第弐章
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桜備大隊長が一瞬で反応し、アイリスの前に立ち塞がった。その動きは、まるで本能的に危険を察知したかのようだった。
「シスター、下がってください」
周囲の状況に一瞬狼唄しつつも、アイリスは素直に桜備大隊長の警告を聞き入れ、安全を求めて数歩後退した。
「勝手にあいた……魔法の扉か!!」アーサーが叫んだその声は、驚きと興奮が入り混じっていた。
「そんなバカな」
シンラが半信半疑で扉をじっと見つめる。その目は疑念と驚きの入り混じった色をしていた。私もその場に立ち尽くし、ただただ扉を見つめるしかなかった。
「もしかして、アーサーが正解だったって……こと? 扉は特定の言葉や祝詞で解かれるのかぁ……」
「絵馬さんもそう思うんですか!?」
シンラが戸惑いながら私に尋ねる。その声に、少し焦りが混じっているのを感じる。
私は答えることなく、ただ黙って視線を移した。その時、「ガコン」という大きな音が響き渡り、扉がゆっくりと開き始めた。
「おお、開いた開いた。電気は生きているみてーだな」
視線を移すと、ヴァルカンが扉近くに立っていた。彼の手にはレバーが握られており、それを操作して扉が開いたのだろう。祝詞ではなかったのか。扉の開く音がまだ耳に残っている。
「あれ?祝詞で開いたと思ってたけど」
「お前か……おどろかすなよ!」
シンラはすぐにその事実に気づき、安堵の表情を浮かべた。しかし、その安堵も一瞬のことだった。次第に、開かれた扉から流れ込む冷たい風に、皆の表情が硬直していく。
桜備大隊長がその扉の前に立ち、開かれたその先に何が待っているのかをじっと見つめている。
「わあー。くらい。ネザー」
「ネザー。やだーこわい……」
お互いの身体を寄り添わせ、怯える茉希とタマキ。私はただ、彼女たちの後ろでその様子を見守っていた。そして、不意に、アーサーが前に進み出るのを見た。彼の目は好奇心で輝き、地下の中身が気になって仕方ない様子だった。
「中に何があるんだ?」アーサーは興奮気味に言う。彼の目には、恐れよりも興味が強く感じられる。
「中に何があるんだよ!!見せてくれ」と、今度は桜備大隊長の背中を押した。
「わ!!お……押すな!!」
桜備大隊長が驚き、少しよろけながら足が地下に踏み入れていた。彼の顔には、強張った表情が浮かんでいる。
「うおおーー。入っちゃたよ!!」
桜備大隊長が叫んだその声には、少しの興奮と同時に、微かな恐怖が混じっていた。
その声に反応するように、私たちは次々と地下へ足を踏み入れ始める。ヴァルカンがその後ろで、軽く笑いながら言った。
「大隊長、ビビリすぎだ」
「だって地下だぞ……」
桜備大隊長は微かに声を震わせながら、その暗闇を睨みつける。
その時、火縄中隊長が茉希の横に近づき、冷静な声で言った。
「マキ……灯りを」
「あ……エッと……は……はい。プスプス」
茉希がすぐに反応した。ヴァルカンが造った武器、その中に入っていた火の玉、プスプスを呼び出す。ほんの数秒のうちに私たちを取り巻く暗闇をやわらげ、前に進む道を照らし出した。
プスプスの灯りを頼りに、私たちは地下を歩き続けた。地下から吹く冷たい風は、まるで何かが私たちを試すかのように渦を巻き、ひんやりと肌を撫でていった。周りの闇は深く、まるで私たちを飲み込もうとしているかのようだ。
桜備大隊長がその静寂を破るように、強い声で部隊に向かって言葉を投げかけた。
「今いる場所が地獄であることを忘れるな。伝道者の拠点、人体発火の謎はここにある……油断せず進もう」
その言葉は、冷たく湿った空気の中を鋭く響き渡り、私の胸に重く突き刺さった。私はその言葉に、改めてこの任務の重大さを実感した。目の前の仲間たちを照らすプスプスの灯りを頼りに、心の中で決意を固め、一歩また一歩と踏み出した。
だが、その時、数メートル先から突然、ガサリという物音がした。私の足が一瞬止まる。その音は、ただの風や物の落ちる音ではない。何かが動いている、何かがこちらに近づいている。
暗闇の中から、影がゆっくりと立ち上がるような感じで、徐々にその輪郭が浮かび上がる。そして、霞んでいた姿が次第に実体を持って現れた。その人物が誰かを確認する間もなく、弱々しい声が響いた。
「来ちゃ……ダメだ……」
「火華大隊長!!」
シンラが叫んだ。彼の声には驚きと困惑が混じっている。
火華大隊長は、震える手を差し出し、恐怖に満ちた目で私たちを見つめていた。その顔は、かつての頼りがいのある姿とは全く異なり、何かに呑み込まれたかのように恐怖で歪んでいる。
「た……たす……たすげでェェ!!」
その声は、震え、必死に助けを求めるようだった。しかし、その叫びが終わると、再び暗闇の中に引き込まれるように、火華大隊長の姿は消えていった。
私たちはただその場に立ち尽くし、耳を澄ませていると、暗闇の中から彼女の叫び声が再び響いてきた。絶望的なその声は、まるで闇に囚われているかのように響き渡り、私たちの心に重くのしかかった。
私は息を飲み込み、他の隊員たちと視線を交わす。そのとき、桜備大隊長が鋭い声で言った。
「なぜ、こんなところに火華が……。あの本物そっくりに化ける能力者かもしれない」
「浅草の時のアイツか……?」
シンラが呟く。その言葉に私は反応し、無意識に頷いてしまった。
「その可能性はあるね」
桜備大隊長は一度息を呑んだ後、声の調子を変えて言った。
「少なくとも、これでここに敵がいることは確信した……彼女が本物の可能性も踏まえ、総員このまま突入する。行くぞ!!」
地下に突如として霧が発生し始めた。最初は薄く、空気の中にただ漂うようなものでしかなかったが、時間が経つにつれてその濃度は増し、ついには視界を完全に遮るほどにまで変わった。
「霧!?みんな離れるな!!」
桜備大隊長の警告が、急速に広がる霧の中で響き渡る。しかし、霧はあまりにも濃く、数メートル先さえも見通すことができなくなった。目の前のアーサーが突然、身構える音がした。
「ム?向こうに誰かの気配がする!」
アーサーの姿が、次第に霧の中で消えていく。まるで、彼の存在そのものが霧に溶け込んでいくようだった。
「アーサー!?今、桜備大隊長が離れるなと言ったばかりなのに……あー!もうっ!」
思わず声を上げる。どうしてこうなるのか。あの時もそうだった。星宮中隊長を探すとき、彼はいつの間にか迷子になっていた。あのときの二の舞にならないようにしないと——。
「はぁっ……」私は思わず息を吐き出した。霧の中で何も見えないこの状況に、再び呆れがこみ上げてくる。この場で迷子になるわけにはいかないのに、アーサーが突如として姿を消し、私は彼を追わなければならないという現実が圧し掛かっていた。
霧が深くなる中で、アーサーの名前を必死で叫びながら、私は彼の後を追った。