第壱章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
太鼓の音と神輿を担ぐ若い衆の挙げる掛け声。火消しの男達の発火能力によって空に打ち上げられる無数の花火。町全体が一緒になって盛り上がる。
「まるで、祭りだな」
「原国式の告別式ともまた違ったここでの特別な弔い方でしょうか」
「その考え方であってますよ、火縄中隊長」
花火を見ていた桜備大隊長と火縄中隊長の背中越しに、私は声をかける。二人は振り返り、興味深そうに私を見つめた。
「そうか。これが、第7の弔い方なんだな」
「第7の鎮魂は他とは違って、弔った仲間が空でも笑って馬鹿騒ぎして欲しいって意味も込めているので」
桜備大隊長の言葉に私は笑みで応えた。桜備大隊長は納得したように頷き、過去を思い出すように懐かしそうに微笑んだ。
「最初の絵馬の入隊日を思い出すな」
「そうですね、桜備大隊長」
と火縄中隊長が頷いて同意する。桜備大隊長が言った。
「入隊日に初っ端から”焔ビト”の鎮魂を行ったのを覚えているか?今とさほど変わらないが、あの時の絵馬は、ラートムを唱えずに炎の百合を作成して鎮魂を行っていたな」
私は二人の顔を交互に見た後、空に打ち上げられる花火に目を向けた。
「勿論、覚えていますよ。懐かしいですよね」
入隊初日のことを思い出す私。第8に仮入隊した私の最初の鎮魂日。二人は第7の小隊長である私の入隊を疑問視していた。お互いに自己紹介しても、壁があった。そして、鎮魂の最中で二人がラートムを唱えている中、私だけが唱えなかったことに火縄中隊長が怒り、胸ぐらを掴んできた。「それが、鎮魂する時の態度か?」と怒鳴られたのを思い出す。
「第7は太陽神なんて信仰しない原国主義なので、ラートムなんて唱えません」と反論すると、火縄中隊長に頬を一発殴られた。
その後、桜備大隊長が仲裁に入り、それ以上の事態にはならなかった。その日の帰り際に、こそっと火鳥を使って一発花火を打ち上げたところ、桜備大隊長に見つかり、
「あの時は、皇国の鎮魂を侮辱したわけではありません。原国主義と皇国の考え方を知っている私なりの鎮魂の仕方です」と説明した。
桜備大隊長は呆然とした後、突然真剣に謝ってきた。そして、「少し待ってろ!」と言って第8教会に戻り、火縄中隊長を連れてきて二人で深々と私に謝ってきた。
その時、二人がこんなに真剣に謝ってくるのが可笑しくて、私は笑っていたことを今でも鮮明に思い出し、微笑んだ。
「トビ共は修理しろ‼︎今の弔いで家が壊れちまった奴は、詰所に泊まってけ‼︎修復作業が終わるまで俺たちが面倒を見てやる‼︎」
遠くで紅丸がトビ職人達に指示を出している声が聞こえてきた。私は花火から目を離し、桜備大隊長と火縄中隊長に再び視線を戻した。
「私も今から修復作業を手伝いますので、長話はこれで……紅丸ーー!私は、あっちの火消し達と一緒に木材を運ぶね!」
「……任せた」
紅丸の鋭い視線がこちらを向いた。桜備大隊長と火縄中隊長と一緒にいることが少し気に食わないかもしれないが、返事をくれたので許容範囲内のようだ。
私は二人に軽く会釈し、その場を離れた。
目の前にある木材を運ぶために、手に待つ槍伸縮型を使って地面に絵を描いた。
「踊れ!火牛‼︎2頭だ‼︎」
地面から炎に包まれた二頭の牛が現れる。
「お嬢、これ使ってくだせェ」
火消し一人が防火用のタオルを二枚手渡してくれた。「ありがとう」と私はお礼を言いながらタオルを受け取る。
火牛の背にタオルを広げ、目の前の細長い木材を1つずつ火牛の背に乗せていく。ある程度の木材を乗せたら、防火紐でしっかりと結ぶ。
「あっちにいる火消し達の所まで運んで」
火牛は頭で頷かせ、指示された場所へ動き出した。
「絵馬さん!俺も手伝っても良いですか?」
「画家、俺は何をすれば良い?」
振り返ると、防火服を脱いだシンラとアーサーがそこにいた。
「ありがとう二人とも!それじゃーー……シンラは私の火牛と一緒に木材を運んで。アーサーは……私についてきて!」
「分かりました!」
シンラは素早く行動を始めた。私はシンラに、
「分からない事があったら、近くの火消し達に聞いてね」と伝える。
「はい!」
シンラは元気良く返事をする。
「画家、行くぞ」
アーサーはくるりと私に背を向けて歩き始めたので、慌てて私はアーサーの服をグイッと引っ張った。
「どうした?画家?」とアーサーが振り返って私を見ている。
「いやいや、アーサー。どうした?じゃなくて!私に着いてきてと言ったのに、勝手に離れないでよ。この前、第1で迷子になってたでしょ!」
私はアーサーの服を掴んだまま、注意する。
「ム……」
アーサーは思い出したのか、足を止めて「分かった」と言ったので、アーサーの服を放した。
「じゃあ、シンラ!ここは任せるね。アーサー、こっちだよ」
私はアーサーが途中で迷子にならないように、アーサーの手首を掴んで一緒に歩き出した。
私は保護面を被っている火消しに声を掛けた。
「人手が足りないって聞いていたから、第8の隊員を連れてきたけど、良い?」
保護面を被って作業していた火消しが顔を上げる。
「絵馬小隊長、大丈夫です。でも、第8のやつが”これ”をできるんですか?」
火消しが言う”これ”とは、金属同士を接合する溶接のことだ。私はアーサーの手首から手を離し、首だけ振り向いて聞いた。
「アーサー、君は溶接できる?」
アーサーは鼻で笑い、ポケットからプラ板で作られたミニエクスカリバーを取り出す。
「溶接なら、任せてくれ‼︎」
そう言って、火消しの隣に置いてあった鉄パイプを器用に溶接し始めた。
保護面を被ったまま火消しはアーサーを見て、「お‼︎やるなァ」と感心していた。
「じゃあ、アーサー。ここは任せるね」
「あぁ」
アーサーは私に片手を挙げ、溶接を続ける。
私はアーサーから離れて、他の第8のメンバーの様子を見に行った。桜備大隊長は瓦礫を除ける作業をしており、火縄中隊長は見た目がホッチキスと変わらない作りの工具タッカーを使用して素早く薄い板を貼り合わせていた。茉希は重量がありそうな機材を持ち上げており、タマキは新人大会でも見せたラッキースケべられが浅草でも発動していた。第8のメンバーが修復作業をしながら浅草の皆と上手く出来そうかなと、チラチラと様子を見ながら、私も引き続き修復作業に取り掛かった。