第壱章
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教会の扉をカリムが開け、それに続くように静かな足取りで神聖な空間に足を踏み入れた。広がるステンドグラスから差し込む薄い光が、教会内を幻想的に照らし出す。
教会の中には、第5の火華大隊長と第8の桜備大隊長以外の各隊大隊長が揃い、それぞれが私たちの登場を凝視していた。
カリムは紅丸と紺炉に会釈してから、私に「またな」と言い、進行方向を変えずに歩き続け、第1のバーンズ大隊長が着席している席に向かっていった。カリムとすれ違うようにして、スーツ姿の眼鏡をかけた老男性が私たちの方へやって来て声を掛けてきた。
「久しぶりにお前さん達を見た気がする」
「なんの用だ?」
紅丸は老男性を睨む。私は紅丸の代わりに挨拶をした。
「お久しぶりです。第4のアーグ大隊長」
第4特殊消防隊の大隊長、蒼一郎 アーグ。反射する丸眼鏡と顔の多くの面積を占める傷が印象的な人だ。第7と関わりがある大隊長でもある。
「なぁに、ただ挨拶しに来ただけだよ。十二小隊長は、書類を受け取る時などに見かけるが、大隊長さんはなかなか顔を見せに来ないからね」
そう言って、アーグ大隊長は眼鏡を直し、座っていた席に戻っていった。紅丸は長い前髪の隙間から無愛想な顔で、アーグ大隊長の後ろ姿を睨んでいた。
ギィィと扉が開く音が聞こえた。誰かが教会内に入ってきたのだろう。
今私達が立っている場所は、中央回廊の通路。
「邪魔になっちまうから、ずれるぞ。若、絵馬」
紺炉に軽く背中を押され、私は長椅子に紅丸、紺炉とともに並んだ。通路の方から、
「えっ⁉︎絵馬さんのもう一つの部隊って……⁉︎」
と言う聞き覚えのある声が響く。振り返ると、軍服姿で驚いたように私を見ているシンラが目に入った。その隣には、タマキと桜備大隊長、火華大隊長がいる。第8と第5が到着したようだ。
私は第8の面々に軽く手を振る。桜備大隊長がシンラに耳元で何か話しているのが見えた。シンラがさらに驚いた表情で私を見ていたので、桜備大隊長が私が第7の小隊長であることをシンラに教えたのだろう。シンラの表情からそう確信した。
第8の面々は通路を歩きながら、私たちの反対側の椅子に並んだ。桜備大隊長が私を、いや、紅丸と紺炉を見ながら言った。
「絵馬の隣に、普段顔を見せない第7の隊長たちも参加している。やはり只事ではないな……」
「絵馬さんの上司のあの人が、最強の消防官と名高い第7の……」
紅丸がひょっこりと顔をシンラの方に向け、シンラの緊張している表情を睨んだ。
「何が面白い、クソガキ」
「若……」
紺炉が紅丸の肩に手を添えてなだめるように制止をかける。
「あの……すみません」
と戸惑いながら謝るシンラ。紅丸はシンラから視線を逸らし、紺炉の肩を軽く叩いて言う。
「うるせェな。別に噛みつきゃしねェよ」
シンラと紅丸のやり取りを見ていたら、高祭壇側にある通路から二人の側近の間に挟まれて歩く人物が現れた。他の大隊長、中隊長たちは一斉に手を合わせて敬意を示した。
「紅丸……来たよ」
紅丸の法被の袖を軽く手で引っ張る。紅丸は高祭壇に立つ人物を見て、眉間にしわを寄せながら、
「……フン」
と鼻を鳴らし、前の長椅子に両足を乗せるように腰掛けた。私は合掌せずに紅丸の隣にすとんと腰を下ろす。
高祭壇の中央に置いてある玉座には、白い皇教服と赤いシミアーを着用し、ハットを被る老男性が座っている。左右には側近が並んで立っていた。老男性は私たち一人一人の顔を見回しながら話し始めた。
「各隊大隊長ーー……揃ったようですね……では、緊急大隊長会議を始めましょう」
玉座に座るその老男性は、東京皇国の皇王、ラフルス三世。太陽神を信仰し、東京皇国を統治する皇王だ。皇王は真剣な眼差しで言葉を続ける。
「東京軍将軍や消防庁長官とも話をしました……この国を脅かす者たちが暗躍しているそうですね。伝導者や白頭巾……人工的に発火を起こす蟲の存在……報告書で見させてもらいました」
皇王は拳を握り、それを左の掌に打ちつけながら、
「彼らの行いは、太陽神の加護を汚す行為です……特殊消防隊、全部隊。伝導者を反逆者として打ち倒すのです」
と強い口調で述べた後、コホンと咳払いした。皇王の近くに立つ側近が尋ねる。
「異議のある者はいますか?」
その時だった。私の隣に座る紅丸が不満そうな表情で呟いた。
「何が太陽神だ。くだらねェ」
側近は表情を歪ませ、
「あなた……皇王の御前ですよ‼︎」
と強い口調で叫んだ。その瞬間、場の空気が張り詰める。私たちの前の座席、高祭壇近くに座っていた男が振り返り、紅丸に向かって怒鳴った。
「紅丸 新門‼︎貴様、無礼が過ぎるぞ‼︎この、グスタフ 本田の制裁を浴びる前に皇王へ詫びたまえ‼︎」
第2特殊消防隊大隊長、グスタフ 本田。立派な口髭とハゲ頭が印象的な強面な中年男性。この前の第1に研修生として参加した能登隊員の上司にあたる人でもある。
紅丸は本田大隊長を睨んだまま、
「うるせェ。本田 グスタフ。俺の名は、新門 紅丸だ」とさらに不機嫌になった。
本田大隊長は怒りで拳を震わせ、紅丸から今度は私に視線を変えて怒鳴った。
「十二小隊長‼︎貴様の大隊長に皇国の礼儀を教えてやれ‼︎」
私はチラッと紅丸を見てから、立ち上がって首を傾げながら冷静に答えた。
「皇国の言葉を借りるなら、”故郷に入れば故郷に従え”でしたよね?本田大隊長。私たち第7小隊は、皇国ではなく原国主義ですので、教えるもなにもありませんが?」
「フ……だとよ。本田 グスタフ」
「若……」
鼻で笑う紅丸に、紺炉は小さくため息をついた。紅丸は再び口を開く。
「俺たち第7は元々、自警団のバカ共の集まりだ」
紅丸は長椅子から足を下ろして立ち上がった。
「皇国と太陽神に忠誠を誓った覚えはねェ。第7は、今まで通り好きにやらせてもらうぜ…… それと、絵馬の証言より他にも見た奴らがいたんだろ?そいつらの証言を聴いとけよ」
その言葉を最後に紅丸は後ろを向くと、扉に向かって歩き出す。紺炉も立ち上がり、紅丸に続いて歩き出したので、私は皇王と本田大隊長に軽く会釈してから紅丸の後を追った。
「待たぬか‼︎紅丸 新門‼︎話は終わってないぞ‼︎」
後ろ響く本田大隊長の叫びを聞ききながらも、私たち第7小隊は振り向くことなく教会を後にした。