第壱章
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紅丸は「桜備大隊長の所に行く」と言って、10分前に紺炉の部屋を出て行った。現在、部屋にいるのは私と紺炉の二人だけ。救急箱を片付けていた私に、紺炉が声を掛けてきた。
「絵馬。それが終わったら、第8の奴らと話してきたらどうだ?あいつらと俺達の板挟みになって、話しずらかっただろ」
「バレてた?」
私の顔を見て、紺炉は微笑した。
「第8の奴らをチラチラ見てたお前ェさんを見て、気づかないやつはおるか?」
「そんなに⁉︎私、見てた?」
「あぁ見てた」
紺炉に言われるほど、私は第8の皆のことを気にしていたようだ。救急箱を持って立ち上がると、襖に手を掛ける前に紺炉に振り返って言った。
「じゃあ、お言葉に甘えて行ってくる!」
そう言うと、紺炉はまた私を見て笑った。
土間でかがみ込み履き慣れた防火靴を履いて立ち上がり、戸を開けて外に出ると、シンラの近くにいたヒカヒナが私に気づき、振り返ってこちらに近づいてきた。
「絵馬ーー!あいつ、さっきバカみてェーにクルクル回ってたぜェ‼︎」
ヒカヒナは私の法被の袖を引っ張りながら、シンラを指差す。
「だからぁ!あれは、ブレイクダンス!って言う技名なの。絵馬さん、知ってますよね?ブレイキン」
「えーっと……お姉さん、ワカラナイヨー……」
シンラと目線が合わないように視線を泳がす。その時、防火服を着たタマキと目が合った。タマキがこちらに近づいてきたかと思ったら、小石に躓いて何故か防火服が脱げて、タマキの胸が私に突進するように飛び込んできた。
一瞬の出来事に、私は驚きの声をあげ、「うぷっ!」と胸の弾力に圧倒させる。
「きゃん!」とタマキが慌て、シンラも驚いて叫んだ。
「わぁーー‼︎タマキ‼︎何やってんだよ⁉︎」
私たちの声を聞いた他のメンバーも駆け寄ってくる。「タマキちゃん⁉︎」「絵馬ーー‼︎やるなァーー‼︎」「画家、大丈夫か?」
タマキのラッキースケべられが私に発動し、ちょっとした詰所の外で大騒ぎになってしまった。
この豊な膨らみ、ほんのりと温かい。これがラッキースケべられと言うやつかと考えていたら、誰かに名を呼ばれハッとする。
「あ、あの……十二小隊長!すみません、大丈夫でしたか?」
シンラと茉希に引きはがされ、防火服を着直しているタマキがそこにいて、改めて私に謝ってきた。緊張しているのか、合掌しているタマキの手が震えている。
「私は大丈夫だよ。ヒカヒナは、大丈夫だった?」
私の法被の袖を引っ張っているヒカゲとヒナタを見下ろす。ヒカヒナが顔を上げて、
「姉々ーー‼︎なんともないぜェーー‼︎」と元気に答えた。
「そっかぁ」
両側にいたヒカヒナを咄嗟に私の身体に引き寄せて守ったため、私はタマキのラッキースケベられを直に受けたが、二人が無事ならそれで良いと笑みを返す。そして、顔を上げてタマキに向き合い問いかけた。
「えっと……第1のタマキ隊員だよね?何回か見かけた事はあったけど、ちゃんと話したのはこれが初めてだね。ずっと思っていたことなんだけど……どうして貴方が第8にいるの?」
「はっ!私は、第1で謹慎となり、しばらくの間は第8にお世話になることになりました!」
「あぁ……星宮中隊長の……件で……」
一瞬だけ言葉が詰まった。星宮中隊長の名を出した時、タマキが少し悲しそうな表情を見せたからだ。その表情を見て、心から謝る。
「ごめんね……気を悪くしちゃったかな?」
タマキは首を横に振る。少し緊張が解けたのか、タマキは微笑みながら言った。
「いいえ、大丈夫です。これは、私自身の責任でもあります……何か有れば、”絵馬小隊長に報告しろ”とカリム中隊長から言伝も貰っていますので!」
「くどくど野郎め……」
タマキの口からムカつく奴の名前が出て、私は眉をひそめる。近くで私たちの会話を聞いていた壮年の火消しが、ニヤニヤしながら肩を叩いてきた。
「お嬢が誰かにあだ名を付けるなんて、珍しいなァ!若や紺炉中隊長以外にも気になる奴でも出来たのか?」
「違うよ!茶化さないでよッ!」
「ふ〜〜ん。へいへい」
ニヤリと笑みを浮かべる壮年の火消しに対して、私は「本当に違うから」と念を押す。
