第壱章
夢小説名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カリムが言っていた書類を遡って探していると、目に留まるものがあった。手に取ってみると、それが私を驚かせた。
「見つけた」
それは、○月×日付けの報告書だった。内容は簡単だが、私の中に深い疑念を生んだ。
新宿地区において集団発火事件が発生。年齢は10歳前後の子供20人すべてが"焔ビト"化として出現。鎮魂は第1中隊長のカリム フラム、烈火 星宮、フォイェン リィの各部隊が完了。
目を引いたのは、「10歳前後の子供が20人」という、まるで異常な出来事を示す事実だった。改めて思うと、この集団発火現象は極めて不自然だ。20人もの子供が次々に発火するなんて、そんなことは滅多にない。カリムが言っていた「あるモノ」が、この集団発火の発端に関係しているのではないか。そう考えざるを得なかった。
私はその報告書を机に置き、別の書類に目を通し始めた。何気なく目に入ったその書類が、私をさらに引き込んでいく。
「おそらく、これがシンラが言っていた十二年前の事件だろう…」
書類には、こう記されていた。
住宅街で火災が発生。母親と次男が焼死。出火の原因は、長男の第三世代の能力による発火が原因と見られている。焼死した母親と次男の骨は発見されず、第1特殊消防隊が消火にあたり、数時間後に消化に成功。長男は第1特殊消防隊の隊員に保護された。
その文面を読み進めるたび、私は息を呑んだ。これは、間違いなくシンラが話していた事件のことだ。しかも、長男がシンラであり、その隊員の中におそらくバーンズ大隊長が含まれているに違いない。シンラが口にした、母親と弟を火事で失ったという話が、今、目の前で現実のものとなった。
「この長男がシンラで、隊員が多分……バーンズ大隊長なんだろう」
その瞬間、私の胸が痛くなった。母親と弟を失った経験が、彼にとってどれほど深い傷だったのか。私はそれを理解できるような気がしていた。しかし、彼にとっての悲劇は、自らの力が家族を奪ってしまったことにあった。力が、無情に家族を焼き尽くした。それがどれほど辛いことなのか、想像するだけで心が張り裂けそうになった。
私はそっと、2つの書類を手に取って作業机の引き出しにしまい込んだ。今、目の前にある情報が、まるで私を引き寄せるような感覚を与えている。それを整理するには、まだ時間が必要だった。
私は静かに立ち上がり、差し入れを片付けている紺炉を手伝うため、台所に向かって歩き出した。心はまだあの書類の中で揺れていたが、今はそれを放っておけるわけにはいかなかった。
ーーーー5日後 朝
私は第8小隊のつなぎを身にまとい、土間で靴を履いていた。
「じゃあ、紅丸。第8に書類渡してくる」
「おぅ」
詰所で書類を確認していた紅丸に声をかけると、彼はちらりとこちらを見て、再び手元に戻した。軽く手を振って返す彼に、私は土間から腰を上げて立ち上がり、詰所の外へ出ると、すぐに空中に素早く絵を描く。
「踊れ!火鳥‼︎」
その言葉と共に、炎に包まれた大鳥が瞬く間に現れ、目の前に舞い降りた。防火用のバンダナを火鳥の背に巻きつけ、私はその上に軽く身を乗せる。飛び立つ感覚が身体に染み込んでいく。第8特殊消防教会へ向けて、空を駆け抜けた。
事務所のドアを開けると、予想外の光景が広がっていた。桜備大隊長と、私がここで会うことはないはずの人物が部屋にいた。思わず、口元が引きつるのを感じた。
「久しいな、十二」
「第8と協力関係になったと、桜備大隊長から聞いていましたが、まさかここで会えるとは思いませんでした……第5特殊消防隊の火華大隊長」
目の前にいたのは、火華大隊長だった。第5特殊消防隊の大隊長であり、最近、シスターアイリスと同じ修道院出身だったことを桜備大隊長から聞いていた。彼女はスーツ姿で、椅子に座る桜備大隊長を横目で見ている。
