第弐章
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シンラは、手で指をキツネの形にしてみたり、足から発せられる能力の強弱を調整しながら、何かをつかみ取ろうとしている様子だった。だが、手応えがない。努力は見えるのに、うまくいっていないのが一目でわかった。
そのとき、「バァン!」という音が庭に響き、私は反射的に振り返った。居間の障子が勢いよく開き、ヒカゲとヒナタが元気よく縁側に現れた。
二人は私に駆け寄ると、私の両肩に顎を乗せ、まるでそこが彼女たちの遊び場であるかのように、耳元で声を張り上げる。
「絵馬ーー!遊べ!」
「姉々ーー!火犬だせーー!火犬!」
ヒカゲとヒナタは、無邪気に私の法被の袖を交互に引っ張り始める。
「ヒカゲ、ヒナタ。お前ェら、あっちで遊んでろ」
「文句は受け付けねェーぞー!紺炉」
紺炉の言葉に、ヒカゲとヒナタは、顔を風船のように膨らませ、拗ねた表情を浮かべた。そんな二人を見ながら、私は縁側から腰を上げると、彼女たちの手を引いた。
「端っこの方で遊ぼうか!」
「おい、絵馬……」紺炉の声が、少し困惑を帯びて私を呼んだ。その声の奥に、ほんの少しの諦めが含まれているのがわかる。
私はその声を無視するように、ヒカゲとヒナタの手を引きながら、庭へと足を踏み出した。背後で紺炉が小さなため息をつく音が聞こえたが、私は気にすることなく、彼女たちに導かれるままに進んでいった。
「わーい!」
ヒカゲとヒナタは、歓喜の声を上げ、急かすように私を庭へと引っ張っていく。そんな彼女たちの明るさに、私は思わず口元を緩ませながら、その手をしっかりと握った。
「踊れ!火犬!!」
私は槍伸縮型で地面に絵を描く。すると、炎を身にまとった火犬(大)が姿を現した。その瞬間、火犬は一気に走り出し、ヒカゲとヒナタも楽しそうに後を追う。私が指示した通り、端っこの方で駆け回る二人の姿を目で追いながら、ふと目線を離すと、少し離れた場所で紅丸とアーサーが真剣に組手をしているのが目に入った。
二人の攻防を静かに見守っていると、突然、アーサーのエクスカリバーが紅丸を狙い定め、その勢いで紅丸はそれを手で制止。反撃する紅丸を受け、アーサーは地面に吹っ飛ばされた。しかし、すぐにアーサーは再び立ち上がり、紅丸に向かって駆け出す。
その様子を遠くから見つめていると、ヒカゲとヒナタが私から離れ、シンラのいる方へと火犬を追って走り出す。私は二人の後を追うように、視線をシンラへと向ける。ヒカゲとヒナタがシンラの表情を見て、口を開く。
「ぜんぜん変わってねェぞ」
「けっきょく顔芸じゃねェか。バーカ」
シンラは、足を地面にしっかりとつけてから、二人に呟き返した。
「エーー!?そんな変な顔してたか……?」
「みっともねェーー顔してた」
「ゲロブサひょっとこだった」
ヒカゲとヒナタは彼を指差しながら答えた。私は、二人の無邪気な言葉を聞きながら、少し歩み寄り、シンラに言った。
「苦戦しているね、シンラ」
「絵馬さん。新門大隊長のように指をこう……色々と試してみて、見よう見まねでしているんですけど」
シンラはじっと、キツネのような型をした手を見つめている。手のひらをじっと見つめ、思案するその表情に、彼が試行錯誤を重ねているのが伝わってくる。
「この形でもだめか……。さっき、ちょっと炎が揺らいだ気がしたんだけど……」
その声に、ヒカゲとヒナタが楽しそうにシンラの真似をし始め、目の前の火犬を追いかけながらくるくると回っているのを見て、私は少し微笑みを浮かべた。火犬が紺炉のいる縁側へと走り出していくのを見た二人は、楽しげにその後を追う。
私は、改めてシンラに視線を向ける。シンラはまた呟くように言った。
「桜備大隊長がよくやっているよな」
そして、彼は中指と薬指を折り曲げ、両手を上に上げて力を込めて叫ぶ。
「ROCK ON!!」
