第壱章
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カリムが言っていた書類を遡り探していると、ある書類に目に留まり、私はそれを手に取った。
「見つけた」
そこには、○月×日付けで記された報告があった。内容はこうだ。
新宿地区において集団発火事件が発生。年齢は10歳前後の子供20人すべてが"焔ビト"化として出現。鎮魂は第1中隊長のカリム フラム、烈火 星宮、フォイェン リィの各部隊が完了。
目に入ったのは、10歳前後の子供が20人も集団で発火したという不自然な事実だった。改めて考えると、これはあまりにも異常だ。20人の集団発火なんて、なかなかない。カリムが見つけたというある”モノ”が、この集団発火の原因に何らかの形で関わっているのではないか。そう考えざるを得なかった。
さらに、私は手に持っている書類とは別に、作業机に置かれていた別の書類に目を通した。
「おそらく、これがシンラが言っていた十二年前の事件だろう…」
その書類には、こう書かれていた。
住宅街で火災が発生。母親と次男が焼死。出火の原因は、長男の第三世代の能力による発火が原因と見られている。焼死した母親と次男の骨は発見されず、第1特殊消防隊が消火にあたり、数時間後に消化に成功。長男は第1特殊消防隊の隊員に保護された。
「この長男がシンラで、隊員が多分……バーンズ大隊長なんだろう」
シンラはバーンズ大隊長に向かって、母親と弟が火事で亡くなったと話していた。その境遇は違えど、私も両親を同時に失った経験があるため、シンラの気持ちを少しは理解できると勝手に思っていた。しかし、実際は自らの能力が家族を亡き者にしてしまったのだ。真実を知った私は、心が張り裂けそうな気持ちになった。
そっと、2つの書類を作業机の引き出しにしまい込み、私は差し入れを片付けている紺炉を手伝うため、台所に向かって歩き出した。
ーーーー5日後 朝
私は第8小隊のつなぎを身にまとい、土間で靴を履いていた。
「じゃあ、紅丸。第8に書類渡してくる」
「おぅ」
詰所で書類に目を通していた紅丸に声をかけると、彼はこちらにチラッと視線を向けてから、再び書類を戻した。私の言葉に軽く手を振って返してくる。私は土間から腰を上げて立ち上がり、詰所の外へ出ると、すぐに空中に素早く絵を描く。
「踊れ!火鳥‼︎」
その瞬間、炎に包まれた大鳥が目の前に姿を現した。防火用のバンダナを火鳥の背に巻きつけ、その上に身を乗せる。私は第8特殊消防教会に向かって飛び立った。
事務所のドアを開けると、桜備大隊長と第8にはいないはずの人物が部屋にいた。思わず、口元が少し引きつる。彼女は私の存在に気づき、声をかけてきた。
「久しいな、十二」
「第8と協力関係になったと、桜備大隊長から聞いていましたが、まさかここで会えるとは思いませんでした……第5特殊消防隊の火華大隊長」
第5特殊消防隊の大隊長、プリンセス 火華。第三世代能力者であり、最近、シスターアイリスと同じ元修道院出身であったことを桜備大隊長から聞いたばかりだ。火華大隊長はスーツ姿で、椅子に座る桜備大隊長を横目で見ている。
「桜備よ。十二には、あの事を話しているのか?」
「あの事?」
その一言で、私は何のことを指しているのか気になった。火華大隊長から桜備大隊長に視線を向けるが、桜備大隊長は火華大隊長の質問に首を左右に振った。
「いいえ、まだです。今日、絵馬が書類を届けに第8に来ると聞いていたので、火縄中隊長たちには少し席を外してもらっていました」
そう言って、桜備大隊長は椅子から立ち上がり、火華大隊長の隣に立った。
「絵馬。書類を貰っても?」
「あ、ハイ!」
私は片腕に抱かえた書類の束を桜備大隊長に手渡した。書類の束を受け取った彼は、それを自身の事務机の上に置くと、私を見下ろした。
「絵馬、実は第5のデータから、人体発火の原因を掴んだデータが見つかった。その中に、人の手で”焔ビト”を作っている者がいるらしい」
「人の手で”焔ビト”を⁉︎そんな……」
その言葉を耳にした瞬間、驚きのあまり、私は開いた口が塞がらなかった。
「発見済みの人の手によると思われる”焔ビト”の出現は、新宿地区に集中している」
火華大隊長の言葉によって、カリムの言葉が頭の中を巡る。それを思い出すように私は呟いた。
「二ヶ月前の集団発火事件……」
「集団発火事件?」
「新宿地区での集団発火事件の事か」
桜備大隊長は首を傾げ、その一方で、火華大隊長は私の言葉にすぐさまに反応を示した。
「第8だけでなく、第7も第5の情報を入手したのか?」
「いえ、それは違います!火華大隊長。その事件については、私個人が最近書類で閲覧していたので、覚えていただけです」
こちらを睨む火華大隊長に、私は訂正を入れた。そう、カリムとのあの一件以来ずっと調べていた内容だからこそ、この情報は私の中にあったのだ。すると、火華大隊長はチッと舌打ちを一つしてから口を開く。
「まぁ、いい。十二も知っているが……二ヶ月前の新宿地区で発生した集団発火事件。その中にも、人の手で”焔ビト”が作られていたのが確認できた」
「つまり、二ヶ月前にも第1の管轄内……第1の隊員内に、人工的に”焔ビト”を生み出している者がいたと」
「あぁ。そうなる」
桜備大隊長の言葉に、火華大隊長は頷く。桜備大隊長と火華大隊長の会話を聞きながら、私はカリムの行動が不思議でたまらなかった。その真意を隠すように結ばれていた紐が、いくつか外れたような感覚がしたと同時に、胸の奥に嫌な予感が広がる。
「待って下さい!まだ、第1の管轄内、第1の隊員内ではなく、別の者の可能性は?」
「いや、それはない。ここ最近の第1のデータでは、”焔ビト”が出現から第1小隊による鎮魂が異様に速い。さらに、1日で数件の”焔ビト”出現も確認されている。これは、第1に人工的に”焔ビト”を生み出している者がいる可能性の方が高い」
険しい表情をした火華大隊長。私と火華大隊長の間に張り詰めた緊張感が漂う。
「絵馬。何か、思い当たる節があるのか?」
「……いいえ。ただ、第1には私の知っている隊員やシスターたちがいますから。彼らを疑いたくないという気持ちが強いだけです」
桜備大隊長の言葉を聞き、私は下を向き目を閉じ、首を左右に振った。
「失礼します」
そう言いながら、事務所のドアが開く音が聞こえ、顔を上げると、入ってきたのは火縄中隊長だった。火縄中隊長は私がいることを知っていたようで、私から桜備大隊長へ視線を移す。
「桜備大隊長。そろそろ、シンラ達の様子を見に行こうかと思っているのですがーー」
「私もいく!十二、お前はどうする?」
火縄中隊長の言葉を遮るように、火華大隊長は参加を申し出る。私はグッと軽く拳を握りしめながら、火縄中隊長と桜備大隊長、火華大隊長にそれぞれ視線を向け、ひと呼吸してから口を開いた。
「私も……行きます!」
第1に行って、カリムにハッキリと聞きたいことができたので、私は二人について決意を固めた。