第弐章
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ドシャ。Dr.ジョヴァンニは工具棚に激突し、その反動で棚が大きな音を立てて崩れた落ちた。アイリスはその瞬間、信じられない思いを抱いて叫ぶ。
「シンラさん‼︎」
「シンラ!」
私もアイリスと同じように叫んだ。周囲の状況を確認しているシンラと、偶然目が合う。彼の目には真剣な光が宿っていた。
「絵馬さん、状況を教えて下さい」
「Dr.ジョヴァンニがヴァルカンの命を狙っていたのは、シンラの言った通りだった。奴は、探し求めていたパーツを手に入れ、邪魔になる私たちを始末しようとしていた……リサさんと一緒にね」
私は息を潜めながら、すうっと視線をリサに向けた。リサは私の言葉に反応することなく、ただ、”タコ”の手足のような形をした炎を手の中に浮かび上がらせ、私たちを睨んでいた。シンラはその光景を見て呟く。
「リサさん……なんで……」
シンラの問いかけにも、リサは無言のままだ。彼女の静かな瞳には、どこか冷たささえ感じられる。私はその様子を気にしつつ、床にうつ伏せに倒れているヴァルカンに近づいた。シンラも私の行動に気づき、リサに警戒しながら、ヴァルカンの肩を担いでゆっくりと立ち上がらせる。
「大丈夫か……?動けるか?」
「スタンガンをくらった……。まだ、体が痺れている…………」
ヴァルカンは苦しそうに声を漏らす。彼の表情には、痛みが色濃く刻まれていた。その時、シンラが私に小声で問いかけてきた。
「絵馬さん。炎は後どのくらい残っていますか?」
私はちらりと槍伸縮型を確認し、再度シンラと目を合わせる。
「ゼロだね。今、召喚している火羊が最後」
「その火羊はどこに?」
「ユウ君のケガの治療緩和に使用している」
その瞬間、キリキリキリという音が響いた。ワイヤーに繋がれたまま、身体をゆっくりと起こすDr.ジョヴァンニの姿が目に入る。
「絵馬さん、ヴァルカンにも火羊をお願いします」
そう告げると、シンラはヴァルカンを私に託した。私は頷き、ヴァルカンの肩と腰を支えながら、ユウの近くの壁にもたれかかるように彼を座らせる。分割してユウの治療緩和にあたっていた2匹の小羊が、ヴァルカンの側に寄り添い、その温かさで痛みを少しでも安らげるようにしていた。
その間、シンラは私からDr.ジョヴァンニに視線を移す。Dr.ジョヴァンニは冷静に言い放った。
「シンラ クサカベ……。どうやって抜け出した?まぁいい……邪魔者は処分してまた捕らえるだけだ」
その言葉が工房の静けさを切り裂くと、リサがその場にしゃみ込んで叫んだ。
「起れ”漁り火”‼︎奴の身体を絡め取れ‼︎」
炎のタコの手足が、まるで生きているかのように瞬時にシンラを狙いに向かう。シンラはそれを素早くかわそうとしたが、炎は生き物のようにシンラの右腕に絡みついた。
「この炎ーー……あち‼︎」
驚きの声を上げたその瞬間、隙を突いたDrジョヴァンニのワイヤーで繋がれた拳が、シンラの頬を強烈に殴打した。
「この炎は磁性体だ。生物の纏う微弱な磁気を追いかけて付きまとうぞ」
リサは冷酷にシンラを見つめる。シンラは炎に絡まれたまま、リサの能力に対する警戒心を露わにし、「この‼︎」と声を上げて、強引に炎を引き剥がした。
その瞬間、リサの周囲から新たな炎タコの手足が次々と現れ、まるで獲物を狙うように、シンラに襲いかかった。シンラは能力を発動させ、瞬時にその場から飛び上がる。
「あ……‼︎」
しかし、彼の背中がドンと天井にぶつかり、その衝撃で体勢を崩す。逃すまいと炎タコの手足がシンラの体全体にきつく絡みつく。その一瞬を狙い、Dr.ジョヴァンニの拳がシンラの顎を思い切り殴りつけた。
