第弐章
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Dr.ジョヴァンニに狙いを定めたその瞬間、漁り火がその前に立ちはだかる。火虎は鋭い爪を突き出し、漁り火を弾き返すと、時折牙をむき出して噛みつき、その攻撃を防ぐ。火花が飛び散り、地下には張り詰めた空気が漂っていた。
「カンに障るジジィだな!!」
桜備大隊長は必死に防火服の中から消化器を取り出し、漁り火に向けて放とうとした。しかし、漁り火はそれに対して微動だにしない。消化器の噴霧が空を切り、漁り火はますます勢いを増していく。その瞬間、突然、漁り火が一気に跳ね上がり、大隊長の頭部に直撃し、バチッと音を立てて衝撃を与えた。
「そんな消化器で私の炎を消せると思っているのか!?」
リサは冷徹に桜備大隊長を睨みつけ、唇の端に浮かぶ微笑みは、まるで彼を愚弄するかのようだった。そして、勢いを増した漁り火が、消化器の噴霧をものともせず、桜備大隊長の腹部に容赦なく衝撃を与えた。
「ぐあッ!」
桜備大隊長は痛みに顔を歪め、苦しげに呻き声を漏らした。その様子を見た私は、思わず振り返り、声を張り上げて叫んだ。
「桜備大隊長!!」
「余所見している余裕があるんだな、絵馬 十二!」
リサの漁り火が私に向かって迫るのを目の端で捉え、私は即座に槍を伸縮させ、反応を試みた。しかし、漁り火の勢いは予想以上に凄まじく、その力に押し戻されるように、私は後ろへと身体を退けるしかなかった。そんな中、漁り火から離れた火虎が瞬時に私の前に移動し、まるで私を守るかのようにその鋭い牙をリサに向けた。
「無駄だよ桜備大隊長!?」ヴァルカンが鋭く叫んだ。
「ええいなんのォ!!」
桜備大隊長は諦めず、必死に消化器を握りしめて漁り火に向けて放ち続けた。しかし、結果は変わらなかった。漁り火は消化器の噴霧をまるで無視するかのように、勢いを増し、再び桜備大隊長に容赦なく攻撃をぶつけた。
「さっきからふざけているのか?」
「ふざけていませんよ」
桜備大隊長は地面に膝をつき、一瞬で息を整えながらも、すぐに立ち上がった。
「あなたはその炎の触手が自分を守ると言ったが……私には炎に囚われて苦しんでいるようにしか見えません。本当に、その炎はあなたを守ってくれていますか?」
その言葉はどこか心からの訴えを投げかけているように感じた。しかし、リサの視線はどこまでも冷たく、感情を一切読み取れない。
「何を言う。この能力で私は炎の恐怖と悲しみから解放されたんだ」
「炎の、その触手があなたを守っているのならなぜ、そんな不安な顔をしているんですか」
「私に不安なんてない!!」
リサの声は強く、否定するように響いた。瞬時に漁り火が再び猛然と燃え上がる。
「勝手なことを言うな!!」
彼女の叫びが響き渡り、漁り火が、私と桜備大隊長に狙いを定めて襲いかかってきた。
「火虎!もう一度!」
私の声が響くと、火虎はすぐに私の指示に従い、その鋭い爪と牙で再び漁り火に立ち向かう。私は、漁り火の渦をすり抜け、Dr.ジョヴァンニを狙って槍を振った。
「遅いな……絵馬 十二」
Dr.ジョヴァンニは、挑戦的な姿で私を見ていた。私は、槍を大きく横に振り、彼の横腹を狙うが、彼はあっさりと後ろに下がって攻撃をかわす。その動きは驚くほど軽やかだった。
「伝導者に頭を下げたお前が、どうしてコイツらの味方をするのか、私には理解できない」
「デタラメなことを言うんじゃねェよ!!」
「……まだ、全て戻ったわけではないのか」
それを聞いて、私は何かを悟られたような気がした。背後から迫る漁り火に気づき、槍伸縮型を地面に突き刺して、垂直に飛び上がる。漁り火の攻撃を巧みに避けながら、槍を回収し、こちらに駆け寄ってくる火虎の背に飛び乗った。
ーードシャ。
桜備大隊長が漁り火の攻撃を受けて、地面に崩れ落ちるのが視界に入った。火虎は身を低くし、再び漁り火に向かって猛然と突進する。全ての漁り火がこちらを向いた瞬間、火虎と私は一心同体のように次々と漁り火をかわしていった。
「火虎!」
