第壱章
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教会の廊下をカリムと一緒に歩いていると、反対側の廊下から第2の能登研修生と第5の岸理研修生がやってくるのが見えた。
「フ、フラム中隊長!それに、十二小隊長⁉︎」
能登研修生が、私がカリムの隣を歩いていることに何故か驚いている。
「どうした?」
「ヒィィッ‼︎」
カリムに睨まれて、能登研修生は怯えた表情を浮かべる。その後ろにいた岸理研修生が一歩前に出て、こちらに目線を合わせず、あちらこちらに視線を泳がせながら言った。
「あ……あの……俺たち、フラム中隊長に話したいことがあってですね……」
「話とは?」
「そ、それは……」
カリムが岸理研修生に問いかけるが、彼はうつむき、しどろもどろに呟く。話しかけてはみたものの、言葉が思いつかない様子だ。
「後で時間がある時に時間を決めて、話す時間を作ってやる。行くぞ、絵馬」
カリムは二人の間を遮り、廊下を突き進んでいく。私は二人に小さく片手を持ち上げて「ごめんね」と言い、カリムの後に続いた。心の中では、彼らが何を話したかったのか気になりつつも、今はカリムとの会話が最優先だ。そう思いながら、私は歩を進めた。
暫く歩くと、カリムはある部屋のドアの前で立ち止まった。表札には「カリム フラム」と書かれている。私は隣に立つカリムを見上げた。
「ここって……」
「俺の部屋だ」
カリムがドアノブに手をかけようとした瞬間、彼の手が一瞬だけ手が止まった。何かに気づいたのか、ゆっくりとドアを開けて中に入っていく。そして、ゆっくりとドアを閉めた。
その場で少し待っていると、再びドアが開き、「入れ」とカリムが私に言ってきた。
「お、お邪魔しますーー」
開かれたドアからカリムの部屋に恐る恐る入ると、部屋の中には見知った少年二人が居た。その二人の姿を見て、思わず声をあげる。
「シンラ⁉︎アーサー⁉︎」
私がカリムと一緒にいることに、シンラとアーサーも同じように驚いた表情を浮かべている。
「絵馬さんッ!何故、貴方が⁉︎」
「絵馬!貴様もか⁉︎」
私は思いっきり首を捻ってカリムを見る。
「カリム!どうして二人がここにいるの⁉︎」
「それは、俺も聞きてェ」
カリムはチラッとこちらを見て、シンラたちを睨みながら自身のベットに腰を下ろした。
「やっぱり第8もその”蟲”みてェな”蟲”を追って来たようだな」
「”蟲”?」
何処に蟲がいるのか、周りを見渡すと、アーサーの手に小瓶に入った小さな”蟲”がいることに気づいた。カリムはドアの方を親指で指差す。
「ドアと机の鍵を壊してやがんだ。偶然とは、言わせねェ」
なるほど。だからカリムはドアノブに手を触れようとした時、一瞬だけ手を止め、中に誰かがいることに気づいて、気配を消しながらゆっくりと部屋に入っていったのか。
シンラはカリムを警戒し、言葉を発する。
「どういうことだ……⁉︎」
「俺もその”蟲”の持ち主を追ってんだよ」
アーサーの持つ蟲を見つめるカリムに、今度は私が質問した。
「カリムが見つけたある”モノ”は……この”蟲”のこと?」
「あぁ」
カリムが頷く。部屋は張り詰めた緊張感が漂う。アーサーは何か閃いたようにカリムに叫んだ。
「そうか‼︎仲間か‼︎」
「信用できるか‼︎」
アーサーの言葉に続いてシンラは眉をひそめ、怒りを込めて声を上げる。彼らはカリムが"蟲"の持ち主の仲間だと誤解しているようだ。でも、私には確信がある。犯人はカリムではない。二人に訂正するために、口を開いた。
「待って‼︎カリムはーー」
「良い、絵馬。俺から俺自身の口で話す」
シンラとアーサーに説明しようとしたが、すかさずカリムが私に制止する。そして、カリムは自分のローブを掴み、軽く引っ張りながら話し始めた。
「犯人を見たんだろ?ピンポイントで俺に疑いをかけてくる辺り……このローブを着た奴か?」
