第弐章
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「絵馬 十二。お前も第8の隊員だったな」
「……ッ!」
その言葉が耳に届いた瞬間、冷静さを失い、振り返ると、ワイヤーに繋がれた拳が目の前に迫っていた。とっさに槍伸縮型を前に突き出し、拳を受け止める。しかし、バチバチと電流が流れ込み、力が入らなくなった身体は軽々と工房の鉄ドアへと吹っ飛ばされた。鉄ドアに叩きつけられた私の身体は、そのままずり落ちた。槍伸縮型は手から離れ、少し離れた場所で転がる。
「ぐっ……」
内臓を丸ごと掻き混ぜられたような感覚に、必死に吐き気を抑え込む。頭がクラクラし、視界が揺れる中、アーサーの声が耳に入った。
「画家⁉︎」
私は痛みと吐き気に耐えながら、重たいまぶたを開く。徐々に視界が広がる中、アーサーの背中がこちらに向き、工房を守るように立っているのが見えた。
しかし、その瞬間、白頭巾の男の幻影がアーサーに襲いかかる。アーサーは瞬時に反応し、エクスカリバーを振りかざして幻影を薙ぎ払った。
「またハズレだ」
白頭巾の男が笑いながら隙を突き、アーサーの頬を強烈にぶん殴る。その反動でアーサーがよろけ、姿勢を崩すのが見えたそれを見て私は心の中で叫ぶ。「動かなきゃ!」と。しかし、さっきの電流が残像のように身体に影響を及ぼし、自分の身体であるかのように思えず、力が入らない。
「絵馬 十二以外にも第8の隊員が来ているようだな。さっさと片付けろ」
「わかっている」
コツコツと足音を立てて近づいてくる人物に、白頭巾の男は頷きながら応じる。私は、その人物の姿を確認し、睨みつけながら小さく呟いた。
「Dr.ジョヴァンニ……大隊長……」
ゆっくりとこちらに近づいてくるDr.ジョヴァンニ大隊長に、アーサーは叫んだ。
「ここは通さねェぞ!!」
その声が響き渡る中、Dr.ジョヴァンニ大隊長を守るように白頭巾の男が立ちはだかる。アーサーの瞳に一瞬の迷いが浮かび、その動きが止まった。
「こっちだ」
その瞬間、隙を突かれたアーサーは再び攻撃を受ける。
「陽炎に怯えているな。フレイル!」
白頭巾の男が鉄球を揺らす男、フレイルの名を呼んだ。フレイルは先程アーサーが背を向けて立っていた場所に無情に立ち、アーサーに向かって挑発するように言葉を放つ。
「立場が入れ替わってしまったな。工房に近づけないのは、お前の方だ」
フレイルの言葉に、悔しそうな表情を浮かべるアーサー。アーサーを隠すように、私の目の前にDr. ジョヴァンニ大隊長が立ちふさがった。突然、彼は私の髪を力強く鷲掴みにし、無理やり顔を上げさせる。
Dr.ジョヴァンニ大隊長は、鳥の仮面越しに私を冷酷に見据え、一言を放った。
「どうだ?思うように身体が動けずにいる様は」
「大隊長の……アンタが……!!」
私は震える唇を無理に動かし、内なる怒りを吐き出すように言った。目を細め、行動を制限する彼の冷たい視線に抗う。Dr.ジョヴァンニは私の髪を鷲掴みにしたまま、思い切り地面へと薙ぎ倒した。
「げほっ!げっほ……!」
受け身もとれずに叩きつけられた衝撃が全身を襲う。息を整える余裕もなく、痛みがありとあらゆるところに響く。Dr.ジョヴァンニの拳のなかには、私の髪の毛が数本残っていた。手を広げると、髪は風でひらりと空中を舞った。
「敵を欺くには、まず味方からだ。よく覚えておくんだな」
その言葉を最後に、Dr.ジョヴァンニは私に背を向け、鉄ドアに手をかける。背中を見る限り、彼はまるでこの場を支配しているかのような余裕を漂わせていた。
「お前にかまっているほど、私は暇ではない。リサ、退がっていろ。あとは私が」
その言葉に耳を傾けながら、リサがDr.ジョヴァンニの仲間であることを知り、衝撃が走り、私は心の中で悔しさが渦巻く。工房内に入っていくDr.ジョヴァンニの声を聞きながら、私は悔しさで奥歯を噛んだ。
