第弐章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シンラは手で指をキツネの形にしてみたり、足から発せられる能力を強めたり弱めたりしながら、何かヒントを掴もうとしているようだった。しかし、どうもピンときてない様子だ。
「バァン!」その音に振り返ると、居間の障子が開気、ヒカゲとヒナタが元気よく縁側にやって来た。彼女らは私に近づくと、私の両肩に顎をのせ、耳元で叫ぶ。
「絵馬ーー!遊べ!」
「姉々ーー!火犬だせーー!火犬!」
ヒカゲとヒナタは、私の法被の袖を交互に引っ張り始める。
「ヒカゲ、ヒナタ。お前ェら、あっちで遊んでろ」
「文句は受け付けねェーぞー!紺炉」
紺炉に注意されたヒカゲとヒナタは、顔を風船のように膨らませている。その様子を見ながら、私は縁側から腰を上げ、ヒカゲとヒナタの手をつないだ。
「端っこの方で遊ぼうか!」
「おい、絵馬……」紺炉が少し困ったように私を呼ぶ。
「わーい!」
ヒカゲとヒナタは歓喜の声を上げ、私を急かすように庭へと手を引いてくれる。紺炉の小さなため息が背後から聞こえるが、私はその声を気にせず、彼女らに導かれるままに庭へと足を踏み出した。
「踊れ!火犬!!」
槍伸縮型で地面に絵を描くと、炎を身にまとった火犬(大)が姿を現した。その瞬間、火犬が走り出し、その後を追うようにヒカゲとヒナタも駆け出す。私の言いつけ通りに、端っこの方で駆け回るヒカゲとヒナタ。彼女らの無邪気な姿を目視で追い続けていると、少し離れた場所で紅丸とアーサーが真剣に組手をしているのが目に入った。
二人の攻防を見つめていると、突然、アーサーのエクスカリバーが紅丸を狙い定める。紅丸は手でエクスカリバーを制止しつつ、アーサーに反撃をする。紅丸の攻撃を受けたアーサーは地面に吹っ飛ばされた。しかし、負けじとアーサーはすぐに起き上がり、再び紅丸に向かって駆け出していった。
ヒカゲとヒナタがアーサーたちから離れ、シンラがいる方へ火犬を追って走る。私も目線で追う。ヒカゲとヒナタがシンラの表情に目を留め、口を開く。
「ぜんぜん変わってねェぞ」
「けっきょく顔芸じゃねェか。バーカ」
シンラは、地面に足をつけてから彼女らに呟き返した。
「エーー!?そんな変な顔してたか……?」シンラは驚いた様子で反応する。
「みっともねェーー顔してた」
「ゲロブサひょっとこだった」
ヒカゲとヒナタは彼を指差しながら答えた。私はヒカゲとヒナタに近づき、シンラに言った。
「苦戦しているね、シンラ」
「絵馬さん。新門大隊長のように指をこう……色々と試してみて、見よう見まねでしているんですけど」
シンラはキツネのような型をした手をじっと見つめた。
「この形でもだめか……。さっき、ちょっと炎が揺らいだ気がしたんだけど……」
ヒカゲとヒナタは楽しそうにシンラの真似をし始め、目の前の火犬を追いかけながらくるくると回っている。火犬が紺炉のいる縁側へと走り出していくのを見て、彼女たちは追いかけるように後に続いた。私は、ヒカゲとヒナタからシンラへと視線を移す。
「桜備大隊長がよくやっているよな」とシンラは呟きながら、中指と薬指を折り曲げて両手を上に上げ、力を込めて叫ぶ。
「ROCK ON!!」
「うわっ⁉︎」
突如として、シンラの足元から爆発が起こった。咄嗟に顔を法被の袖で覆い、シンラから距離をとる。爆発を起こした張本人のシンラは、爆風で吹っ飛ばされて地面に叩きつけられてしまった。私は慌てて周囲を確認し、「大丈夫、シンラ?」と声をかけ、彼の元へ駆け寄る。
シンラは目を白黒させ、両手はさっきの形のままで「は?エ?」と困惑している。
「おーい、シンラ」
