第弐章
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裸足で床を歩くと、ひんやりとした感触が心地よい。私はその感触を楽しみながら、カゴからタオルを手に取り、戸を開けて大浴場へと進んだ。浴室からは薄く湯気が漂い、優しい温もりが周りを包み込んでいる。
浴槽の縁にタオルを置き、ゆっくりと湯煎に浸かる。程よい温度のお湯が身体を包み込み、まるで全身が軽くなる感じだ。私は目を閉じて、しばらくそのままの姿勢で時間を忘れて湯の中に身を沈めた。
「絵馬」
誰かに名を呼ばれ、私はゆっくりと目を開けた。その声は、ずっと聞きたかった声だった。更衣室の方に視線を向けると、そこには食堂で姿を見かけなかった紅丸が戸越しに立っているのが分かった。
「紅丸……」
「そっちに行く気はねェ……食堂に戻ってみたら絵馬は風呂に行ったと紺炉から聞いた。外で待ってる」
そう言って紅丸は更衣室から出ていった。
身体が十分に温まったところで、私は湯煎から上がり、備え付けのシャワーを使ってさっと流した。水滴が髪を滑り落ちていく様子を眺めながら、もう一度タオルで体を包み込む。
浴室を出て、更衣室へと向かう。心地良い湯冷めを感じつつ、私はカゴから新しい浴衣を取り出し、着替える。髪を整え、私は最後に深呼吸をして、更衣室を後にした。
「お、お待たせ」
廊下の壁に寄りかかっていた紅丸がこちらに視線を向けた。彼の落ち着いた表情に少し緊張しながら、私はもう一度口を開けた。
「待たせた?」
「いや」
紅丸の返事を受けて、少し肩の力が抜けた。「そ、そっか……」と微笑んでみせるものの、その視線を受けていると、内心の緊張は収まらない。
「絵馬」
紅丸は壁から離れ、私の方に一歩近づく。その姿を見つめながら、心臓がドキドキ高鳴るのを感じた。
「おかえり、絵馬」
「っ!た、ただいま紅丸」
私の返事に紅丸はフッと微笑んだ。その表情に思わず私の顔はボンッと赤く爆発するようだった。
「あ、あのね紅丸!その〜……えーっと〜……」
ダメだ。思うように言葉が出てこない。喉元まで言葉の波が上がってきているのに、どうしても言い出せない。でも、このままではいけないと思い、その勇気を振り絞ることにした。
「絵馬どうした?何か言いてェことがあんのか?」
「えーっと……」
ええい、ままよ。勢いに任せてしまえ。そう覚悟を決めた私は、紅丸の方へ一歩踏み出し、両腕を大きく広げて彼を抱きしめた。
「抱きしめて良い?」
「……もうしているじゃねェか」
紅丸に冷静に言われ、さらに彼の胸の中で顔の熱が熱くなるのを感じた。心臓の音が高鳴る中、彼の暖かさが安心感として心に染み渡る。この瞬間に勇気を出した自分に少しだけ誇りを持ちながら、それでも顔の赤みがますます増していくのを隠すことはできなかった。
「私が地下に行く前に約束したこと……覚えててくれて、ありがとう」
「あぁ」
「ちゃんと帰ってこれた」
「あぁ」
「紅丸……だ……っ!」
私は思わずバッと紅丸から離れた。危なかった。もう一つの感情が溢れてしまうところだった。紅丸が不思議そうにこちらを見ているのに気づき、私はとっさに思いついた言葉を口にする。
「だーー……大福食べたくなっちゃったなぁ。お腹も空いたし、そろそろ皆がいる食堂に戻ろうっか」
私は誤魔化すかのようにくるりとその場を回り、食堂がある方向へ体を向けた。
「絵馬」
紅丸に名を呼ばれ、首だけ振り返る。その瞬間、腕をグンッと軽く引っ張られたかと思うと、視界が突然暗くなった。いや、正確には紅丸の腕の中にいた。
「べっ、紅丸⁉︎」
「たまには悪くねェな」
そう言って彼は私をそっと離し、先に食堂へと向かっていった。彼の背中を見送りながら、私は心臓の高鳴りを抑えることができなかったが、その温かな余韻をしっかりと抱かえたまま、彼の後を追うように歩き出した。