その瞬間、シンラの足元から爆発音が轟く。私は驚き、顔を法被の袖で覆いながら、慌てて距離を取った。爆風で吹っ飛ばされて地面に叩きつけられたシンラ。そのまま、私は駆け寄り、彼を確認する。
「大丈夫、シンラ?」
シンラは、目を白黒させ、まだ手の形のままで「は?エ?」と困惑している。
「おーい、シンラ」
私は自分の手を彼に見えるように顔の前まで持っていき、小さく手を振った。彼がようやく気づくと、焦りながら「すいません!絵馬さん」と謝る。
私は少し首を振りながら、微笑みを見せる。
「大丈夫だよ!」
そして、私は一度確認するように言った。
「さっきの爆発でケガとかしてない?」
「……あっ、はい……」シンラは小声で呟いた。
その時、背後から声が響いた。
「シンラ……もう一度やってみろ」
振り向くと、紅丸がこちらに歩いてきていた。その背後には、地面に仰向けになり白目をむいて倒れているアーサーの姿が目に入る。アーサーは完全に動けていないようだ。私はその姿を少しだけ見つめてから、再び紅丸に視線を戻した。
シンラはゆっくりと立ち上がり、紅丸に向かって言った。
「新門大隊長が炎に力を入れるとき、いつも手をこうキメるので、自分もいろんな形にして試してたんです」
シンラは、紅丸がよくする指の形を真似して、次に爆発が起こった時のように指の形を変えた。
「で……。今は桜備大隊長がよくやってる……」
その言葉に一旦止まり、再び両手を真上に上げ、足に発火能力を発動させた。
「ウィーーーーって」
言葉と同時に、今度は爆発は起こらなかった。指の形で爆発。爆発というよりも、一気に火力が上がったから爆散したのかもしれない。
「似てる……」
思わず呟く。紅丸の横顔に目を向けると、彼は私の視線を感じ取ったのか、こちらを見て頷いた。
「わかりにくいから手袋外せ」紅丸は冷静にシンラに指示を出す。
「はい」
シンラは指示に従って、手袋を外す。
「原国の古武術には”手の型”ってのがあってな。俺がやっている人差し指と中指を立てる形もその一つだ。俺はこの型で、炎を操作している」
紅丸は胸の辺りに手を持っていき、手の型を作る。その形を見せながら、さらに続けた。
「”手の型”には様々な種類があって、それぞれ効果が違う」
「私は、この型を使っているよ」
右手を胸あたりに持ってきて、拳を握り締める形を作りながら、私は言った。
「エ?グーですか?」シンラは困惑した表情で尋ねる。
「違う違う!この型は、拳を握り締めるのに似ているけど、親指を4本の指で覆い隠すことで、炎の形状維持を持続させやすくなるの」
その説明に、シンラはまだ理解が追いついていない様子だった。
「こっちの方がわかりやすいかな」
私は、ポーチから槍伸縮型を取り出し、柄を掴んだままシンラに見せた。
「どう?これでわかるかな」
「ああ!」シンラはすぐに気づいたようだ。
「絵馬のもそういった効果を持つ。色んな型があるが、その中でも”虎ひしき”という、足の力を増す型もある」
「”虎のひしき”……。え〜〜と……」
シンラは少し考え込みながら、紅丸の手を見つめ、自分の手で型を真似てみる。
「人差し指を親指の付け根に。親指を小指の付け根に持ってくる形だ」
紅丸は頷きながら、手の型を作り、説明を続ける。
「指の形を作って全身の気の流れを一点に集中させるんだ。それが炎にも影響する」
彼の口調には、自信と確信がにじんでいる。指の形が全身の気の流れを集中させ、それが炎に影響を与えるという理論は、実に説得力があった。
その間、ヒカゲとヒナタは、地面に寝そべった火犬を見ながら、楽しそうに火犬の絵を描いて遊んでいた。その無邪気な姿に思わず微笑んでしまう。
再びシンラたちに目を戻すと、紅丸と目が合った。
「あとは自分でやってみろ。絵馬、シンラを見とけ」
紅丸はそう言って、踵を返す。
「承知」私はしっかりと頷く。
「ありがとうございます!!」
シンラは紅丸に頭を下げ、すぐに練習を再開する。その背中に込められた期待を感じ、私は静かに見守った。