第弐章
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火鳥の背に乗って戻る途中、先ほどの揺れの影響で地下の床や壁には無数の空洞が見えた。空洞の奥から響く衝撃音が、静寂を押し破り、異様な感覚をもたらしている。
「こっちでも、あっちでも音が聞こえる……もしかして、私たちはバラバラになってしまったのか……」
薄暗がりの中、目を凝らすと、数十メートル先に不気味な2つの影が揺らめいていた。それを確認するやいなや、抑えきれない怒りが胸の中で爆発した。
「Dr.ジョヴァンニッ!!!」
怒り声が地下の闇に響き渡る。私の叫びに反応し、Dr.ジョヴァンニはくるりとこちらを向いた。その冷徹な姿は、まるでこちらの動きを掌握しているかのようだった。闇の中で、Dr.ジョヴァンニの白い手が光を反射してひらめく。その指先が軽く動くと、次の瞬間、凄まじい勢いでDr.ジョヴァンニの手がこちらに狙いを定め、私に向かって飛んできた。
心臓が一瞬、冷え込む。その刹那、Dr.ジョヴァンニの背後にいた桜備大隊長の叫び声が耳に飛び込んできた。
「絵馬!避けろ!!」
桜備大隊長の声が廃墟と化した地下鉄の暗闇に響く。私は瞬時に反応し、素早く火鳥から飛び降りた。その動きは練り上げられたもので、訓練の賜物だった。地面に転がりながら、Dr.ジョヴァンニの手が空を切る音が耳に入る。
火鳥がリサの能力により捕らえられてしまった瞬間、その隙を突くように、私は素早く体勢を整え、横をすり抜けた。リサの目が一瞬驚愕に見開かれたその隙に、私は桜備大隊長とヴァルカンに合流することに成功した。
「遅くなってしまってすみません!なんとか間に合いました」
「姉さん!……姉さんの方こそ大丈夫か?」
「私は問題な……いや、あるけど。今はそれどころじゃないから平気」
私の声は少し裏返りながらも、冷静さを保とうとしてた。
「状況は言わなくても大丈夫。この状況とここに来るまでの間に見た状況でなんとなく把握できているから」
そう言って私は、冷たい視線でDr.ジョヴァンニと白装束を身にまとったリサを見つめた。リサは能力で火鳥を消滅させてこちらを見下ろすと、リサの能力、漁り火がユラりと動いたその瞬間、桜備大隊長とヴァルカンに漁り火が絡みつく。私は大隊長たちに絡まる漁り火を外そうと……。
「絵馬 十二。コイツらが消し炭になりたくなければ、動かぬことが賢明な判断だ」
「くっ……」
Dr.ジョヴァンニの言葉に私は奥歯を噛み締めながら、槍先を地面に突き刺して大人しくするしかなかった。Dr.ジョヴァンニは不敵な声で桜備大隊長たちに向かって言った。
「クククク。お前たち無能力者が私たちに勝てるわけなかろう」
「リサ……」
「リサさん止めるんだ!!」
桜備大隊長が必死にリサに呼びかける。ヴァルカンは驚いた表情でリサを見つめた。しかし、リサの目は情け容赦なく、私たちを静かに見つめていた。Dr.ジョヴァンニはさらに断定するように言った。
「人体発火が蔓延するこの世界で、対応できない無能力者は死ぬしかない」
そう言って、リサを見上げるように視線を移す。
「だが……リサは能力に目覚めた。”蟲”との適合によってな……」
「Dr.ジョヴァンニ!あんた、リサさんに”蟲”を使用しやがったのか!?」
私はキッとDr.ジョヴァンニを睨みつけた。リサはゆっくりと話し始めた。
「絵馬 十二。私の両親はあんたと同じ”焔ビト”が原因の火事で死んだ……。それ以来、私は炎を恐れたが、”蟲”により目覚め恐怖は消えた。同じ境遇を持つあんたの名をジョヴァンニから聞き、私は自ら”蟲”との適合実験にこの身を捧げた」
リサの話を聞きながら、私は首を横に振った。
「それは違う!そんなのは間違ってるよ!」
「リサはダマされているんだ!!」
ヴァルカンも必死にリサを説得しようとする。桜備大隊長は静かに続けた。
「私も、かつてのリサさんと同じ無能力者です。炎の恐怖も消防官として職務を全うする中で、身を以て味わっています」
そう言いながら、防火服のポケットからヴァルカンが造作したと思われるボール、鉄マジロを取り出した。そのボールは緩やかに磁波を発し、身体に巻き付いていた漁り火を弾き返した。それを合図に、私は地面に素早く絵を描く。
