第弐章
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私たち第8小隊は、重症のシンラを何とか第6特殊消防医院に護送した。到着の瞬間、病院のスタッフはすぐに反応し、急足でシンラを受け入れる準備をしていた。彼を緊急手術室へ運ぶ際、護送用のストレッチャーが硬い光を反射し、まるで私たちに見せつけるかのようだった。静寂と緊迫感が入り混じり、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥った。
「シンラ、頑張れ!」
私は心の中で叫んだが、その言葉は声にはならなかった。手術室の扉が閉まると、私たちの心に不安が覆い被さる。第6小隊大隊長を含む医療スタッフが動き出し、ドアの向こうで彼の運命が決まっていく様子をただ見守るしかなかった。
待合室の座席に腰を下ろし、私は周りを見渡した。アイリスは手を握りしめ、同じように不安な表情を浮かべている。桜備大隊長、茉希、アーサー、タマキ、そしてリヒトも、全員が異なる思いを抱かえていた。言葉を交わすことなく、ただ時折視線を交わすだけ。沈黙は、私たちの心の中にくすぶる恐れを言葉にしないだけで、重苦しい空気を作り出していた。
別の医療スタッフが私たちに近づいて声をかけてきた。
「シンラ隊員に引き続き、火縄中隊長の治療に入ります」
「わかりました。茉希、一緒について来てもらえるか?」
「はい!」
桜備大隊長に呼ばれた茉希は即座に応じ、彼と共に火縄中隊長のいる手術室へと向かった。私はその姿を見送りながら、心の中で再び祈りを捧げた。どうか無事でありますように。
「十二小隊長、ちょっと良いッスか?」
「何でしょうか?」
リヒトに名を呼ばれ、彼の方を向く。何か重大なことがあるのだろうか。私は少し緊張して、彼の言葉を待った。
「話したいことがあるので、ここではちょっと……」
私は一瞬、アーサーたちの方をちらりと見る。みんな、心配そうに手術室の方を見つめている。
「わかりました。少し席を外して話しましょう……アーサー、アイリス、タマキ。少し、席を外すね」
彼らは私の言葉にかすかに頷き、待合室の端にある椅子から立ち上がった。アイリスは少し不安そうにこちらを見つめ、タマキは心配そうに口を噤んでいる。アーサーは私たちの会話に興味津々な様子だったが、気を使っていた。
リヒトと私は待合室の隅に移動し、他の仲間たちの視界から外れる場所を見つけた。そこは薄暗く、周囲の音が少し緩やかに聞こえるだけの静寂だった。私は彼をじっと見つめ、話を促す。今の状況でリヒトが何を考えているのか、少しでも理解したかった。
「リヒトさん、話とは……?」
「十二小隊長は伝導者と交流があったんすね〜」
「……そうみたいです」
口元には笑みを浮かべていたリヒトだが、私の反応を受けて真剣な表情になる。まるで、私を試すかのように。
「否定はしないんスか?」
「否定はしないです。私は奴らの所に戻る気はないです」
「それを信じろとでも?」
リヒトの言葉に、私は静かに腰ポーチから槍伸縮型を取り出し、彼の前に差し出した。
「リヒトさん、この武器に興味を持っていましたよね?この武器は伝導者と何らかの関係がある武器みたいです。なので、貴方に預けます。好きに調査してしてもらって良いですよ」
「……僕の言葉、覚えててたんですね」彼は思わず大きく見開いた。
「えぇ。で、どうしますか?」
私の言葉にリヒトは少し考え込んだ後、槍伸縮型を受け取った。彼の手から伝わる感触が、彼の興味をさらに掻き立てたようだ。
「壊しちゃっても、怒らないでくださいよー」
「その時は、リヒトさんの解析結果を用いて、ヴァルカンに新たな武器を作成してもらうように頼みますよ」
リヒトはニヤリと笑い、「十二小隊長って、何気に度胸ありますね」と言った。その瞬間、彼との微妙な信頼関係が少しだけ築かれた気がした。
「リヒトさん、私も一つリヒトさんに聞きたいことがあります」
リヒトは槍から私に視線を戻した。
「アンタ、何者?ただの第8科学調査員じゃないよね?」
少しだけ考えを巡らせながら、私は言葉を続ける。
「ヴァルカン工房の時のタイミングがあまりにも良すぎたし……科学調査員にしては、第8以上に伝導者について詳しすぎる」
「それを聞いてどうするんです?」
リヒトが真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。私は小さく息を吐いた。
「どうもしないさ。決めるのは、桜備大隊長だから。それと、槍伸縮型の解析結果が出たら教えて、それは知りたいから」
私は踵を返し、アーサーたちのいる場所へ足を踏み出す。背後からリヒトが困惑したように言った。
「十二小隊長、口調変わってません?」
「それは、リヒトもでしょ。『ス』が抜けてる。それが、アンタ本来の話し方なんだね」
私の言葉に彼は思わず黙った。私はクスッと笑んで再び歩き出した。仲間としての絆を深めるにはまだ時間はかかるが、それでも今後の私たちにとって大きな意味を持つだろう。私の心に秘めた思いは、静かに確かな力となっていた。