第弐章
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アーサーと背中合わせになりながら、私は白頭巾の男に槍先を向け、深く呼吸を整えていた。白頭巾の男が再び幻影を出現させるのが見えた。
「騎士王。背中は預けましたよ」
「任せられた!」
アーサーの力強い返事を聞き、私は槍伸縮型を白頭巾の男に向かって力いっぱい投げ放った。その後を火兎たちが追う。槍が白頭巾の男の腹部を貫いたように見えたが、それは幻影に過ぎなかった。槍は無駄に空気を切り裂き、後方へと飛んでいく。
すると白頭巾の男は薄笑いを浮かべた。
「的が外れたな、絵馬 十二」
「そう思うのは、まだ早いんじゃない?火兎!」
名を呼ばれた火兎の一匹が槍に追いつき、槍先を後ろ足で華麗に蹴り上げてぐるりと向きを変えると、そのまま後両足で力任せに槍伸縮型を蹴り飛ばした。振り向いた槍は、さらに威力を増して幻影を次々と貫く。
「次!」
槍先の前に待ち構える火兎が同じ手順を繰り返し、さらに速度と威力を増した槍が再び幻影を貫いていく。稲妻のようにシグザグに動き、一つまた一つと白頭巾の男の幻影を火兎達が消していく。
最後の幻影を貫き、加速して戻ってきた槍を私は鮮やかに手に取った。そして、一瞬の間を置いてくるりと回し、再び白頭巾の男に槍先を向けた。
「どう?的は、最初からアンタだけだよ」
「ぐっ……」
悔しそうに私を睨みつめる白頭巾の男。その目には、自分の策が見破られたことへの怒りが滲んでいた。その時だった。
鋭い音が耳に届く。ギュルルルと炎の鉄球がこちらに飛んできたのだ。それを追うアーサーが死角に入った。私は瞬時に槍先を地面に突き刺し、真上へと飛び上がると同時に、アーサーが私がいた場所に到着し、エクスカリバーで炎の鉄球を受け止めた。
バチンと、ぶつかり合う音が響く。
その隙を狙って白頭巾の男が幻影を作り出し、私たちを襲う。私は突き刺した槍伸縮型を下から上へと遠心力を利用しながら空中で身体を反転させ、幻影に向かって薙ぎ払った。しかし、攻撃をかわした数体の幻影がアーサーに向かって飛んでいくのが見えて、私は叫んだ。
「騎士王‼︎」
アーサーはエクスカリバーを横一斉に薙ぎ払い、幻影を消滅させた。次は、こっちの番だ。私は遠心力を利用し、少し離れたもう一人の男に狙いを定める。槍伸縮型を掴んだまま縦回転しながら落下速度を加速させ、槍を男に振り落とした。
ガチン。
男の持つ炎の鉄球と遠心力で威力が増した槍伸縮型が激しく衝突する。空中で一回転して地面に着地した私を見て、男は私からアーサーへと狙いを変えた。幻影を消し続けているアーサーに向かい、再び炎の鉄球を放り投げる。
私は炎の鉄球の前に走り込もうとしたが、白頭巾の男が道を塞ぐように私の前に立ち塞がった。
「邪魔をするな!絵馬 十二!」
「邪魔をしているのは、どう見てもアンタだろ!火兎‼︎」
私の合図に応じて、六匹の火兎が白頭巾の男に向かって加速しながら次々と突進し、次々と幻影を消し去っていく。遠方、もやがかかった景色の中で、アーサーがエクスカリバーで炎の鉄球を跡形もなく消すのが目に入った。
その瞬間、アーサーは叫びが響いた。
「人馬一体になった騎士王に隙はない‼︎」
アーサーの言葉が力強く響き渡る中、私は再び白頭巾の男と対峙した。
「画家とともに、何人たりともここを通すわけにはいかない」
工房を守るように毅然と立つアーサーを見て、男は低くうめいた。
「ふざけた格好をしやがって……なんて火力だ」
「ふっ。悪党には、この姿がおかしく見えるようだな」
その時。私の眼と鼻の先に立つ白頭巾の男がユラっと揺らいだと思うと、アーサーの周りを取り囲むように幻影が並び立つ。私は槍伸縮型を横に振り回し、幻影たちを消していくが、もやがかかり再び目の前に人影が現れる。鋭く睨む瞳が目に入り、その姿が段々と鮮明になると、私はポツリと小さく呟く。
「本物には、偽物ときたか……」
そこには、槍先をこちらに向け、同じ身長、同じ髪型、同じ法被を着た私自身の幻影が睨むように立っていた。言葉を発さず、だた鋭く睨むその姿に心の奥底が揺れる。
ゴッ。ドシャ。
アーサーが自身の幻影に惑わされたのか、動きが一瞬止まり、その隙をついて男が炎の鉄球を放った。アーサーは直撃を受け、地に倒れ込む。その光景が私の視界に入り、私は叫んだ。
「アーサー‼︎」
私はアーサーを助けるべく、目の前の幻影に対峙する。槍を横に振り切り、幻影の腹部を貫く。幻影はゆらゆらと揺らめきながら消えていく、その口がかすかに開いた。体温を感じさせない、冷気が含まれているかのような声で、
「忘れるな」
と。ただそれだけ。それだけなのに、全身の血が冷えわたって、動悸が高まっていくのを感じた。
「忘れるなって。何を……」
敵が私を欺くために発した言葉だろう。そうに違いない。しかし、このモヤモヤとしたこの気持ちは何だ。その不安を振り払うように、私はアーサーの元へ駆け出した。