シンラはカリムを見つめたまま、沈黙する。重苦しい沈黙をカリムが破った。
「そうなんだな……」
カリムがこちらに視線を向け、複雑そうな表情で私を見つめる。ローブを着ている隊員は、カリムを含めて三人。残りの二人は私も知っている人だ。しかも、研修生の頃からの知り合い。私の考えていることを見透かすように、カリムは一旦口を閉じてから、重い口を開いた。
「お前らは、ローブを着た男を追って、ここに来た。俺は犯人じゃねェ。あの時、路地裏にいたローブを着た男は、俺以外には一人だけ……」
待って、カリム。それ以上は言わないで、聞きたくない。私はカリムを見つめながら、首を左右に振った。しかし、一呼吸したカリムの口から、今は聞きたくない名前が発せられた。
「俺からしたら、確定した……犯人はーーーー烈火 星宮」
その名前が響くと、私の心に冷たい不安が走った。
私は耳を疑った。烈火 星宮と……。何かの間違いじゃないよね。何度か深呼吸して、カリムではなくシンラを見つめ問いかける。
「シンラ、それは嘘じゃないよね……」
シンラはニヒルな表情のまま沈黙を続ける。否定はしない。つまり、これは肯定を示す意思表示だと理解した私は、恐怖が胸を締め付けるのを感じた。
「絵馬、てめェにも言っただろ。二ヶ月前に、子供たちが集団で燃える事件があった。あまりに不自然に……俺が”蟲”を見つけたのは、その時だ……」
「子供が燃やされる……⁉︎それも人工の……」
シンラの言葉に、私はハッと大きく目を見開いた。第5の火華大隊長が自ら調べたデータには、人工的に作られた”焔ビト”が存在する。カリムが見つけた”蟲”ということは、今アーサーが手に持っている小瓶に入っている”蟲”によって、人工的に”焔ビト”が作られていたということになる。
そして、その”蟲”を使用して人工的に”焔ビト”を作っていたのが星宮中隊長だった。頭の中で複雑に絡み合っていた糸が全て解けていく感覚がした。
「すまねェが、俺の部屋から出ていってくれ」
カリムは私から目を逸らし、俯きながら言った。
「……いくよ、二人とも」
私は頷き、動き出す。シンラとアーサーを引き連れて、少し小さく見えるカリムを残し、部屋を後にした。
カリムの言葉が頭の中で反響し、現実が信じられないほどの重さでのしかかってくる。思考を巡らせながら廊下を歩いていると、私の前を歩いていたアーサーが足を止め、こちらを振り向いた。
「良かったのか、絵馬?」
「頭では理解はしていても、正直に言うと……カリムと一緒で……心の整理が追いついていない。それでも、私以上に星宮中隊長と一緒にいたのはカリムだし、今は一人にさせた方が良いと思ってる」
アーサーに答えながら、私もゆっくりと足を止めた。シンラもアーサーと同じように立ち止まり、こちらを見ている。
二人の真剣な顔を見つめることができず、私は俯いた。カリムの部屋を出て以来、胸がギュッと締め付けられている感じが続いている。星宮中隊長が人工的に”焔ビト”を作っていたなんて信じたくないという思いが、心の奥底に根強く残っているのだろう。だからこそ、胸がこんなにも痛む。
「絵馬さん……」
シンラの心配そうな声が私の耳に入ってきて、俯いていた顔を上げると、すぐに続けて言った。
「大丈夫。私よりももっと悔しくて苦しいのは、カリムの方だと思うから」
そう言うと、突然アーサーが私に近づき、少し強めに私の肩を叩いた。続いてシンラが優しく私の背中を撫でてくれた。
「苦しいのは、絵馬!貴様も同じだろ」
「そうですよ、ヒーローならここにいます!」
「騎士王もだ!」
力強く叫ぶアーサーとシンラ。真剣な二人の顔を見て、私はぎこちない笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「……ありがとう」
彼らがそばにいてくれることが、私にとってこれ以上ない支えだった。