第壱章
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「す、凄い……桜備大隊長!」
桜備大隊長が紅丸に攻撃を当てたのを見て、私はあっけに取られる。私でも最近になって、紅丸とある程度は戦える位に強くなったのに。無能力者である桜備大隊長が初戦で、互角とは言えないが、一発とはいえ紅丸に攻撃をヒットさせたことに驚いた。
「おおおおーーーー‼︎第8の大隊長もやるじゃねェか」
「紅ちゃんほどじゃねェけど、頑張れェ!」
観衆の町民達が、割れんばかりの大歓声を二人に送る。その時、後方から幼い声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「絵馬ーー‼︎」
私は首をひねって後ろを確認した。
「ヒカゲ!ヒナタ!」
私はビックリして、急いでヒカゲとヒナタの側に駆け寄る。
「二人とも!ここに居たら危ないよッ!」
「ウルセーー‼︎若が喧嘩していると聞いて来てやったぜェーー‼︎」
「うひェひェひェ。喧嘩だーー‼︎」
私はしゃがみ込み、ヒカゲとヒナタの目線の高さに合わせてため息をついた。前方から、慌てているかのように私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「十二小隊長、すいやせん!第8のねェちゃんと一緒にヒカゲとヒナタを見守っていたんですが……」
視線を上げると、青年の火消しとタマキが駆け寄ってくる。さらに視線を少し上げて青年の火消しに言った。
「謝らなくていいよ。ヒカヒナを守ってくれてありがとう」
私は青年の火消しに微笑んでお礼を言い、タマキに視線を向けた。
「タマキ隊員もありがとうね」
「い、いえ……。十二小隊長、あれ……」
タマキは私から視線を逸らし、後方で激しい攻防を繰り広げる紅丸と桜備大隊長を見て目を見開いていた。タマキは、何が起こっているのか分からず戸惑っている様子だ。私は立ち上がってクルリと振り返って言う。
「……紅丸が勘太郎じぃちゃんを”焔ビト”にしたのは、第8だと思っているみたいで。私は、第8がそんな事しないと伝えているのに、納得してくれなくてこの有り様……」
「えぇっ⁉︎」
タマキは驚き、戸惑った。
「若が喧嘩しているとは聞いたけど……そんなことが、あったのですかィ⁉︎」
タマキの隣に立つ青年の火消しも私の話に動揺している。私は再度紅丸と桜備大隊長に目を向けた。二人はお互いにヒートアップし、更に激しい攻防を繰り広げていた。その時、私の背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「これは一体なんの騒ぎだ」
振り向くと、紺炉が立っていた。私は、「紺炉!」と声を漏らす。
「絵馬。お前ェさんから命令を受けた火消しが、俺を呼びに来たんだが……こりゃあ……どういうことだ?」
「紺炉中隊長。勘太郎を”焔ビト”にしたのが、第8の連中らしくて大ゲンカですぜェ」
私の代わりに青年の火消しが答えた。
「若ーー‼︎やっちまえーー‼︎」
紅丸を応援するヒカゲとヒナタをちらっと見てから、私は視線を紺炉に戻し、これまでの経緯を紺炉に話した。紺炉は真剣な表情からみるみるうちに困惑した表情になりながらも、耳を傾けている。
「なんだと……?そんなバカな……」
紺炉が語尾を濁らせた。きっと、その後に続けようとしていただろう言葉を私は代弁した。
「私が言っても駄目だったよ」
「絵馬の言葉なら、若も耳を傾けてくれると思ったんだがなァ」
「……私が、紅丸だけでなく第8の味方をしたから」
私は今にも消え入りそうな小さな声で続けた。
「どうすれば良かったんだろう……」
「絵馬。お前ェさんは、悪くねェよ」
そう言って紺炉は、私の背中を軽く叩いた。
「半端な攻撃じゃ、倒れねェか……遊びは終わりだ……」
桜備大隊長の目の前に立つ紅丸が指先に炎を発火させ、ゆっくりと円と描き始める。
「あれは⁉︎」
「でたーー‼︎」
紅丸の動作を見るなり、町民達から歓声が上がった。
「いけねェ……」
紺炉は慌てて身を乗り出して声を張り上げ、紅丸達の方へ駆け出した。
紅丸の背後に炎の円月が現れる。
”居合手刀 七ノ型”
紅丸は身構えて、言った。
「”日輪”」
