第弐章
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「絵馬、戻って来たのか」
壁に寄りかかっていたアーサーが顔を私の方に向けた。私は小さく頷く。
「うん、ただいま。あれ?アイリスとタマキは?」
周囲を見渡しても、二人の姿が見当たらない。私はアーサーに尋ねる。
「あぁ、それなら……」
「十二小隊長!」
背後から声が響き振り返ると、タマキがこちらに駆け寄ってきていた。
「リヒト捜査官のところにいなかったので、どこに行ったのかと思ってましたよ」
「今ここに戻ってきたばかりだから、すれ違っていたね」
「そうですね!ん?アーサー、シスターはどこに行ったんだ?」
タマキは私の返事に安心した様子を見せるが、アイリスの行方について彼女も気にしているらしい。アーサーは軽く肩をすくめながら答える。
「シスターはシンラのためにお祈りにいったぞ。絵馬は戻ってきた。みんなはどうだった?」
「十二小隊長がここにいるのは見れば分かるよ!火縄中隊長は治療中で、マキさんは色々と手続きを済ませてる。大隊長は、リヒト捜査官と”アドラバースト”について話しているみたい」
「ヴァルカンは?」アーサーが尋ねると、タマキは少し眉をひそめる。
「リサさんと一緒にいる……。リサさん、かなり精神が参っているみたい……」
アーサーはタマキの報告を真剣に聞きながら、壁から離れて座椅子に腰かけた。私たちは落ち着くために、座椅子に順に座った。掛け時計を見つめると、シンラが集中治療室に入ってからすでに30分以上が経過していた。心の中でじわじわと不安が広がる。
「はぁ……。待っているだけでも緊張する……」
「絵馬、第6って、病院なのか?どんな部隊だ?」
アーサーの質問に、タマキが呆れた表情で反応した。
「ホント、なんにも知らねェのな……」
「まぁまぁ、タマキ。アーサー、えーっと……訓練校で小隊に配属される前に、各部隊の説明をされたんだと思うけど……」
「ん?そんなのあったか?」
アーサーは記憶にないらしく、首を傾げる。タマキはため息をついてから、口を開く。
「皇国の医療が聖陽教会のみ許された神事であることは知っているよな?だから、第6も第1と同じ聖陽教会が主体で、特に医療の分野を担う部隊だ」
「ってことは、ここは聖陽教会が病院ってことだな」
「特殊消防隊だよ!」
アーサーは顎に手を触れ、納得の表情を浮かべるが、タマキは容赦なくツッコミを入れた。私は微笑をこらえながら、話を続ける。
「タマキが言うように、医療に特化した部隊だと思っていたらいいよ」
「第6の黄大隊長は、能力者の治療では他に並ぶ者がいないらしい。特別な能力を使って治療するらしいケド……」
タマキの声は緊張感を帯びていた。彼女もまた、シンラの無事を心配しているのだろう。タマキが集中手術室の扉をじっと見つめる様子を横目に見つつ、私もまた、その扉の向こうにいるシンラを思った。
「手術が始まって一時間か……」
集中手術室の扉の前に立つ桜備大隊長が呟いた。私も桜備大隊長の隣に立ち、集中手術室の扉を見つめる。
「一時間……経ちますね。”アドラバースト”を持つ能力者の手術……危険な状態のシンラの治療です。これ以上かかるのも視野に入れていた方が良いでしょう」
周囲の静寂な緊張感が、私の心にじわじわと迫ってくる。あの扉の向こうで、シンラが命をかけた戦いが繰り広げられているのだと思うと、息をするのも忘れてしまいそうだった。桜備大隊長の隣に立つ茉希が、心配そうな表情で桜備大隊長に問いかける。
「黄大隊長の治療は、何か特殊なんですか?」
「彼女の能力は、医療の象徴であるアクスレピオスの杖を象っている。炎のヘビを操ってケガや病気……様々な症状を治療できるらしい。それが能力者相手だと患者の炎も利用して、瞬時に苦しみから解放すると……」
「治療が終了したら、治療を受けた能力者はどうなるのですか?」思わず私は質問を重ねた。
「とにかくすごく元気になるとか、ならないとか……」
桜備大隊長の声が、何か心もとない響きに聞こえた。そして私たちの前に立ち、その説明を聞いていたアーサーが、困惑した表情でこちらを振り向く。
「そんなので大丈夫なのか?」
「すごい評判だし、そう信じるしかない。なぁ、絵馬!」桜備大隊長がこちらを見下ろす。
「すごい評判ですからね、そう信じましょう」
私が軽く笑いながら応じると、アーサーも再び扉に目を向けた。そして、集中手術室の扉に手を触れた。それを見たタマキがすかさず彼に注意した。
「何してんだよ。じっとしてろ」
「気になんだろ……」
アーサーは、気を取られながらも扉の隙間から中の様子を伺い続けた、次の瞬間。何かを察知したのか、アーサーが勢いよく手術室の扉を開けたのだった。