「桜備よ。十二には、あの事を話しているのか?」
「あの事?」
その一言で、何のことを指しているのかが気になって、私は反射的に桜備大隊長に視線を向けた。しかし、桜備大隊長は首を左右に振った。
「いいえ、まだです。今日、絵馬が書類を届けに第8に来ると聞いていたので、火縄中隊長たちには少し席を外してもらっていました」
その言葉を聞きながら、桜備大隊長は立ち上がり、火華大隊長の隣に立った。
「絵馬。書類を貰っても?」
「あ、ハイ!」
私は片腕に抱えた書類を桜備大隊長に手渡すと、彼はそれを自分の事務机の上に置いた。その瞬間、桜備大隊長の視線が私に向けられた。
「絵馬、実は第5のデータから、人体発火の原因を掴んだデータが見つかった。その中に、人の手で”焔ビト”を作っている者がいるらしい」
「人の手で”焔ビト”を⁉︎そんな……」
その言葉を耳にした瞬間、驚きのあまり、私は言葉を失った。口を開けたまま、その場に立ち尽くしていた。
「発見済みの人の手によると思われる”焔ビト”の出現は、新宿地区に集中している」
火華大隊長の言葉を聞いた瞬間、カリムの言葉が頭をよぎる。それを思い出すように、私は呟いた。
「二ヶ月前の集団発火事件……」
「集団発火事件?」
「新宿地区での集団発火事件の事か」
桜備大隊長が首を傾げ、火華大隊長は私の言葉にすぐに反応を示した。
「第8だけでなく、第7も第5の情報を入手したのか?」
「いえ、それは違います!火華大隊長。その事件については、私個人が最近書類で閲覧していたので、覚えていただけです」
火華大隊長の視線が鋭く私を射抜く。私はすぐに訂正を入れた。あの時からずっと調べていた内容だからこそ、この情報が私の中にあったのだ。火華大隊長はチッと舌打ちを一つしてから、口を開いた。
「まぁ、いい。十二も知っているが……二ヶ月前の新宿地区で発生した集団発火事件。その中にも、人の手で”焔ビト”が作られていたのが確認できた」
「つまり、二ヶ月前にも第1の管轄内……第1の隊員内に、人工的に”焔ビト”を生み出している者がいたと」
「あぁ。そうなる」
桜備大隊長の言葉に、火華大隊長は頷く。その会話を聞きながら、私はカリムの行動が不思議でたまらなかった。胸の中で、何かが外れたような感覚がしたと同時に、嫌な予感が広がっていく。
「待って下さい!まだ、第1の管轄内、第1の隊員内ではなく、別の者の可能性は?」
「いや、それはない。ここ最近の第1のデータでは、”焔ビト”が出現から第1小隊による鎮魂が異様に速い。さらに、1日で数件の”焔ビト”出現も確認されている。これは、第1に人工的に”焔ビト”を生み出している者がいる可能性の方が高い」
火華大隊長の険しい表情を見て、私は思わず息を飲んだ。彼女との間に漂う緊張感を感じながらも、心の中で何かが引っかかっていた。
「絵馬。何か、思い当たる節があるのか?」
「……いいえ。ただ、第1には私の知っている隊員やシスターたちがいますから。彼らを疑いたくないという気持ちが強いだけです」
桜備大隊長の言葉に、私は視線を下に落とし、目を閉じて首を左右に振った。
「失礼します」
そう言いながら、事務所のドアが開く音が聞こえた。顔を上げると、入ってきたのは火縄中隊長だった。火縄中隊長は私がいることを知っていたようで、私から桜備大隊長へと視線を移す。
「桜備大隊長。そろそろ、シンラ達の様子を見に行こうかと思っているのですがーー」
「私もいく!十二、お前はどうする?」
火縄中隊長の言葉を遮るように、火華大隊長が参加を申し出る。私はグッと拳を握りしめ、火縄中隊長、桜備大隊長、そして火華大隊長に一度視線を向け、ひと呼吸おいてから、決意を込めて口を開いた。
「私も……行きます!」
第1へ行って、カリムにハッキリと聞きたいことができた。そう思った私は、二人とともにその場を離れることを決意した。