紅丸と桜備大隊長の近くに到着した紺炉は叫んだ。
「若‼︎やめろ‼︎」
紅丸は紺炉を見ずに、桜備大隊長を見据えて口を開いた。
「止めるな紺炉。お前は、こいつらが勘太郎を”焔ビト”にしたって知っているのか」
「絵馬から大まかな事は聞いたが……そんな馬鹿な……一体どういうことですか」
「見間違いだと何度言ったらわかるんだ!」
桜備大隊長は怒鳴った。目は血走り、体全体で怒りを表現している。こんな桜備大隊長を、私は初めて見た。
紅丸は桜備大隊長を睨み叫んだ。
「くらえ‼︎」
ヤバイ、”日輪”が桜備大隊長に。私は慌てて二人のところへ駆け出す。走りながらポーチから槍伸縮型を取り出そうとーー。
「紺炉!はなせ‼︎」
紺炉は紅丸の腕をぐっと掴んだ。紺炉が続けた。
「若、冷静になれ‼︎」
法被を両肌脱いだ紺炉。包帯でグルグル巻きにした両肩から発火能力を発動させた。炎を発動した紺炉の姿を見て、私はポーチから手を離し、唖然とした。
紅丸が紺炉に向かって叫ぶ。
「馬鹿野郎!なに、発火能力を使っている⁉︎」
紺炉は紅丸の両腕を掴みながら、ドスンと地面に倒れ込む。私は紺炉に駆け寄った。
「紺炉ッ‼︎」
焼けた包帯から焦げた跡が見える。身体の一部が炭化している部分が顕になっている。少しでも熱を抑えようと、私は上半身の法被を脱いで紺炉の肩に羽織らせた。
「中隊長‼︎」
「早く冷却布を持ってこい‼︎」
火消し達が詰所内に駆けていく。苦しそうに法被の上から肩を押さえている紺炉を見た桜備大隊長は、警戒しつつも、そっと近寄った。
「灰病ーー。大丈夫ですか⁉︎」
「近寄るんじゃねェ‼︎」
紅丸が腹の底から叫んだため、桜備大隊長は足を止めた。
「若!絵馬にも言われたんだろ?いったん、第8の言い分を聞いてやったらどうですかぃ?」
紺炉は弱りきった声で言う。そこに詰所から冷却布を持ってきた火消しが、
「中隊長。冷却布です」
と私の法被の上から更に被せるように、紺炉の肩に冷却布を羽織らせた。
「すまねェ」
紺炉はお礼を言い、顔を上げて言葉を続ける。
「お前ら!若の見間違いってなら、その時何をしていた?」
私は紺炉から第8の皆の方へ視線を向ける。火縄中隊長が一歩前に出て答えた。
「私と桜備大隊長は、町の雑貨屋で足りない資料を買い集めていました。そこのマキ隊員にも伝えていました」
「はい、たしかに」
茉希は、火縄中隊長の言葉に頷く。
「エ」とシンラは目が点になり、首を傾げながらおや、という顔をする。
「アレ?エエ〜〜⁉︎」
桜備大隊長がシンラを見た。
「なんだ、シンラ」
「あ……いや……俺は桜備大隊長に裏路地で待っているから、新門大隊長を呼んでこいと……」
シンラは眉をひそめる。私は紅丸を見上げて言った。
「紅丸は、桜備大隊長の所に行くと私達に言って、詰所を出たよね?」
紅丸は火消しからタオルを受け取り、出血している額を押さえこちらを見下ろす。そして、紅丸はもう一度第8を見た。
「あぁ、言った。俺も、そう聞いててめェらのところに向かったんだ」
桜備大隊長と火縄中隊長は顔を見合わせる。桜備大隊長は困惑した。
「そんなことは言った覚えがないぞ……」
「てめェらは仲間も騙す気か‼︎」
額から乱暴にタオルを振り払った紅丸は、桜備大隊長に怒鳴った。
「紅ちゃん……彼らが言っていることは本当だよ」
観衆の町民の中から、一人の男が一歩前に出て、紅丸に言う。紅丸は、黙ってその話に耳を傾けた。
「そこの二人はついさっき、ウチの店を出てったんだ。そしたら紅ちゃんが、急に攻撃を仕掛けた。誰かと見間違えたんじゃないかい?」
雑貨屋の店主が紅丸を見つめる。紅丸は桜備大隊長と火縄中隊長に近づいて、顔をきょろきょろと見ながら言った。
「そんな馬鹿な。こんな眼光がやべェ奴とゴリラを見間違うはずねェーー……」
「えっ?えっ?」私は戸惑った。
店主が言っていることは本当の事のようだし、紅丸も嘘を言っていない。でも、これはーーーー。私が思っていた事を紺炉が代弁した。
「どういうことだ。きなくせェじゃねェか……」
紺炉は、「ゴホゴホ」と咳き込む。
「紺炉!絵馬、紺炉を部屋に連れていくぞ!」
紅丸はこちらに振り向き、駆け寄ってしゃがみ込み紺炉の腰を支える。私も同じように、紅丸とは反対側の紺炉の腰を支えて、足並み揃えて一緒に紺炉を支えるようにして立ち上がった。