第弐章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Dr.ジョヴァンニに狙いを定めるが、その前に漁り火が立ちはだかる。火虎は向かってくる漁り火に鋭い爪で弾き返し、時折牙をむいて噛み付くことで、その攻撃を防ぐ。火花が舞い、地下に緊張した空気が漂う。
「カンに障るジジィだな!!」
桜備大隊長は防火服に隠していた消化器を手に取り、一気に漁り火を消化しようと試みた。しかし、漁り火は全く消える様子を見せず、逆に桜備大隊長の頭部を攻撃し、バチッと音を立てて衝撃を与えた。
「そんな消化器で私の炎を消せると思っているのか!?」
リサは冷たく睨みつけ、嘲笑するかのように言った。そして、勢いを強めた漁り火が消化器の威力を押し切り、桜備大隊長の腹部に攻撃をぶつけた。
「ぐあッ!」
桜備大隊長は苦しげに呻き声を上げる。私は振り返って叫んだ。
「桜備大隊長!!」
「余所見している余裕があるんだな、絵馬 十二!」
リサの漁り火が私に向かってくるのが目に入り、私は槍伸縮型で反応する。それでも漁り火の勢いはすさまじく、弾き返されるかのように私の身体は後退せざるを得なかった。漁り火から離れた火虎が私の前に移動し、私を護るようにリサに牙を向く。
「無駄だよ桜備大隊長!?」とヴァルカンが叫んだ。
「ええいなんのォ!!」
桜備大隊長は諦めずに消化器で漁り火を消化し続ける。だが、状況は先ほどと同じだった。漁り火は消化器の効果をまったく受け入れず、再び桜備大隊長に攻撃をぶつけた。リサが冷たく言葉を放つ。
「さっきからふざけているのか?」
「ふざけていませんよ」
桜備大隊長は地面に膝をつき、一瞬で息を整えながら立ち上がる。
「あなたはその炎の触手が自分を守ると言ったが……私には炎に囚われて苦しんでいるようにしか見えません。本当に、その炎はあなたを守ってくれていますか?」
桜備大隊長の言葉は、心からの訴えを投げかけているように感じた。しかし、リサの目には冷徹さが浮かんでいるだけだった。
「何を言う。この能力で私は炎の恐怖と悲しみから解放されたんだ」
「炎の、その触手があなたを守っているのならなぜ、そんな不安な顔をしているんですか」
「私に不安なんてない!!」
桜備大隊長の言葉を否定するかのように、リサは叫んだ。漁り火が再び猛烈な勢いで燃え上がり、地下は激しい戦いに巻き込まれていく。
「勝手なことを言うな!!」
漁り火が私と桜備大隊長に狙いを定め、襲いかかった。
「火虎!もう一度!」
火虎はすぐに私の指示を受け、その鋭い爪と牙で再び漁り火に立ち向かう。私は、漁り火をすり抜けてDr.ジョヴァンニを狙った。
「遅いな……絵馬 十二」
槍を大きく横に振り、Dr.ジョヴァンニの横腹を狙うが、Dr.ジョヴァンニは後ろに下がり攻撃をかわす。
「伝導者に頭を下げたお前が、どうしてコイツらの味方をするのか私には理解できない」
「デタラメなことを言うんじゃねェよ!!」
「……まだ、全て戻ったわけではないのか」
Dr.ジョヴァンニは私の言葉で何かを悟ったようだ。背後から漁り火が迫っているに気づき、槍伸縮型を地面に突き刺して私は垂直に飛び上がり、それをかわす。漁り火に槍を奪われないように回収しつつ、こちらに駆け寄ってくる火虎の背に飛び乗った。
ーードシャ。
桜備大隊長が漁り火の攻撃を受けて地面に崩れ落ちるのが視界に入った。火虎は身を低くし、再び漁り火に向かって猛然と突進する。全ての漁り火がこちらを向いたその瞬間、火虎と私は一心同体のように次々と漁り火をかわしていった。
「火虎!」
私は火虎の背から飛び降り、桜備大隊長たちの元へ急いだ。
「大丈夫ですか、桜備大隊長!?」
「あぁ。絵馬……」
