第壱章
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「GAHAAAA」
鬼の”焔ビト”は吠え、その両腕を真上に上げると周囲の炎を吸い込み始め、巨大な火の玉を形成し始めた。
「まずいッ‼︎踊れ!火猿‼︎」
咄嗟に地面に絵を描いた絵から火猿を呼び出す。火猿は素早く炎の尾で槍伸縮型を掴み、私を一気に鬼の”焔ビト”から引き離す。私はシンラとアーサーに声を上げた。
「シンラ‼︎アーサー‼︎」
「うぉッ‼︎」
反応が遅れたシンラとアーサーが火の玉に巻き込まれ、後方へと勢いよく吹き飛ばされた。二人の周囲には火炎と黒煙が撒き散らされる。間を与えまいと、鬼の”焔ビト”がシンラに向かって突進する。シンラは肘で攻撃を防ぐが、その威力には到底太刀打ちできず、シンラは遠方へと弾き飛ばされてしまう。
「画家‼︎手伝ってくれ‼︎」
アーサーはエクスカリバーを手に持ち、鬼の”焔ビト”に向かって駆け出す。狙いは頭部。鬼の”焔ビト”の頭部に狙いを定めて剣を薙ぎ払うが、ガリガリガリと削れる音が響く。鬼の”焔ビト”の皮膚が硬質化しており、岩石同士が削れるような音がするだけで、エクスカリバーが通らない。
「硬ェ……‼︎」とアーサーが呟く。
鬼の”焔ビト”がエクスカリバーを弾き返すかのように右腕を振り払い、鋭く尖った爪でアーサーの腹部を掠めて服ごと切り裂いた。私は火猿の名を呼ぶ。
「火猿‼︎」
火猿は、アーサーの真下を上手く掻い潜って、下から上へと大きく振りかぶった拳を鬼の”焔ビト”に向けて繰り出す。内部にこもった炎と熱風が、火猿の拳に乗って威力を増す。しかし、鬼の”焔ビト”は、それをいとも簡単に受け止める。そして火猿の拳を掴んだまま、そのまま地面に叩きつけられてしまう。結果、火猿は消滅してしまった。私は槍伸縮型を握りしめ、鬼の”焔ビト”の横腹を狙って大きく振りかぶる。
ガチンと音がし、槍が鬼の”焔ビト”の腹部に攻撃を当たるが、皮膚の硬質化により、弾かれる。
「くっ……!これならッ‼︎」
私は槍を握りしめ掴んだまま真上に飛び上がり、右足で鬼の”焔ビト”の横っ面を勢いよく蹴り込んだ。
「かっ……たぁーー‼︎」
電流が激しく走ったような痺れが足を襲う。足を掴まれそうになるが、かわすようにくるりとバク転して、地面に着地した。
「画家ッ‼︎」
アーサーが私の名を呼ぶ。バッと顔を上げると、鬼の”焔ビト”の手が迫ってくるのが見えた。避けられないと確信した瞬間、突然、鬼の”焔ビト”が手を引き、地面を見つめると二、三歩後方へと下がった。
ドドと音を立てて、先程鬼の”焔ビト”がいた場所に纏が二本地面に突き刺さる。同じ法被を着た紅丸が私の前に降り立った。
「助かった、紅丸」
「絵馬、油断してんじゃねェ……お前の相手は俺だ」
紅丸はちらりと私を一瞥し、再び鬼の”焔ビト”に視線を戻す。私の背後から聞こえるシンラの声。
「絵馬さんの火猿やアーサーの剣でも傷が付かないなんて。どうなってんだ……」
アーサーが紅丸に向かって言った。
「オイ、第7の大隊長!こいつは、普通の”焔ビト”じゃない……」
紅丸は横目で私たちを横目で見つつ、厳しい表情で言った。
「二年前、浅草に現れた角付きの”焔ビト”。こいつが、切っ掛けで紺炉は灰病になったんだ。手を出すな。この喧嘩、俺と絵馬がやらせてもらう」
「このケジメは私と紅丸がつけるから、二人は少し離れていて」