私たちのやり取りを見ていた茉希が、茉希のロマンティックお花畑が発動したのか、壮年の火消しに少し興奮気味に尋ねた。
「絵馬さんがあだ名を付ける事って、そんなに珍しいのですか?」
「ちょっ、茉希ーー」
「嬢ちゃん。お嬢はなぁーー、小せェ頃から気になった人や物にあだ名を付ける癖があってよォ。紺炉中隊長には、”紺炉お兄ちゃん"で若はーー」
「あああーーーー‼︎」
耐えきれず、私は大声で誤魔化す。顔に熱が溜まっていくのを感じながら、壮年の火消しの背中を無理やり押して、ヒカヒナにお願いした。
「ヒカゲッ‼︎ヒナタッ‼︎今度、美味しい団子屋連れて行くから、この人を向こうにやって‼︎」
「団子ーー‼︎絶対だぞ、絵馬ーー‼︎」
「姉々ーー‼︎約束守れよーー‼︎」
ヒカヒナは目を輝かせながら、私の願いを聞き入れて壮年の火消しを私たちから離れるように誘導してくれた。私は、ヒカヒナと壮年の火消しの後ろ姿を見送ってから振り返り、みんなに向かって言った。
「良い、みんな‼︎今のことは忘れること‼︎分かった⁉︎」
私を見つめる茉希は、頬を薄ら赤くしながら「はーい」と答え、シンラとタマキは、戸惑いながらも頷く。アーサーは、
「フッ……。画家は、俺をお兄ちゃんだと?騎士王を弟ではなく兄と呼ぶのか、見る目があるな」と何故か嬉しそうだが、今の私には突っ込む気力は残っていなかったため、黙って見過ごすことにした。
「茉希、アイリスは第8の教会にお留守番しているの?」
熱が冷めた私は、茉希に尋ねてみる。茉希は頷きながら答えた。
「はい。絵馬さんがいると分かっているのですが、原国主義者が多い第7ということで、アイリス様を置いてきてしまったし……第8を空けて出てきているあいだ、第5に留守番してもらってる訳です」
「第5には、火華大隊長がいるから、アイリスにとっては心強いね!」
「そうですね。先程、シンラが第7の大隊長と桜備大隊長が話をすると聞きましたので、早く調査が始められたらいいんですけど……」
「大丈夫だよ!茉希。紅丸がさっき言っていたけど、協力はするって!」
「本当ですか⁉︎絵馬さん」
茉希は私の顔を見て嬉しそうに笑った。近くにいたシンラが夜空を見上げる。
「どちらにしろもう遅いし……調査は明日以降だな」
私たちの会話を聞いていた火消しの一人がシンラに言った。
「今日は、どうすんだ?第8に戻るのかい?せっかくだから詰め所に泊まってったらいいんじゃねェか。なぁ、絵馬ちゃん!」
火消しは私の方へ振り向き、笑みを浮かべる。
「お嬢達がいる詰所では、いつもどこのどいつかも判らねェ奴が泊まってったりしてんだ。気にするこたぁねェよ」
別の火消しが笑いながら言う。ここにはいない桜備大隊長と火縄中隊長以外の第8のメンバーの視線が、私に集まった。
「皆、泊まって行く?私は大歓迎だよ!」
盛り上がる火消し達に、私は言い放った。また笑い声が上がる。
「十二小隊長も言っていることだし。なぁ、ねェちゃんッ‼︎」
若い火消しの二人がタマキに向かって言う。タマキは、若い火消しの言葉の意味を理解し、声を荒げて叫んだ。
「何、期待してんだよ‼︎」
「ほらぁ!隊員をからかわないの……まったく」
私は呆れながらも笑う。その笑いに釣られて、周りも爆笑の渦に包まれた。その時だった。
突然、足元から突き上げるような地響きとともに、遠方にもうもうたる粉塵が舞い上がる。
「敵襲⁉︎」
粉塵を見て驚く茉希。私は高鳴る心臓を抑えつつ、火消し達に向かって命令を出した。
「皆はここで待機‼︎火消しの一人は、ヒカゲとヒナタを安全な場所へ誘導!それと、詰所内の何処かにいる紺炉に状況報告をして‼︎」
「合点!承知‼︎」
火消し達の声が揃う。一人の若い火消しが私に向かって尋ねた。
「絵馬小隊長は?」
「私は、ここにいる第8の皆と一緒に、粉塵が上がった場所に行ってくる!」
私は法被を着直し、腰ベルトに装着しているポーチに槍伸縮型が入っているかを確認する。槍伸縮型のメモリは残り2メモリとなっているが、もしもの場合は、近くにいる第三世代の能力者から炎を少し分けてもらおう。
若い火消しの顔を見ると、私と目が合い、頷きながら火消しが言った。
「気をつけて下せェ」