第弐章
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ーーーー3日後
私は第8教会に来て、門内へと入る。教会の扉を開けて教会内へと足を踏み入れ、長い廊下を歩き、ある一室の扉を開けた。
デスクの椅子に座っている桜備大隊長が私に気づき、こちらを見つめる。
「急に呼んで悪かったな、絵馬」
「いえ。大丈夫です。それよりも……大事な話とはなんでしょうか?」
そう言うと、桜備大隊長は一息吐いてから言った。
「昨日、リヒト隊員が敵の本拠地を特定したんだ」
桜備大隊長のデスクに歩を進めた私は、
「場所はどこですか⁉︎」と尋ねる。
桜備大隊長はデスクの引き出しから書類を数枚引き出してデスクの上に置き、「これを見て欲しい」と強く言った。
私は書類に目を移した。書類に記載されている内容と写真を見た私は、
「こ、これは」と声を漏らす。
「ヴァルカンの工房周辺の調査書と白装束の奴らが残した痕跡の結果内容だ。リヒト隊員の調査結果によれば、伝導者は地下(ネザー)にいることが分かった」
「ネザーにですか……」
「あぁ」
桜備大隊長は頷く。私は玉のような汗が頬を流れ落ちるのを肌で感じた。まさか、伝導者が地下(ネザー)に身を潜めていたなんて思ってもいなかった。だが、浅草・ヴァルカン工房で騒動を起こした奴らが何処を探しても見つからなかったからこそ、リヒトが結論づけた答えに私はすんなりと納得出来た。
「そこで一つ……絵馬に頼みたいことがある」
「はい」と、私は桜備大隊長を見つめ言葉を待つ。
「地下に行くには、聖陽教会の許可が必要となる。そして、聖陽教会と関わりが深い第1消防隊にも一度、書類に目を通してもらうことになる」
「……つまり、私は第1消防隊のバーンズ大隊長に書類を渡したら良いのですね」
「話が早くて助かる。俺は昨日、聖陽教会の方へおもむき、書類を提出している。その報告が今日中にはくるからここを離れることができない」
「分かりました。ですが……」
デスクに置いてあった書類を私に渡そうとした桜備大隊長が顔を上げる。
「火縄中隊長ではなくて……何故、私なのでしょうか?」と私が尋ねると、桜備大隊長が言った。
「絵馬が第1に行った方がスムーズに行くかと思ってな。それと、カリム中隊長にだけ渡して欲しい封筒があるから、接点がある絵馬になら、怪しまれずに渡せると思ったからだ。頼めるか?」
「承知!」
そう言って私は、桜備大隊長から書類と封筒を受け取った。
私は第一特殊消防大聖堂に向かった。近くにいたシスターや神父にカリムの居場所を聞きながらある建物へと向かう。
「ここには正直入りたくないんだけどなぁ……」
とポツリと呟いて見上げる。目の前には大聖堂の扉がそびえ立つ。シスター、神父が太陽神を祈る場所。シンラ達を引率した時に入った場所でもある為、記憶が新しい。私はゆっくりと扉を開けて中を覗く。
「くどくど野郎いる……?」
聖堂に自分の声が響くだけで、返事はなかった。ざっと中を見渡すが人のいる気配はない。中に入り、中央回廊の先にある高祭壇の所まで歩を進める。そして、一段一段と高祭壇の階段を登った。顔を上げると、半立体の彫像がこちらを見下ろすように待ち構えていた。
高い窓から射し入る陽の光がステンドグラスの加減で、虹ともつかない彩りが彫像を照らす。
「太陽神……」
皇国の皆が信仰する神。太陽神がそこにあった。いや、いた。神の似像として崇められている神像。
「本当に、存在していたのだろうか?」
と言葉が洩れた。今の言葉をアイリスやカリムの耳に入れば、怒られるだろうなと想像出来てしまい、私はフッと鼻で笑った。気が緩み、手に抱かえていた書類が何枚かヒラヒラと床に向かって落ちる。
