第弐章
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私たち第8小隊は、重症のシンラを何とか第6特殊消防医院に運び込んだ。ストレッチャーに乗せられたシンラの姿は、まるで壊れ物の彫刻のようだった。病院スタッフが素早く駆け寄り、彼を受け入れる準備を始める。ストレッチャーの金属が蛍光灯の光を冷たく反射し、まるで私たちの無力さを嘲るようだ。シンラの胸に刺さった剣が、動くたびにわずかに揺れ、血が滲むのが見えた。
「シンラ、頑張れ!」
私は心の中で叫んだ。だが、声にはならない。手術室の重い扉が閉まる瞬間、静寂が私たちを飲み込む。まるで時間が凍りついたかのように、胸の奥で不安が膨らむ。第6小隊の大隊長を始めとする医療スタッフが動き出し、扉の向こうでシンラの命が預けられる。
待合室の硬い椅子に腰を下ろす。消毒液の匂いが鼻をつき、誰も言葉を発しない。ただ時折視線を交わすだけ。アイリスは祈るように目を閉じ、指が震えている。桜備大隊長たちも沈黙を守り、ただ手術室の扉を見つめていた。不安が静かに広がる中、私たちはシンラの命を待つしかなかった。
医療スタッフが近づいてくる。
「シンラ隊員に引き続き、火縄中隊長の治療に入ります」と告げる。
「わかりました。茉希、一緒について来てもらえるか?」桜備大隊長の声は低く、落ち着いているが、どこか疲れが滲む。
「はい!」
茉希が即座に立ち上がり、大隊長と共に行動する。私はその背中を見送り、心の中で祈る。どうか、二人とも無事でいてくれと。
待合室の空気がさらに重くなる中、リヒトの声が静かに響いた。「十二小隊長、ちょっと良いッスか?」
「何でしょうか?」
私は彼を振り返る。彼の声には普段の軽さがなく、どこか探るような響きがある。重大な話だろうか。胸の奥で警戒心がざわめく。
「話したいことがあるので、ここではちょっと……」
私はアーサー、アイリス、タマキに目をやる。彼らは手術室の扉をじっと見つめ、シンラの安否に気を取られている。
「わかりました。少し席を外して話しましょう。アーサー、アイリス、タマキ。ちょっと離れるね」
彼らは私の言葉にかすかに頷き、待合室の端にある椅子から立ち上がった。アイリスが不安げにこちらを見、タマキは心配そうに口を噤んでいる。アーサーは興味を隠しきれず、じろりと私たちを見るが、何も言わない。
私はリヒトを連れ、待合室の隅へ移動する。そこは薄暗く、病院の喧騒が遠くに聞こえる静かな一角だ。蛍光灯の光が弱く、壁に映る影が揺れている。私はリヒトをじっと見つめ、話を促す。
「リヒトさん、話とは……?」
「十二小隊長、伝導者と交流があったんスね〜」
「……そうみたいです」
私は冷静に応じるが、心の中ではハウメアの不気味な笑顔がちらつく。あの地下での出来事、彼女の言葉が頭を離れない。
リヒトの笑みが消え、真剣な眼差しになる。
「否定はしないんスか?」
「否定はしません。でも、奴らのところに戻る気はないです」
「それを信じろとでも?」リヒトの声には挑戦的な響きがある。彼の目は、私の心の奥を見透かそうとしているようだ。
私は腰ポーチから槍伸縮型を取り出し、彼に差し出す。
「リヒトさん、この武器に興味を持っていましたよね?……この槍、伝導者と何か関係があるみたいです。ハウメアの言葉も引っかかってる。だから、解析してほしい。好きに調べてください」
リヒトの目が大きく見開く。「……僕の言葉、覚えてたんスね」
「えぇ……で、どうします?」
私は静かに見つめる。少し考え込んだ後、彼の手が槍に触れる。その感触に彼の好奇心が滲み出るのがわかった。
「壊しちゃっても、怒らないでくださいよ〜」
「その時は……ヴァルカンに頼んで、新しいの作ってもらいますよ」私は軽く微笑む。
リヒトはニヤリと笑い、「十二小隊長って、何気に度胸ありますね」と言う。その瞬間、微妙だが確かな信頼の糸が、私たちの間に生まれた気がした。
「リヒトさん、私からも一つ聞きたいことがあります」
私は言葉を続ける。彼が槍から視線を上げる。
「アンタ、何者?ただの第8科学調査員じゃないよね?」
リヒトの表情が一瞬固まる。私は畳みかける。
「ヴァルカン工房の時のタイミングがあまりにも良すぎたし……科学調査員にしては、第8以上に伝導者について詳しすぎる」
「それを聞いてどうするんです?」彼の声は低く、真剣だ。目は私を試すように鋭い。
私は小さく息を吐いた。
「どうもしない。決めるのは桜備大隊長だから。でも、槍の解析結果が出たら教えて。それだけは知りたい」私は落ち着いて答える。リヒトの本当の目的は、今は脇に置く。シンラを救うことが最優先だ。
踵を返し、アーサーたちのいる待合室へ戻る。背後からリヒトの声が追いかけてくる。
「十二小隊長、口調変わってません?」
私は振り返らず、軽く笑う。「それは、リヒトさんもでしょ。これまでずっと『ス』付けてたけど、今は抜けてる……。それが、アンタの本当の話し方なんだね」
リヒトは言葉を失い、黙る。私は小さく笑みを浮かべ、歩き出す。仲間としての絆はまだ脆い。でも、この瞬間、ほんの少しだけ深まった気がした。