第壱章
夢小説名前設定
シンラとアーサーと一緒に、廊下である人物を待っていた。あの男なら、きっと一人で背負い込み、一人で解決しようとするだろう。だからこそ、私はここで、彼が来るのを待ち続けることにした。
静まり返った廊下に、私たち以外の誰かの足音が響いた。音はだんだんと近づいてきて、顔を上げると、案の定そこに現れたのは……
「ワガママ女」
カリムの冷徹な声が響く。私と目が合った瞬間、思わず息を飲む。アーサーは、カリムの顔つきを見て、すぐにその意図を察したのか、すぐに声をかける。
「レッカの所に行くんだろ?俺たちもついていくぞ」
「これは、第1の問題だ。お前たちは首を突っ込むな」
その一言を放つと、カリムはアーサーの横を通り過ぎる。しかし、シンラはすぐにその進行を止め、カリムの前に立ちはだかる。
「俺たちは、今、カリム中隊に配属されています」
その言葉に、カリムはシンラを一瞥し、無言で睨みつけた。
「だったら、中隊長の命令だ。引っ込んでいろ」
言葉には力がこもり、冷徹そのもので。だが、その言葉に私は黙っていられなかった。
「私はカリムの部下でも何でもないから、好き勝手にさせてもらうね」
意地を張って、彼の目をじっと見つめる。カリムは目を細め、軽くため息をついた。そして、アーサーが私の言葉に続けるように口を開いた。
「そんな命令、聞く気ない。別に正式な隊員じゃない」
カリムはその言葉に、あからさまな笑みを浮かべ、私たちの横を通り過ぎるとき、首だけ振り返って言った。
「俺の部下みてェな部下のようで、部下じゃねェってことか……勝手がいいな。勝手に勝手しろ!」
「そうだね、勝手にさせてもらうよ」
私はカリムに軽く嫌みったらしい笑顔を見せ、その背中を軽く叩いた。すると、突然カリムが名前を呼ぶ。
「絵馬」
「何?」
名を呼ばれ、カリムを見上げる。その質問に、カリムは一度深呼吸をして、気を落ち着けるようにしてから静かに告げた。
「大聖堂内にレッカの姿が見えない……捜しに行く」
「承知!」
私は火鳥の背に乗り、広がる空を見下ろしながら、星宮中隊長の姿を探していた。少し離れた場所で、シンラもまた空を飛行していた。
私たちは空から、カリムとアーサーは地上から。それでも、星宮中隊長は姿を現さない。私はシンラに指示を出した。
「シンラ、左側を捜してみて!私は反対側を見てみる」
「了解です!」
シンラはすぐに返答し、飛行方向を変えた。それを確認すると、私は火鳥に反対側を飛ばすように指示を出した。火鳥は見事な翼を広げ、すぐに反転した。
「いない……いない……星宮中隊長はどこに……」
薄暮が迫っていた。空は橙色に染まり、太陽が地平線に沈みつつあった。視界の隅で、見覚えのあるローブを見つけた瞬間、私は思わずその方向に急降下した。
「くどくど野郎‼︎見つかった?」
着地と同時に、名を呼ぶ。地面に降りた私はすぐにその場に立ち止まり、周囲を警戒した。しかし、カリムが驚いたような声を上げる。
「絵馬⁉︎危ないだろうが!」
「大丈夫だって!それで、星宮中隊長はーーあでっ⁉︎」
私は空を見上げ、火鳥が炎となって消え去るのを見つめていた。その時、カリムが軽くハンドベルで私の頭を叩いた。
「……ったく、ワガママ女はワガママじゃなくて……破天荒な女だったか」
「叩かれる必要ないんじゃない?」
「破天荒な行動するからだろうが」
カリムがぶつぶつと文句を言っている。ハンドベルで叩かれた頭が地味に痛くて少しムカついた。カリムの愚痴を無視しようと決めた、その瞬間――
「ドン、ボコン…」
低く鈍い音が、ふと耳に届いた。それは明らかに、空気を震わせるような音だった。カリムもその音を聞いたのか、囁くように言った。
「聞こえたか?」
「うん。場所はまだ特定できてないけど……」
私は腰ベルトに装着していた槍伸縮型を取り出し、地面に描く。
「踊れ!火犬‼︎3匹だ‼︎」
