は、静かに。
「お前も、いつか奴らに狙われるかもしれなかった。お前が炎を恐れ嫌うように嘘を吹き込んだ。炎を恐れれば発火能力を使うことを避け、この世界に入ってはこないだろうと考えたからだ」
シンラの顔が歪んだ。怒りと痛みが彼の表情に溢れ出し、言葉を飲み込むことができなかった。
「嫌いですよ……今でも!真実かどうでも炎が俺の家族から全てを奪っていった。炎が全てを狂わせたんです‼︎好きになれるわけがないーー……」
その声には、深い絶望と怒りが込められていた。しかし、バーンズ大隊長は静かに言った。
「だが、お前はその炎を使いここまで来た……。私が今日ここに来た訳は以上だ」
そう言ってバーンズ大隊長はシンラにくるりと背を向ける。バーンズ大隊長がゆっくりとその場を離れ、私たちがいる方向へと向かって歩いてくるとき、シンラは声を上げた。
「待ってください」
バーンズ大隊長はその声に足を止め、シンラが問いを投げかける。
「バーンズ大隊長は”アドラリンク”をして、あの地獄を見たんですか?」
「あぁ……目が焼け焦げた。この右目は、地獄の炎を見た代償だ」
バーンズ大隊長は、静かに答えると、右目の眼帯を外した。その目が赤黒く焼け焦げているのが、私にもはっきりと見て取れた。
「十二年前の鬼は目から角が生えた”焔ビト”だったんですか?」
シンラが再び尋ねた。
「そうだ」バーンズ大隊長は、無表情で答えた。
「母さんは、どこへ行ったんですか?」
「……その後を見た者はいない……」
その言葉を最後に、バーンズ大隊長はゆっくりとその場を離れた。
「バーンズの用が済んだようだし、私も帰るよ十二」
「あっ……ハイ、そうみたいですね」
私が言った言葉に、少しの間があった後、オニャンゴ中隊長がじっと私を見つめてきた。
「なんじゃ? 歯切れが悪いのぅ。」
その一言に、私は少し驚いたが、すぐに気づいた。中隊長が私の言動を慎重に察しているのだと。
「いえ、そんなことはないです。ただ…ちょっと考えごとをしていたんです。」
私はその場をなんとか誤魔化すように言ったが、自分でもその言葉に説得力がないことがわかっていた。それでも、今の私はそう答えるしかなかった。
オニャンゴ中隊長は一瞬、眉をひそめた。だが、すぐに冷静な調子で言った。
「ふん。考えごと…とな?」
少しの間、二人の間に沈黙が流れた。オニャンゴ中隊長の視線はどこか鋭く、私の反応を待っているようだった。
「えっと……色々なことを…頭の中で整理しているところです。」
私が答えると、中隊長は軽くうなずいた。
「整理したところで、何かすぐに変わるわけではないじゃろうが。」
その言葉には深い意味が込められている気がした。まるで、何事も思い通りにはいかないという現実を突きつけられたかのように、少し胸の奥が重くなった。
「…そうですね。」
私は息を吐きながら、彼の言葉に同意するしかなかった。その時、シンラが駆け寄ってきて、驚いた表情を浮かべながら私を見つめた。
「絵馬さん!」
その呼びかけに、私は少し驚きながらも振り返る。シンラは目を大きく見開き、私の姿を見ている。明らかに困惑した様子だ。
「絵馬さん、どうしてここに⁉︎」
シンラが驚いた表情で、息を切らしながら私に問いかける。オニャンゴ中隊長の静かな視線も感じながら、私は少し考え込んだ。
「それはもちろん、シンラのお見舞いだよ……だけどまさか、こんな場面に出くわすとは……。ごめんシンラ!私も少しだけ、バーンズ大隊長と話したいことが出来てしまったから、少しだけアーグ中隊長と待っててくれる?」
シンラは目を瞬かせた後、少しだけその場に立ち尽くし、困惑した表情のまま私を見つめる。
「え?絵馬さん⁉︎」
「ごめんね、シンラ。すぐ戻るから。ちょっとだけ待っていてくれる?」
シンラは黙ってうなずくと、少し距離を置いて立ち尽くした。その姿を見届けながら、私は再びオニャンゴ中隊長に目を向けた。
オニャンゴ中隊長は軽くうなずき、「お邪魔したね、アーグ中隊長」と言った。
「いえいえ。またいつでもどうぞ」
アーグ中隊長はにこやかに答え、再び軽く頭を下げた。オニャンゴ中隊長は私を一度見つめると、言葉を続けた。
「先にバーンズのところへ行きなさい。私はゆっくりと後でくるから」
「承知しました、オニャンゴ中隊長」
オニャンゴ中隊長に軽く礼を述べてから、私はバーンズ大隊長の跡を追った。