第弐章
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リサを背負いながら歩くヴァルカンの様子を見て、私は足を止めた。彼の表情には少し辛そうな表情な影が浮かび、その背中には彼女の無防備なままの姿があった。私は思わず、彼の負担を軽減したいと思った。
「踊れ!火馬‼︎」
私は地面に絵を描き、炎に包まれた火馬を呼び出す。その姿は、力強く燃え盛りながらも優雅で、まるで私たちの危機を救うためにただ待っているかのようだった。振り向いて、ヴァルカンに言った。
「ヴァルカン、リサさんを背負いながら動くのは大変だと思うから火馬の背に乗って!それと……」
私の言葉に対する彼の反応はすぐさま理解の色が浮かび、彼は頷いた。しかし、その瞬間、私は防火服が必要だと感じた。ヴァルカンがささやいた。
「姉さん……」
「リサさんの白装束は、防火機能があるかどうか分からないからさ」
私は、彼女に向かって自らの防火服を脱ぎ捨て、ヴァルカンの前に差し出した。自分自身が危機に晒されることは厭わない、彼女の安全を第一に考える必要があった。
リサの疲れ切った顔を見つめると、心が揺れた。彼女は意識を失ったまま、ヴァルカンの腕の中で静かに眠っている。私は、そっと彼女を包み込むように防火服を両肩に羽織らせた。リサは白装束の仲間であるからこそ、私の知らない情報ももしかしたら有るかも知れない。それに、ヴァルカンの家族であるならば、ここに残すわけにはいかなかった。
ふと、ヴァルカンの視線が私に向かった。
「リサは俺が守ってみせる」
「うん。お願いね、ヴァルカン」
私は深く頷き、心から信頼を込めて返した。ヴァルカンから火馬に視線を移す。火馬は、使命を待つ獣のように、私の指示を待っている。
「火馬、この二人を背に乗せて」
火馬は頷き、ヴァルカンたちに視線を向け足を崩し、床に座った。ヴァルカンとリサがその背に乗せると、火馬はゆっくりと立ち上がって歩き出した。
地下の階段を見つけた私たちは、慎重にその階段を降りていった。一段、一段、暗闇の中へと足を進めると、不意に冷たい空気が肌に触れ、何かが待っているような感覚が胸をざわつかせる。その時、どこからか人の気配を感じた。
「止まれ」
先頭を歩いていた桜備大隊長の声が、静寂を突如破る。彼は腕を上げ、私たちにその場で止まるように指示を出した。その瞬間、周囲の緊張感が高まり、私たちの血が一瞬凍りつく。
向こうもこちらの気配に気づいたようだ。私は心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、その場の動作を見守る。やがて、暗闇の向こう側からゆっくりと何かが現れる。
「そこにいるのは、誰だ!」
桜備大隊長が叫ぶと、気配がこちらに向かって進んでくる。隣にいた茉希が声を漏らした。
「火縄中隊長、アーサー!」
その声が響くと、闇の中から二人の男が姿を現した。アーサーに身体を支えてもらいながら、火縄中隊長がゆっくりと前へと進んでくる。顔には疲労が滲んでいるが、その目は明確な意思を持っていた。
「桜備大隊長!やっと合流できました」
疲れた息を吐きながら、火縄中隊長が口を開いた。
「騎士は遅れてやって来るのだ!」
「耳元で叫ぶな、アーサー」
火縄中隊長は、ハハハと笑うアーサーを少し呆れたように見つめる。アーサーの笑い声が響く中、火縄中隊長の表情に安堵の色が広がっていくのを見て、私たちもまた心の底からほっとした。無事に合流できたことが、再びチームの結束を強める。白装束に立ち向かうための、心強い存在がまた二人増えたのだ。探し人であったアーサーを見つめ、私は思わず声をかけた。
「アーサー!良かった〜火縄中隊長と合流できていたんだね。急にいなくなっちゃったから、心配してたんだよ」
「ふっ、心配するでない画家よ!騎士は強いからこそ騎士なんだ!」
「そうですねー騎士でしたねー」
アーサーは心配など無用という姿勢は崩さなかった。その無邪気な態度に私は少し安心感を覚え、心配していた自分が少しだけ馬鹿らしく思えた。
アーサーは火縄中隊長を床に座らせ、その後、火馬に乗っているヴァルカンの方へと向かう。恐れや不安が交錯するこの時、彼の明るさが周囲を包み込む。桜備大隊長は、火縄中隊長に近づき、真剣な表情に戻る。
「火縄中隊長、無事でなによりだ。それと、途中でシンラとリヒトの姿を見かけなかったか?」
火縄中隊長は少し考え込むように首を振り、「桜備大隊長も……。シンラとリヒトは見かけていませんが、近くで下に降りる階段を見つけました。もしかしたら二人とも、下にいるのかもしれません」
「そうか。では少し休憩してから、下に向かおう」
「オレは大丈夫ですから、今すぐ向かいましょう!」
「でも、火縄中隊長まだ……」
茉希が心配そうに呟く。その言葉に一瞬躊躇したが、彼の意志がどれほど強いものであるかを察する。
「火縄中隊長がそう言っているから、そのまま火縄中隊長の言葉に従おう」
私は茉希の肩に手を添え、彼女の不安を和らげようとした。茉希は困惑したようにこちらを振り向き、「絵馬さん」と囁いたが、私はその目が火縄中隊長の決意を理解していることを知っていた。
火縄中隊長は床からゆっくりと立ち上がり、その力強い姿に仲間を想う気持ちが見てとれた。私たちは彼の意志を尊重し、共に動くことに決めた。
「よし、それなら行こう」
桜備大隊長の声が響き、私たちは新たな一歩を踏み出す準備を整えた。火馬を見つめていたアーサーが、興奮したようにこちらに駆け寄ってくる。
「画家!画家!ヴァルカンが乗っているのは、画家が生んだ馬か!?」
彼の目は、まるで小さな子供のような純粋な好奇心で輝いていた。
「え?そうだけど……」
「流石、画家だ。オレにも、見合った馬を描いてくれ!それをオレのシルバーにする!」
「シンラたちと合流できたらね」
私は微笑みながら返した。アーサーは本気でその話をしたいのだと理解していたが、今は何よりも仲間の無事が重要だ。私たちが迎えに行かねばならない者たちがいる。
「絶対だぞ!」
アーサーは力強く頷いた後、桜備大隊長の後に続いて歩いていく。そんなアーサーの姿を見ながら、私も一歩を踏み出した。