第弐章
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ヴァルカンの運転するマッチボックスが、第六特殊消防隊棟の駐車場に滑り込むように停まった。エンジン音が静かに消え、車内に一瞬の静寂が訪れる。私はシートベルトを外しながら、窓の外をちらりと見た。棟の建物がそびえ、窓から漏れる光が駐車場のコンクリートに淡い影を落とす。
「到着だ」
ヴァルカンが助手席の私に言った。低く、頼もしい声。いつもの彼らしい、安心感のある響き。私は微笑んで頷いた。
「ありがとう、ヴァルカン。助かったよ」
彼の運転はこれで二回目だが、乱暴な見た目とは裏腹に、驚くほどスムーズだ。マッチボックスのドアを開けると、ひんやりした空気が肌に触れた。頬に冷たさが走る。私は車から降り、ヴァルカンも運転席から出てきた。ドアを閉める乾いた音が、駐車場に響いた。
「じゃあ、また後でな。シンラに何かあったら、すぐに連絡してくれ」
「うん、ありがとう。また後でね」
私は軽く手を振った。ヴァルカンはマッチボックスに乗り込み、エンジンをかける。車が静かに駐車場を離れ、テールライトが遠ざかる。私はその姿を見送り、深呼吸した。胸の奥で、シンラのことが気にかかる。今日、目覚めるはずだと黄大隊長が言っていた。棟の入り口へ向かおうと歩き出したその時、背後から聞き慣れた声が響いた。
「珍しいな、あの十二が、第6特殊消防隊棟にいるとは」
その声に振り返ると、そこには見知った顔があった。彼は私の研修期間中にお世話になった神父、オニャンゴだった。彼はまるで久しぶりに旧友を見るかのように、もの珍しそうに私を見つめながらこちらに歩み寄ってきた。
「ゲッ⁉︎……オニャンゴ神父様じゃないですか。何故、こちらに?もしかして、腰に限界がやってきましたか?」
「ゲッとはなんだ!表情に出すでない。私は現役を退いていたが、烈火の一件があり、代わりとして現役復帰した身だ。腰はまだ痛くないわ」と彼は少し不満げに眉をひそめた。
「そう……でしたか。私は所属している隊員がこの棟に入院中でして、そのお見舞いに来たんですよ」と私は苦笑しながら答えた。
オニャンゴ神父は私の顔をじっと見て、眉をひそめた。
「ほう。十二が隊員の見舞いとは……偉くなったモンだな」
「そりゃあ、研修生の時よりはちゃんと成長していますよ。なんせ、私、第7と第8の小隊長を務めていますから!」
「ほぉ〜、あの十二がなぁ。ミサから毎回逃げ回るお前が、小隊長まで昇り詰めるとは……」と彼は感心するかのように言った。
「オニャンゴ神父様、過去の話は置いておきましょうよ。話は戻しますが、腰ではないのに何故、第6に?」
オニャンゴ神父は私の問いに、少し呆れながら答えた。
「十二も腰から一旦頭を離れろ。私はバーンズと一緒にここに来たのだが、バーンズが『十二が所属する第8のシンラ隊員の見舞いに行ってくる』と言われてな、ここでバーンズを待っているところだ」
「なるほど……」と私は曖昧な返事をしながら、心の中では様々な思考が渦巻いていた。バーンズ大隊長がシンラの見舞いに?もしかして、焼死したと思われていたシンラの弟、ショウが生きていたことについてか?それとも、最初から生きていることを知っていてそれを打ち明ける話でもしにいくのか。それとも、アドラバーストに関することなのか。
「十二?」
「え?あぁ、すみません。少し考え込んでしまって……黄大隊長が、シンラ隊員が今日あたり目覚めるって言ってたんで、もしかしたらバーンズ大隊長と話してるのかな、って」と私は少し誤魔化しながら答えた。
「まぁ、よい。お前も小隊長として、考えることが多いのだろう。だが、あまり一人で抱かえ込むなよ」と彼は優しく言った。
その言葉に、胸の奥が軽くなった。オニャンゴ神父の声は、昔と同じく、どこか温かい。研修時代、彼に何度も叱られたことを思い出す。あの頃は、ただの皇国嫌いの少女だった。
「ありがとうございます、神父様」
私は小さく微笑んだ。その時、棟の出入り口からナース服を着た隊員が姿を現した。彼女は、私たちを見つけて少し驚いた表情でこちらに向かって歩いてきた。
「お疲れ様です!オニャンゴ中隊長と、あら、あなたはこの前の……」
「お疲れ様です、アーグ中隊長。第7小隊と第8小隊の小隊長を務める絵馬 十二です」
と私は自己紹介をし、軽く頭を下げた。顔を上げると、アーグ中隊長も同じように頭を下げていた。
「ご丁寧にありがとうございます。あなたが、黄大隊長が言っていた十二小隊長なのですね〜〜」
彼女の言葉に私は首を傾げた。何か特別なことを言われているようで、少し戸惑った。アーグ中隊長は、私の反応に気付いたのか、少し慌てたように顔の前に両手を持ってきて左右に振った。
「あっ、悪い意味ではないんです!第二世代の能力者でありながら、第三世代のように炎を上手く利用し筋肉の緊張を緩和できる方と聞いていたので、会えた時にお話しできればと思っていたんですよ〜〜」
その説明に、私は少し安心し、彼女の意図を理解した。オニャンゴ神父が、意外そうに私たちを交互に見ているのが視界に入った。
「なんじゃ、十二とアーグ中隊長は初対面だったのか」
アーグ中隊長は訂正するように言った。
「いえ、先日桜備大隊長が率いる第8の日下部隊員の治療の時にお会いはしているんです。ですが、あの時はバタバタしてて、お話しどころではなかったので……そうだ!私、今から休憩なんですよ〜〜もしよろしければ、オニャンゴ中隊長、十二小隊長、少しお話ししませんか?」
アーグ中隊長の提案に、私はオニャンゴ中隊長と顔を見合わせ、頷いた。
「私たちもバーンズ大隊長が戻ってくるまでの時間をどうしようかと思っていたところです」
「でしたら中庭でお話ししませんか?ここは、患者さんの出入りで忙しい場所なので〜〜」
アーグ中隊長はそう提案し、私たちを中庭へと誘導した。