第弐章
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Dr.ジョヴァンニは静かにこう言った。
「絵馬 十二。貴様は知っていたのだろう、私と対峙していた時から……森羅 日下部がリンクしていたことに」
「……”アドラバースト”については、大隊長会議の時に話が出たらしいね」と、口をゆっくりと開く。
Dr.ジョヴァンニが語る内容は、明らかにシンラがアドラリンクを無意識に発動していたことを示唆している。私の中には、あの瞬間に持った確信がもう一度浮かび上がった。それは、シンラの口から発せられた言葉ーー「人のようなモノが聞こえて」ーーだった。
浅草でシンラが紺炉の名を呼んだとき、そして、ヴァルカン工房でシンラの口から発せられた瞬間。それらが私の記憶の中で織り交ぜられ、切り離せない真実へと変わっていき、目の前の現実に迫り上がってきた。
「しらを切るつもりか?」
Dr.ジョヴァンニは私を見据え、あからさまな挑発に、心の中に湧き上がる動揺を感じずにはいられなかった。それとは裏腹に、桜備大隊長が力強く口を挟む。
「”アドラバースト”とはなんだ⁉︎」
「穢レ無キ純粋な炎、第三世代にごくまれに生じる炎です」
その問いかけに、私は簡単に桜備大隊長に説明した。Dr.ジョヴァンニはその説明に動じる様子もなく、むしろ冷静さを増していた。
「今頃、森羅 日下部の”アドラバースト”がショウ団長とのリンクによって強まってきているところだ」
桜備大隊長は疑問を隠せずに、「リンク?何と繋がっているというんだ……」と尋ねた。
Dr.ジョヴァンニはその問いに冷酷に返した。
「”アドラバースト”の源は、ここではない異界の炎……。団長たちのリンク先も源火を持つ異界。貴様らのような何も知らない者たちが古来、地獄と呼んできたところだ」
沈黙が場を支配する。Dr.ジョヴァンニはさらにこう続けた。
「”アドラバースト”はあらゆる熱に干渉できる特別な炎……能力者のさらなる段階にして人類を襲う人体発火の種火でもあるのだ」
彼の言葉は、単なる説明を超えた恐ろしい警告のように感じられた。私の中で疑念が膨れが上がると同時に、止めようもない興味のまたくすぐられてくる。異界の炎、人体発火、そしてシンラとショウのリンク。そして私の過去。これらがもたらすのは一体何なのか。
桜備大隊長が声色を低くし、「地獄……?荒唐無稽な話だな。そんな場所が本当にあるのか?」と、皮肉が宿る口調でDr.ジョヴァンニに問いかける。
「正確には地獄ではない。異界”アドラ”と呼ばれる世界だ」
「……お前たちは何が目的なんだ?」
その問いに対して、Dr.ジョヴァンニは淡々とした調子で答えた。
「私の役目は、ショウ団長と森羅 日下部を接触させること。狙い通りリンクが成った今、もう時間を稼ぐ必要はない。そして、もう一つは絵馬 十二の過去を蘇らせることだったのだが……ハウメアと接触したようだな。これも全て伝導者の思し召しのままだ」
「なるほどねェ……」私は深く頷き、「通りで私以上に私の記憶を気にするわけだ。私が、その”アドラバースト”と”アドラリンク”に何か関係があるんでしょ?」
「……察しが良いな絵馬 十二」
Dr.ジョヴァンニの言葉は、まるで真実をその手に握る者の余裕を移し出しているかのようだった。
この会話の中で、私自身が何を求められているもの、そして自らの過去に潜む重みが少しずつ浮かび上がってくる。だが、さらに疑問が浮かんだ。桜備大隊長はDr.ジョヴァンニに向かって問いかける。
「人体発火を起こす元の炎は、異界”アドラ”からくると言ったな?なら蟲はなんなんだ?お前たちは、なぜ人体発火の種火に蟲を使う?」
「蟲と炎の関係か……ククク……。それはだな……」
その瞬間、彼の白装束の中がモゴモゴと動き出し、腹部から巨大なDr.ジョヴァンニの顔が現れ、叫んだ。
「教えてやらん!!!」
「テメェッ!」と私は思わず叫んだ。
「冗談だ。蟲の生態は地球の生命の進化論から外れているとよく言われるだろ?虫はどこから来た?研究者によっては彼らは宇宙から来たという説を唱える者までいる。どこから発生したかわからぬ虫……彼らの出身が”アドラ”だとしたら?」
