第壱章
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私と反対側の木の幹に寄り掛かりながら、同じつなぎを着用して立つ火縄中隊長に声をかけた。
「ところで、火縄中隊長」
「何だ?」
「何故私たちは、同じ木に左右に寄りかかって、目の前にある建物の窓を見つめているのですか?」
「見てれば分かる」
火縄中隊長はチラッと横目で私を見てから、再び窓に視線を戻した。そんな様子から少し離れた場所には、火華大隊長が第1教会の敷地内をきょろきょろと見渡しているのが目に入った。まぁ、火華大隊長の行動は理解できるが、火縄中隊長の行動はさっぱり分からない。かれこれ20分は窓を見つめている。
とりあえず、火縄中隊長の言うようにあと10分ほど窓を眺めていたら、カーテンが開いて見知った人物が現れた。その人物は、私たちを見て戸惑いながら窓を開ける。
「ちょっと中隊長‼︎何やってるんですか⁉︎絵馬さんまで⁉︎」
「えっ⁉︎ここ……シンラたちの仮部屋だったんだ」
「そうですけど」
ようやく火縄中隊長の行動が理解できた。ずっと窓を見つめていたは、シンラとアーサーの仮部屋で、どちらかが起きるまで私たちは待機していたということだ。火縄中隊長は少し早口で言った。
「大丈夫か⁉︎何か問題はないか?アーサーもしっかりやっているか?」
「だから、大丈夫ですって!そんな毎朝来ないでくださいよ‼︎」
シンラは頬を引き攣らせている。えっ。火縄中隊長、毎朝シンラたちの様子見に来ていたの。過保護じゃん、と思った言葉が喉元まで上がってきた。しかし、これを口に出して言ってしまうと火縄中隊長にぶっシゴがれそうなので、奥へ奥へといくように鼻から息を吸って空気と一緒に言葉を飲み込んだ。
「あら、また第8の中隊長さん。それと……中隊長さんの部下の人かしら?今日もごくろうさま」
「よほど、部下の事が心配なのね」
私たちの後ろを見知らぬシスター2人が横切って行く。火縄中隊長は「どうも」と挨拶し、私はシスターに軽く会釈した。シンラに視線を戻すと、耳まで顔を赤くしたシンラが窓から身を乗り出し、ぐいぐいと火縄中隊長の背中を押していた。
「もうッ!恥ずかしいから帰ってください‼︎」
「なんだ急に……大隊長にもたまには連絡してやれよ。心配しているぞ」
「わかっていますよ‼︎しっしっ」
背中を押された火縄中隊長は、疑問を浮かべながら窓から離れる。シンラは掌を使ってもっと遠くに行くように火縄中隊長に向かって追い払う動作をした。火縄中隊長の視線の先に火華大隊長がいることに気づいたシンラは、嫌な顔を浮かべる。
「げげ。火華大隊長もきてる……」
「……大変だね、シンラ」
「本当に勘弁してほしいですよ」
シンラはやれやれという感じでため息をつき、私を見た。
「絵馬さんは、火縄中隊長と同じように俺たちの様子を見に来たのですか?」
「それもあるけど、くど……カリム中隊長に用があってね……火縄中隊長について来たの」
「カリム中隊長?茉希さんが言っていたのですが……絵馬さんは、カリム中隊長とはお付き合いをしているのですか?」
「えぇっ!?くどくど野郎と?ナイナイ!」
茉希には違うと訂正したはずが、どうやら訂正できていなかったようだ。そして、シンラにまで疑われてるし。私は眉を顰め苦笑いしながら、シンラの言葉をすぐに否定した。
「くど……カリムとは、そもそもお互いに嫌味を言い合っている仲だよ。まぁ、他の二人の中隊長と比べると波長は合うかもしれないけど、それだけの関係だよ」
「はぁ」と曖昧に頷くシンラに、頼み事をすることにした。
「シンラ。カリムに言伝をお願いして良い?」
「なんでしょうか?」
