第壱章
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「俺が燃え尽きる前にお前ら、全員焼き尽くす‼︎ラートム‼︎」
その言葉が響くと同時に、カリムの合図が来た。
「今だ‼︎」
彼の声に、私は火犬(大)と火犬(中)を廃墟内に突撃させた。火犬たちは油断していた星宮中隊長の両腕に食らいつき、瞬時に制御したカリムがハンドベルを鳴らす音が廃墟内に響き渡った。
その音と共に、火犬たちは氷となり、星宮中隊長の腕を氷漬けにすることに成功した。カリムはもう一度ハンドベルを鳴らし、中に足を踏み入れる。私は槍伸縮型のロックを外し、手に持ち、その後に続いた。
「これは⁉︎熱温響冷却‼︎」
星宮中隊長が顔をこちらに向ける。その顔は傷だらけで、鼻からは大量の血が流れていた。その廃橋内には、彼だけでなく、戦闘後と見られる傷だらけのシンラ、そして何故か下着姿のタマキとその近くには見知らぬ子供たちがいた。
カリムが息をつきながら思い口調で星宮中隊長に向かって言葉を投げかける。
「言ってただろ?お前の後ろにはいつも、俺がいるって」
「カリム‼︎邪魔をするな‼︎絵馬⁉︎君がここにいるなんて、思ってもなかったよ‼︎」
星宮中隊長は、私とカリムが一緒にいることに驚きつつも嬉しそうに笑った。興奮状態で、まるで正気を失っているようだ。
「絵馬‼︎君の能力で、この氷を壊してくれ‼︎」
「それは出来ません。星宮中隊長」
「絵馬ッ‼︎」
星宮中隊長が私の名を叫ぶが、私は静かに首を横に振った。すると、カリムが代わりに答えた。
「やめろ。お前が熱くなればなるほど俺は、お前を冷やす‼︎」
星宮中隊長はカリムの返答に苛立ち、カリムを睨みつけて叫ぶ。
「こんな氷、蒸発させてやるぜェ‼︎」
たとえ氷漬けにされていても、自らの炎能力を発動させる星宮中隊長。それに反応するように、カリムの氷が彼をさらに包み込んでいく。
「よせ‼︎お前自身が燃え尽きるぞ‼︎」
シンラが必死で星宮中隊長に呼びかけるが、彼の興奮した状態には届かない。そして、星宮中隊長はついにカリムの能力によって完全に氷漬けになり、動きを止めた。
カリムは目を閉じ、顔を俯かせて呟いた。
「こんなことするために、いつも後ろにいたんじゃねェんだよ……」
砂利を踏む音が聞こえ、振り返ると火犬(小)に案内されてリィ中隊長が廃墟に入ってくるのが見えた。彼の目に映るのは、ボロボロのシンラと下着姿のタマキ。泣き続ける子供たち、そして氷漬けにされた星宮中隊長を静かに見つめるカリムだった。リィ中隊長は、私が彼に目を向けるのに気づき、驚きの表情を浮かべた。
火犬(小)が私の足元にやってくる。「ありがとう」と伝えると、火犬(小)は優しい炎となり、静かに消えた。
「絵馬の能力で此処まで案内してもらい、カリムの報告を受けて来てみれば……カリム……これは一体……?」
リィ中隊長は、氷漬けになった星宮中隊長を見つめながらカリムに問いかけた。
「第1は大丈夫なのか……」
戸惑うリィ中隊長に、カリムは冷静な声で答えた。
「俺の勘でしかないが、これは第1だけの問題じゃない気がする……もっと大きくて大きなこの国全体の問題だ」
「全ての人間を炎に変えて、地上を炎炎ノ炎で包み込む……第二の太陽……」
「レッカが言っていた言葉か……」
私は星宮中隊長が言っていた言葉を呟く。カリムがこちらを見ているのに気づく。
「そう、星宮中隊長は地球を”第二の太陽”にと言っていた。それが気になったから」
私は再び氷漬けの星宮中隊長を見る。何故、彼は人工”焔ビト”を作り全ての人間を炎に変えようと思ったのか。いつからこうなってしまったのか。私と初めて出会ったあの時、彼はどうだったのだろうか。もしかして、その時にはもう既にーーーー。
「絵馬さん」
名前を呼ばれて振り向くと、顔中傷だらけのシンラがいた。彼は、私とカリムが来るまでタマキと子供たちを守りながら星宮中隊長と激闘していたのだろう。鼻血が固まって口元にくっついていた。
私とカリムに向かって、シンラがお礼を言った。
「助かりました。絵馬さん!カリム中隊長!レッカは……死んだんですか……?」
私は首を振り、カリムがシンラの問いに答えた。
「空気穴を開けてある。封印しているだけだ。あとで全ての情報を吐かせる」
「その時は、私も協力するよ」
「あぁ、頼む」
「……へっ?」
と間の抜けた声が出てしまった。カリムは不思議そうな顔でこちらを見ている。いつもなら拒否したり嫌みを言ってきたりしてくるかと思っていたので、素直に私の申し出を受け入れたカリムに驚いた私は、まじまじと彼を見つめた。
「本当に協力するよ?」
「あ?さっきから、頼むと言ってんだろ」
「何言ってんだお前」とでも思っているような顔をするカリムに調子を狂わされ、私は頭を掻きつつシンラに視線を移す。シンラは、星宮中隊長が生きていると知り、安堵の表情を浮かべていた。
その時、視界を赤黒い光が横切ったかと思った瞬間、突然カリムにつなぎを強く引っ張られる。星宮中隊長の近くで、衝撃波と共に地面が粉々に砕け散った。
つなぎを強く引っ張られ、私は咄嗟に姿勢を崩しながらも、何とか衝撃波からは逃れることができた。
「大丈夫か、絵馬⁉︎」カリムの声が響く。
「私は大丈夫……今のは⁉︎」
「分からねェ……何が起こった?」
カリムも同様に困惑している。辺りは衝撃波によって立ち上がった砂煙で視界が悪くなっている。
「一瞬、光が……」
リィ中隊長も私と同じ光を見たらしく、言葉をつむいでいた。やがて砂煙が晴れ、目に映った光景に私は息を呑んだ。隣に立つカリムも思わず息を止めているのが分かった。
そこには、氷漬けになっている星宮中隊長の胸にぽっかりと大きな空洞ができており、その空洞からはドクドクと血が溢れ出して、滴り落ちていた。
予測を超えた事態に、私たちはただその場に立ちすくむほかなく、一瞬の沈黙が支配する。誰もがこの変わり果てた光景を、思わず見つめることしかできなかった。