第壱章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
詰所に突然現れた第8の隊員たちの中から、桜備大隊長が前に出て一礼した。
その瞬間、場の空気が一変した。
「テメェら、いいかげんにしろよ‼︎」
門番の火消しが、急に怒鳴り声を上げた。私も思わず息を飲んだ。どうしてこんなタイミングで、第8が押しかけてきたのか、まるで理解が追いつかない。私は桜備大隊長に目を向け、戸惑いながら声をかけた。
「ど、どうして急にーー」
「急に押しかけてくるとは、どういうつもりだ?」
紅丸の声は低く、冷徹だった。彼は一歩前に出て、第8の隊員たちを鋭く睨みつけ、そのまま板敷に腰を下ろす。彼の背中には、ヒカゲとヒナタがぴったりとくっついている。桜備大隊長は、一瞬私を見た後、紅丸に視線を戻し、冷静に答えた。
「消防官規制に則って事前に確認した方が、よかったでしょうか?絵馬小隊長の話では、新門 紅丸大隊長は面倒な手続きがお嫌いだと聞いて、直接来る事にしたのですが……」
「絵馬」
紅丸は私の方を振り返り、睨みつけた。
「だって、事実じゃん。間違ってないでしょ」
「お前、相変わらず口が達者だな」
紅丸の言葉に私は微かに笑みを浮かべながらも、涼しげに彼を睨み返した。彼の言葉が間違っているとは思わなかったが、私には他に言いたいことがあった。私が黙っているのを見て、紅丸はフイッと視線を逸らし、自身の背に隠れていたヒカゲとヒナタによって乱れた法被を直しながら、板敷から腰を上げ、改めて桜備大隊長に向き合った。
「勝手に来ちまったことは……まぁいい。だが伝導者の調査だがなんだが知らねェが、俺たちのシマを勝手に荒らされるわけにはいかねェんだ……」
紅丸の声には、冷徹な決意が感じられた。彼の言葉が、場の空気をさらに張り詰めさせる。
「第7には第7のやり方がある」
その一言が重く響いた。桜備大隊長は真剣な眼差しで紅丸に問いかけた。
「大隊長会議も途中退場されていましたが……第7は、伝導者の一味を無視していくおつもりですか?」
紅丸は少し眉を寄せながら答えた。「伝導者も白頭巾も皇国が定めた敵だろ?興味がねェってのが、正直な意見だな」
桜備大隊長は、紅丸の言葉を黙って受け止めた。その態度に、冷ややかな空気が漂う。しかし、桜備大隊長はその冷たい空気を切り裂くように、静かに続けた。
「伝導者は、人工的に”焔ビト”を造り出している。次は、ここの町民がターゲットにされる可能性もあります。白頭巾と接触した絵馬小隊長も」
桜備大隊長が私の名前を口にした瞬間、紅丸は一瞬黙った。私を見て、すぐに桜備大隊長に視線を戻した。
「それだって、皇国の言っていることだろ?実際にその一味が人を”焔ビト”にしているところを俺が見たわけじゃねェ。絵馬みてェに、馬鹿正直に信じる気はねェんだよ」
紅丸の言葉は、強い不信感を孕んでいた。桜備大隊長はその冷徹な言葉を受け止め、さらに言葉を継いだ。
「だから、それを確かめるために私たちは、ここに来たんです」
桜備大隊長の言葉に、シンラとタマキが反応した。二人は声を荒げて叫んだ。
「俺は実際に見ました‼︎ 伝導者と繋がる男が人を”焔ビト”にするところを‼︎」
「私も見ました‼︎」
「紅丸、それは私もーー」
しかし、紅丸は私の口を手のひらで覆い、私の言葉を遮った。
「絵馬は口を出すな。皇国の犬が何を見たかなんて、こちとら知らねェんだよ。疑うことも知らねェ犬っコロの話なんざ聞きたくねェ」
その言葉にシンラが怒気を露わにし、彼の怒りが一層強くなった。
「絵馬さんの言葉も聞かずに疑うだけ疑って、何もしねェ奴に言われたくないね」
紅丸は私の口から手を離し、その手を上げた。
「威勢がいいな、クソガキ……」