「シンラさん‼︎」
アイリスの叫び声が、工房内の冷たい空気を振るわせる。私は壁にもたれかかっているヴァルカンの肩からゆっくりと手を離し、彼の耳元で小声で問いかけた。
「ヴァルカン、動ける?」
「あぁ。姉さんのおかげでなんとか……」
ヴァルカンは、自身の手の中でにもたれかかる火羊を見つめ、力を込めて掌を軽く握りしめる。
「私、Dr.ジョヴァンニの動きを止める」
「どうやってだ?」
私は深く息を吐き、はっきりと答えた。
「この槍伸縮型を使って、ワイヤーを絡めさせれば、Dr.ジョヴァンニの動きは止められると思う。ただし……ワイヤーにはかなり強い電流が流れているから、それを防げる何かが有れば……」
私の言葉が不安を影を落とす中、ヴァルカンは一瞬の沈黙の後、「それなら、これを使え!」と言った。
ヴァルカンはポケットから私に手袋を手渡す。私が手袋を受け取ると、ヴァルカンは鋭い笑みを浮かべた。
「もう一発」
ギュルルルと、ワイヤーの拳がシンラに襲いかかる。しかし、その拳が近づく間に、私は槍伸縮型を使い、無理矢理にワイヤーを絡ませて防御する。そのワイヤーは複雑に絡み合い、思うように外せないでいるDr.ジョヴァンニを見て、私は言葉を発した。
「Dr.ジョヴァンニ!私の部下に手ェ出すんじゃねェよ!」
「絵馬 十二。また、私の攻撃を受けたいのか?」
返答なんて要らないというように。Dr.ジョヴァンニは高度の電流をワイヤーに流し込んできた。しかし、何の変化もない私の姿に、彼は驚いた声で仮面越しに発した。
「何故、お前は倒れない⁉︎200万ボルトの電流だぞ⁉︎」
「倒れないって……。そりゃあ、私の後ろには鍛冶屋の天才がいるからねッ‼︎」
槍伸縮型を強引に引っ張り、まるで魚を釣り上げるかのようにワイヤーを引っ張った。複雑に絡まったワイヤーの修正に気を取られていたDr.ジョヴァンニは、力に負けて少しよろけながらこちらに引きずられてくる。
法被の袖口から顕になった私の両手。その両手には絶縁ゴム手袋がしっかりと装着しているのを、Dr.ジョヴァンニは視界の隅で察知した。しかし、もう遅い。隙ができた瞬間を逃さず、私はDr.ジョヴァンニの腹部を思いっきり蹴り飛ばした。
ドンと鋭い音が響き、Dr.ジョヴァンニは思わず声を漏らし、反動で後ろによろける。
「ラートム‼︎」
その瞬間、アイリスの叫びが工房内に響き渡り、ふいに動物模型たちの首が様々な方向に飛び散った。槍伸縮型から外れたワイヤー拳が、”イヌ”の首とぶつかる光景が目に入った。ヴァルカンはアイリスに向かって大声で指示を飛ばす。
「いいぞシスター‼︎手あたり次第押しまくれ‼︎」
アイリスは頷きながら、あちこちのボタンを押しまくった。
「ラートム‼︎ラートム‼︎ラートム‼︎」
アイリスは頷き、興奮のあまりあちこちのボタンを押しまくった、ドドドドド。彼女の動きに促されるように、工房内は一気に騒々しくなり、シンラが突き破った壁から外に向かって飛んでいく首がいくつも確認できた。Dr.ジョヴァンニが冷ややかな声色で呟く。
「無駄な物ばかり造りおって……」
「アンタが無駄な物と思っていても、私にとっては無駄ではなかった。この絶縁ゴム手袋にも助けてもらったからね!」
その瞬間、私の背後からもの凄い熱風が吹き抜け、思わず叫んだ。
「シンラ‼︎」
私の頭上を飛び超えていくシンラは、Dr.ジョヴァンニに膝蹴りを叩き込み、瞬時にその身体をねじらせながら回し蹴りを繰り出した。猛烈な威力を持つその攻撃は、木っ端微塵に砕け散った壁と共に、Dr.ジョヴァンニを外へと吹き飛ばしていった。