第弐章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「人差し指と親指を内側に……。気の流れを足の方に集める感じで……」
シンラは紅丸の言葉を繰り返す。その彼の背中を、私は少し離れた場所から見守っていた。先程の爆発の影響を考え、警戒を怠らない。
「絵馬ーー。あいつ、またひょっとこみてェな顔をするんじゃねェーか?」
「ウヒェヒェヒェ。ゲロブサだぜーー!」
「二人とも!今は、しっだよ。しっ!」
私は小さく人差し指を口にあて、ヒカゲとヒナタに注意を促す。ウヒェヒェヒェと彼女たちは笑うと、地面に寝そべっている火犬の背に乗って、庭の端を時計回りに走るように指示を出した。火犬はヒカゲとヒナタを背に乗せたまま、ゆっくりと立ち上がり歩き出しす。
「十二小隊長の能力って、変わってるスね」
振り返ると、縁側で腰を下ろしていたリヒトがこちらを見つめていた。
「シンラ君の能力も凄いスけど……十二小隊長の能力は、第二世代でありながら、第三世代のように自在に炎を操作している。しかも、炎は防火すれば間接的に触れることが可能。そのうえ、主人の指示なしで動く。まるで自我を持っているかのように」
リヒトはどこか興味深げに言った。
「……よく見ていますね」
「科学者なもので」
リヒトはニヤリと笑った。私から火犬に視線を向ける。
「第二世代の形状変化能力がずば抜けて高い。いや……それと、炎の制御能力も高いのか……。ここまで炎を上手く操れるなんて、天性の才能っスかね〜〜」
リヒトは、まるでおもちゃを見つけた子供のように、ヒカゲとヒナタを背に乗せて歩く火犬に目を細めている。
「もしかしたら、十二小隊長が持っている武器に何かしらの力が宿っているんでスかね?」
彼は再びこちらを見て話しかけてきた。その瞬間、私の中にちょっとした恐怖が走った。槍伸縮型を胸の前で抱きしめ、私は言った。
「これは、解体させませんよ!」
「僕、そこまで外道じゃないっスよ……」
リヒトは私の警戒を受けて、自ら笑っていた。
私は少しリヒトに警戒しながら、紺炉の隣に腰を下ろし、シンラの様子を見守った。
呼吸を整え、肩幅と同じくらいに両足を広げ、両手を地面に向けて目を閉じるシンラ。手がゆっくりと形を変えていく。人差し指を親指の付け根に、親指を小指の付け根にと。この型は、さっき紅丸がシンラに教えた虎ひしきだ。
シンラが両手を虎ひしきの手の型にした瞬間、一息吐き、その身体から砂煙が発生した。目の前が砂煙に覆われていく。私は直感的に目を閉じようとしたが、隣に座る紺炉が口を開いた。
「絵馬、目をつぶるな」
言われるがままに目を細め、なんとか目を瞑らずに済む。砂煙が徐々に収束し、シンラの行方を追った。すると、彼は一瞬で浅草上空まで飛び上がっていた。
「速ッ。あいつが見込んだだけのことはあるなァ」リヒトが呟く。
彼が「あいつ」と呼ぶ人物は、一体誰を指しているのだろう?灰島の研究仲間のことを言っているのだろうか。私は横目でちらりとリヒトを盗み見る。彼は私が見ていることに気づいていないようで、その表情は、感心とも納得とも取れる微妙なものであった。
「シンラ!今のを使って俺に仕掛けてみろ!」
紅丸が上空のシンラに向かって叫ぶ。その声に応えるように、シンラは「はい」と返事し、庭に降りてアーサーと共に紅丸の組手に参加した。
小気味のよいキックの炸裂音が響く。シンラが紅丸に右足のハイキックを繰り出す。しかし、紅丸はするりとかわす。そのすぐ後、アーサーが持つエクスカリバーが風を切り、紅丸の横腹を狙うが、彼は素早く手で防いだ。アーサーは数歩下がり、踏み込みは後ろ足を前の足、踵近くに寄せ、そこから前の足を踏み出して斬り込む。紅丸はその動きを見て、瞬時に距離を取った。
そんな二人の連携攻撃に、紅丸の無表情な顔が、かろうじて薄笑いで唇をほんの少しだけゆがめている。彼の嬉しそうな表情に、私は思わず頬を綻ばせながら言った。
「紅丸、嬉しそうだね」
「あァ。最初は嫌がってたが、若も楽しそうでなによりだ……。まァ若は、いつでも楽しそうだけどな」紺炉は微笑みながら頷く。
そのやり取りを見て、リヒトが半信半疑な表情を浮かべて呟く。
「あれが……。すごく不機嫌そうだけど……」
「教えがいのある奴らが来たからな。若もきっとはりきってんだろ。昔の絵馬を見てるみてェだからな」
「何言ってるの?紺炉。私の方がまだまだ教えがいがあるよ」私は冗談めかして言った。
「変なとこで張り合うんじゃねェよ」
紺炉は笑い、私の頭を軽く小突く。その瞬間、なんとも言えない温かい雰囲気が周囲を包み込む。シンラとアーサーが紅丸を相手に真剣な表情で取り組んでいるのを見ながら、私もまた彼らと共にこの瞬間を楽しんでいるのだと感じた。
「どうですか?」
「とりあえずサマにはなってきたな。あとは、横方向への移動に対応できれば問題ねェだろ」
紅丸の言葉は冷静で、的を得たものだった。紅丸の攻撃を受けて少し意識を失っていたアーサーが、ヨロヨロとしながらゆっくりと立ち上がる様子が目に入る。
「騎士は……。負けない……」
「あいつもへばってきたようだし、このへんで今日は終まいにするか」
紅丸はアーサーの様子を見て、シンラに合図を送った。シンラは頷き、アーサーに近づき、左腰を支えた。
「だいぶのされてたけど大丈夫か?」
「騎士だからな」
アーサーは通常通りの返答を返したが、彼の声にはいつもの力強さが感じられなかった。
「そろそろ晩飯の準備をするか。兄ィちゃんも食ってけよ」
隣に座っていた紺炉が、スッと腰を上げた。
「お言葉に甘えちゃっていいんスか?じゃあ、遠慮なく〜〜」
紺炉の言葉に、リヒトはニヤリと笑いながら見上げている。
「私も手伝う!」
私も縁側から立ち上がり、思わず声を上げた。
「シンラーー!アーサーーー!晩御飯食べていきなよ!」と叫ぶと、その声は庭に響き渡った。
「アザース!!」
シンラはニカっと笑い、元気よく返事を返した。くるりと向きを変え、私は紺炉の後に続いて食堂へと歩き出す。背後では、シンラが必殺技の命名を紅丸に伝えているが、躊躇なく却下する紅丸の声が風にのって耳に届いたのだった。