私は桜備大隊長に手を貸す。私の手を取った瞬間、桜備大隊長は私の耳元でボソッと囁いた。私はDr.ジョヴァンニに悟られないように僅かな合図を送り、火虎を呼び寄せてから再び漁り火に攻撃をぶつけ、私たちの時間を稼ぐように指示を出す。
「戦場に消化器なんて無駄なモノを持ってきて、バカな男だ」
Dr.ジョヴァンニの冷徹な笑い声が私の耳に入ってくる。桜備大隊長はゆっくりと立ち上がりながら反論した。
「あんただって元消防官だろ?危険な現場を知っているはずだ……」
桜備大隊長は、ドンと消化器を地面に置いて叫んだ。
「消防官のモットーは、人命と財産を守ること!!救援具が無駄になることはない!!」
その言葉には揺るぎない信念と熱い思いが込められていた。私たち全員の運命を照らし出す光のように感じられた。
すると、Dr.ジョヴァンニは興味なさそうにリサに命令を出した。
「やれ」
「は……はい」
リサの戸惑いが一瞬だけ見えるが、すぐにリサはDr.ジョヴァンニの命令に従った。火虎から逃れた漁り火が、再び私と桜備大隊長を襲う。私は槍伸縮型で受け止めるが、その反動で少し後方へ吹っ飛ばされる。それでも、直ぐに体勢を立て直した。
しかし、桜備大隊長は勢いに負けて後方の壁に追いやられ、漁り火と壁に挟まれるように叩きつけられた。
「桜備大隊長!火虎!!」
私は桜備大隊長に向かって叫んだ後、火虎をこちらに呼び寄せ漁り火を弾き返す。リサは冷静に桜備大隊長に言葉を放った。
「その甘さが命とりだ。人命を救う一心で……自分の命を捨ててしまっては意味がない」
「こう見えても私は自分の命を粗末にすることはしません。リサさんを救う準備をしていたんです」
その瞬間、防火服からスイッチを取り出し、手に持つ桜備大隊長。
「お待たせしました」
カチ。スイッチの音が地下に静かに響き渡る。その一音が全ての状況を転換させる瞬間だった。リサの漁り火がドパンと音を立てて、次々と消滅し始めた。
「これは消火グレネード‼︎桜備め、やられているフリをして触手一本一本にこんなモノを仕込んでいたのか!」
Dr.ジョヴァンニの声に驚愕の色が走る。桜備大隊長の計画が成功したことを確信した。
「俺だけではない、絵馬にも協力してもらったんだよ」
「”敵を欺くにはまず味方からだ”だっけ?まぁ、あんたのこと味方とは思ってねェけどね」
ヴァルカン工房での教訓を思い出し、私はその言葉を冷たくそっくりそのままDr.ジョヴァンニに投げかけた。先ほど、桜備大隊長の手を取った際にささやかれた内容が頭をよぎる。リサの漁り火に消火グレネードを仕込んでいること、全ての漁り火に消火グレネードを仕込むために火虎の体内に消火グレネードを仕込ませて、リサの漁り火に向けて放つ。準備ができたら、火虎と桜備大隊長の名を同時に呼ぶ。その指示通りに動いた結果が今ここにある。
Dr.ジョヴァンニに一瞬の動揺が走ったが、その後すぐに冷静さを取り戻す様子が見えた。
消火グレネードで漁り火の能力が消滅したリサ。ゆっくりと上から落ちてくる彼女をヴァルカンが優しく受け止める。驚いたリサの表情と目が合った桜備大隊長はこう言った。
「炎の能力がなくても、あなたを守ってくれる人がそこに、いるんじゃないですか」
リサは桜備大隊長からヴァルカンに視線を向ける。ヴァルカンはリサの表情を見て、リサの鼻についた泡を親指の腹でそっと払い落とし、微笑んだ。
「ヴァるかんんんん……」
リサは溢れ出る涙を流しながら嬉しそうにヴァルカンの名を呼んだ。地下の冷たい空間が一瞬だけ温かさに包まれる。まるで硬く閉ざされた心の扉が、ようやく開き始めたかのような瞬間だった。
しかし、その温かな瞬間を壊すように、Dr.ジョヴァンニの冷酷な声が響いた。
「何を勘違いしているフィーラー」
その声は氷のように冷たく、地下の空間を再び緊張感で包んだのだった。