第弐章
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紺炉は黒電話の受話器を掴み、躊躇なくダイヤルを回した。コール音が部屋に響き渡る。しばらく後、電話口に向かって彼が話始めた。
「もしもし?若か?ちぃっとばかし頼みてェことがあんだ」
受話器の向こうに紅丸がいるようだ。紺炉が言葉を続ける。
「シンラ達に実戦修行として、稽古をつけてくれねェか?」
「あ⁉︎なんで俺が面倒見なきゃならねェんだ」と、紅丸の不満気な声が耳に届く。
紺炉は声色を変えずに、遠慮なく返した。
「第8には借りがあるだろ」
その言葉に、電話口から「借りか」と紅丸の呟く声が小さく響く。
「頼むぜ、紅!もう少ししたら絵馬と一緒に戻る。……あァ、分かった」
紺炉は二、三言、紅丸に話し続け、やがて電話を切った。彼は受話器を元に戻し、こちらを振り返った。私は紺炉に訊ねた。
「どうだった?紅丸は了承してくれた?」
「納得してくれて、稽古の了承の許可も出た」
「よかった」
その時、コンコンコンとドアをノックする音がして、誰かがドアを開ける音が聞こえた。
「相模屋中隊長。新門大隊長は何と?」と、桜備大隊長が中に入り込んできた。
「問題ねェよ。了承してくれたぜ」
「そうですか!ありがとうございます」
桜備大隊長は紺炉に感謝の言葉を述べた。
私は桜備大隊長に寄り添い、「紅丸が了承してくれたので、私、シンラとアーサーを呼んできますね!」と言った。
「頼む」
桜備大隊長の横を通り過ぎると、彼の頷きが見えた。私は急いでアーサーとシンラを探しに事務所へ向かった。
「シンラ!アーサー!二人ともいる?」
「絵馬さん⁉︎どうしましたか?」
勢いよく事務所のドアを開けてしまい、事務所のドア近くで作業していた茉希が私の声に驚き、手を止めた。その反応に少し申し訳なくなり、私はあわてて言い訳する。
「あっ、ごめんごめん。勢いがありすぎたね」
「俺たちを呼びましたか?」
中央の事務机に座っていたシンラとアーサーが、机越しから不思議そうにこちらを見ている。
「桜備大隊長と紺炉が呼んでいるから、来客室へ来てほしい」
「桜備大隊長と紺炉中隊長が?了解です!」
シンラは椅子から立ち上がり、敬礼した。アーサーもそのまま立ち上がり、二人は私の横を通り過ぎて廊下へと歩いていく。その時、廊下からヴァルカンが私に気づき、急速に近づいてきた。
「姉さん!」
「ヴァルカン。第8にはもう慣れた?」
「慣れるもなにも……まだ3日しか経ってねェよ」
彼の冷静な返答に思わず笑みがこぼれる。ヴァルカンは少し呆れたような表情で続けた。
「まぁいいや。それより、姉さんに見せてェモンがあるんだけど、時間あるか?」
「うん。今なら大丈夫だよ」
「そうか!なら、ついて来てくれ」
「あっ!私も……」
茉希が手を挙げるが、その瞬間。
「茉希。お前はまだ書類が残っているだろ」
と、火縄中隊長が冷静に言った。彼は事務机の椅子に座り、書類の端をトントンと叩いて整えている。
「うぅ……」
「ア……ハハ。茉希、ガ……ガンバッテ」
私は彼女に励ましの言葉をかけ、軽く手を振りながらヴァルカンの後について行く。心の中で、茉希が最後まで頑張っている姿にエールを送りつつ、ヴァルカンと共にその場を後にした。
第8のマッチボックスがある車庫に案内された私は、周囲を見回した。あちらこちらにヴァルカンが造ったと思われる造作品が散らばっている。この場所は、彼にとって第二の工房のように見える。そんなことを考えていると、ヴァルカンが私の名を呼んだ。
「この前のジョヴァンニとの戦いで姉さんに渡した手袋なんだが……」
「あの手袋のお陰で、Dr.ジョヴァンニに一発攻撃を与えることができたよ!ありがとう」
「いや……礼を言うのはこっちなんだ。あんとき……ユウや俺に能力を使ってくれてただろ?お陰で俺もユウ大事にはならなかった。ありがとな、姉さん!」
