第壱章
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紅丸は、浅草の町を見つめ、少し視線を下に向けて語りかけた。
「今からこのヤグラを打ち上げる。浅草の人間が、俺の存在に気づけるようにな。絵馬、ヤグラの上にあがれ」
私は頷いてからヤグラの柵に足をかけ、ピョイッと屋根へ登った。避雷針を掴みながら、その場にしゃがむ。それに続いて紅丸も屋根に上がり、避雷針の上に立つ。凄まじい唸りを立てて町が燃え続け、炎が突っ立ち、夜の空が朱と金色に染まりつつある浅草を眺める。
「行くぞ、絵馬」
その言葉に、全てを預けるつもりで、「合点!承知‼︎」と私は答えた。
ゴゴゴと凄まじい音を立てて、ヤグラが空に向かって真上へと上昇し始めた。
「紅‼︎」
「紅ちゃんだ‼︎」
「紅丸‼︎」
町中から紅丸を呼ぶ声が響きわたり、その声が徐々に増えていく。紅丸は深く息を吸い込み、
「聞こえるか、浅草ァァ‼︎!」
と町全体に響きわたるかのように叫んだ。その声に浅草の町民たちの動きが止まる。紅丸の言葉、電流のように私の全身を駆け巡るのを感じた。町民たちも同じように感じたに違いない。
「うおおおおおお‼︎!」
どこからともなく、爆発的な歓声が紅丸に降り注がれる。紅丸は続けて叫んだ。
「今、この町は外の奴らから攻撃を受けている‼︎浅草の人間そっくりに変装して、俺たちを騙してやがるんだ‼︎」
その言葉に、町民の間に不安と戸惑いが広がる。軽くざわめきが街全体に広がり、互いに顔を見合わせる。
「え…………?」
「変装だって……⁉︎」
町民たちの戸惑いの声があちこちから聞こえてくる中、紅丸は力強く続けた。
「そいつらの見分ける方法はねェ‼︎このままじゃ、にっちもさっちもいかねェ‼︎だが、そんなこと知ったこっちゃねェ‼︎」
苛立ちの声を上げ、悠然と佇む紅丸。長い前髪を風になびかせ、法被を身にまとった浅草の破壊王、その姿に浅草全体が震えた。
「新門大隊長ご命令を‼︎」
紅丸と同じく気迫に満ちた紺炉の声が私の胸に響く。浅草の町を見上げる紺炉の背後には、火消したちが整列し、紺炉と共に腰を折理、深々と頭を下げて最敬礼を示した。
私は避雷針を掴みながら屋根から立ち、紅丸を見上げて笑った。
「紅丸‼︎踊ろうか‼︎」
チラリと私の顔を見る紅丸の口角が微かに上げる。それが一瞬の合図のように感じられた。そして、再び歓声が上がる浅草を見下ろしながら、紅丸は法被を片肌脱ぎ、握り拳を作り、空に突き上げて叫んだ。
「お前ら全員殴り合え‼︎本物も偽物も関係ねェ‼︎浅草の人間は、偽物なぞに負けやしない‼︎安心しろ。火事と”焔ビト”は、第7が面倒を見る。思う存分殴り合え‼︎」
空に飛び上がる口笛じみた音と、破壊する短い音。浅草から夜空を見上げる浅草の町民達の顔は、赤や青や緑など、様々な色に光る。色とりどりの光を空にぶちまけて咲く花火。自然に沸き起こった歓声。
「祭りだ‼︎祭り‼︎喧嘩祭りだ‼︎」
老いも若いも男も女も、皆好き勝手に殴り合う。私は空に絵を描いた。
「踊れ!火鳥‼︎」
炎から形を変換させ、空に浮かび上がる火鳥。槍伸縮型のロックを外し、真横に構える。火鳥はその両足で槍を掴んだ。
「絵馬。身につけていたバンダナはどうした?」
紅丸は私を見下ろして問いかけた。私は首を横に振る。
「この前の第1での事件のときに、負傷した中隊長の血止めに使ったから今は持ってないよ」
あのバンダナは、十二炎の背に乗るときに敷いて使用する防火用バンダナだ。だが今手元にない。十二炎の背に乗って移動することはできない。それでも、火鳥となれば、両足で槍を掴み、私も両手で槍を掴むことで、両腕だけで身体を支えることになるが空を移動することは可能なるのだ。
ゴッと、少し離れた場所で粉塵が舞い上がり、何かが空に吹き飛ばされた。目を凝らして見ると、それはーーーー。
「あれは……鬼の”焔ビト”」
見覚えのある二本の角。紅丸は眉をひそめ、呟く。私も槍伸縮型を握りながら、紅丸と同じように鬼の”焔ビト”を凝視する。
「二年前の鬼の”焔ビト”とよく似ている」
「紺炉を灰病にした……どうやら俺たちの喧嘩相手が見つかったようだな……」
紅丸の言葉に頷き、槍伸縮型を両手で掴む。火鳥と共に鬼の”焔ビト”に向かって空を飛ぶ。紅丸は能力を使い浅草の町から纏を二本呼び寄せ、纏に火を発火させて空を飛んだ。
鬼の”焔ビト”の方へ近づくと、見覚えのある二人組が目に入った。私は紅丸に声をかけた。
「紅丸、シンラとアーサーがいる!それに、鬼の”焔ビト”と……もう一人、敵がいる‼︎」
紅丸は纏を加速させ、私よりも先に鬼の”焔ビト”の元へ突き進み、能力で火の玉を出現させ、鬼の”焔ビト”の顔面に向けて真っ直ぐに放たれた。火の玉は鬼の”焔ビト”の顔面に直撃する。
私は火鳥を消し、重力に身を任せながら槍伸縮型をしっかりと握り、鬼の”焔ビト”一直線にめがけて突き狙った。しかし、鬼の”焔ビト”に当たったものの、皮膚が頑丈だったため、突き刺さることなく弾かれてしまう。くるりと空中で一回転して地面に着地する。
「絵馬さん‼︎」
「画家⁉︎」
シンラとアーサーが私と紅丸の存在に気づき、驚いた表情を浮かべる。私の頭上には紅丸が纏を握りしめながら立ち、一言放った。
「お前ェの喧嘩相手は、俺たちだ‼︎」
鬼の”焔ビト”を睨みつける私は、その瞳に怒りと憎しみを込める。絶対に負けないと心に決める。二年前の鬼の”焔ビト”の前には紺炉がいた。あの時、何も出来なかった私たち。しかし、あれから紺炉と浅草のために死に物狂いで修行を重ねてきた。そして今、紅丸と私は、鬼の”焔ビト”の前に立ちふさがる覚悟を決めたのだ。