第弐章
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桜備大隊長は瞬時に反応し、アイリスの前へと踏み出て護り立つ。
「シスター、下がってください」
周囲の状況に一瞬狼唄しつつも、アイリスは素直に桜備大隊長の警告を聞き入れ、安全を求め数歩後へと下がった。
「勝手にあいた……魔法の扉か!!」
「そんなバカな」
とシンラが半信半疑の声でつぶやいた。しかしながら、シンラもまた不意に、隣にいる扉を凝視するアーサーと同じく不思議そうにその扉を眺めた。
「もしかしてアーサーが正解だったって……こと?扉は特定の言葉や祝詞で解かれるのかぁ……」
「絵馬さんもそう思うんですか!?」
私の言葉に戸惑うシンラ。アーサーはそうだろそうだろと頭を上下に振っていた。「ガコン」という大きな音と共に、扉はゆっくりと開かれた。
「おお、開いた開いた。電気は生きているみてーだな」
扉から視線を向けると、扉の真横にヴァルカンが立っていた。ヴァルカンの持つ手にはレバーが握られており、それをヴァルカンが作動させたことで扉が開いたようだった。
「あれ?祝詞で開いたと思ってたけど」
「お前か……おどろかすなよ!」
シンラもヴァルカンによって扉が開かれたことに、察したようで安堵する。桜備大隊長が開かれた扉の前に立ち、その開いた扉からは、何か不吉な予感を運んでくるかのような、冷たく不気味な風が吹き込んできた。
「わあー。くらい。ネザー」
「ネザー。やだーこわい……」
お互いの身体を寄り添わせ、怯える茉希とタマキ。開かれた扉の中央に立つ桜備大隊長を見て、「中に何があるんだ?」と地下が気になり、うずうずし出すアーサー。そして、桜備大隊長に近づき、
「中に何があるんだよ!!見せてくれ」と、背中を押した。
「わ!!お……押すな!!」
アーサーに背中を押された桜備大隊長は数歩、地下へと足を踏み入れた。
「うおおーー。入っちゃたよ!!」
と叫ぶ桜備大隊長を先頭に、ぞろぞろと第8小隊は地下へ入っていく。ヴァルカンが軽やかに笑いながら言った。
「大隊長、ビビリすぎだ」
「だって地下だぞ……」
桜備大隊長は微かに声を震わせ、辺りの暗がりを睨みつけながら応じた。火縄中隊長が茉希の側に近づくと、落ち着いた声で言った。
「マキ……灯りを」
「あ……エッと……は……はい。プスプス」
茉希はすぐに反応した。茉希はヴァルカンが造った武器に入っていた火の玉、プスプスを呼び出す。ほんの数秒のうちに私たちを取り巻く暗闇をやわらげ、前に進む道を照らし出した。
プスプスの灯りを頼りに、私たちは地下を歩き続けた。地下から吹く風は冷たく渦を巻いていて、墨のような闇に侵されている。桜備大隊長が強い声で部隊に向かって言葉を投げかけた。
「今いる場所が地獄であることを忘れるな。伝道者の拠点、人体発火の謎はここにある……油断せず進もう」
その言葉は、重く湿った空気の中を響き渡り、私の心を冷たく包んだ。この任務の重大さに改めて感じ、不安と決意が渦巻く中で、それでも前へと進む勇気を振り絞る。私はプスプスの灯りに照らされる仲間の顔をちらりと見やりつつ、この先にある真実を暴くことだけを考えて、一歩ずつ前進を続けた。その時だった。数メートル先でガサと物音がした。
暗闇の中から、影がゆっくりと立ち上がるような感じで、次第に人の輪郭が浮かび上がり霞んでいた姿が実体へと変わった。
「来ちゃ……ダメだ……」
その声の主が誰であるかを確認する間もなく、弱々しい声と共に、火華大隊長が私たちの前に現れた。
「火華大隊長!!」
シンラが叫んだ。火華大隊長はこちらに手を伸ばし、恐怖に震えながら、
「た……たす……たすげでェェ!!」
と声を上げた。そして、再び暗闇に引きずり込まれるように消えていった。火華大隊長は暗闇に囚われ、叫び声を上げる。闇の中で響く叫び声は、絶望と恐怖が渦巻く世界を表現していた。私は息を飲み、その場に立ち尽くす他の隊員たちと目を合わせた。そのとき、桜備大隊長が鋭い声で言った。
「なぜ、こんなところに火華が……。あの本物そっくりに化ける能力者かもしれない」
「浅草の時のアイツか……?」
と呟くシンラ。私は頷きながら、
「その可能性はあるね」
放った言葉が自分自身の心に、さらなる緊張を走らせたのだった。桜備大隊長は声の調子を変えた。
「少なくとも、これでここに敵がいることは確信した……彼女が本物の可能性も踏まえ、総員このまま突入する。行くぞ!!」
地下に突如として霧が発生し始めた。はじめは薄い霧だったが、次第に視界を完全に遮るほどに濃厚なものへと変わっていった。
「霧!?みんな離れるな!!」
桜備大隊長の警告が、地下内に瞬く間に広がる霧の中で響き渡った。しかし、霧はあまりにも濃厚で、ほんの数メートル先さえも見えなくなっていく。鼻の先にいたアーサーが突然身構え、
「ム?向こうに誰かの気配がする!」
と叫んだ。その声は霧に溶け込むようにして、アーサーの姿もまた、私から見えなくなっていった。
「アーサー!?今、桜備大隊長が離れるなと言ったばかりなのに……あー!もうっ!」
私の声は、アーサーの後を追う決意と共に霧の中でこだまする。この前の星宮中隊長を探す時も、いつの間にかに迷子になっていたのに。ここでも迷子にならないでよ。はぁっと。私の中で呆れが募る。霧の中、私はアーサーの名前を叫びながら彼を追った。