図形が鮮明に現れ、すぐに大・中・小の火犬がその場に現れた。火犬たちがすぐに周囲を警戒しながら待機する中、私は腰ベルトに付けいていたバンダナを火犬(大)の背に乗せ、その上に飛び乗りながらカリムに振り向いた。
「カリム!私は音がする方へ行く。火犬(小)を預けるから、その子に従ってきて!」
「おぃ!絵馬ーー」
カリムの制止の声が背後で響くが、私は無視して前を見据えた。音の方に向かって駆け出すのが先だ。
火犬(中)を先頭に、私は火犬(大)の背に乗り、そのまま音の発生源へ向かう。周囲を見回しながら、何かを感じ取ろうとした。しかし、火犬(中)が突然足を止め、炎で型取られた耳をピンと立てた。
その瞬間、再び低い音が響く。今度は明らかに近づいてきている。
「音が近い!火犬、音がする場所へ連れて行って!」
火犬(中)は頷き、瞬時に音の発生地点に向かって駆け出した。私は火犬(大)に、その後を追わせるように指示を出した。
火犬たちは、廃墟の前で足を止めた。私は火犬(大)の背から降り、周囲を見回す。廃墟は金網で囲まれ、出入り口には「立ち入り禁止」のマークが貼られ、完全に封鎖されていた。明らかに、誰かが入ることを阻んでいるようだった。
その時、背後から声が響いた。
「ワガママ女、勝手に一人で一人行動して俺を一人にさせんじゃねェよ!」
振り返ると、息を切らせながら走ってくるカリムが見えた。私はただ、彼がここまでたどり着くのをじっと見守った。彼は必死で走ってきたのだろう、目の前に来ると、膝に手をつき、軽く息を整えながら息を吐いた。
しばらくはそのまま黙って立っていた。カリムが完全に落ち着くまで待つのが一番だと思ったからだ。
「大丈夫?」
私はカリムの顔を覗き込んだ。少し時間が経ち、彼はようやく姿勢を整えてから、片手を軽く上げて大丈夫だと示す。目線はもう廃墟に固定されていた。静かながら、確固たる表情で口を開いた。
「心配ない。それより、絵馬。ここにいるのか?ここに?」
「この子たちが音がする場所に案内してくれたから、間違いないよ」
私は廃墟をじっと見つめながら、冷静に答える。さて、どうやって中に入るか、頭を巡らせていると、ふと袖が引っ張られた。火犬(小)が私のつなぎの袖を軽く引いたのだ。視線を落とすと、火犬(小)は一度引っ張った袖を放し、何かを見つけたかのように歩き始めた。
私はカリムと共に火犬(小)に従い、少し離れた金網を探した。すると、金網が壊れた箇所を発見する。そこは、大人が一人通れる程度の隙間が空いており、どうやら誰かが通った形跡があった。カリムが先に金網をくぐり抜けるのを見届け、私も火犬たちを引き連れて後に続く。
廃墟に向かいながら、私はカリムを見上げた。彼もまた私を見下ろし、静かに頷いた。その瞬間、廃墟の中から聞き覚えのある声が響いてきた
私は素早く足音を抑え、周囲の状況に注意を払いながら、壁に沿って進んだ。慎重に、気配を悟られないようにしながら耳を澄ますと、声が徐々に明確になった。
「天に座す炎の星の輝きを見ろ。大いなる太陽神の懐に還るんだぜ。全ての人間を炎に変えて、地上を炎炎ノ炎で包む‼︎不完全な人類と地球を救いの炎で焼き変える‼︎そして、この星をーー……第二の太陽に‼︎」
その声は、間違いなく星宮中隊長だ。あの熱血的な、いつもと変わらない声。それが今、逆に恐ろしさを感じさせるものとなっていた。火花が散るような言葉が、心に冷たい重みをもたらす。
ふと、肩に軽く何かが触れた。驚いて振り向くと、カリムが肩に寄りかかるようにして立っていた。彼の表情はどこか冷静で、視線はしっかりと前方に向けられていた。
「絵馬。俺が合図を出したら、合図で能力を駆使してレッカを捕らえてくれ。それから俺がレッカを氷漬けにする」
カリムは、自分の持つハンドベルを見つめながら静かに言った。彼の声は穏やかだったが、その目は鋭く、すでに次の行動を決めているようだった。
「承知。カリムの指示に従うよ」
私の返答に、カリムはゆっくりと頷いた。