私は法被を片肌脱ぎ、槍伸縮型をくるりと回して両手でしっかりと持ち直し、二人の顔を見る。私たちの言葉にシンラとアーサーは顔を見合わせた。
「騎士道精神に則り、二対一を見守るぞ」
シンラが眉を吊り上げ、
「お前、俺にあの鬼倒すの手伝えって言ってたよな」と言う。
アーサーはシンラの問いに対して無言で、遠くを見るふりをした。
ぱちぱちと音を立てながら飛来する鬼の”焔ビト”に、私は槍伸縮型を突き刺す。ガチリと鬼の”焔ビト”が槍先を掴み取る。紅丸は地面を蹴って真上に飛び上がり、槍伸縮型の上を走って、左足で鬼の”焔ビト”の横っ面を狙う。
しかし、素早く槍先から手を放した鬼の”焔ビト”は、しゃがみ込んで攻撃を回避する。それを見逃さず、私は槍先を地面に突き刺し、遠心力を利用して勢いよく両足で鬼の”焔ビト”に攻撃を繰り出すが、それも後方に下がられてかわされる。
紅丸は、地面に突き刺さった槍伸縮型を壁がわりに利用し、くるりと空中で一回転して踵落としを繰り出す。鬼の”焔ビト”は両腕でガードする。
「チッ!」
紅丸の舌打ちが聞こえる。紅丸が私の横に降り立つ。
「絵馬、残りの炎もあと1つ……みてェだな」
「それがなくなっても、私は戦えるよ、紅丸」
私は紅丸の顔を見ることなく、鬼の”焔ビト”を見据え続ける。数歩前に出る紅丸が私に言う。
「俺と角付き”焔ビト”の炎を少しずつ吸収しながら、槍に炎を蓄えてろ」
「それまで、持ち堪えてよね」
紅丸は振り向き、ニヤリと笑った。
「誰に言ッてやがる」
ガガガガ、と。紅丸と鬼の”焔ビト”の激しい攻撃が続く。鬼の”焔ビト”が素早く紅丸に接近するが、紅丸は鬼の”焔ビト”の腕を掴み、一気に地面に払い落とした。鬼の”焔ビト”はすぐに跳ね起き、後退。そして右手を前に突き出し、一直線に炎の渦が紅丸に襲う。
だが、紅丸はそれを払い除ける。私は紅丸の後方に立ち、槍伸縮型をくるくると回し続ける。まばらに広がった炎は槍伸縮型に吸い込まれていく。この方法は、第三世代の能力を直接借りず、自力で周囲の炎を吸収し、槍伸縮型に炎を補充する独自のやり方だ。紅丸は溢れる炎を、自らの能力で鬼の”焔ビト”に弾き返していた。
紅丸は右手を上げ、「これで」と手刀を鬼の”焔ビト”の胸のコアに向かって振り下ろすーーーー。
「いって……さすがに硬ェな」
「俺のエクスカリバーでも切れないんだぞ!そんなチョップで倒せるか、バカ‼︎」
紅丸の呟きに声を荒げ、手に持つエクスカリバーを指差すアーサー。
「それ……アーサーが言っちゃうの?」
第8の皆からバカ認定されているアーサーにバカ呼ばわりされる紅丸。なんとも言えない気持ちに、私は誰にも聞こえないようにそっと槍伸縮型を回しながら、ボソッとアーサーにツッコミを入れた。
紅丸は鬼の”焔ビト”を鋭く睨む。
「二年前、紺炉は地面に巨大な穴を開けていた。同じくらいの火力が必要ってことか……紺炉の仇討ちだ……。なら、同じ方法でカタつけてやる。絵馬!」
「合点!承知‼︎」
紅丸に名を呼ばれた私は、槍伸縮型の動きを止め、近くに置いてあった纏を引っこ抜いて紅丸へと投げる。紅丸は飛んできた纏を軽々に掴み、纏に足をかける。
「ここで町ごと吹き飛ばずわけにはいかねェ」
紅丸はばれんに能力を使い、纏を発火させた。
「PIGYYYY」
鬼の”焔ビト”の咆哮を掻き消すように、勢いを増した纏に紅丸は乗り、暴風と伴って鬼の”焔ビト”を纏の先端にぶっつけて、その勢いを殺さずに夜空へと向かって駆け上がっていった。