第弐章
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「絵馬、戻って来たのか」
壁に寄りかかっていたアーサーが、ゆっくりと顔を上げる。蛍光灯の光が彼の金髪を鈍く照らし、疲れた目が私を捉える。私は小さく頷き、待合室の硬い空気を感じながら答える。
「うん、ただいま。……あれ? アイリスとタマキは?」
周囲を見渡す。消毒液の匂いが鼻をつき、待合室の白い壁が無機質に迫る。アイリスとタマキの姿がない。シンラの手術が始まってから、時間が重くのしかかっている。
「あぁ、それなら……」
「十二小隊長!」
背後からアーサーの言葉を遮るように、タマキの声が響く。振り返ると、彼女が息を切らして駆け寄ってくる。
「リヒト捜査官のところにいなかったので、どこに行ったのかと!」
「今ここに戻ってきたばかりだから、すれ違ったみたいだね」
「そうですね!ん?アーサー、シスターはどこに行ったんだ?」
タマキがアーサーに目をやる。彼女もアイリスの不在に気づいたらしい。アーサーは軽く肩をすくめながら答える。
「シスターはシンラのためにお祈りにいったぞ。絵馬は戻ってきた。みんなはどうだった?」
「十二小隊長がここにいるのは見れば分かるよ!火縄中隊長は治療中で、マキさんは色々と手続きを済ませてる。大隊長は、リヒト捜査官と”アドラバースト”について話しているみたい」
「ヴァルカンは?」アーサーが尋ねると、タマキの眉が曇る。
「リサさんと一緒にいる……。リサさん、かなり精神が参っているみたい……」
アーサーが壁から体を離し、座椅子にどかりと腰を下ろす。私たちは落ち着くために、座椅子に順に座った。私は掛け時計に目をやる。シンラが集中治療室に入ってから、すでに40分近くが経っていた。心臓が締め付けられるような不安が、じわじわと広がる。
「待ってるだけでも、こんなに緊張するなんて……」
「絵馬、第6って、病院なのか?どんな部隊だ?」
アーサーの質問に、タマキが呆れたように声を上げる。
「ホント、なんにも知らねェのな……」
「まぁまぁ、タマキ」私は仲裁に入り、アーサーに説明する。「アーサー、えーっと……訓練校で小隊に配属される前に、各部隊の説明をされたんだと思うけど……」
「ん?そんなのあったか?」
アーサーは記憶にないらしく、首を傾げる。タマキはため息をついてから、口を開く。
「皇国の医療が聖陽教会のみ許された神事であることは知っているよな?だから、第6も第1と同じ聖陽教会が主体で、特に医療の分野を担う部隊だ」
「ってことは、ここは聖陽教会が病院ってことだな」アーサーが顎に手を当て、考える。
「特殊消防隊だよ!」
タマキが即座に突っ込む。私は微笑をこらえながら、話を続ける。
「タマキが言うように、医療に特化した部隊だと思っていたらいいよ」
「第6の黄大隊長は、能力者の治療では他に並ぶ者がいないらしい。特別な能力を使って治療するらしいケド……」
タマキの声には緊張が滲む。彼女の視線が手術室の扉に向かう。私もその扉を見つめ、シンラの顔を思い出す。胸に刺さった剣、滴る血。無事を祈るしかできない自分がもどかしい。
「手術が始まって一時間か……」
桜備大隊長が手術室の扉の前で呟く。私は彼の隣に立ち、手術室の扉を見つめる。
「1時間……」私は小さく繰り返す。「”アドラバースト”を持つ能力者の手術……危険な状態ですし、もっとかかるかもしれないですね」
周囲の静寂な緊張感が、私の心にじわじわと迫ってくる。静寂が重くのしかかる。あの剣の傷、出血の量。シンラが持ちこたえられるのか、不安が心を締め付ける。桜備大隊長の隣に立つ茉希が、心配そうな表情で桜備大隊長に問いかける。
「黄大隊長の治療は、何か特殊なんですか?」
「彼女の能力は、医療の象徴であるアクスレピオスの杖を象っている。炎のヘビを操ってケガや病気……様々な症状を治療できるらしい。それが能力者相手だと患者の炎も利用して、瞬時に苦しみから解放すると……」
「治療が終了したら、治療を受けた能力者はどうなるのですか?」私が思わず口を挟む。
「とにかくすごく元気になるとか、ならないとか……」
桜備大隊長の声が、何か心もとない響きに聞こえた。そして私たちの前に立ち、その説明を聞いていたアーサーが困惑した顔でこちらを見る。
「そんなので大丈夫なのか?」
「すごい評判だし、そう信じるしかない。なぁ、絵馬!」桜備大隊長がこちらを見下ろす。
「そうですね。すごい評判ですから、信じましょう」私は軽く笑って答えるが、心の奥では不安が渦巻く。
アーサーは黙って手術室の扉に手を触れる。タマキがすかさず注意する。
「何してんだよ。じっとしてろ」
「気になんだろ……」
アーサーは扉に耳を当て、気配を探るようにじっとしていた。次の瞬間、何かを感じ取ったのか、勢いよく扉を開けた。。