第壱章
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「レッカ中隊長‼︎」
タマキが星宮中隊長の名を叫んだ。しかし、氷漬けのまま、無残に命を奪われた彼からの返事はなかった。
その瞬間、私たちの近くに再び赤黒く光る何かが降り注ぎ、コンクリートが粉々に砕け散った。私はかろうじてその一撃を回避することができた。
「狙撃⁉︎」
「どこからですか⁉︎」
私やカリム、リィ中隊長は周囲を警戒し、敵の姿を捜す。しかし、それはあまりにも速く、位置を特定するのは困難だった。
「早すぎて、分からない……」
私は手に持つ槍伸縮型に力を込め、距離を取りつつも、辺りを注意深く見回すが見つからない。
「俺たちが見えている場所……」
カリムもまた慎重に周囲を見渡しながら、敵の気配を追っているようだった。すると、突然、カリムと向かい合うように周囲を警戒していたリィ中隊長が大声を上げ、カリムを思い切り真横に押し飛ばした。
「カリム‼︎」
視界を横切ったのは炎の矢だ。カリムを狙った赤黒く光る炎の矢が、代わりにリィ中隊長の右腕を貫いた。
「リィ中隊長‼︎」
「来るな‼︎絵馬‼︎」
私はリィ中隊長に駆け寄ろうとしたが、カリムが声で制止し、足を止めた。カリムはリィ中隊長を支えながら、シンラに次の指示を出した。
「シンラ、煙幕を張れ‼︎」
「は……はい‼︎」
シンラはカリムの指示に従い、能力を使って廃墟内に煙幕を張り巡らせた。
「タマキ!子供たちを連れて、物陰に隠れろ‼︎絵馬!タマキと一緒に子供たちを守れ‼︎」
「はい‼︎」
カリムの指示に、タマキは返事をした。私もタマキとともに子供たちの元へ向かう。手に持つ槍伸縮型のメモリを確認する。残りは、槍先を含めて3メモリ。この状況で、私たちが優先するべきは子供たちの安全だ。
私は柱の後ろにタマキと一緒に隠れた子供たちを守るように技を繰り出した。
「踊れ!火鼠‼︎300匹だ‼︎」
地面に描いた絵から火鼠が次々と現れ、子供たちを守るように半円状に炎の膜を形成する。私もタマキたちと近い柱の影に隠れ、構えを崩さずにいた。シンラは能力を使い続け、外からの攻撃を惑わせるために煙幕を作り続けている。
柱の影からカリムを見ると、リィ中隊長とともに隠れている彼に向かって大声を上げた。
「ごめん、カリム‼︎私の武器、もう炎が残ってない‼︎」
「いや、いい!他が他にある‼︎」
カリムは少し前の柱の影に隠れ、タマキに向かって指示を出した。炎の膜で守られている子供たちを見ているタマキにだ。
「タマキ‼︎狙撃してきた方向に、ありったけ炎を伸ばせ‼︎位置がバレるから直線的に伸ばすなよ!やたらめったらめったらやたら伸ばすんだ‼︎」
「はい‼︎」
タマキは真剣な顔で自身の能力を発動した。彼女の臀部付近から二本の炎の尾が出現し、それぞれがうねうねと外に向かって伸びていった。
その様子を確認したカリムがハンドベルを鳴らし、タマキの二本の炎の尾を氷に変換させた。これがカリムの作戦なのだろう。敵がどう動くか様子をうかがいながら、私は子供たちを守ることに専念した。
暫く周囲の様子を慎重に警戒していたが、敵の攻撃はなく、辺りは静まり返っていた。
「大丈夫です。白頭巾の二人組みはいないみたいです」
「白頭巾の二人組……?」
シンラが先陣を切って柱の影から出ながら言った。その言葉にカリムが反応し、同様に柱の影から姿を現した。私は槍伸縮型を構えながら、恐る恐る柱から離れた。シンラは廃墟から数百メートル離れた別の建物の屋上を指で示した。
「はい!あの、建物の屋上から!」
「それが見えたのか……すげェ右眼と左眼がいいな……」
カリムは感嘆の声を漏らした。
私もタマキと子供たちが隠れている柱の方を見て、敵がいないと分かると、槍伸縮型で地面を軽く叩いて火鼠を解除した。空になった槍伸縮型をポーチに戻し、すぐに柱の影で寄り掛かっているリィ中隊長の元へ駆け寄った。
「リィ中隊長!腕が……」
リィ中隊長の右腕は、炎の矢によって失われていた。彼は服と紐で止血を試みていたが、血はじんわりと流れ続けていたので、私は腰ベルトに装着していたバンダナでさらに止血をしようと彼の右肩を覆うように結んだ。
「絵馬、ありがとうございます」
「これぐらいしかできませんが……」
火羊は疲労回復効果はあるが、治癒効果はない。そして、今の槍伸縮型には炎も残っていない。悔しさで思わず奥歯を噛みしめた。
「それだけで充分ですよ」
リィ中隊長は私の顔を見上げ、少し苦しそうに微笑んだ。
シンラはジェスチャーでカリムに、指を自身の顔に持っていき、白頭巾を被ったふりをしてみせた。
「こう……頭にすっぽり被ってました」
「その二人組がレッカと私の腕を貫いたと……」リィ中隊長は痛みに耐えつつ呟いた。
「リィ中隊長、今はあまり喋らずにーー」
「絵馬。少しだけ。私の右に立って支えてくれませんか?」
私は頷き、リィ中隊長と同じ高さまでしゃがんで左腰を支えながら、彼と一緒に立ち上がった。カリムは私たちの様子を確認し、周囲を見渡した後、タマキと子供たちに目を向けた。
「まずは、ここから離れよう。タマキ、子供たちはそれで全員か?」
「はい!」
下着姿のタマキが答えた。カリムは自分のローブを脱ぎ、タマキに差し出す。
「羽織っとけ」
タマキは悲しそうな表情で、地面に落ちてあるローブを見つめる。
「ここに、レッカ中隊長のがあるので……」
カリムは半ば無理矢理にタマキの肩に自分のローブを羽織らせ、彼女の背中を軽く叩いた。
「いいか、タマキ……騙されたとはいえ、覚悟しておけよ」
「はい……子供たちを巻き込みました。どんな処罰も受け入れます」
タマキは決意を込めた眼差しで、子供たちとシンラを見つめ、背筋を伸ばした。