第壱章
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私は素早く紅丸に向かって走り、紅丸の顔を狙う。ぼうっと空気を切り裂く音が響き、私の拳が紅丸の頬を掠めたと思ったら、紅丸は私の拳を掴んで、反撃とばかりに力任せに私を地面に薙ぎ倒した。
「ぐっ‼︎」
呻き声が私の口から漏れる。それでも私は、奥歯を噛み締めながら素早くその場から立ち上がり、構えをとって紅丸を睨む。地面を蹴り、突進する。
「紅丸の頑固者‼︎」
「頑固者はお前ェだ!絵馬‼︎」
紅丸が真正面から迎え撃った。私と紅丸の放った拳がぶつかり合う。紅丸が振り下ろした拳を肘で受けると、重量差で私の身体が後方へ押しやられた。鋭い攻撃を次々と繰り出す紅丸に、私は必死に拳や膝蹴りをガードし続ける。
紅丸の蹴りに弾かれ後退した。だがすぐに反撃とばかりに、私は反動をつけて飛び上がり、紅丸に向かってかかと落としを繰り出す。しかしーー。
紅丸はかかと落としをかわすと、私の足を掴んだ。バランスを崩された私は、紅丸に胸ぐらを掴まれてそのまま地面に叩きつけられた。
「絵馬さん‼︎」
誰かの声が耳に入ってきたが、痛みのせいでそれを聞き取る余裕がない。紅丸は私に馬乗りになり、額と額が軽く触れ合うほど近づく。紅丸の目に、苦痛の表情に耐える私の姿が映る。
「絵馬、前にも言ったが……皇国の奴らに肩を入れ過ぎているから、お前ェのお人好しな性格を良いように利用されているんだろうがァ」
「違う!利用されてなんかいないよ⁉︎」
「違わねェよ。同じだ」
私の胸ぐらを掴む紅丸の手に力が入る。言葉が出ない。どう言えば紅丸に伝わるのか。紅丸の怒りに満ちた目と、私の目が交差する。
「うちの隊員に何してくれてんだ」
私たちの背後から桜備大隊長の声が響く。紅丸は私から手を離し、桜備大隊長の言葉にゆっくりと立ち上がり振り向いた。
私は地面に倒れたまま桜備大隊長を見上げる。防火服を着て防護面を被り、防護盾を手にした桜備大隊長が立っていた。防護面越しで表情は見えないが、その力強い声から怒りが溢れ出していた。
「頭同士でケリつけましょう‼︎」
紅丸は私のほうをチラッと見ると、再び桜備大隊長に向き直り、言い放った。
「絵馬、離れてろ…………なんで”町の奴を”焔ビト”にしやがった⁉︎」
紅丸に言われ、私は地面に手をついてゆっくりと立ち上がる。悔しさが募るが、今は二人から距離を取ることにした。
桜備大隊長は、私が紅丸から離れたのを見計らってから紅丸に応じる。
「何を言っても聞く気ないでしょ……」
防護盾を右腕に装着し、それを前に構えると、紅丸に突進しながら叫ぶ。
「だったら黙ってかかってきなさいよ!」
「本性出しやがったなクズが‼︎」
紅丸は桜備大隊長に向けて炎を繰り出す。桜備大隊長は紅丸の攻撃を直に受ける。間を与えずに能力を再発動して、次々に攻撃を浴びせる紅丸。紅丸の攻撃を全て防護盾で受け止める桜備大隊長に、紅丸は不思議そうに首を少し傾けた。
「…………?かき消さねェのか?」
「かき消す……?」
紅丸の言葉に、桜備大隊長は声を張り上げた。
「そんなことできるわけねェだろ‼︎俺は無能力者だ‼︎‼︎」
桜備大隊長は防護盾を両手でがっちりと掴み、紅丸に攻撃を仕掛ける。
「なんだと……怖くねェのか炎が」
紅丸は桜備大隊長の攻撃を、防護盾を蹴り、真上に飛び上がってかわすと、左足で桜備大隊長の横っ面を勢いよく蹴った。
蹴られた反動で少しバランスを崩した桜備大隊長だったが、すぐに持ち直し、紅丸の方に荒波のような勢いで押し寄せ、紅丸の身体を捕らえて叫んだ。
「怖いさ‼︎熱いし‼︎」
「炎の怖さを知る奴がーー、なぜ、いたずらに勘太郎を”焔ビト”にした‼︎」
紅丸の右の拳が炎をまとい、桜備大隊長の顔面を捕らえた。その反動で桜備大隊長は吹っ飛び、防護盾を地面につけて威力を弱めながら後退した。
「だから、何かの間違いだと言っているんですよ‼︎」
顔を上げた桜備大隊長の目の前には、馬簾に炎が着火している5本の纏が迫っていた。
「紅丸ッ‼︎?」
やり過ぎだと私は思わず叫んだ。
怒りに満ちた声で、紅丸は言う。
「はっきり見たんだ。間違うはずねェ‼︎」
右腕を振り下ろすと、5本の纏が桜備大隊長に向かって襲いかかる。
「大隊長‼︎」
遠方にいる第8メンバーのシンラの悲鳴が、私の耳にまで届いた。
5本の纏が防護盾に突き刺さり、防護盾はそのまま地面に崩れ落ちる。
「第二世代、第三世代がなんだってんだ!俺は毎日、鍛えてんだよ!」
桜備大隊長は胸ポケットを探って何かを取り出し、紅丸に投げ捨てた。紅丸はそれを見てハッとした。
「消化グレネード⁉︎」
パンと消化グレネードが破裂し、地響きさえ感じる衝撃とともに、もうもうたる粉塵が舞い上がる。私は右腕で顔を覆いながら、舞い上がる粉塵の中を目を細めて見つめた。
土煙の中でガコン、ズンと凄い音がするが、よく見えない。土煙が晴れる頃に、「ドス」と地面に何かが倒れたような音が聞こえた。
目を凝らすと、桜備大隊長が地面に倒れ込み、紅丸は桜備大隊長に馬乗りになって、右手で桜備大隊長の防護面に能力を発動した。だが、桜備大隊長は負けじと紅丸に頭突きを喰らわせた。
反動で紅丸が後ろにのけぞる。桜備大隊長はゆっくりと上半身を起こしながら、荒い呼吸で言った。
「はぁはぁ……やっと一発、喰らわせた……」
紅丸は桜備大隊長を睨みつけ、額から血が滴り落ちた。
「怯むことを知らねェのか……」
桜備大隊長は防護面を外して投げ捨て、怒りに満ちた顔で立ち上がった。
「怯むわけにはいかないだろ。俺は第8の大隊長を背負ってんだよ‼︎」
この場にいる全員の視線が桜備大隊長に集まった。自分の絶対的な存在を知らしめているかのように立っていた。