第壱章
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ーー大隊長会議の翌日
紅丸と紺炉は浅草の外の見回りに出ており、私は詰所にこもって自分の作業机に山積みされた資料に一つ一つ目を通しては、問題なければ判子を押す作業をしていた。
ガララと詰所の戸が開く音がして私は顔を上げる。紅丸が帰ってきた。
「おかえり」
「おぅ」
紅丸は、肩に背負っていた風呂敷を土間近くの板敷に置いた。
「ババァの大福だ。食いたい奴は勝手に食え」
「大福!」
私は嬉しくなって作業から手を止め、ヒカゲとヒナタがいる方角に向かって声を上げた。
「ヒカゲー!ヒナター!」
名を呼ばれたヒカゲとヒナタがひょっこりと作業場に姿を現した。
「何だー?絵馬ー!」
「何か用かー?姉々ー」
「おばあちゃんの大福が届いたよ!」
ヒカヒナは目を輝かせながら、風呂敷の方へと駆け寄る。
「死にぞこないのクソババァの大福大好きッ‼︎」
「大福作らねェババァなんて死んだ方がましだぜッ‼︎」
うひェひェひェと笑うヒカゲとヒナタ。私は作業机から立ち上がり、ヒカヒナの傍に膝をついた。紅丸が呆れたように二人を見つめ、
「ヒカゲ、ヒナタ……お前らなァ」と呟く。
ヒカヒナが紅丸に向かって首を傾げる。
「なんだ、若。文句なら受け付けてねェぞ」
私は片膝をついて、風呂敷の結び目を解いて広げた。中にはぎっしりと大福が入っている。私はヒカヒナに一個ずつ大福を手渡した。
「はいはい、二人とも。大福食べよっか」
「わーい!」
ヒカゲとヒナタは私から大福を受け取り、頬張るように食べ始めた。
「全部、若の受け売りですぜ……」
のれんをくぐって詰所に入ってくる紺炉がため息をつく。紅丸が呟く。
「文句なら、受け付けてねェぞ」
「ほら、それ」
「それだよ、紅丸」
紺炉に続いて私も紅丸に指摘した。大福を食べていたヒカヒナが、嬉しそうにはしゃぐ。
「大福うめェ。こりゃ、死にぞこないの最後の輝きだぜ」
「あひェひェひェ。ババァの死に光、うメェ♪」
「俺はあそこまで言わねェよ」
紅丸の言葉に、私と紺炉は同じように頬を引き攣らせ小さく息を吐いた。
「そういやぁ……若……。今さっき、第8の連中から連絡がありましてねェ。例の伝導者絡みで第7の管轄に、ガサ入れしたいそうでして」
「第8が⁉︎」
外回りに行く前に黒電話が鳴って紺炉が電話を取っていたが、あれは、第8からの電話だったのかと私はこの時に初めて知った。紅丸は紺炉を見る。
「めんどくせェ。無視しとけ」
紅丸が嫌そうな表情を見せて、
「第7は、皇国の命令で伝導者を追っているワケじゃねェ。伝導者ってのが、向こうからケンカ売ってくるなら相手してやるけどな」
と吐き捨てるように言った。
紅丸の伝導者に対する挑発に、さすが紅丸だと私は心の中で呟く。そして、自分の前にある大福を1つ手に取り口に入れる。大福は柔らかく、ほんのりと甘い味わいだった。
外から足音が響いた。振り向くと、門番担当の火消しの男がのれんを少し乱暴に捲り上げて、私達を見て慌てている様子だ。
「若‼︎紺炉中隊長‼︎てぇへんだ!」
「どうした?」
紅丸が火消しの男に視線を向ける。火消しの男は、大福を食べている私を見て気づく。
「お嬢もいらしたか!」
私は口の中に入っていた大福を飲み込み、火消しに問う。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「それが……引き留めてんのに、勝手に入ってきやがった‼︎」
「……へっ?」
間の抜けた声が私の口から漏れた。すると、菱形模様の七と描かれたのれんが誰かの手によって大きく捲り上げられ、青線が刺繍された防火服を身に纏った団体が詰所に入ってきた。
「すみません……先程、連絡した第8です。もう、来ちゃいました……」
「桜備大隊長と皆⁉︎」
突然の第8の登場に私は驚き、紅丸は第8を見て、
「あ⁉︎」
と眉を顰めていた。