第弐章
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「なんで白装束が、こんなところに……」
アーサーが呟いた。アイリスが、それに続けた。
「あれが……。第3の大隊長が伝導者の仲間ということでしょうか……」
二人は私と同じように、鉄ドアの隙間から外の様子を伺っていた。
「シンラさんが言っていたことは、本当だったんですね……」
振り返ると、ユウが困惑の色を隠せずにいた。
「こんなに囲まれてたら、逃げ場がねェ」
ヴァルカンは鉄ドアから離れ、何か武器になるようなものを探し始めた。アイリスが視線を外し、私とアーサーを交互に見つめる。
「絵馬さん、アーサーさん。なんとかできませんか?」
「エクスカリバーを置いてきてしまった……」
アーサーは上着を掴み、軽く引っ張って持っていないことを示した。その動作を見て、私は腰ベルトから槍伸縮型を取り出し、手に持った。
「なら、今戦えるのは……私しかいないね」
アーサーが槍伸縮型を見つめ、ふと目を上げて真剣な声で言った。
「画家。その武器、俺にも貸してくれ!」
「どうして?」
「持ち手は長いが、剣っぽい武器をしていて騎士っぽいからだ!」
アーサーの意図は理解できたが、私は首を振り、申し訳なさそうに言った。
「ごめんけど、これは私にとってとても大切な武器なの。だから、貸せない」
その言葉に、アーサーは一瞬沈黙し、「そうか……」とわずかな悲しみと諦めが混じったような小声だった。
「姉さん!お前ら、消防官だろ。なんとかしろよ」
ヴァルカンが険しい表情で私たちに詰め寄ってきた。アーサーは両手を広げながら、淡々と言った。
「能力を使うための装備がない……。あと、今は騎士っぽくないからアガらない」
「…………騎士っぽい?」
ヴァルカンはアーサーの言葉の意味が分からず、首を傾げる。私もまたヴァルカンと同じ疑問を抱いていた。しかしながら、アーサーは、そのままの口調で説明を続ける。
「とにかく、騎士っぽくない俺では、能力を使えないんだ」
「はぁ?何を言っているんだ。お前……」
ヴァルカンは呆れたように吐き捨てた。その時、アーサーの視線が作業台に置かれた工具に移った。ヴァルカンもその目線を追った。
「そこに工具があるだろ」
「ニッパーと金づちか?」
アーサーが頷くと、最初にニッパーを手に取った。すると、ニッパーからチボと。細い火が小さく噴き出した。
「剣っぽくないとこれくらいの火力」
次に金づちを手に取ると、シュボと音を立て、ニッパーよりも強い火力が出た。
「より剣っぽい物の方が火力が上がる」
アーサーはヴァルカンの目を真っ直ぐ見つめながら続けた。
「俺は、騎士王アーサー・ボイル!より騎士のイメージに近いほど”能力”が強くなる!!だから、騎士なんだ!!」
自信に満ちたその言葉に、私はなるほどと納得した。だから、アーサーは私の槍伸縮型を借りたいと頼んできたのだ。アーサーが私と目を合わせると、ふっと薄く笑った。
ヴァルカンは首をかしげながら言った。
「よくわからねェけど時間がねェ。ようは、お前を騎士っぽくしてやれば強くなるんだろ?」
そう言いながら、ヴァルカンはアーサーを指差した。そして、何かに気づいたように続けた。
「あと、パッと見てわかったけど。お前、バカだな」
アーサーは悪くもない気分で答えた。
「ふッ」
鉄ドアの前に立つアーサーはマントをひるがえし、振り返って私に声をかけた。
「画家。準備は良いか?」
「問題ありません。いつでも出撃できます、騎士王」
その言葉を聞いたアーサーの顔は明るくなった。どうやら、アーサーの「騎士」に対するイメージに近づけることで、本来の能力が強化されるようだ。だから私は、あえてアーサーを「騎士王」と呼び、その気にさせることにしたのだ。
アーサーは鉄ドアに手をかけ、ゆっくりと開けて外に出た。
「ゆくぞ、画家!!シルバー!!」
マントをなびかせ、軍手を身につけているその手にはヴァルカンが作った剣を腰に鞘付きで装備し、アーサーは立ち上がった。その動きが堂々たる騎士のようだった。アーサーがシルバーと名付けた動物の模型も装着されている。
私たちの姿を見た白装束の男は、怪訝そうにこちらを睨みつけた。
「なんだ、貴様らは。工房の者ではないな……」
私は数歩先に立つアーサーに向かって、明確に言った。
「騎士王。あいつらが私たちの敵です」
「そうか」
アーサーはこちらを振り返り頷く。そして、私の背後にある工房を見つめながら言った。
「あの水車小屋にいる姫君と要人を護るのが、王から賜った我が使命」
アーサーが「水車小屋」と呼んだ工房。アーサーは剣の柄をしっかりと握り、再び白装束へと視線を戻した。
「ここを通すわけにはいかぬ。エクスカリバー!!」
アーサーはそう言って、剣を鞘から抜いた。
「ハイヨ、シルバー!!円卓の加護の下に!!エクスカリヴァアア!!」
掛け声とともに、アーサーはエクスカリバーを真横に力強く薙ぎ払った。ゴウッと地面をえぐる勢いで白装束に放つ。強烈な衝撃で大勢の白装束は瞬時にゆらめき、一人また一人と消えていく。まるで霧が晴れるように消えていった。そして、一人だけ白頭巾を被った人物と、その攻撃を回避した男が残った。
「あの白頭巾の奴が、幻影を作っていたんだ」と私は呟く。
「あの大軍……。手ごたえのないハリボテだったのか」
アーサーの言葉に、男はフードを取り外して叫んだ。
「工房の人間以外に、女とこんな男がいるとは聞いてないぞ……貴様ら!!何者だ!!」
「俺は騎士王アーサー!!第8の二等消防官だ!!」
その声が響く中、私は槍伸縮型を地面に突き刺し、素早く絵を描いた。
「踊れ!火兎!!6匹だ!!」
地面から次々に、炎をまとった火兎が現れる。男は私の能力を見て、表情が一瞬驚愕と理解に変わった。
「貴様が、絵馬 十二か!」
「あんたは確か、Dr.ジョヴァンニ大隊長の隊に所属していた隊員……」
私も男の顔に見覚えがあった。男は常にDr.ジョヴァンニ大隊長と行動を共にしていた隊員だったからだ。
「絵馬 十二。貴様は、第二世代能力者だったな」
「……だったら、何?」
私は男を睨み返した。男は鎖が付いた武器を取り出し、鎖の先にボッと棘をつけた炎の鉄球を出現させた。これが男の能力のようだ。
「邪魔者は消す……」
「強い炎の意志だ。ぬかるなよ。絵馬 十二は私が相手する」
白頭巾の隙間から殺意を滲ませて睨んでくるもう一人の白装束に、私は嫌みたらしく笑ってやった。