第弐章
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桜備大隊長はゆっくりと口を開いた。
「Dr.ジョヴァンニは絵馬だけでなく”天照のキー”とやらを求めていたようです。”天照”に何か奴らの目的があるのかーー……」
その言葉とともに、桜備大隊長の目が怪しむ目つきに変わっていくのがわかった。まるで真相を突き止めなければならないという使命感に駆られているかのようだ。
「絵馬が前日遭遇したヴァルカンの襲撃事件は、Dr.ジョヴァンニと同じ仮面をかぶった偽物の犯行と報道されました」
私はその言葉を否定するように、首を横に振った。
「世間的にはそのように報道され、多くの市民がそう思わされていますね」
桜備大隊長は、私の言葉に頷きながらさらに言葉を続けた。
「あぁ。会見に出席した本物のジョヴァンニを名乗る男が、今も大隊長のまま第3は存続。しかし、こちらが偽物だ。恐らく、灰島が身内の第3隊の不祥事を恐れ、別人を用意した。事実、本物の素顔を知るヴァルカンが、会見の男はジョヴァンニではないと断言しました」
火華大隊長は、桜備大隊長に視線を向けて冷静に言った。
「第3からは、複数の脱退者が出たらしい……。潜入者だな。今頃、伝導者の所だろう。灰島全体が敵なのかわからんが、灰島支配下の第3は皇国の目が届きにくい」
カリムは横目で桜備大隊長を見つめ、さらなる懸念を口にした。
「奴らの活動は激しく過激になる一方です。敵の全貌が知れないなら、拠点を見つけて叩くべきだ」
「カリムに賛成です。私が目を付けられている理由も推測ではなく、確信になりますし……奴らの本当の目的も知ることが出来ます」
私もカリムの意見に賛同した。私の顔を見つめていた桜備大隊長は、心配ないというように首を縦に振った。
「それについてはすでに、第8のリヒト隊員が拠点調査を始めている」
「あいつは信用できるのか?」と、火華大隊長が怪訝な表情を浮かべる。
桜備大隊長はその意味を察し、少し間を置いてから言った。
「今のところ、よくやってくれています」
私も火華大隊長と同じように、リヒトのことをまだ信用できていなかった。灰島から派遣された彼が、こんなにも上手く隊員として活動していたとは、桜備大隊長は本当に凄いと思った。
桜備大隊長は一息を吐き、私たちを見つめながら真剣な声でこう言った。
「伝導者の居所をつきとめ、我々が攻める番だ!!」
その言葉は、私の心に静かな闘志を呼び起こす。状況がどれほど厳しくても、私たちにできることがる。敵の隙を突き、彼らの計画を打ち砕く。その思いが、徐々に私の心を駆け巡っていく。これからの行動に、強い責任感を感じながら、私は自分自身を奮い立たせた。
「それで、攻め込むとして策はあるのか?」
火華大隊長はソファの背もたれの上に悠然と座り、足を優雅に組んで問いかける。その姿を見ていたアイリスは思わず戸惑った表情を浮かべた。
「義姉さん、なんてところに座っているんですか?」
「第1の砂利と同じ高さに座らされてるのが気に入らん」
私はボソッと呟く。
「どこにいても変わらないなァ……」
「何か言ったか?十二」
小声で呟いたつもりが、火華大隊長の耳に入ったようだ。驚くべき耳の良さだ。
「い、いえ!ただの独り言ですよ、火華大隊長!」と、その場の空気を和らげようと必死に否定する。少し声が上ずってしまったが、火華大隊長はそれ以上追求することはなかった。
カリムが困惑した表情で火華大隊長を見上げる。
「地べたにでも座りましょうか?」
「ぜひ、そうしてくれ!」
「………………」
「どうした、早く座らぬか」
嬉しそうな表情を浮かべてカリムを急かす火華大隊長。そんな彼女を見て、カリムは無言で私を横目で見ながら助けを求めているような気配が伝わってきた。
くどくど野郎。残念だが、火華大隊長にその言葉は通用しないと分かっている。そう思いながら、私は人差し指で地べたを指差し、口パクで「あきらめろ」と伝えた。
「クソ……。ほんの冗談かジョークのつもりで言ったのによ」と、カリムは溜息交りに呟く。
彼はワックスがけされたフローリングの地べたにおとなしく三角座りをするしかなかった。
「カリム中隊長……す……すまないねェ……」
桜備大隊長が少し困惑した様子で言った。彼は両手を膝に置木、中腰になりながらカリムに目線を合わせる。火華大隊長は桜備大隊長を見下ろし、冷ややかな言葉を返した。
「第8は戦えるのか?筋肉頼りの8ゴリラ」
「8ゴリ……」
自然に出た悪口に、桜備大隊長は呆れた表情で屈んでいた姿勢を戻しながら答えた。
「第8の新人は優秀です。能力の強さも素質も保証します。ただ経験が足りない。特に対人戦闘となると……短期間で、どう彼らを戦力にするかーーーー」
「絵馬小隊長と一緒に見てましたが、第1の組み手でも前のめりで未熟な印象でした。能力は有能で優秀ですが、実戦不足でしょうね」
カリムはその言葉を聞きながら、切り捨てるように言った。
対人戦闘……。その考えが頭をよぎり、私はスゥっと手を挙げた。
「それなら、ね!紺炉」
私の思っている意味を察した紺炉は、私を見て微笑んで頷いた。
「実戦か……。第7には、実戦しかしてない奴がいるが……。絵馬もいるし、ウチで面倒見ようか?」
その提案に、桜備大隊長は驚いた表情を浮かべた。
「いいんですか?」
「構わねェよ。すまねェが、電話借りても良いか?」と、紺炉は席から立ち上がる。
私も同じように立ち上がりながら言った。
「となりの部屋に電話あるから、案内するよ!」
そう言って、部屋のドアを開けると、紺炉が後に続いてきた。彼の決断に少し安堵しながら、私は心の中で明るい展望を思い描いた。