第弐章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「フィイイイラァアア……」
Dr.ジョヴァンニの冷酷な声が地下の空間に響き渡った瞬間、リサの表情は一瞬にして凍りついた。彼女がまだ過去の鎖に縛られたままであることを、私は痛感した。仮面の奥で、Dr.ジョヴァンニの目がリサを捕らえる。
「炎の恐怖から救ってやったのは誰だ?ヴァルカンと共に過ごせたのも私のおかげだぞ……。この恩を忘れた訳ではあるまい、戻れ!!」
リサの瞳に恐怖が宿る。私は思わず叫んだ。
「リサさん!戻らないで‼︎」
「リサ……」
ヴァルカンの声もまた切実さを帯びていた。だが、リサは私たちの言葉を振り払うかのように、ヴァルカンから離れ、ゆっくりと立ち上がる。
「ダメなんだ……。何も無くなった私に、Dr.ジョヴァンニは与えてくれた……裏切れないよ。もう私のことはほっといてよ……」
振り向いた彼女の目から涙がこぼれ、地下の冷たい床に落ちる。その瞬間、ワイヤーがリサの首に絡みついた。
私は動けなかった。冷たい鉄のワイヤーがリサの首を締め付け、彼女は一瞬にしてDr.ジョヴァンニの側まで引っ張られた。その光景に、私の心は一瞬で凍りついた。
Dr.ジョヴァンニはリサを手中に収めると、機械じみた手が彼女の横腹に人差し指を立てる。
「ジョヴァンニ!!」ヴァルカンが叫ぶ。
「動くな!熱線でこの首を焼き切るぞ」
ジュウウウと、リサの首に巻きついたワイヤーが赤く熱せられ、彼女の髪が焼け落ちる匂いが地下の空間に広がった。
「やめろ‼︎」
桜備大隊長がDr.ジョヴァンニに制止を投げかける。Dr.ジョヴァンニは、桜備大隊長から私に視線を移し、仮面越しに冷淡な声を放った。
「絵馬 十二よ。手に持っているそいつを渡せ」
彼が示す「そいつ」とは、私の手に握られた槍伸縮型のことだった。その示威的な言葉に、私は反射的に槍を握り直す。これは私にとっての最後の望みであり、伝導者に関わる何か重要な手掛かりでもあった。しかし、これを渡してしまえば、私は能力を発動することができなくなる。
「どうした?この女がどうなってもいいのか?」
Dr.ジョヴァンニの声は冷たく、無感情だった。
「姉さん……」ヴァルカンの困惑した表情が視界に入る。
リサの命が天秤にかけられている。私は唇を噛みしめ、無力感が胸を締めつける。
Dr.ジョヴァンニの指示に従い、私は火虎を消し、その鮮やかな紅蓮の光が地下の薄暗い空間に消えていくのを見つめた。
「わかった」
そして、私は槍を握る手を緩め、素直にDr.ジョヴァンニに向かって槍伸縮型を放り投げた。Dr.ジョヴァンニは機械じみた手で槍伸縮型を手に取ると、白装束の中に隠し持っていた拳銃をヴァルカンの目の前に放り投げた。
「ヴァルカンよ。この女を助けたければ、私の言うとおりにしろ。その銃で桜備を撃て」
Dr.ジョヴァンニの口から放たれたその言葉に、空気が凍る。ヴァルカンの瞳に葛藤が宿る。
「どこまで腐ってんだお前は……」
彼の声は低く、痛みを帯びていた。
「喜べ、フィーラー……。今、伝導者のために命を有効活用できてるぞ。本望だろう?」
「外道が……」私は呟く。
「外道だと? 笑わせるな。絵馬 十二、お前はまだ全てを思い出していないだけだ。私の行いは正しい。お前もその傷と共に思い出すだろう」
その言葉が胸に突き刺さる。胸の奥深くで心臓が一際強く拍動するのを感じた。ドクン。心臓が強く脈打つ。その音が、私の心にある記憶の扉を叩いた。
目の前に火虎が浮かび、その背後にハウメアと、もう一人の影が見える。火虎が爪を私に向けて振り上げた瞬間ーー。
突如、右肩の古傷が焼けるように疼いた。その痛みに耐えきれず、私は手で右肩を押さえ、その場に膝から崩れ落ちる。
ーーーーその瞬間、過去の記憶が鮮明に蘇る。
燃え盛る炎の中、シスター服の母親に手を引かれながら、先導を行く父親に必死についていく幼い私。視界に映るのは燃え尽きていく瓦礫と煙に巻かれる人々。そして、少し離れた場所に佇む、白装束の男……鳥のような仮面を被った影。混乱の中で、母親に手を引かれていない右腕から滴る血。
その場面が鮮やかに脳裏に焼き付き、右肩の痛みが現実と過去を繋ぎ合わせる接点となる。
現在に戻り、汗が額を濡らし、息が乱れる。地面に膝をついたまま、私は右肩の古傷を押さえ、苦痛に耐えていた。心配した桜備大隊長が駆け寄り、私の両肩を支える。
「絵馬、大丈夫か⁉︎」
その様子を冷たく見下ろしながら、Dr.ジョヴァンニは冷酷な声で言った。
「思い出したか?……ハウメアのプレゼントが効いてきたようだな。ヴァルカン、早く桜備を撃て。絵馬 十二に撃っても良いが、致命所は避けろよ」
それは選択の余地を与えない命令であり、ヴァルカンの拳が震えているのがはっきりと見て取れた。
「ヴァルカン……従うんだ……」
桜備大隊長は私から離れ、Dr.ジョヴァンニと縦一直線に並ぶように間隔を空けて立つ。桜備大隊長の言葉には覚悟の光が宿っていた。
その言葉に、ヴァルカンは思い詰めた表情で床から拳銃を拾い上げ、銃を桜備大隊長に向けた。