その言葉に、場の緊張がさらに高まった。板敷に立っていた紺炉も、土間に降りて靴を履きながら、淡々と一言を放った。
「第8は、いい教育してるじゃねェか」
私は急いで靴を履き、二人とシンラの間に割って入り、両手を広げて強引に二人を制止した。
「二人ともやめてっ!落ちついて!」
その時、桜備大隊長の静かな声が背後から聞こえてきた。
「シンラ!ケンカしに来たわけじゃないんだぞ」
「ケンカですよ‼︎こうなったら‼︎」
その瞬間、シンラの怒りが頂点に達し、紅丸も冷徹な目でシンラを見つめていた。二人の間に漂う空気は、一触即発の緊張感に満ちていた。
「第7の大隊長‼︎あんた、最強の消防官なんだろ⁉︎強すぎて消防官にするしかねェって、町の火消しを皇国に認めさせたんだろ⁉︎だったら今度は俺が、あんたをぶっとばして認めさせる番だ‼︎」
紅丸は静かに私の腕に手を置き、鼻で笑いながらシンラを見つめた。
「火事と喧嘩は、江戸の華ってか?」
その瞬間、紅丸の冷たい静かな瞳と、シンラの熱い思いが交錯し、一触即発の緊張した空気が場を包みこんだ。
カンカンカンカン
凄ましい音が私がいた詰所はもちろん、町中全体に鳴り響いた。音の大きさに、シンラを含めた第8の隊員たちは一瞬、呆然とした表情を浮かべた。
「火事だァ‼︎」
「火事だァ‼︎」
外から、火消しの叫び声が響く。紅丸は私の腕から手を離し、私は反射的に後ろを振り返った。詰所の外が慌ただしく動き出すのを、ただ無言で見つめる。
その瞬間、背後から紺炉の声が聞こえた。
「若が……縁起でもねェことを言うから……」
それを聞いた紅丸は、吐き捨てるように一言漏らす。
「クソッ……」
彼はのれんの近くにいた第8の隊員たちを退かせると、私に向かって冷徹な指示を放った。
「俺が戻ってくる間に消え失せろ。絵馬、行くぞ」
「合点!承知!ごめん、みんな!」
紅丸が詰所から出ていくのを見届けた後、私は一言謝り、すぐにその後を追った。遠くの方から、濛々と黒煙が立ち上がるのが見える。
「あれか……」
紅丸のつぶやきに、私は心中で黙って同意する。
「若!お嬢!」
数人の火消しが駆け寄ってきた。紅丸はその中で、私たちに向かって少し眉をひそめた。
「”焔ビト”か?」
一人の火消しが声を上げた。
「派手好きの勘太郎がなっちまった‼︎さっき飲みに誘われたばかりなんだが……」
彼は涙を拭いながら、他の火消したちに向かって水をかき集めるように指示を出し始めた。
紅丸は一度私を見つめ、冷静に命じる。
「絵馬、火鳥で空から町民の安全確認をしてくれ」
「承知」
私の返事を受けて、紅丸は法被を片肌脱ぎ、火消したちから状況を聞き取っている。
「避難はすんでるな?場所は?」
「隊員の連中が、目印にまといを立ててます!」
その報告を耳にし、私は腰ベルトから槍伸縮型を取り出す。空に向けて、その刃で炎を描く。
「踊れ!火鳥‼︎」
空中で揺れる炎が、形を整えて火鳥へと変わり、空高く舞い上がる。その羽ばたきが、火消したちにとっての目印となる。
火鳥は円を描きながら飛び始め、その飛行が“焔ビト”に変わった勘太郎のいる場所を指し示す。私は、火消したちが纏を使って屋根を越え、紅丸に知らせるのを確認した。
火鳥の飛行を追いながら、周囲に一般市民がいないことを慎重に確認した後、私はすぐに火鳥を消すべく槍伸縮型を振りかざす。その瞬間、火鳥は空中で弾けるように消え去った。
再び紅丸に向き直り、冷静に報告した。
「紅丸、いつでもいけるよ!」
「おぅ」
紅丸は火消しから纏を受け取り、それを肩に担いだ。目を鋭くして、民家の方へと向き直る。
「三丁目の勘太郎が”焔ビト”になっちまった‼︎始めるぞ‼︎祭りだ‼︎」
その言葉が響いた瞬間、紅丸は肩に担いでいた纏をしっかりと握り直し、民家に向けて思い切り放り投げたのだった。