第弐章
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「すいません……」
ヴァルカンの声が悲痛な響きを帯び、指がトリガーにかかる。その動作には深い葛藤が滲み出ていた。
「堂々としていろ」
桜備大隊長は防具仮面をゆっくりと外し、ヴァルカンを静かに見つめる。その瞳には不動の覚悟が宿り、僅かな動揺すら見られない。その様子を冷淡に見つめながら、Dr.ジョヴァンニは冷酷に言い放った。
「さァ撃て。時間はないぞ。もったいぶっても結果は撃つか撃たないか。撃てばフィーラーは助かり、撃たなければリサは死ぬ。それだけだ……」
Dr.ジョヴァンニの言葉は冷たく、感情が一切感じられない。状況が絶望的であることを示しながらも、正面から逃げる道を与えていない。Dr.ジョヴァンニを鋭く睨むヴァルカンの叫びが地下に響いた。
「絶対てめェを殺してやる!!」
「そうか……。ならば、熱線でこの女の首が刎ねられるところを見ているがいい」
Dr.ジョヴァンニの冷たく重い声が再び地下に響いた。桜備大隊長が両手を広げ、
「撃て!ヴァルカン!オレを撃ってリサさんを助けろ!!」
と叫んだ。その叫びには仲間への深い信頼と決意がこもっていた。私は、右肩の痛みに耐えながらその行方を見つめる。Dr.ジョヴァンニの狙いは桜備大隊長の命だ。代わりに私を撃ってと懇願しても、Dr.ジョヴァンニはそれを許さないだろう。この冷酷な男の目的は、恐怖と絶望を植え付けることにあるのだ。
ヴァルカンの手が再び震える。
「キズつけるワケには!!」
「ならリサは終わりだ」
「撃てヴァルカン!!リサさんが殺されてしまう!!」
桜備大隊長の叫びが再び地下に響き渡る。
「だからって……」
ヴァルカンは悲痛な表情を浮かべながら、拳銃を桜備大隊長の胸に突きつけた。その手は震え、彼の心の葛藤が明白だった。
「ちくしょおおお!!」
その叫びと共に、引き金が引かれる。
ダン。
その一発の銃声が、地下の空気を重くのしかかるように響いた。
ドサ。
胸を撃たれた桜備大隊長が床に崩れ落ちた。その音が、地下の静寂を切り裂く。その倒れ方には、一瞬のうちに力を奪われた人間の無力さが滲み出ていた。
「クックックッ。女を守るために上官を撃つかヴァルカンよ!!見たか、絵馬 十二。お前が弱いから、桜備は死んだのだ!!これは弱いやつの使命なのだ」
Dr.ジョヴァンニの声が冷たく地下に響き渡る。その声には、冷酷無比な支配者の傲慢さと勝ち誇った雰囲気が見え隠れする。そして、その言葉が私の胸に突き刺さる。
桜備大隊長の無力な姿が私の視線の先にある。その倒れた体は、彼が全てを賭けた覚悟の証だ。私は少し軽減した右肩の痛みを耐えながら、その場にゆっくりと立ち上がる。
「桜備大隊長……あなたの覚悟、しっかりとこの目で確認しました」
私は、右肩からゆっくりと手を離し、Dr.ジョヴァンニを睨んだ。その一方で、Dr.ジョヴァンニは冷たく笑いながら、リサにかけていたワイヤーを緩め、解放した。一瞬の開放感がリサの体に襲いかかる。リサは力なく床に四つん這いになり、痛切な呼吸を取り戻そうとする。
「ゴッゴッ、ゴホッ」
リサの咳き込む声が、地下の静寂を再び破る。その苦しげな声が、彼女の命が助かった喜びと桜備大隊長の覚悟が、複雑に交差する瞬間だった。
「リサ……大隊長……」
ヴァルカンが呟いた。その瞬間、倒れていた桜備大隊長が、顔を上げた。その動きがDr.ジョヴァンニの目を引いた。
「わかっていてもこえーな、ちくしょう。オラァア!!」
桜備大隊長は真下にあったレールを掴み、力一杯に持ち上げた。その行動が、桜備大隊長の並外れた精神力と体力を示していた。
「バカ力!?」
その一連の動作は、驚きと共に隙を突かれたDr.ジョヴァンニの声色を変えさせた。レールを持ち上げられたことによって、レールの真上にいたDr.ジョヴァンニはバランスを崩し、機械じみた手で体勢を整える。
「防火コートは防弾仕様ではないはず……。胸に何かを仕込んでいたか」
予想外の展開にDr.ジョヴァンニは困惑の声色を浮かべた。桜備大隊長は私と目配せすると、再びDr.ジョヴァンニに視線を移す。桜備大隊長の挑発的な声が地下の静寂を破る。
「クックックッ。知りたいか?んん!?ジョヴァンニよ……んん!?」
「知りたいと言ったら」
私はその意図を察知し、意識的に応じた。桜備大隊長はニヤリと笑い、力強く叫んだ。
「教えてやらん!!」
「対物理攻撃仕様ベストだ!!俺は第8の機械員!大隊長を丸腰で出動させるわけねェだろ」
ヴァルカンが桜備大隊長の言葉に被せるようにして説明を口にした。そして、ハッと気づき、私と桜備大隊長に振り返った。
「あ……教えちゃった」
「いや……いいよ。だってあいつ、憎たらしくて。絵馬が察してノってくれたから、やりたかったことはできた」
「それを察する私って、何気にすごいのでは?」
「姉さん、前向きだな」
この軽妙なやり取りに、ヴァルカンは少し呆れ気味に頷いた。緊張感に満ちていた空気が少しだけ和む。私は右肩の痛みを紛らわすように2、3回肩を回し、再びDr.ジョヴァンニに目を向けた。
Dr.ジョヴァンニは驚愕な声色で言った。
「だからと言って、ムチャなことを」
「第8は信頼し合うことで一つのチームになるんだよ」
桜備大隊長の声は地下の冷たい空気を吸い込み、新たな命を吹き込むように私たち全員の心に響き渡った。その言葉に反するかのように、Dr.ジョヴァンニは白装束の中から次々と隠し持っていた機械を取り出しながら叫んだ。
「信頼など解明できない戯言だ!」
「なんだ、その散らかったメカはよォ!ジジィが見たらあきれるぜ!!」
Dr.ジョヴァンニの言葉にヴァルカンは反発心丸出しで叫ぶと、Dr.ジョヴァンニに向かって駆け出し、「”ペンギンメット”装着!!」と叫んだ。その言葉を合図に、ヴァルカンの頭部がペンギンの形をしたヘルメットに覆われていく。そして、ヘルメットの後頭部付近からシュボっと火がジェット噴射し、その速度が一気に増した。
「てめェのその機械!!強度テストしてやるよ!!STRENGTH TEST」
ヴァルカンはそのままDr.ジョヴァンニの腹部に直撃した。猛烈な衝撃が地下を揺るがし、Dr.ジョヴァンニの体がヴァルカンによって機械もろとも破壊された。それと同時に、Dr.ジョヴァンニの手から離れた槍伸縮型を私は奪い返すことができたのだった。