ヴァルカンはニカっと笑顔を見せ、私の目の前に黒色の手袋を差し出した。私は首を傾げる。
「ん?この手袋は」
「この前の手袋を姉さんサイズに改良して、更に防火も兼ね揃えた……名付けて!”雷火鼬(らいかてる)”だ!!」
彼はガッツポーズをしながら、その名を宣言した。
手袋を受け取って両手にはめる。まず、両手を組むように動かすことで少しばかり緩みを調整し、手にフィットするようにマジックテープを締めた。ぎゅっと手のひらを握り、ゆっくりと指先を外に広げ、感触を確かめる。
普通の手袋より若干厚みがあ理、防火と絶縁性を兼ね備えているため、通気性はあまり良くない。しかし、そのことを気にする必要はなさそうだ。手のひらを左右に半回転させてみるが、外見は普通の手袋と何も変わらないように見えた。
「姉さん。姉さんの能力で何か出してくれねェか」
「私の能力で?良いけど」
そう言って、私は槍伸縮型を手に持つ。
「踊れ!火犬‼︎」
地面に描いた絵から炎をまとった火犬(小)が現れる。
「雷火鼬で火犬を触って見てくれよ」ヴァルカンが促す。
「こ、こう?」
私は恐る恐る火犬の頭を触ってみる。その瞬間、私の思考は停止した。
火犬は嬉しそうに尻尾を左右に振りながら、私の次の行動をおとなしくして待っている。手袋のまま、ゆっくりとその頭を撫でてみる。感触が手のひらを通じて直接伝わってくる。熱さはほんのりと感じるだけで、思ったほどではない。私はそのまま、頭から首、背中、尻尾へと順に撫でていく。
今度は両手で火犬の脇を掴んでみる。そのまま火犬の脇を持ち上げると、しっかりと掴み取れる感触が伝わってくる。本物の犬のように温かく、柔らかい。
「どうだ!すげェだろ!!姉さん!この雷火鼬が有れば、姉さんが作り出した炎を触ることができるんだぜ!」
「すごいよ!ヴァルカン!!」
感動しながら、私は火犬を地面に下ろし、立ち上がって手袋のままヴァルカンの手を両手で握った。
「あちッ!!手袋のままで俺の手を握らないでくれッ!」
「あ、ごめんね」
ヴァルカンは勢いよく私の両手から手を引っこ抜き、手にフーフーと息を吹きかける。
「雷火鼬では熱さはあまり感じねェけど、内側は炎で高熱になっているんだ。だから、まだそこに関しては試行錯誤しなくちゃならねェんだ」
「そうなんだね。気をつけるよ。それと、雷火鼬って名前……」
「勿論、”ラーテル”っていうイタチ科の動物の名前から取っている!カッコいいだろ!」
「うん。いい名前だね」
「だろ!」
そう言って、ヴァルカンは嬉しそうに私の表情を見つめていた。その時、声がかかった。
「絵馬、ここにいたのか」
振り返ると、車庫のドアからひょこっと首を出している紺炉の姿が見えた。その隣には、茉希が立っている。どうやら彼女に案内されてここに来たようだ。
「紺炉、話は終わったの?」
「あぁ。先にシンラとアーサーは浅草に行った。俺たちもそろそろ戻るぞ」
「承知!」
私は頷いて返す。次に、ヴァルカンに視線を向けた。
「ヴァルカン、この手袋ありがとう。色々と試してみるよ」
「そうしてくれるとありがてェ。スペアはいくつかあるから、最高なモンを姉さんに造ってやるよ」
彼は胸をドンと叩き、力強く宣言した。そして、ドアに立っていた茉希に向かって声をかけた。
「茉希さんにも、見てほしいモンがあるんだ!」
「私にですか?楽しみです」
茉希は子供のように胸を弾ませる。私は茉希と入れ替わるように紺炉の近くに歩み寄り、ヴァルカンと茉希に手を振って第8を後にした。歩きながら、ふと思い出したように紺炉に尋ねる。
「そー言えば、火華大隊長とカリムは?」
「ん?あー……俺が最後に目にした時もあのままだったなァ」
「そっ……そうなんだ」
私は一瞬言葉を詰まらせた。まさか、まだあの状況が続いているなんて。今の話、聞かなかったことにしよう。そう思いながら、私は浅草へと帰ることにした。