Dr.ジョヴァンニは冷静さを保ちながら、さらりと語り始める。
「「飛んで火に入る」虫たち……母なる炎に還ろうとしての習性だとしたら……?」
その言葉は、嫌でも私の想像力を掻き立てた。蟲が火に引き寄せられる理由、その背後に潜む真実は、一体何を意味するのか。
私の思考は急速に迷宮へと突入する。Dr.ジョヴァンニの言葉が、私の心の奥深くに棲みつく。母なる炎に還る習性?それがもし真実なら、蟲の存在は単なる生物学的現象ではなく、私たちの運命に密接に絡んだものであるということになる。
「大隊長ォ!!火縄中隊長ォ、絵馬さーんッ!」
ふと、地下のどこかから私たちを呼ぶ声が耳に入ってきた。その声は、一瞬にして場の空気を変えた。
「この声はマキか……」
桜備大隊長も、それを聞いたようだ。防護面を少し上げ、その顔には安堵の表情が宿った。Dr.ジョヴァンニもその呼び声に反応し、冷淡に言い放つ。
「部下共が帰ってきたようだな……。そろそろ潮時か……」
「テメェ逃げる気か!!」
ヴァルカンは怒声が地下の闇を突き刺す。Dr.ジョヴァンニはくるりと背を向け、地下の奥へと進んでいった。その後ろ姿は、まるで暗闇に同化していくように見えた。そして、一瞬、首だけ振り返り、ヴァルカンを遠くから見下ろし、彼の腕の中に倒れているリサを静かに見つめた。
「リサは置いていこう。だが、そいつの洗脳が解けることはない」
「ゴッゴホッ。ま……まってください……おいていかないで……ください……」
リサのか細い声が、絶望に満ちて響く。彼女の目には涙が滲んでおり、その姿はまるで親を求める小さな幼な子のようだった。
「リサ……」ヴァルカンは、彼女の様子に動揺し、戸惑いを隠せなかった。
「洗脳……宗教……信仰……人により呪いのようなものなのだ。絵馬 十二よ、もう一度よく考えることだ。貴様は自身の能力を生かしきれていないことを……そして、どちらにつくべきかをな」
そう言って、Dr.ジョヴァンニは冷ややかに告げ、地下の闇へと入っていく。
「待てッ!!」
桜備大隊長の叫びが空気を震わせる。同時に、私は槍伸縮型をくるりと回し、槍先をDr.ジョヴァンニに向かって思いっきり放り投げた。しかし、闇に消えたDr.ジョヴァンニに当たることなく、地下の闇の奥からマキの「キャア!」という悲鳴だけが響いた。
「大隊長!!絵馬さん!!ご無事ですか!?」
茉希の声が地下の静寂を打ち破ると、彼女はアイリスとタマキを引き連れてこちらへと駆け寄ってきた。アイリスの手には、私の槍伸縮型がしっかりと握られている。
「ああ、問題ない」と桜備大隊長は軽く頷く。何とか仲間を安心させようとする意志が見え隠れしていた。
アイリスが私に近づき、目を丸くして少し興奮を隠せない様子で、
「私たちが歩いているところに急に飛んできて、地面に突き刺さったのですが……これ、絵馬さんのですよね?」と言いながら、私の槍を手渡してくれた。
「ありがとう、シスター。Dr.ジョヴァンニに向けて放ったんだけど、シスターたちに当たらなくて良かったよ」
そう言いながら、私は槍伸縮型を受け取った。アイリスは微笑み、戦場の片隅に抱かえる不安を一瞬忘れさせるような、温かさがあった。桜備大隊長は、三人の顔色を伺いながら言った。
「三人ともケガはないか?」
「はい」と茉希は答えたが、直ぐに桜備大隊長の複雑な表情を見てその視線が心配に変わった。
「大丈夫ですか?顔色が悪いみたい……」
「大丈夫だ。残りの隊員と合流しよう」
桜備大隊長は心配させまいと、無理にニカッと笑顔を作る。茉希は桜備大隊長から私に視線を移した。
「絵馬さん。絵馬さんの槍……もう、炎が残っていないようですが」と、茉希が気遣いの声をかける。
「そうだね。Dr.ジョヴァンニとの戦闘で全て使い切ったからね」
「だったら、私の炎を使ってください!十二小隊長!」
タマキが私の前に出て、少し興奮気味で言った。その言葉には彼女の強い意志が込められていた。
「ありがとう。タマキ隊……タマキ!」
「はいッ!!」
私の言葉にタマキは嬉しそうに力強く応じた。その言葉には、戦いの中で互いを支え合う仲間としての信頼が溢れ、私の中に小さな光を灯してくれた。