くそ。Dr.ジョヴァンニから受けた電流の影響で、思うように動けない身体がもどかしくて仕方がない。
「あと……ちょっと……」
泥魚のように、地べたに引きずりながら少し離れた場所に落ちていた槍伸縮型を、壊れやすい宝物のようにそっと握りしめる。メモリは後4つ。私は、力を振り絞りながら地面にゆっくりと絵を描き始めた。
「踊れ!……火羊!」
描かれた絵から青白い炎に包まれた火羊が姿を現す。火羊は、次第に二分割、四分割と形を変え、次々と私の周りを取り囲むように広がっていく。その炎の力によって、全身の痺れと痛みが徐々に和らいでいくのを感じた。
私は右手に視線を移す。ギュッと握りしめた手のひらをゆっくりと開き、指先を外に広げる。それを数回繰り返す。左手も同じように動かし、少しずつ感覚が戻ってくるのを実感した。ゆっくりと立ち上がり、身体についていた砂を払い落としながら、呼吸を整えて遠くの工房に目を向けた。そこには、ひときわ目を引く窓が見えた。
「あの窓から侵入できるな」
槍伸縮型を握った拳が小刻みに震える。その震えを打ち消すかのように、窓に向かって私は駆け出した。
「もう壊さないで‼︎」
アイリスの叫び声が工房の中で響き渡ると、同時に私は思い切り窓ガラスを蹴破ってその場に飛び込んだ。
ガシャン。ガラスが割れる音が耳に響く。私は激しい衝撃を感じながら、工房内に着地した。ガラスの破片が右頬をかすめたが、そんなことはどうでも良かった。目の前には、跪くDr.ジョヴァンニがいる。
「絵馬さん‼︎」
視線を後方へ移すと、倒れているユウの側でアイリスがこちらを見上げていた。彼女の目には焦燥の色が浮かんでいる。無惨に倒れていたユウの口からは血が流れて落ち、その左胸をアイリスが必死に押さえている。私の目に飛び込んできたのは、胸から浮かび上がる大量の血。見るからに重傷だ。
左側にはヴァルカンがうつ伏せで倒れているの姿が見えた。その傍らには、リサの姿もある。状況のあまりの残酷さに、怒りが胸の中から湧き上がる。それは尽きぬことのない泉のようで、私はDr.ジョヴァンニに向かって声を張り上げた。
「Dr.ジョヴァンニ‼︎」
「しばらくは動けぬと思っていたのだが」
Dr.ジョヴァンニは私から視線を逸らし、膝元に横たわる壊れた丸い球体の中から何かを見つけ出したようだった。その視線は興味と冷酷さを併せ持っている。
「このパーツは?中に入っていたのか。相当古い型だな……メモリーか?」
彼はそっとそのパーツを拾い上げると、真剣にパーツを吟味する。
「それに、こんなガラクタに使うには容量が多すぎる……まさか……」
次の瞬間、Dr.ジョヴァンニはすっと立ち上がり、まるで何かを掴んだかのような自信に満ちた声色で、怪鳥のような高笑いが、工房の空気を切り裂いて響き渡る。
「フハハハ!見つけたぞ‼︎こんなところに隠しおって‼︎」
Dr.ジョヴァンニは仮面越しに私を見据え、殺気を漂わせる。その視線はまるで刃物のように鋭く、私の心臓が一瞬凍りついた。
「絵馬 十二のあとは、貴様を始末するだけ……」
その言葉を聞いた瞬間、私は槍先をDr .ジョヴァンニに向けた。彼の狙いを未然に防がなければならない、そう直感した瞬間だった。その時、突然の衝撃が響き渡り、鉄ドアがまるで紙のように原型をとどめないほどの威力で破壊された。
「クソマスクの鼻っ柱へし折るマンだ‼︎第8の機械員に何しやがる‼︎!」
風のように舞い込んできた少年、シンラがDr.ジョヴァンニの鳥仮面の鼻先に、渾身の膝蹴りを叩き込む。その瞬間、Dr.ジョヴァンニは軽々と横に吹っ飛んでいた。衝撃で壁に激突するその光景が目の前に広がり、私は思わず胸を高鳴らせた。
心の奥に湧き上がる期待感と共に、希望の光が差し込んだ。シンラの登場が、絶望的な状況に変化をもたらす予感を秘めているように思えた。