第壱章
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粉塵が舞い上がっている場所に来た私たち。反対側の道から二人の男が、全力でこっちに向かって走ってくる。よく見ると、桜備大隊長と火縄中隊長だ。
その二人の背後では、粉塵が舞い上がり、辺りは熱気が渦巻き、高温の炎を放つ紅丸が立っている。
「大隊長⁉︎」
シンラが全力で走っている大隊長達を見て戸惑う。桜備大隊長と火縄中隊長は、私たちがいることに気づくと足を止め、紅丸に振り返った。
「どうしたんです⁉︎」
桜備大隊長は、紅丸の行動に困惑しているようだ。なぜ紅丸は、桜備大隊長と火縄中隊長に怒気を向けているのだろうか。とりあえず今は、紅丸を落ち着かせることが最優先だ。
そう考えた私は、戸惑いながらも紅丸に向けて叫んだ。
「紅丸!何で、桜備大隊長達に攻撃しているの⁉︎話し合うって言ってたよね⁉︎」
「うるせェ。絵馬、そこから離れてろ。てめェら、ただで浅草から出られると思うなよ」
紅丸は、近くにあった植木鉢や消火栓などを発火させて宙に浮かせる。そして、炎に包まれたそれらを使って桜備大隊長と火縄中隊長に向かって、次々と攻撃を始めた。
「うぉわ‼︎」
バランスを崩しながらも間一髪、紅丸の攻撃を避ける桜備大隊長と火縄中隊長。近くで休憩していた火消しの二人が、紅丸の行動に困惑しながら尋ねた。
「若‼︎どうしたんですか⁉︎」
「こいつらの魂胆は、この町をめちゃくちゃにすることだ!騙しやがって‼︎」
「ど……どういうことッス⁉︎」
火消しの二人は状況が飲み込めないようだ。私は第8から少し離れて、慌てながらも紅丸の前に立ちはだかり、両腕を大きく広げて制止した。
「紅丸‼︎落ち着いて!第8はそんな事する人達じゃないよッ‼︎」
紅丸を宥めようとする。しかし、紅丸は私を鋭く睨みつけ、
「落ち着け?何言ってやがる。絵馬、勘太郎を”焔ビト”にしたのは、第8だ‼︎」
と強い口調で言って、私の肩を掴み、乱暴にその場から引き離した。私はバランスを崩して地面に倒れ込む。それと同時に、戸惑う桜備大隊長の声が聞こえた。
「俺たちが”焔ビト”にしただって⁉︎新門大隊長、あなた何を……⁉︎」
「しらばっくれるな‼︎俺は、この目で見たんだよ」
私は顔を上げると、紅丸は桜備大隊長を睨んでいた。怒りと憎しみがこもった瞳で。
紅丸は桶を発火させると、空中に浮かせる。次はその桶を放り投げるつもりらしい。そう考えた矢先、シンラが空中に浮かぶ桶を蹴り、一瞬で粉々に破壊した。能力を解除して私の近くに着地するシンラ。
「何を見たのか知らないですが、落ち着いてください‼︎」
紅丸は私とシンラの方に顔を向ける。
「ああ⁉︎ふざけんな。落ち着く必要なんかねェ‼︎」
紅丸は鋭い目つきでシンラを睨む。
「何が伝導者だ‼︎お前ら二人が、この町の連中を”焔ビト”にする算段立ててたのを見た!てめェら全員、ぶっ潰して吊るしてやらァ‼︎」
私はゆっくり立ち上がり、紅丸に向かって叫んだ。
「桜備大隊長と火縄中隊長は、そんなの絶対にしないよ!何かの見間違いだよッ‼︎」
紅丸は私の言葉に眉を顰め、もう一度桜備大隊長達の方を振り返る。
「見間違いなはずねェ……。たしかに、お前ら二人だった」
桜備大隊長が慌てて大声を上げる。
「待ってください!こちらには戦う意志はない‼︎」
紅丸は興奮が収まらず、感情の赴くままに思いっきり第8に向かって叫んだ。
「だったら俺を倒して、その意志とやらを証明してみろ‼︎ここでは力が正義‼︎「戦う意志がない」ってなら、戦って証明しやがれ‼︎」
「紅丸……」
私の発した声は震えていた。どうしてこんなことになってしまったんだ。さっきまでは、第8は嫌いじゃねェと言っていた紅丸が、今は第8に敵意を剥き出している。いったい何が起こっているのか。私は拳に力を込め、ギュッと握りしめた。