「”昼下がり、この前の場所で待っている”と」
「……わかりました」
私の顔を見たシンラは、ニヒル表情になりながらも、カリムに言伝をしてくれることを了承してくれた。
「じゃあ、今日も勤務頑張ってね!寝ているアーサーにもよろしく伝えてね」
シンラに軽く手を振り、チラッと仮部屋を覗く。まだアーサーはベットで寝ているようだ。私は窓から離れ、火縄中隊長と火華大隊長が立ち止まっている場所へと歩みを進めた。
「我々、別の部隊がチョロチョロしていても警戒する様子もない」
「企業機密が多い灰島下の第5じゃ、こんなオープンな体制はありえんな」
火縄中隊長と火華大隊長は第1のシスターや神父、隊員の警戒心のなさに驚いている様子だ。昔の研修時代、私も今の光景を目の当たりにしたことを思い出す。
「私が研修生の時も、今と変わらないこのような雰囲気でしたよ」
「そうか。私の調べでは”人工焔ビト”は、消防官しか入れない警戒区域や閉鎖された火事現場での発生が多い。虫唾が走るが、特殊消防官の犯行である可能性が高い。果たして、この第1に犯人がいるのか……」
火華大隊長の冷静な口調が、逆に言い知れぬ不安を私に与える。その言葉に、思わず口を開いてしまった。
「そうならないでほしいと私は思います……」
私は眼を瞑り、覚悟を決める。今日こそカリムに会い、彼が隠していることを全て話してもらうわなければならない。彼が何を知っているのか、どんな真実を隠しているのか、その全貌を知る必要がある。心の中で、自己を鼓舞し、自分の意志を固めた。
カリムと話した場所に着き、私は瞳を閉じた。
「第1の研修生を修了してあれから何年、経ったのだろう?カリムたちと出会ってもう、3年近くになるのか」
少しずつ自分の過去について覚え出していく。17歳の時、浅草から皇国に移住することになり、すぐに訓練校に途中入学。それと同時に、太陽神を最も信仰している第1小隊に研修生として配属され、そこでカリムたちと出会った。カリムとは初っ端から喧嘩もしたし、リィ中隊長は私を明らかに敬遠していた。逆に星宮中隊長は、どちらかと言えば最初から友好的だった。
第1に配属されても、私はシスター見習いの服は着ることなく、皇国の親族から貰った白シャツとズボン、あるいはスカートで過ごしていた。太陽神を信仰しない浅草で育ったから、鎮魂の際にラートムを一度も唱えたことがなかった。
バーンズ大隊長に「故郷に入れば故郷に従ってほしい」と言わて、私はラートムの代わりに別のやり方で鎮魂を示す形として、彼と一緒に十二炎に百合の炎を作成できるように努力した。それが良い思い出になっている。
今となって思うと、原国と皇国のどちらの鎮魂に対する考え方に当てはまる百合の炎。この百合の炎が、私のトレードマークとも言えるだろう。
「話って何だ?」
追憶を遮るかのように、神父服を着たカリムがそこにいた。
「単刀直入に言わせてもらうけど、カリムが私にあの時に話してくれた意味が、なんとなくだけどわかった」
「…………」
カリムと目が合った。無愛想な顔で私を睨み返してくる。
「……知っていたんだ。第1の管轄内、第1の隊員内に人工的に”焔ビト”を生み出している者がいることを!」
「あぁ、そうだ」
私の言葉に、カリムは頷く。彼を睨み返しながら、言葉を続ける。
「だから、仲の良い星宮中隊長とリィ中隊長には話さず、私にあの集団事件を話してきたわけね」
息を吐き、険しい表情を浮かべたカリムは、私に背を向けながら言った。
「そこまで知っているなら、ついて来い、絵馬。オレが知っていること、知っている範囲内で知っている内容で話してやる」
その一言を最後に、私たちはお互いに口を噤みながら、第1特殊消防大聖堂へ向かって歩き出した。