私は命じるように叫び、すぐに火虎の背から飛び降りて、桜備大隊長の元へ急いだ。
「大丈夫ですか、桜備大隊長!?」
「あぁ。絵馬……」
私は彼に手を貸すと、桜備大隊長はその手を取った瞬間、私の耳元でボソッと囁いた。その言葉の意味をすぐに理解し、私はDr.ジョヴァンニに悟られないように、ほんの少しだけ合図を送った。火虎を呼び寄せてから、再び漁り火に攻撃を仕掛けさせ、少しでも私たちの時間を稼ぐように命じた。
「戦場に消化器なんて無駄なモノを持ってきて、バカな男だ」
Dr.ジョヴァンニの冷徹な笑い声が耳に入ってきた。桜備大隊長は、ゆっくりと立ち上がりながら、反論の言葉を返す。
「あんただって元消防官だろ?危険な現場を知っているはずだ……」
桜備大隊長はドンと消化器を地面に置き、叫んだ。
「消防官のモットーは、人命と財産を守ること!!救援具が無駄になることはない!!」
その言葉には揺るぎない信念と熱い思いが込められていた。だが、Dr.ジョヴァンニは興味なさげに、リサに命じる。
「やれ」
「は……はい」
リサの戸惑いが一瞬だけ顔に浮かんだが、すぐにその表情は冷徹に戻り、Dr.ジョヴァンニの命令に従う。その瞬間、漁り火が私と桜備大隊長に狙いを定めて襲いかかってきた。私は槍伸縮型でその攻撃を受け止めるが、その反動で少し後方に吹き飛ばされてしまった。それでも、すぐに体勢を立て直し、再び立ち上がる。
しかし、桜備大隊長は勢いに負けて後方の壁に追いやられ、漁り火と壁に挟まれるように叩きつけられた。
「桜備大隊長!火虎!!」
私は叫び、火虎をこちらに呼び寄せ、漁り火を弾き返した。その間、リサは冷静に桜備大隊長に言葉を放った。
「その甘さが命とりだ。人命を救う一心で……自分の命を捨ててしまっては意味がない」
「こう見えても私は自分の命を粗末にすることはしません。リサさんを救う準備をしていたんです」
その瞬間、防火服からスイッチを取り出し、桜備大隊長はそれを手に持った。
「お待たせしました」
カチッ。
スイッチが押されると、地下の空間に静かにその音が響き渡る。その音が、全ての状況を一変させる瞬間だった。リサの漁り火が、ドパンと音を立てて、次々と消滅し始めた。
「これは消火グレネード‼︎桜備め、やられているフリをして触手一本一本にこんなモノを仕込んでいたのか!」
Dr.ジョヴァンニの声には驚愕の色が走ったが、桜備大隊長の計画が成功したことを確信した。
「俺だけではない、絵馬にも協力してもらったんだよ」
「”敵を欺くにはまず味方からだ”だっけ?まぁ、あんたのことを味方だとは思ってねェけどね」
ヴァルカン工房での教訓を思い出し、私はその言葉を冷たくそっくりそのままDr.ジョヴァンニに投げかけた。先ほど桜備大隊長が私の手を取った時、ささやかれた内容が頭をよぎる。リサの漁り火に消火グレネードを仕込んで、すべての漁り火に消火グレネードを仕込むために、火虎の体内にもそれを仕込ませ、リサの漁り火に向けて放つ。そして、準備が整った時、火虎と桜備大隊長の名を同時に呼び、それに合わせて動いた結果が今ここにある。
Dr.ジョヴァンニに一瞬の動揺が走ったが、すぐに冷静さを取り戻した。
消火グレネードで漁り火の能力が消失したリサが、ゆっくりと上から落ちてくるのが見えた。ヴァルカンは優しく彼女を受け止めた。その時、驚いたリサの表情と目が合い、桜備大隊長は穏やかに言った。
「炎の能力がなくても、あなたを守ってくれる人がそこに、いるんじゃないですか」
リサは桜備大隊長からヴァルカンに視線を移した。ヴァルカンはリサの表情を見て、彼女の鼻についた泡を親指の腹でそっと払い落とし、微笑んだ。
「ヴァるかんんんん……」
リサは溢れ出る涙を流しながら、嬉しそうにヴァルカンの名を呼んだ。地下の冷たい空間が、一瞬だけ温かさに包まれた。それはまるで、硬く閉ざされた心の扉が、ようやく開き始めたかのような瞬間だった。
だが、その温かな瞬間を壊すように、Dr.ジョヴァンニの冷酷な声が響いた。
「何を勘違いしているフィーラー」
その声は氷のように冷たく、地下の空間を再び緊張感で包んだ。