第弐章
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地下を走っている途中、突然、足元から不気味な音が響いてきた。まるで地面が唸り声を上げているかのようだ。足を止め、一瞬の静寂が訪れたその次の瞬間ーー。
地下の床が激しく揺れ始め、崩れ落ちる。土砂と瓦礫が地面を激しく叩きつけ、視界は一瞬で砂煙に包まれた。足元が急になくなる感覚に、心臓が跳ね上がり、重力に引かれるかのように、私の身体が下へと吸い込まれていくのが分かった。手が自然と床を掴もうと必死になったが、それも虚しく瓦礫に触れるだけだった。
私は危うく落下する寸前で、ぎりぎりのところで体勢を整え、ポーチから槍伸縮型を取り出し、槍先で何とか崩れた床の端に突き刺すことに成功した。
「危なかった……」
とゆっくりと息を吐く。穴が空いた床に向かって、
「アーサー!いたら返事して!」
とアーサーの名前を呼んでみたが、返事はない。必死でしがみつく私の耳に、頭上から冷たい声が届いた。
「助けてあげようか?」
驚いて見上げると、そこには見知らぬ少女が立っていた。王冠のような目隠しと頭頂で束ねた髪の少女。少女はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、私を見下ろす。その笑顔はまるで獲物を捉えた捕食者のようで、冷たい悪意を感じさせた。私は少女を睨みながら言った。
「あんた……伝道者の仲間だろ?」
「ピンポン!ピンポン!正解〜!」
少女は楽しむように私を眺める。
「どうして分かっちゃったの?」
「ハッ、白々しい。地下にいるのはあんたら伝導者どもか、私らのどっちかだろ?考えてみたら分かる」
「それもそっか」
とケラケラと笑っているが、狂気のようなものすら感じられた。少女は一歩前に歩み寄り、私の額に向かって指差してこう言った。
「正解したアンタに、ちょっとしたプレゼントあげる」
「……は?」
バチッと。私の頭に電流が走り、真っ白になった。突然、頭の中に記憶が蘇る。断片的な映像がいくつかフラッシュバックのように駆け巡り、脳内に混乱と痛みが走った。見たことがない光景、誰かの声、異様に鮮明な感覚が私を襲った。そんなことはあり得ないという否定的な思いが走る。
「思い出した?」
少女の笑顔はさらに深まり、冷ややかな笑みがただ何かを楽しんでいるかのようだった。
「……何だ、これは……?」
私は頭を抱かえながら、混乱の中で声を絞り出した。信じられない。この情報をどう解釈するべきなのか分からない。その時。突き刺していた槍先が床の端から外れ、一瞬のうちに私の身体が宙を舞った。
「バイバイー」
穴に落ちていく私に向かって、少女は楽しそうに手を振る。
「ハウメア!!」
私は無意識に、少女の名前を叫んでいた。名前を呼ばれた少女、ハウメアは嬉しさを表すかのように、その場でくるりと回転すると、どこかへ向かって私から離れていくのが見えた。
「このままじゃーー!」
脳内の混乱と痛みを感じながら、私は絶望的な状況の中で意識を集中させ、槍先を空中に向け、絵を描いた。
「踊れ!火鳥!!」
その叫びと共に、描かれた絵から猛烈な炎に包まれた火鳥が現れた。その火鳥は力強い羽を羽ばたかせながら、落下していく私を鮮やかにキャッチする。そして元いた場所へと戻ってくると、そこにはハウメアの姿はなかった。ハウメアはまるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消えていた。
再び足を着地させると、頭を抱かえ膝をつく。頭の中で記憶の断片が少しずつ浮かび上がる。
「あいつ……ハウメアはどこへ?」
私は頭を抱かえながら、ゆっくりと立ち上がる。白装束姿と王冠のような目隠しをている幼き子供が見える。多分、ハウメアだろう。ハウメアはこちらを見下ろし、
「助けてあげようか?」
と言って、こちらに手を伸ばす。伸ばされた手に応えるかのように、幼い自分の手が映る。そして、視線が切り替わり、もう片方の手には槍伸縮型が握られているのが目に入った。この映像は、もしかして、私の幼き頃の記憶なのだろうか。
「こんな記憶……知らない。きっと、何かの勘違いだろ……そうに違いない!」
と自分に言い聞かせるように呟いた。頭の中で過去の会話と出来事がフラッシュバックする。あの瞬間、ハウメアの微かな表情の変化。ハウメアから言われた言葉が頭にこびりついて離れなかった。
「あいつ……最初からこれを狙っていたな。私に、忘れていた記憶を思い出させるために……」
絶え間なく湧き上がる疑念と不安が、私の心を縛る。ハウメアが私に何を求めているのか、その意図すらも分からない。こんな記憶が蘇るということは、私の過去に何か重要な秘密が隠されているのだろうか。
「取り敢えず、今はアーサーを探さないと……」
そう言って、私は来た道を戻ることにした。