第弐章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「足止めしているうちに、シンラを助けろ!」
火縄中隊長がハウメアに拳銃を発砲しながら、私たちに指示を出した。その声が混乱の中で鮮明に響いた。
「はい‼︎」
茉希とタマキはすぐ返事をし、行動に移す。それを見て、私も一瞬遅れてだが、茉希たちの後を追った。
頭の中では、さっきのパチという音とふわふわと酔ったような浮遊感が気になっていた。あれもハウメアの仕業なのかと考えながら、負傷したシンラの元へ急いだ。
「シンラッ!」
「……ヒュウ……ゴホ……」
血液が大量に流れ出たせいか、シンラの意識は朦朧としていた。その姿は見るに堪えなかった。刀が胸に深く突き刺さっており、出血は酷い状況だ。私は心が痛む気持ちを押し殺し、彼に呼びかける。
「シンラ!」
「シンラさん!」
その瞬間、ヴァルカン、アイリス、リヒトもシンラの元に駆けつけた。彼らの顔には焦燥と決意が浮かんでいた。私は指示を出した。
「シンラの意識はあるが、状況は良くないし出血が酷い。刀はまだ引き抜かないで!」
その言葉が他の誰よりも聞き入れてもらえることを願いながら、私はシンラの状況を確認する。同時に、ちらりと周囲を見渡し、桜備大隊長の姿を探した。彼は柱に背を向け、まるでその重さを支えているかのように大声をあげていた。
「ぬぉおおおおおお‼︎‼︎」
激しい金属音が響き、柱が倒れる音が耳に刺さる。柱が倒れる音にハウメアは驚き、避けるために素早く身を引いた。
「シンラ、もう大丈夫だぞ!!」
桜備大隊長が力強く言い放ち、火縄中隊長とアーサーもシンラの元へ駆けつける。こうして第8小隊が全員合流することができた。その瞬間、地面がゴゴゴゴゴゴと大きな音を立てて揺れ始めた。
「Oh〜〜じし〜〜ん‼︎」
ハウメアはこの地響きに何か感じ取り、「始まったか……」と呟いた。遠くで隠れていた伝導者の一人が悟ったように静かに言った。
「時間切れよ」
「この揺れは……」と茉希が不安げに呟く。桜備大隊長も異常な震動を感じ取り、その表情には不信が浮かんでいた。
「気味の悪い揺れ方だ……」
いつもとは違う地震の揺れ方に、私の心は不安に駆られた。私は、真実を求めてハウメアに叫んだ。
「ハウメア!これは……」
「伝導者の御業だよ〜〜ん」
ハウメアは楽しげに唇を三日月の形にして笑った。まるで全世界が伝導者の掌にあるかのような自信に満ちていた。
伝導者の一人は少し焦りつつ、ショウを引き連れてハウメアに視線を向けた。
「ハウメア、行きましょ」
「生きていたらまたね〜〜」
ハウメアは柔和な笑みを浮かべて、ひらひらと手を振りながら第8小隊に別れを告げた。その言葉を残し、ハウメアは暗闇に溶け込むように姿を消していく。
「ゴホ……ショウ……。待て、ショウを、返せ!!」
シンラはガラガラな声で弟、ショウを呼び止めようと叫んだ。ショウを連れ戻そうと無理に体を動かす様子を見たヴァルカンが制止する。
「ダメだ、動くな!!」
「ショウ……‼︎」
意識が朦朧とする中、シンラは暗闇に向かって手を伸ばし続けた。その姿を見て、桜備大隊長は冷静に指示を出した。
「シンラの応急処置を!俺たちも脱出するぞ‼︎」
私は緊張感で張り詰める中、自らの役目を思い出し、声を上げた。
「道案内は私に任せて下さい!踊れ!火犬‼︎十匹だ!!」
私は槍伸縮型に残った炎を利用して地面に描かれた絵から火犬を召喚した。
「皆、出口を案内して!」
