第弐章
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「フィイイイラァアア……」
Dr.ジョヴァンニの冷酷な声が地下の空間に響き渡った瞬間、リサの表情は一瞬にして凍りつく。リサがまだ過去の鎖に縛られたままなのだと、私は痛感した。Dr.ジョヴァンニは仮面越しにリサを見つめる。
「炎の恐怖から救ってやったのは誰だ?ヴァルカンと共に過ごせたのも私のおかげだぞ……。この恩を忘れた訳ではあるまい、戻れ!!」
その言葉に、リサの瞳に再び恐怖が宿った。その光景を見た私は、リサに向かって力強く叫んだ。
「リサさん!戻らないで‼︎」
「リサ……」
ヴァルカンの声もまた切実さを帯びていた。しかし、リサは私たちの言葉を振り払うかのように、ヴァルカンから離れ、ゆっくりと立ち上がる。
「ダメなんだ……。何も無くなった私に、Dr.ジョヴァンニは与えてくれた……裏切れないよ。もう私のことはほっといてよ……」
振り向いたリサの目には、大粒の涙がこぼれ落ちた。その涙が地下の冷たい空間に静かに落ちると同時に、リサの首に無情なワイヤーが絡まった。
私は瞬時に反応することができなかった。冷たい鉄のワイヤーがリサの首を締め付け、リサは一瞬にしてDr.ジョヴァンニの側まで引っ張られた。その光景に、私の心は一瞬で凍りつく。
Dr.ジョヴァンニはリサを手中に収めると、機械じみた手でリサの横腹に人差し指を立てる。その様子に、我に帰ったヴァルカンが叫んだ。
「ジョヴァンニ!!」
「動くな!熱線でこの首を焼き切るぞ」
ジュウウウと、リサの首に巻きついたワイヤーが赤く熱せられ、リサの髪が焼け落ちる匂いが地下の空間に広がった。
「やめろ‼︎」
桜備大隊長は、Dr.ジョヴァンニに制止を投げかける。Dr.ジョヴァンニは、桜備大隊長から私に視線を移し、仮面越しに見つめながら冷淡に言った。
「絵馬 十二よ。手に持っているそいつを渡せ」
Dr.ジョヴァンニが示す「そいつ」とは、私の手に握られた槍伸縮型のことだった。その示威的な言葉に、私は反射的に槍伸縮型を握り直す。それは私にとっての最後の望みであり、同時に伝導者に関わる何か重要な手掛かりであることは明白だった。しかし、これを渡してしまえば、私は能力を発動することができなくなる。
「どうした?この女がどうなってもいいのか?」
「姉さん……」
Dr.ジョヴァンニの声は冷たく、無感情な響きを持っていた。ヴァルカンが困惑した表情が視界に入る。私は唇を噛みしめ、リサの命が危険にさらされているという現実が私の胸に重くのしかかり、無力の感覚に苛まれた。
Dr.ジョヴァンニの指示に従い、私は火虎を消し、その鮮やかな紅蓮の光が地下の薄暗い空間に消えていくのを見つめる。
「わかった」
そして、私は槍伸縮型を握る手を緩め、素直にDr.ジョヴァンニに向かって槍伸縮型を放り投げた。Dr.ジョヴァンニは機械じみた手で槍伸縮型を手に取ると、白装束の中に隠し持っていた拳銃をヴァルカンの目の前に投げ捨てる。
「ヴァルカンよ。この女を助けたければ、私の言うとおりにしろ。その銃で桜備を撃て」
Dr.ジョヴァンニの口から放たれたその言葉に、地下の空間が一層冷たく感じられた。
「どこまで腐ってんだお前は……」
ヴァルカンの瞳には葛藤が浮かび、彼の立ちすくむ姿が私の胸に痛みを与えた。
「喜べ、フィーラー……。今、伝導者のために命を有効活用できてるぞ。本望だろう?」
「外道が……」
「なにが外道なものか、絵馬 十二。お前はまだ全てを思い出してないだけだ。私の行いは正しいのだ。お前もいずれ思い出すだろう、その傷と共に……」
その言葉が終わると同時に、胸の奥深くで心臓が一際強く拍動するのを感じた。ドクン、と重く響くその音が、私の心にある記憶の扉を叩いた。
目の前には見慣れた火虎がぼんやりと浮かび上がる。そして、その背後にはハウメアともう一人がぼんやりと立っていることに気づいた瞬間、目の前に火虎が鋭い爪を私に向けて……。
突如、右肩の古傷が鋭い痛みと共に再び蘇り、その痛みに耐えきれず、私は手で右肩を押さえ込み、その場に膝から力なく崩れ落ちた。
ーーーーその瞬間、過去の記憶が鮮明に蘇る。
燃え盛る炎の中、シスター服の母親に手を引かれながら、先導を行く父親に必死についていく幼い私。視界に映るのは燃え尽きていく瓦礫と煙に巻かれる人々。そして、少し離れた場所に佇む白装束を身にまとった鳥仮面の男。混乱の中で、母親に手を引かれていない右腕から滴る血。
その場面が鮮やかに脳裏に焼き付き、右肩の痛みが現実と過去を繋ぎ合わせる接点となる。
現在に戻り、汗が額を濡らし、息が荒くなる。地面に膝をついたまま、私は右肩の古傷を押さえ、苦痛に耐えていた。心配した桜備大隊長が膝を突き、私の両肩を支えてくれる。
その様子を冷たく見下ろしながら、Dr.ジョヴァンニは冷酷な声で再び言った。
「思い出したか?その痛みと共に、お前の過去が蘇るのを見届けるがいい。ヴァルカン、早く桜備を撃て。絵馬 十二に撃っても良いが、致命所は避けろよ」
それは選択の余地を与えない命令であり、ヴァルカンの拳が震えているのがはっきりと見て取れた。
「ヴァルカン……従うんだ……」
桜備大隊長は私から離れ、Dr.ジョヴァンニと縦一直線に並ぶように間隔を空けて立つ。桜備大隊長の言葉には覚悟の光が宿っていた。
その言葉に、ヴァルカンは思い詰めた表情で床から拳銃を拾い上げ、銃を桜備大隊長に向けた。