第弐章
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ーー地下(ネザー)から2日後 浅草
「いいか絵馬、アレがそろそろ始まる」
「そうだね紺炉。アレがやってくるよ」
私は目の前にあぐらをかいて座る紺炉に頷いた。今、私は紺炉の部屋にいて、この部屋には紺炉と私だけ。そして、紺炉の目の前の畳の上には、いくつかの写真が並べられていた。紺炉は写真に視線を向けながら言った。
「去年は、真正面からの写真が撮れなかったからな……だからこそ、今年は真正面を狙おうと思ってる」
「この横顔の写真も良かったけど、1位を狙うなら紺炉の言う通り、真正面がいいと私も思うよ」
そう言って私は、畳の上から一枚の写真を手に取り、じっと見つめた。その写真に写っているのは、浅草の銭湯で
紺炉が盗撮した、筋肉美が際立つ紅丸のかっこいい横顔だった。この写真は去年七月に担当した”特殊消防隊ヌードカレンダー”のものだ。”特殊消防隊ヌードカレンダー”とは、毎年開催されるカレンダー企画であり、1月から8月までは各特殊消防隊が担当している。私たち第七特殊消防隊は、7月担当。9月からは人気順になっており、1位が年の締めである12月を担当することになる。
「紅丸って、写真撮られるのあんまり好きじゃないから……なかなかいい写真が撮れないよね。この写真だって、紺炉が銭湯でどうにか盗撮して撮れた一枚だもんね」
「そうだ。……そこでだ絵馬!」
紺炉に名を呼ばれ、写真から顔を上げて紺炉に視線を向けた。
「何?」
「明日、若と二人っきりで出かけてこい」
「えっ⁉︎」
突然の紺炉からの申し出に、私は手に持っていた写真を思わず手放してしまい、畳の上に落ちた。
「待って待って!ヌードカレンダーのためだとしても、べっ、紅丸と……二人っきりでーー」
「若は去年盗撮されことを少なからず勘付いている。だから、警戒している可能性が高けェ。そこで、絵馬と出かけるとなれば、若も警戒をすることはねェだろ?」
「つまり……私は、紅丸を誘き寄せ担当……ってこと?」
「ああ」紺炉は真剣に頷いた。
つまり、これは、皇国の言葉で言うと”デート”だ。紅丸と⁉︎自分の心臓の鼓動がだんだんと速くなっていくのを感じた。
「絵馬、お前ェさんの紅丸の気持ちは十分に理解している。その気持ちを利用するのは、正直心苦しいが……これも浅草のみんなのためだ!」
「みんなの……」
紺炉はあぐらを解き、片膝をつきながら少し前のめりに私の肩に手を置いて言った。
「最高の写真を撮って、皇国の奴らに一泡吹かせてやるんだ、俺らでなッ!」
「……そ、そうだよね!今年は、第七小隊が締めの十二月を取りにいく!」
「これには、絵馬の力が必要なんだ」紺炉の熱い思いがヒシヒシと伝わってくる。
「これも浅草のみんなのため……紺炉!私、その担当、受けるよ!」
私の返事に、紺炉は微笑んで言った。
「頼んだぞ、絵馬!」
「承知!」
そして私は、その場を後にしつつ、明日のことを考え始めた。紅丸と一緒に過ごす時間が楽しみであり、写真を撮るという使命があることを忘れずに、上手く紅丸を誘えるかを。
そう言えば明日は、順調に回復しているならシンラが目覚めるころだったな。紅丸と”デート”前にシンラのお見舞いをしてこようかな。そんなことを考えながら廊下を歩いていると反対側から歩いてくる人物が目に入る。
「紅丸!」
私は思わず声をかけた。私の声に気づいて立ち止まり、こちらを見た。
「絵馬、どうした?」
その問いかけに、私は少し緊張しながらも、心に決めたことを伝えるため深呼吸した。
「あのね、紅丸。明日、もし良かったら、お昼ごろちょっと一緒に出かけないかなって……思って」
少し恥ずかしくて、声が小さくなったけど、私の言葉はしっかりと届いていたようだ。紅丸は少し驚いたような表情をしてから、すぐにいつもの表情に戻った。
「俺と、か?」
「うん……ちょ、ちょっと久しぶりに浅草のいろんなところを見て回ったりしたいな、って、紅丸と一緒に」
「なるほどな、いいぜ」
気軽に応じてくれた紅丸の言葉に、私はほっとした。そして、同時に胸の中がじんわりと温かくなるのを感じた。
「じゃ、じゃあ、明日ね!シンラのお見舞いの後に出かけるからね、紅丸!」
彼に素直に微笑みかけながら、心の中では、明日のデートで真正面の紅丸の写真を紺炉に撮ってもらわなくてはと考えがいっぱいだった。頑張れ私、恋する私と。自分自身に喝を入れながら心の中で決意を新たにした。
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