私は自分の手を彼に見えるように顔の前まで持っていき、ヒラヒラと小さく手を振った。すると、シンラは私に気づいた途端、焦りながら「すいません!絵馬さん」と謝った。
私は首を左右に振り、「大丈夫だよ!」と笑顔を見せる。
「さっきの爆発でケガとかしてない?」
「あっ、はい……」と、シンラは小声で呟いた。
「シンラ……もう一度やってみろ」
背後からの声に振り向くと、紅丸が私たちの方へと歩いて来ていた。その背後には、地面に仰向けになり白目をむいて倒れているアーサーの姿が目に入った。彼はピクリとも動かず、暫くは動けそうにないと察した私は、再び視線を紅丸に戻す。
シンラはゆっくりと立ち上がり、紅丸に向かって言った。
「新門大隊長が炎に力を入れるとき、いつも手をこうキメるので、自分もいろんな形にして試してたんです」
シンラは紅丸がよくする指の形を真似し、次に爆発が起こった時にしていた指の形に変えた。
「で……。今は桜備大隊長がよくやってる……」
と言葉を一旦止め、また両手を真上に上げて足に発火能力を発動させた。
「ウィーーーーって」
そう呟くが、爆発は起こらなかった。指の形で爆発し、爆発というよりも、一気に火力が上がったから爆散したのかもしれない。
「似てる……」
思わず私は呟く。紅丸の横顔に視線を向けると、彼は私の視線を感じたのか、こちらを見て頷いた。
「わかりにくいから手袋外せ」紅丸がシンラにそう言った。
「はい」
シンラは言われた通りに手袋を外す。
「原国の古武術には”手の型”ってのがあってな。俺がやっている人差し指と中指を立てる形もその一つだ。俺はこの型で、炎を操作している」
紅丸は胸の辺りに手を持っていき、手の型を作る。
「”手の型”には様々な種類があって、それぞれ効果が違う」
「私は、この型を使っているよ」
私は紅丸と同じように、右手を胸あたりに持ってきて拳を握り締める形を作った。
「エ?グーですか?」シンラは困惑した表情を浮かべる。
「違う違う!この型は、拳を握り締めるのに似ているけど、親指を4本の指で覆い隠すことで炎の形状維持を持続させやすくなっているの」
私は説明するのだが、シンラの顔には理解が追いついていない。
「こっちの方がわかりやすいかな」
そう言って、私はポーチから槍伸縮型を取り出し、柄を掴んだままシンラに見せた。
「どう?これでわかるかな」
「ああ!」と、シンラは槍伸縮型を持つ手が手の型をしていることに気づいたようだ。
「絵馬のもそういった効果を持つ。色んな型があるが、その中でも”虎ひしき”という、足の力を増す型もある」
「”虎のひしき”……。え〜〜と……」
シンラは考え込みながら、紅丸の手を見つめ、自分の手で型を真似てみる。
「人差し指を親指の付け根に。親指を小指の付け根に持ってくる形だ」
紅丸は彼に手本を見せるように、手の型を作りながら説明を始める。
「指の形を作って全身の気の流れを一点に集中させるんだ。それが炎にも影響する」
彼の口調には自信が見える。この型を作ることで、指の形が全身の気の流れを一点に集中させ、それが炎にも影響を及ぼすという訳だ。
紅丸の説明を聞きながら、ふとヒカゲとヒナタの様子を伺うと、彼女たちは地面に寝そべった火犬を見ながら、楽しげに火犬の絵を地面に描いて遊んでいた。その無邪気な姿に思わず微笑みを浮かべ、再びシンラたちに視線を戻すと、紅丸と目があった。
「あとは自分でやってみろ。絵馬、シンラを見とけ」
そう言って紅丸は踵を返した。
「承知」私はしっかりと頷く。
「ありがとうございます!!」
シンラも紅丸に頭を下げ、すぐに練習へと再開した。その背中に込められた期待を感じながら、私は静かに彼の成長を見守ることにした。