第壱章
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鎮魂を終えた第8特殊消防隊は、拠点となる第8特殊消防教会へと戻った。私も一緒に教会に向かい、アイリスと茉希と共にシャワー室で汚れを洗い流していた。そんな時、茉希がアイリスの方を真正面から見つめ、言葉を搾り出すように切り出した。
「シ……シスター……」
「なんです、マキさん」
「シスター、さっき駅で新入隊員にお姫様抱っこされていましたよね?そのとき……やっぱり、運命とか感じましたか?」
「え!?」
アイリスは茉希の唐突な質問に目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。その反応に、私も思わず唾が気管に入り、むせる。
「絵馬さんもそう思いませんか?シスターと新入隊員は運命だと!」
「さ、さぁ……?お姉さんは、ワカラナイヨー」と私は話を誤魔化す。
第8消防隊の一員、茉希 尾瀬。彼女は私より一つ下の少女で、クール系の可愛い後輩なのだが、時折思考が「お花畑」になってしまう。特に、男女の仲が絡むと「これって運命」とか言い出す、少し残念な一面も持っている。
隣にいるアイリスは、”焔ビト”を鎮魂する祈りを行うシスターであり、茉希とはまた違った雰囲気を持つ。性格も非常に素直で、そんな彼女の様子を見ていると、茉希のお花畑状態に巻き込まれそうで危険だ。これ以上長居するのは避けたいと思い、私は二人に声をかけた。
「私は、先に上がるから後はお二人でー」
「えっ、絵馬さん!」
とアイリスが、置いていかないでと訴えるように私を見つめる。ごめん、アイリス。その気持ちは分かるけど、後は頼んだと心の中で彼女に謝り、アイリスを残して私は早々にシャワー室から脱出することにした。
「ぶぁっはっはっは‼︎」
着替えを終え、廊下を歩いていると、事務室の方から桜備大隊長の賑やかな笑い声が響いてきた。
「桜備大隊長ー、また何か可笑しいことでもあったのですか?」
そう言いながら、どんな面白いことがあったのだろうかと思い、私はそのまま事務室のドアを開けて中に入った。そこには、笑い声の主である桜備大隊長、火縄中隊長、そしてもう一人ーーーー。
「君は、さっきの……」
「おっ、お疲れ様です!」
駅でアイリスをお姫様抱っこして守ってくれた少年が、そこにいた。私は彼に向かって尋ねる。
「お疲れ様……えーっと、シンラだっけ?何か、私の顔にでも付いてる?」
「い、いえ……」
シンラは敬礼しながら笑いを見せ、私の目を見つめている。その光景が不思議だと思い、私は自分の顔周りを軽く触れてみたが、何も付いていないようだった。
「ぶぁっはっはっはっ!!」
私とシンラの様子を見守っていた桜備大隊長が、再び声を上げて笑った。
「絵馬。シンラはなー、緊張すると笑ってしまうやつなんだとよ」
「緊張すると、笑ってしまう……」
桜備大隊長の言葉を受け、再びシンラに目を向けると、彼は私と視線が合った瞬間に、徐々に徐々にと口元が緩み、ニヒルな笑みを浮かべていくのがわかった。
「あっ!本当ですねェー…………あダッ!?」
「絵馬、好奇心でシンラに近づいていくな。シンラが緊張しぱなっしだ」
「いててっ。バインダーで叩かないで下さいよ、火縄中隊長。承知です」
私は緊張で笑っているシンラに興味を持ち、無意識のうちに近づいて行こうとしたところを、火縄中隊長が持っていたバインダーで軽く叩いて制止した。
「改めて、私は絵馬 十二。第8特殊消防隊の一等消防官です。宜しく」
私は叩かれた頭をさすりながら、もう片方の手をシンラに差し出して握手を求めた。シンラは私の顔と差し出した手を交互に見ながら、
「よっ、宜しくお願いします」
と、笑いながら答えてくれた。火縄中隊長はその流れに乗り、私の情報をシンラに伝えた。
「絵馬は、事情により第8と別の部隊の小隊長を掛け持ちをしているため、こちらから要請があった時にだけ、こちらに応援に来てくれる」
その言葉を聞いたシンラは、驚いた表情で手を離し、私を見つめた。
「掛け持ち!?掛け持ちする隊員って、聞いた事ないですよ!?」
「そうだよねー。でも、現にここに私がいるってことは、そういうことだよ」
シンラは私を見て驚きの目で見つめ、さらにその思いを強めているようだった。彼の気持ちは何となく理解できる。私も最初は同じことを思った。普通は一つの隊で勤務するのが基本であり、訓練校でもそう教わる。掛け持ちは毎日同じ部隊にいないため、連携が取りづらく、情報共有もしにくい。そのことが私の心を囚えて離れないのだ。私はいつも考えている。二つの隊を行き来するのではなく、互いに協力し合うことで、より効果的な結果を生み出せるのにと。しかし、世の中はそう上手くいかないようだ。
「失礼します」
ノック音と共に、事務所のドアが音を立てて開いた。茉希と、その隣にいるアイリスが私たちを見て敬礼する。どうやら二人とも、シャワー室から上がったばかりのようだ。
アイリスは私の隣に立っていたシンラに気づき、手を合わせて言った。
「先ほどは有難うございました」
「い……いえ、ヒーローとして当然です!」
シンラはお礼を言われると、照れたのかアイリスの視線を受け止めるのを避けるように目を逸らした。アイリスがその後、ゆっくりと方向を変え、私と目が合う。その瞬間、彼女の表情がムッとしたものに変わった。
「それと、絵馬さん。私を置いていきましたね」
「なんのことでしょ……」
アイリスの少し不機嫌そうな視線が私を捉える。おそらく、先程のシャワー室の出来事を指しているのだろう。私もシンラと同じように、アイリスに目を合わせないようにして茉希の方に視線を向けた。すると、茉希はアイリスとシンラの様子を見て、まるで乙女のように頬を赤らめていた。
「やっぱり、運命……」
そう言いながら、茉希はアイリスに近づいていく。不機嫌なアイリスは、茉希に向かって手刀を次々と繰り出していた。アイリスの攻撃を受ける茉希は、それでも嬉しそうにアイリスに言った。
「シスターで可愛いアイリス様が暴力なんてイケナイと思います」
アイリスは何度も茉希に手刀を繰り出すが、それでも茉希は「ロマンティック」と言いながら、シンラとアイリスを恍惚のまなざしで見つめていた。その様子に、私は思わず苦笑してしまう。しかし、その静かな瞬間が破られるとは思ってもみなかった。アイリスが突然、私の腰に手刀を降ろしたのだ。
「イタッ!」
「先程のお返しです。絵馬さん」
それが、シャワー室を離れた私への罰だということが見え透いて分かった。私は油断していたため、地味に痛い。アイリスの不満を和らげようと「ごめんね」と謝り、彼女の機嫌が直るまで頭を撫で続けることにした。