「踊れ!”火虎”‼︎」
地面から炎をまとった火虎が現れ、私を守るように唸り声を上げた。桜備大隊長は防火服の中から斧を取り出し、その鋭い刃をきらめかせた。
「Dr.ジョヴァンニは、弱みに付けこんであなたを利用しているだけだ!」
「そう言いながらも斧を向けるのか?」
Dr.ジョヴァンニはあざ笑うかのように言った。
「あんたにだよ!!」
桜備大隊長はDr.ジョヴァンニに向かって駆け出し、斧を振りかざした。その瞬間、地下の廃墟に緊張感が張り詰め、一瞬の静寂が場を支配した。
Dr.ジョヴァンニが一歩後ろに下がるのと同時に、リサの漁り火がDr.ジョヴァンニを守るように猛然と前に出た。桜備大隊長を襲いかかる漁り火の勢いは凄まじかった。
「火虎!」
私は漁り火を止めるために、火虎に合図を送る。火虎は吼えながら漁り火に噛みつく。その力により、漁り火の動きは一瞬鈍った。桜備大隊長はその瞬間を見逃さず、向かってくる漁り火を瞬時に受け止めた。
「止めるんだ、リサさん!!こんな奴、守っても意味はないぞ!!」
「私が纏うこの触手は磁気に反応し、自動的に私を守ってくれる……。怖かった炎が私を、守る存在になったんだ」
リサの目が冷たく硬直する。強さが増す漁り火に対し、素早く後退する桜備大隊長と火虎。その動きにより砂煙が立ち上がり、視界を覆っていく。私はほんの一瞬だけ目を瞑ってしまった。しかし、直ぐに眼を開けると、リサの冷酷な目がこちらを見据えているのを確認した。ヴァルカンは呟くように言った。
「リサをこんなにする”蟲ってなんなんだ!?」
「よくわからないが、適合できないと”焔ビト”になるようだ」
桜備大隊長は冷静に応える。
「クックックッ。気になるか?」
Dr.ジョヴァンニは仮面越しの視線をこちらに向け、その声は冷笑が滲んで私たち、いや、私を見つめているように感じた。紅を塗ったように真っ赤な炎を身にまとい、剣の切っ先のような鋭い牙と爪を持つ火虎が私を護るように前に出て、Dr.ジョヴァンニに唸っている。
「絵馬 十二。お前は自分の能力に気づいてないのか?」
「突然、何を言っている?」
「お前は薄々気づいているのではないか?」
Dr.ジョヴァンニは冷静に続けた。
「こちら側だと言うことに……」
その言葉に、私は心の中で立ち上がる不安を感じた。何かが私の内側でうごめくような感覚。それは自分自身でも認識していなかった深淵のようなものだった。
「なんだと⁉︎」
「姉さん!?」
桜備大隊長とヴァルカンが勢いよくこちらを振り返った。ハウメアに出会ってから知らない記憶が少しずつ溢れ出しているため、私は首を横に振ることは出来なかった。
「お前の能力は、今は宝の持ち腐れ。どうだ?こちらについて来れば、もっと能力を開花することが可能だ。紅丸 新門に並ぶ力を手に入れれるぞ?お前が求める真実も教えてやる」
あたりが沈黙に包まれた。Dr.ジョヴァンニの言葉に動揺しそうになる自分を抑え、私はすうっと息を吸ってゆっくりと吐いた。
「桜備大隊長、ヴァルカン……動揺する気持ちはわかりますが、今は……どうか私を信じてください!!」
私を冷静に見つめる桜備大隊長は、ゆっくりと頷き、その眼差しには深い信頼が宿っていた。
「ああ、絵馬。信じているさ」
その瞬間、私の心に一筋の暖かさが広がった。そしてその暖かさが、不安と闘うための力をくれていた。そうしてくるりと槍伸縮型を回し、槍先をDr.ジョヴァンニに向けて怒鳴った。
「宝の持ち腐れだのなんだのは、あんたが決めることじゃない!私自身が決めることだ!!それと、私の大隊長は、新門 紅丸だ‼︎覚えとけェ!!」
Dr.ジョヴァンニは面白くなさそうに私たちを見つめる。
「これだから原国主義者は……この不思議な虫と炎の関係が、人体発火と何か関係あるとは思わんか?んん?」
「思うと言ったら」
桜備大隊長がそう言うと、Dr.ジョヴァンニの白装束の中がモゴモゴと動き出した。その瞬間、腹部から巨大なDr.ジョヴァンニの顔が現れ、叫んだ。
「教えてやらん!!絵馬 十二を残して、何も知らぬまま死ぬのだ、お前らは!!」
「火虎!!」
私の言葉を合図に、火虎が疾風のようにDr.ジョヴァンニに向かって駆け出した。