「誰も手を出すんじゃねェぞ‼︎俺、一人で十分だ‼︎」
紅丸は第8を鋭く睨みつける。
「うおぉお‼︎よくわかんねェけど、紅丸ちゃんと第8のケンカだ‼︎」
「おっしゃあ‼︎若!やっちまえィ‼︎」
いつの間にか、私たちの周りに浅草の住民がちらほらと集まっていた。ワイワイと賑わい、浅草の住民達が紅丸と私を含む第8を取り囲んで応援し始める。紅丸は両腕を広げて声を張り上げた。
「かかってこいよ第8‼︎新門 紅丸が相手だ‼︎」
紅丸は右手から発火能力を発動させ、自身の身体よりも大きな火の玉を作り出す。
「女の後ろに隠れるたァ、第8は臆病者の集まりか⁉︎」
茉希の背後に立つ桜備大隊長たちを見て、ためらうことなく一気に火の玉を茉希に放り投げる。
「みなさん、退がって!」
茉希は背後に立つ第8のメンバーに下がるように指示しながら、能力を使って火の玉を弾いた。
「私も消防官です‼︎なめないでください‼︎」
茉希は真剣な表情で紅丸を見据える。紅丸は余裕たっぷりで言い放った。
「弾いたつもりか」
紅丸は右手を前に突き出すと、茉希の周りに炎の円が現れ、ドウとその場で爆発が起こる。
「わッ‼︎」
バランスを崩されそうなりながらも、茉希はその場から飛び退いた。私の近くにいたシンラが心配そうに声を上げる。
「マキさん‼︎」
茉希はくるりと一回転して爆発から難を逃れ、地面を蹴って紅丸に向かって突進する。そして、次々と攻撃を繰り出した。紅丸は茉希の攻撃をかわしながら、
「よく訓練されている」と感心する。
様子を見ていたシンラが「俺も」と言って、紅丸の背後を狙いに走り出す。
茉希の左前蹴りが紅丸の左腹をかすめる。それを見計らって、紅丸は茉希の左膝のつなぎを鷲掴みーー。
「わッ‼︎ちょ……」
シンラが走ってくる方向に、勢いよくバランスを崩した茉希を力任せに放り投げた。シンラは目の前に飛んで来た茉希に対応できず、茉希を庇いながら後方まで吹っ飛ばされる。
火縄中隊長は拳銃を取り出し、銃口を紅丸に向けて数発弾を放つ。しかし、弾は紅丸の目の前に止まる。紅丸は能力で弾の軌道を操作し、火縄中隊長に向けて放った。その内の1発が火縄中隊長の右頬をかすめる。
それでも火縄中隊長は一瞬の間も与えず、さらに数発を紅丸に弾を撃ち込む。これもまた紅丸の目の前で止まる。紅丸は冷ややかに言った。
「そんな豆鉄砲、いくら撃とうが無駄だ」
「無駄なのはわかっていますよ。ただ第二世代と第三世代の能力、同時にいくつ使えるかってことですよ」
火縄中隊長は冷静に言うと、それが合図であるかのように、エクスカリバーを手に持つアーサーが紅丸に素早く接近し、エクスカリバーを振り払った。だが、紅丸はとっさに跳躍し、クルリと空中で一回転して攻撃をかわした。そして器用にバランスをとって着地すると、紅丸は右手に発火能力を集中させ、アーサーたちに手刀を繰り出した。
”居合手刀 壱の型 火月”
三日月状の斬撃がアーサーと火縄中隊長、そして紅丸の背後にいた茉希とシンラに直撃し、全員が吹っ飛ぶ。
「うぉッ‼︎」
「ぐッ」
紅丸の素早い手刀を受け、呻く第8のメンバーたち。地面に倒れ込む第8の姿を見て、紅丸は叫ぶ。
「こんなものか。第8‼︎」
私は、ポーチから槍伸縮型をーー。いや、槍伸縮型を取り出さず、茉希とシンラの横を横切って、紅丸の前にもう一度立ちはだかった。
「何の真似だ?絵馬……お前ェは、引っ込んでいろ」
「いいや、引っ込まない!」
私は首を左右に振る。紅丸は目を細め、私を冷たく睨みつけた。
「絵馬、おめェはどっちの味方だ⁉︎」
私は目を閉じ、一呼吸置いてから、真剣な眼差しで紅丸を見つめた。
「私は、紅丸と第8……両方の味方だよ‼︎」
そう言って私は、紅丸に向かって素早く駆け出した。