火犬たちは一匹を残して四方に駆け出し、私たちに道を示そうとした。その背後で、シュウウと音が響き振り返ると、リヒトがシンラの背中に向かって何やらスプレーをかけていた。それを見ていたタマキが不思議そうに尋ねた。
「それは?」
「灰島製の止血と消毒の兼用スプレーだよ」
リヒトはシンラの背中と胸辺りに続けてスプレーを吹きかけた。その応急処置の様子に私は少しの安堵を感じた。火縄中隊長は即座に桜備大隊長に声をかける。
「大隊長!折りたたみタンカを!」
「ああ」
桜備大隊長は防火服の中から折りたたみタンカを取り出し、慎重に動作を行う。シンラをゆっくりと横に寝かせ、皆で彼を囲む。
「動かすと出血する!刀を抜かずに、固定して運べ!」
その言葉が、まるで命令のように響き渡る中で、私たちは一丸となってシンラを支えた。揺れる地面の中、火犬たちが示す道を頼りに進む。
「気をつけろ、油断せずに進め」
桜備大隊長の言葉が全員の心に響きわたり、私たちは一つとなって出口へと向かっていく。桜備大隊長は移動しながらも、シンラに励ましの言葉を投げかけ続けた。
「頑張れ!すぐに助かる!頑張れ!」
火犬たちは私たちが来るのを待つようにポイント地点で座っていた。その様子を一匹ずつ確認しながら進む中、最後の二匹が出口付近で待っているのをリサを背負って歩いていたヴァルカンが確認し、こちらに振り向いた。
「火犬を見つけた!出口は近い!こっちだ‼︎」
出口までの道のりは遠く感じられ、地響きがまだ鳴る止まなかった。火縄中隊長は呟くように言った。
「地震がまだ、止まない……」
不安がよぎる中、私たちは錆びて焦げ茶色になっている大扉をこじ開け、外の光景に飛び出した。外の空気が肺に入り込み、緊張が少しほぐれる瞬間だった。
「まだ、揺れてる……」
茉希が周りを見渡しながら呟く。この異常な地響きに火縄中隊長は深く考え込み言った。
「この地震は何かおかしいぞ……いくらなんでも長すぎる……。通常、地震は一分から三分で揺れは収まるはずだ……。もう十分以上も……」
「そうですね……。こんな地響きは初めてです。ハウメアが……」
「伝導者の御業とか言ってたな……。これも奴らの仕業なのか?何をしようとしているんだ」
私が言いたいことを察して、桜備大隊長が言葉を続けた。周囲にいる火犬たちもこの異変に不安を感じ取ってあり、少しソワソワしている様子が見えた。
「ショ……ショウは……」
酸素マスクを付け、意識が朦朧とする中でショウの名を呼ぶシンラ。桜備大隊長はそんなシンラに力強く言った。
「シンラ!今は、気をしっかりと持て!!生きていれば弟にもまた会える‼︎」
私たちは、シンラをマッチボックスまで慎重に運ぶ。その最中でも地面の揺れは続き、不安が増していく。
「このままシンラを荷台に……気をつけろ、揺らすなよ」
桜備大隊長の指示に従い、全員が細心の注意を払ってシンラをマッチボックスに乗せる。次の行動を思案しながら、私は桜備大隊長に尋ねた。
「マッチボックスには私の代わりにリサさんを乗せて下さい。私は、このまま火犬と共にマッチボックスの後を着いて行きます!場所はどちらへ?」
「一刻を争う怪我です……。緊急病院に?」
火縄中隊長は桜備大隊長の言葉を待ちながら問いかける。桜備大隊長は考え込み、慎重に答えた。
「そうだなーー……。同業に頼ろう……能力者の治療となれば、あの人以上はいないはずだ。連絡は俺が入れておく!出発の準備をしてくれ!」
桜備大隊長の決断力が全員に新たな希望を与えた。その言葉の通り、急いで準備が進められる。地響きの不安な音が続く中、私たちは一刻も早くシンラを救うために全力を尽くす決意を固めた。