「あ!」
私は書類を汚さないように、両膝をついて書類を床から拾い上げると同時に、背後から扉が開く音が聞こえた。
「絵馬……」
と名を呼ばれた気がして、私は拾い上げた書類を両腕に抱かえ両膝をついたまま、ゆっくりと首だけ振り返った。視線の先には、バーンズ大隊長が扉を開けたまま驚いた表情でこちらを見つめて立っていた。ふと、ステンドグラスの光が視界に入り、私は焦点をあわせるようにパチパチと瞬きをする。
「絵馬!」
と。今度は、はっきりと名を呼ばれたのが耳に入る。光が移動し視界が開かれると、高祭壇に向かって早足で歩いてくるカリムが見えた。私は立ち上がり、一段一段と階段を降りてカリムに近づく。
「どこにいっていたの?ここにいると思ってたのに」
「あ?絵馬が俺を探していると聞いたから絵馬を探していただけだ。てめェこそ、あちこちふらふらしてんじゃねェよ」
「それはこっちのセリフなんだけど」
私とカリムはお互いに睨み合い火花を散らす。
「よさぬか、お前たち」と小さくため息をつきながらこちらにやって来るバーンズ大隊長。先程の表情ではなく、いつも通りの表情に戻っていた。
バーンズ大隊長に言われカリムは合掌、私は軽くお辞儀をする。顔を上げ、バーンズ大隊長と目を合わす。
「桜備大隊長より、バーンズ大隊長宛てに書類を預かっています」
両腕に抱かえていた書類をバーンズ大隊長に手渡した。私から書類を受け取ったバーンズ大隊長は、書類に目を通す。そして、書類から私に顔を向けて言った。
「……なるほど。伝導者は地下にいると」
「はい」
私は頷いて言葉を続けた。
「聖陽教会には、これと同じ書類を昨日桜備大隊長が提出しに行っております」
「……行くのか?」
こちらを見つめるバーンズ大隊長に、もう一度私は首を縦に振った。
「行きます!第8小隊の一人として!」
「そうか」
そう言って、ゆっくりと瞬きをしたバーンス大隊長は私に背を向けた。
「死ぬなよ」
「承知です」
私の返事を聞いたバーンズ大隊長は、書類を持って大聖堂を後にした。
バーンズ大隊長の姿が見えなくなってから私は大きく息を吐いた。
「〜〜ッぷはァ!!緊張したぁ〜〜……」
「おい、ワガママ女」
カリムの視線を感じて視線を向ける。カリムが慌てた口調で訊いてきた。
「伝導者の居場所が居場所が地下って、本当なのか?」
私は頷いて返事をした。
「本当だよ。第8の化学捜査隊員がそう推測した。バーンズ大隊長に渡した書類には、その調査結果が記載されている」
「で、その書類と同じ書類を聖陽教会にも提出していると?」
バーンズ大隊長との会話の様子でなんとなくカリムは理解しているようだ。
「後は聖陽教会から許可が出るのみ。この件については、後々聖陽教会から各消防隊に伝達が入ると思うよ」
私は言ったあとカリムに、ポケットから一枚の封筒を渡した。
「桜備大隊長からカリムにと」
そう呟くと、カリムは私の手から封筒を受け取った。封を開け、内容を確認するカリム。そして、それをローブの裏ポケットに入れてから、代わりに私にバンダナを手渡してきた。
「フォイェンから預かっていたものだ。”ありがとう”とよ。」
「リィ中隊長の容態は?」
「徐々に徐々に回復はしている。もう少ししたら、第1に復帰する」
カリムの言葉に、本当に良かったと私は呟いていた。バンダナを受け取った手で拳を作り、カリムに差し出す。
「行ってくる」
「憎たらしいてめェの顔を見なくて精々するわ」
「あ?やんのかコラァ?」
カッコ良く決めたのにほんとこいつは、ムカつくなぁと私はカリムを睨む。カリムは鼻で笑うと、嫌みったらしい笑みでコツンと拳を突き合わせた。